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029.めんつゆトラップ《異世界》

短編「超絶【蠅嫌い】の私が、めんつゆトラップで【蠅の王】を沈めるまで」をこちらに統合しました。

2話目の内容はほぼ同じです。魔王を邪神に変えて、神界でのあとがきを追加してます。


既に短編の方、読んでいただいた方は、1話目と神界でのあとがきだけでもお楽しみいただけたらと思います。


こちらは「めんつゆトラップ」の2話目になります。

《とある異世界にて》

 

 

 異世界に転生して早5年――――5歳になった私は後悔していた。

 

 いくら異世界の衛生状況に信頼がおけず、【蠅】への嫌悪と恐怖が募ったとはいえ、転生特典にスキル【めんつゆトラップ】を選んだのは失敗だった。


 異世界は割と清潔だったのだ。(猫神様も一言言ってくれればいいのに・・・。)


 万能なスライム君が、残飯から汚物から何でも即座に分解するし、部屋に入り込んだ小さな虫も捉えて食べてくれた。

 正直、【めんつゆトラップ】は用なしだった・・・


 それでも、【めんつゆトラップ】を構成している、めんつゆ、水、洗剤に分解すればなんとかなるかもしれないと、言葉を覚えるよりも、歩き出すよりも先に、訓練を続けた。見て欲しい。その結果がこのステータスだ。


===

名前:チョーン・ルキ

年齢:5歳

性別:♀

体力:10

魔力:2,000

スキル:

 合成魔術【めんつゆトラップ】Lv∞

 水魔術Lv10

 《5倍濃縮》めんつゆ魔術Lv3

 《肌に優しい》洗剤魔術Lv20

 バナナLv1

称号:

 蠅殺し

===


 合成魔術【めんつゆトラップ】は最初からLv∞だった。そこから、ひたすら水だけ、めんつゆだけ、洗剤だけと意識して発動して、ここまで伸ばしてきた。変な形容詞がついているが、それはもう気にしない。転生職員のセンスだろう・・・。

 最近ではバナナまで獲得した。ちなみにLv1だと、3cm程の輪切りにカットしたバナナの一片が出てくる。

 魔力2,000は、成人男性の平均ステータスが体力:400、魔力:100で、魔術院の魔術師が、普通の人の10倍の魔力を持つと言われているので、かなりのものだろう。私TUEEEEE!できるかもしれない。【蠅】以外にはやらないけど。

 

 訓練で発生しためんつゆトラップはスライムが吸収してくれた。元は透き通ったブルーのスライムだったが、今や我が家のスライムは茶色~黒色のめんつゆ色で、体内に細かな気泡が見える。部屋に侵入した虫は、自分からスライムに食われに逝っている。

 家人は怪しんで、スライムの廃棄も考えていたが、実害がなかった為、めんつゆスライムは、そのまま我が家で働いている。(良かった・・・)


 スキルのLvにばらつきがあるのは、家のお手伝いのせいだ。うちは割と裕福な商家だったが、使用人を雇う程ではない。5歳になった私は、水汲みや皿洗い、洗濯を手伝っている。そこでこっそり魔術を使っていたところ、両親に見つかった。


 両親はうちの子は天才だとひとしきり騒いだ後、商品化の算段をはじめ、最近は、両親の用意した容器にせっせと洗剤を詰める毎日だ。どうやら洗体にも用いられているようで、健康被害がおきないか心配しているが、こちらの世界には、薬品への法規制なんて概念もないらしく、両親は気にもしていない。(貴族が肌荒れおこして、首ちょんぱとかなければいいけど。)

 

 なお、めんつゆについては、この世界に似たものがなく、うまく説明もできないので、とりあえず秘密にして、一人のときにこっそり練習したり、味わったりしている。いつか、昆布やかつおだし香る食卓にしたいものだ。バナナは数出ないので保留だ。

 

 そんなこんなで、家も儲かってるし、将来は、魔術学校に行くか、それとも錬金学校にいくかなんて贅沢な悩みを抱えていたところ、私の暮らす街に凶報が届いた。

 

 

 【邪神ベルゼブブ復活、アースの街方面へ侵攻中】

 

 

 500年前、突如として現れた【邪神ベルゼブブ】は、大量の眷属で以て、人類を蹂躙した。その矮小な眷属は、【蠅】を模しており、一匹一匹は子供でも対処できるものだが、数千、数万の単位で一斉に人間や家畜に襲い掛かり、彼奴らが去った後には、骨しか残っていなかったという。


