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032.雨男

2話完結の1話目です。

 「会社からの帰宅、久しぶりに帰った実家の犬との散歩、彼女とのデート、楽しみにしていた旅行・・・全部降られた。・・・もう雨なんて嫌いだ。晴れ男になりたい・・・」

 

 

 《(・・・)》

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 私は、地球の異世界転生担当職員、一応、神だ。


 ある事情から猫の姿をしている。今日は、サバンナ。アフリカのサーバルキャットにルーツを持つ大型の猫だ。ワイルドな外観だが、犬のように従順な性格をしている。


 改めて、異世界転生担当職員とは、クライアント(異世界神)のニーズに合う人材(死者)を、異世界へ派遣する神級派遣事業者だ。クライアントから人材へオファーできる異世界転生特典のうち、最低限の特典を人材に渡しつつ、気持ち良く転生してもらうのが私の仕事だ。


 今回のクライアントの異世界は、なかなかに過酷な環境だ。枯れ果てた砂漠の星で、数少ないオアシスを無法者たちが奪い争っている世紀末の世界。クライアントも何とか豊かな星にしてやりたいが、あまり干渉もできない上、そもそも信者が少なくて、神力も覚束ないようだ。

 地球からの低コストの人材が邪神を倒したという噂を聞いて、なけなしの神力で派遣を依頼してきたというわけだ。

 

 で、今回の人材なのだが、30歳男性、会社員。会社帰り、強風に煽られ川に転落して溺死。大型の台風が接近していたが、どうしても出社せねばならず、更に帰宅時間が台風最接近の時刻とバッティングしたらしい。

 この死因とも相まって、今回の転生には理想的な人材だ。

 なぜなら彼は既に、大量の雨神の加護がついている。日本の水波能売命(ミヅハノメ)を始め、何故かマヤのバカブにフラカン、ヒンドゥーのパルジャニヤ、アステカのトラロックなどなど、和洋折衷とでもいえばいいのか、節操ない程のハーレムぶりだ。

 溺死したせいもあるのだろうが、目の前の彼はびしょぬれで、髪から水がしたたり落ちている。いくら愛情深いとはいえ、精神にまで影響するほど、雨、雨、雨、雨では、彼もさぞかし生きづらかったことだろう。

 同じ神の私からすると、まるで全身に神のキスマークがついているようで、少々気持ち悪、、もとい直視しづらい。

 

 

 《いらっしゃいませ。私は、あなたの異世界転生を担当いたします、転生事務局員です。急に異世界転生と言われても混乱するかと思いますので、まずはお掛けになって、コーヒーお召し上がりください。あ、こちらタオルもお使いください。》

 

 

 「・・・あ、ありがとうございます・・・」

 

 

 どうやらこちらの言葉はほとんど頭に入っていないようだ。彼の体感的には、川に落ちて苦しいと思って、気が付いたらカフェに立っていたなんて異常な状況だ。いたしかたない。

 

 

 《色々と混乱していると思いますが、少し説明させてください。あなたが現在いるここは神界になります。いわゆる死後の世界です。お話しやすい用にこのような形をとっておりますが、現世ではありません。

 あなたは不幸にも川に転落し、そのままお亡くなりになりました。本当にご愁傷様です。》

 

 

 「(・・・)」

 

 

 茫然とはしているが、状況は理解できたのだろう。俯いて悲しそうにしている。

 畳みかけるようで恐縮だが、異世界転生についての説明も行う。異世界転生者に選ばれたこと、転生する際に特典をお渡しできること、嫌なら輪廻に還ることもできるが、ぜひ転生して欲しいことなどを伝えた。

 何か欲しい特典や希望はないか聞いたところで、冒頭の会話となった。

 

 

 「会社からの帰宅、久しぶりに帰った実家の犬の散歩、彼女とのデート、楽しみにしていた旅行・・・全部降られた。・・・もう雨なんて嫌いだ。晴れ男になりたい・・・」

 

 

 《(・・・)》

 

 

 これだけ加護が入ってれば、致し方ない。神にしてみれば、彼が何かするたびに祝福の気持ちを贈っただけなのだろうが、いかんせん雨神だ。祝福すると雨が降る。おそらく彼が本気で願えば、神の《大洪水》を起こすこともできたかもしれない。

 気の毒には思うが、かの世界の為、クライアントの為、何とかこの加護を抱えたまま旅立って欲しい。

 

 

 《あなたにとっては迷惑だったかもしれませんが、あなたの魂は雨神の加護に溢れています。水資源に溢れた現代日本ではあまり有難みを感じる場面はなかったかもしれませんが、転生後の世界では必ずあなたの助けとなってくれるはずです。》

 

 

 「・・・けるな」

 

 

 《え?》

 

 

 「ふざけるな!あんたにわかるのか!さっきまで晴れてたのに、俺が外に出た瞬間に大雨になった気持ちが!

 くたくたに疲れて、いざ帰ろうとしたら大雨になって、しょうがないから仕事するかって、やり始めたら晴天になったときの気持ちが!

 あいつ呼ぶと必ず雨が降るからって遊びに誘ってもらえなくなったり、あなたといるといつも屋内で楽しくないってフられた俺の気持ちが!

 自称、晴れ男や晴れ女のやつらと仲良くなるようにしてみたけど、そのことごとくを俺の雨男っぷりは凌駕した!明日は絶対晴れるから安心しろって言ってくれた奴らが、翌日微妙な表情するのを何回見せつけられたと思ってるんだ!

 だいたい天気悪いと、頭痛はするわ、倦怠感あるわで辛いんだよ。

 加護はもっと雨好きのやつに与えるべきだろ!俺がいつどこで雨が好きって言ったよ!

 挙句の果てに台風で溺死ってひどすぎるだろ!!こんなの加護じゃなくて呪いだ!!!」

 

 

 《(・・・神の愛情は人の常識とはかけ離れているからな。私もこうやって頻繁に人と接して多少ましになってきている自覚はある。)》

 

 

 それから数時間、彼の雨にまつわる悲惨なエピソードを聞き続けた。同じ神という負い目もあるし、理不尽な神に振り回される想いは共感できた(主に上位神とか)。


 ひとしきり話して落ち着いた彼に、行ってもらう異世界は雨が少ないこと、今度こそ加護が加護として働くであろうこと、雨を降らすことができれば救世主として扱われる可能性もあることを、丁寧に説明した。

 いつもの基本パッケージ(記憶保持、異世界言語、鑑定《小》、成長補正《小》)に、一度だけ使える私への念話スキルを渡して、どうしても辛い時は呼び戻す約束の元、旅立ってもらうこととなった。

 

 《どうか、幸多い生を・・・(雨神達もほどほどにね)》


――――――――――――次話《異世界編》に続く。

お読みいただきありがとうございます。



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