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030.茨〇県

2話完結の1話目です。

 「家族もずっと茨〇で生きてきたんだ。山も海も平野もあって、何でも美味い。街は綺麗で・・・」


 《(・・・)》

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 私は、地球の異世界転生担当職員、一応、神だ。


 ある事情から猫の姿をしている。今日は、アビシニアンだ。スレンダーなボディに小顔なモデルみたいな姿だが、割と神経質な印象もある。実際、環境によってはストレスから飼い主さんを噛んでしまうこともあるらしい。


 改めて、異世界転生担当職員とは、クライアント(異世界神)のニーズに合う人材(死者)を、異世界へ派遣する神級派遣事業者だ。クライアントから人材へオファーできる異世界転生特典のうち、最低限の特典を人材に渡しつつ、気持ち良く転生してもらうのが私の仕事だ。


 このところは上位神からもお叱りもなく、気持ちよく仕事ができていたのだが――――――

 

 

 

 今回の人材は、4人家族がまとめてやってきた。父(45歳)、母(40歳)、息子(25歳)、娘(18歳)だ。


 久しぶりの家族でのドライブにテンションのあがったお父さんが、高速道路で少しスピードを出しすぎてしまった。結果、分岐に入りきれず障害物へ突っ込んでしまったようだ。

 最近、煽り運転でも有名になった道路だが、車線が多く直線が続くため、スピードが出すぎていることに気づけなかったのかもしれない。


 クライアントの要望で家族ごとの転生を要望されていて、たまたま同じタイミングで亡くなったこの家族が選ばれた。

 以前のような集合体での転生でなくて少しほっとしている。


 まずは、全員お亡くなりになったことを説明したところ、事故を起こしたお父さん、ドライブを企画したお母さん、運転変わらなかったお兄さんで、ひどい家族喧嘩が始まってしまった。


 面倒だなと思っていたところ、一番落ち着いている末の娘が、

 

 

 「で?これ異世界転生ってやつ?」

 

 

 と私に聞いてきたところで、ようやく静かになった。

 

 

 《はい。申し遅れましたが、私、皆さまの異世界転生を担当致します事務局員です。一応、地球の神も担当しております。》

 

 

 「あれ?皆さまってことは、みんなまとめて転生するの?それって異世界転移じゃなくて?」

 

 

 どうやら娘さんは、異世界転生に明るい人物のようだ。他の家族も、よくわからない状況に対処しきれてないのか、とりあえず会話を娘に任せて様子を窺っている。

 

 

 《(お父さん、しっかりしなさいよ・・・)

 ええ、皆さんまとめてではありますが、転移ではありません。行っていただく異世界の種族に合わせて体を再構築させていただきます。

 もちろん、向こうでの生活に困らないように、言語理解や一般常識についても特典として付与させていただきます。》

 

 

 「それって、勉強しなくても常識も言葉もわかるってこと?」

 

 

 《ええ、ご理解の通りです。かの世界ではいくつかの言語が使われてますが、全てをサポートしています。各国のマナーや歴史も対象になります。》

 

 

 「やった!私英語苦手だったから、それは助かるわ。お父さんも外国語はようわからんって言ってたし、転生良いんじゃない?」

 

 

 《(娘さんは話が早いな・・・どうだい?お父さん?)》

 

 

 「・・・そんな大量の知識を急に頭に入れたら、何か健康に影響とかないのか??」

 

 

 《ご懸念はわかりますが、高性能な肉体を用意しますので、問題はありません。地球での常識から、一度は考えを切り離していただければと思います。》

 

 

 どうやら、未だに死んだ事実を受け入れ難いようだ。この後も、何だかんだと質問ともつかない問いを繰り返した後、最終的には騙そうとしてるんじゃないかと騒ぎ始めた。

 仕方なく、ウニャーバックスコーヒーを解除して、虚空に放り出しつつ、神力を使って威圧した。

 

 

 《お父さん、ご家族の皆さん。もう一度言いますが、皆さんはお亡くなりになっています。厳しいことを言うようですが、現世に帰ることはできません。ご選択いただけるのは、家族で一緒に異世界にいくか、輪廻に還るかです。》

 

 

 改めて現実を伝えると、お父さんは押し黙り俯いてしまった。落ち着いていた娘も、他の二人も父を見て、おろおろするばかりだ。しばらくそのままの時間が流れた後、お父さんはぽつりと呟いた。

 

 

 「ずっと茨〇で生きてきたんだ・・・」

 

 

 《え?》

 

 

 「私も、家族もずっと茨〇で生きてきたんだ。山も海も平野もあって、何でも美味い。街は綺麗で、道は広い。どこの公園もきれいに整備されている。あえて宣伝していないだけで、観光地もいっぱいあるんだ。住んでる人たちも、少しせっかちなところやシャイなところ、、く、車の運転が荒いところはあるが、適度な距離感を保ってくれる優しい人たちばかりだ。妻を幸せにするなら茨〇しかないと思ったし、息子や娘にも〇城で暮らして欲しいと思っていた。生まれ変わるなら、また〇城がいいんだ・・・」

 

 

 車の運転のところでは、流石にためらいがあったが、まるで自分に言い聞かせるように淡々と呟く姿は、家族の幸せを想う父親としての姿に見えた。その姿を見た家族も父に共感して、俯いてしまった。

 唯一、娘だけは、何か思いついたように話しかけてきた。

 

 

 「猫神様、前に本で、〈日本まるごと異世界召喚〉って話読んだことあるんだけど、そういうこともできるの?」

 

 

 《日本ではないですが、過去には一国まるごとという事例もありました。茨〇県まるごと転移・転生とか考えてますか?それは流石に無理ですよ。》

 

 

 「ええ!?でも一国の事例もあるんでしょー!お父さん頑固だから、このままだと絶対動かないよ。」


 

 《いや、あなた達のために〇城県民全員死亡させることはできませんよ。せいぜい茨〇物産の〇ットスーパーくらいです。》

 

 

 「お父さん。茨〇の食べ物とか異世界でも取り寄せできるみたいだよ。どう?」

 

 

 「(・・・)」

 

 

 娘は必死に元気づけようとしているのに、この父親は全く・・・だが家族を守るものとして、環境にこだわることは理解できなくもない。幸い四人分の特典(神力)はある。さて、どうしたものか――――――



――――――――――――次話《異世界編》に続く。

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