 【蠅】と人間との戦線は、人間側の大規模な魔術結界や炎魔術で、辛うじて均衡を保っていたが、ベルゼブブ自らが戦場に立つと、結界は壊れ、炎は無効化された。

 あわや人類滅亡かという時に、別世界からの転生者が勇者として立ち、封印スキルで以てベルゼブブを封印したという。

 尚、この転生者は既に他界しており、その子孫が現在この国の王家となっている。 

 

 そして、復活した邪神が侵攻中のアースの街こそが、私の住んでいる街である――――

 

 

■■■■

 

 

 今、私ルキはアースの街北東の森の中にある湖のほとりに立っている。これから、全街民一斉避難というところで、忘れ物があると隊列を抜け、一人でここにきた。 

 湖の中央から向こう側は透明に澄んでいるが、私の立っている近くは、内部が泡立つ黒い塊が、うごうごと蠢いている。

 ここはスライムの群生地で、我が家のスライムの黒化が進みすぎて、本格的に両親が廃棄を検討した時に見つけた訓練場所だ。

 黒い塊は、めんつゆトラップを食らったスライム達だ。その見た目はかなりヤバい。ジ〇リなら、確実に生命吸い取るか、人を丸のみにしているタイプのアレだ。

 

 私は彼らを見て、《高揚》していた。

 

 自分でも気づいていなかったが、【めんつゆトラップ魔術Lv∞】の活躍の場がないことを、自分で思っている以上に、私は口惜しく感じていたようだ。

 いつになく私の魔術回路は煮えたぎっている。不要な地雷詠唱をつい唱えてしまいそうな程だ。私がこれからやることはいたってシンプル。スライムにありたっけの【めんつゆトラップ魔術Lv∞】をたたきこみ、湖を大規模なめんつゆトラップと化し、蠅の眷属と邪神を一網打尽にしてやるのだ。

 

 邪神がトラップにかからない可能性は考慮する必要もないと感じた。私の【蠅】への妄執は、蠅に関するものを全て絡みとる。現世ではショウジョウバエしかとらえられなかったトラップが、今世では、多種多様な蠅系モンスターを捉えることは、この湖で検証済である。

 

 必ずめんつゆの海に沈む【邪神】を上から見下ろしてやるのだ。待っていろ邪神、私は、無限にめんつゆトラップを内包した世界を作る!

 

 

(Side 邪神ベルゼブブ)

 

 

 『くくくくく、、、、ようやく、ようやくだ!!!』

 

 

 下等な人間に封印されて500年。あれは完全な油断だった。

 小癪にも無駄な足掻きをする人間たちの、絶望にゆがむ表情を見たくて、つい前線に出てしまった。眷属による包囲殲滅を待っていればよかったのだ。つい我一人突出してしまったところを、勇者を名乗るクソ人間とその一味に包囲され封印されてしまった。

 現界に残された大量の眷属たちも、力を失い、人間に滅ぼされてしまったようだ。

 だが、封印の中でも我は力を失わなかった。少しずつ少しずつ眷属を生み出し、結界を侵食していった。そしてようやく今日、結界は完全に崩壊し、我は自由になった。

 

 久しぶりの現界には、忌々しいことに、間引いたはずの人間どもが、また繁殖しているようだった。人間どもに大した力などないことはわかっているが、万が一もある。


 我の復活に気づいてはいるだろうが、まだ混乱しているはず。奴らが体制を整える前に、中枢を破壊し、指揮系統が乱れているところを一気に殲滅する。まずは近くの街を襲撃し、現在の奴らの情報を掴まなければならない。


 そうして周囲を探りつつ侵攻していたところ、えもいわれぬ芳しい香りが漂ってきた。

 

 

 『(なんだこれは・・・)』

 

 

 一瞬、人間による幻覚や魅了の攻撃も疑ったが、特に自身に異常は感じられなかった。

 

 

 『(引き寄せられる・・・)』

 

 

 どうやら侵攻方向にある街の近くの森の中から、その香りは漂っている様だ。近くに魔王軍がいるにもかかわらず、森は動物の鳴き声もなく、静謐を保っている。

 

 

 『(時間のロスも最小、確認してから進行すればよい・・・)』

 

 

 気が付けば、自身を納得させる言い訳をして、フラフラと森に進んでいた。我の使役が緩んだのだろうか。既に眷属たちは、勝手に森への侵攻を開始している。とうに眷属で溢れかえってもおかしくないはずの森だが、相変わらず静かなままだ。

 頭は明らかに異常を感じていたが、体は進むことをやめなかった。

 森の木々の上を飛んでいると、大きな昏い穴が見えた。穴には、数千、数万の眷属達が我先にと飛び込んでは消えていく。


 そこには予想だにしないモノがあった。

 

 

 『ま、まさか!?あれは!!!!根源の穴!!??』

 

 

 曰く、そこには全ての魂の起源があるという。曰く、それを識ることで全てを作り、壊し、万物を意のままにすることができるいう。

 

 

 『(行かなければ!!!!!!!!!!)』

 

 

 何故、邪神たる我が引き寄せられたのか理解した!我はアレを手に入れて上位神へと至る!!!!!!眷属を押しのけ、時には破壊しながら、我は穴へと飛び込んだ。

 

 

 ポチャン!

 

 

 水音と共に、我は一切の体の自由を失った――――

 

 

 『(何だこれは!?!?!?)』

 

 

 体が全く浮かばない。元来水をはじくハズの体が、腹部にある呼吸孔から、どんどん何かの液体に侵食され沈んでいく。沈んでいくだけならまだしも、先の方から溶かされているようだ。その上、力が全く行使できない。魔術が発動できない。


 そもそも視界がゼロな上、高性能を誇る複眼も液体に侵され機能しないが、どうやら、眷属達も同様に沈んでいることがわかる。

 

 

 『(な、何だというのだ・・・)』

 

 

 前回の勇者の封印と違い、明確に死の気配のある異常事態に混乱しながらも、全くなすすべがないまま、我の意識はその昏い穴の中へ沈んでいった――――――

 

 


■■■■

 

 

 

「めっちゃ取れた♪・・・(ブルっ)」

 

 

 達成感と嫌悪感がないまぜになった妙な気持ちで震えが来た。

想像して欲しい。いや、しないで欲しい。黒い湖に大量の【蠅】が沈んでいる。徐々にスライム君たちが溶かし吸収しつつあるものの、まだその多くが原型を残しており・・・かなり気持ち悪い。


 その真ん中の方に、十メートルに届きそうな大きな【蠅】が沈んでいる。

 

 

(あれ飛んできたときには吐くかと思った・・・)

 

 

 大型の蠅が、手足をワキワキさせながら飛んでくる姿はトラウマものだ。しばらく夢に見るかもしれない・・・

 

 邪神を倒した後、スライムどうなるんだろう?とぼんやり心配していたが、邪神を食べたスライムが凶暴化することも、湖からあふれ出すこともなく、相変わらず静かに?うごうごしている。

 

 

 「とりあえず、街助かったし、スキル活かせたし無問題!!猫神様ありがとう!!!!」

 

 

 無理やり納得して、森の外側に目を向けると、遠目に異変を察知した街民たちが引き返してくるのが見える。街の騎士団が先遣隊として、森の様子を見に来るようだ。

 

 

 「森の裏手から街に戻ろう・・・」

 

 

 こっそり戻って自宅で両親と落ち合おう。恐怖で新しいスキルを発現したとでも言って、めんつゆ出してみてもいいかもしれない。邪神を倒した聖なるめんつゆとか売れるんじゃね―――――

 

 

 

《とある神界にて》


 あの蠅嫌いの女性を送った異世界のクライアントから感謝の言葉が届いた。どうやらあの世界には、位階は低いもののやっかいな邪神が封印されていて、その封印が解けかかっていたようだ。

 そういう大事な情報は事前に渡しておいて欲しいものだが、いくつかの異世界から人材を集め、誰かが対処してくれないものかと様子を伺っていたところ、うちからの人材が事を成したとのことだった。

 他の転生者と比較しても、神力も一番かかっていなかったようで、尋常じゃないコストパフォーマンスに、次回もぜひお願いしたいとのお言葉を頂戴してしまった。


 上位神も随分ご機嫌で、『猫になってからの方が調子がいいな』なんて余計な言葉を残していった。


 転生した彼女からの感謝の念も伝わってきたし、ほんと何がどう転ぶかわからないものだ。

 

 

めんつゆトラップ  ー終わりー

気持ちシリアスな展開が続いたので、バカ話を入れたくてめんつゆトラップ統合しました。

短編の方は削除しておきます。

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