025.ご飯のお供《異世界》
「ご飯のお供」の2話目になります。
《とある異世界にて》
私の名前はミクス・ソウル。13歳だ。中流の商人家庭に生まれた私には、前世の記憶があった。
記憶といっても具体的なものではなくて、地球の日本という国で生きていたという漠然としたものだ。
その世界はモノとヒトが溢れ、この世界では考えられないような高度な文明を築いていた。この記憶は、私に不満を抱かせた。この世界は何て不便なんだろうと。
唯一の救いは、神より与えられし権能により、異世界の食物を生み出すことができることだ。
何故か私は生まれながらに、その真理を理解しており、食物を生み出すことができた。また同時にこの権能が、この世界にとって異質であり、おいそれと人に見せてはいけないことも理解していた。なので、今も絶賛便所飯中だ。
なお、この世界のトイレはスライムぼっとんというシステムで、用を足すと同時にスライムに匂いとモノが吸収されるため、とても清潔で匂いもないので、安心?して欲しい。
今日のメニューは、しらすおろしご飯。
食物のメニューを任意に選ぶことはできず、いくつかのメニューの中からランダムで発生する。その中でも、これはお気に入りの逸品だ。
私の中には、地球から異世界に渡ったものの物語のような知識があり、その中で、よくしょうゆやマヨネーズとばれるソースの再現に苦心する描写を記憶している。
どうやら、このしらすおろしご飯にもしょうゆが使われているようだ。
このメニューは全体的に白っぽい食物に、しょうゆというソースがかかっている。ふっくらもちもちしており、噛めば噛むほど甘味が出るお米という穀物の上に、大根おろしという、すこしぴりっとする野菜をすりおろしたものがのっている。
その上にしらすという、小さな小さな小魚を蒸したものだろうか、それがふんだんにまぶされている。更にその上からしょうゆがかけられたシンプルなメニューだ。
これがうまい。
小魚としょうゆは旨味と絶妙な塩味を、そしてピリッと辛味の効いた大根が後味の良さを与えてくれる。何よりも米がいい。噛めば噛むほど私に幸福とは何かを教えてくれる。まさに至高の逸品だ。
この権能があるから私はこの世界で頑張ることができている。先ほどは言えなかったが、実は私が便所飯しているのには、権能を隠す以外にも理由がある。
有り体にいうと、私はいじめられている。
幼少期に受ける鑑定の儀において、私が類まれなる才能の持ち主であることが発覚した。体力、知力、器用さなど様々な値が、この国の貴族の平均値を軽く凌駕した。
生粋の商人である両親は、私を平民も受け入れている王国軍学校に入れることを決めた。最低でも貴族との顔つなぎ、可能なら併設の女学院の令嬢を射止めて、後ろ盾を得ることを望んだ。
両親の望み通り、王国軍学校に入学した私は、両親の期待を良い意味で裏切った。身分と性別を隠して、騎士学校に入学していた第三王女のお眼鏡にかなってしまったのだ。
私にとって悲劇だったのは、この(一方的な)恋は瞬く間に周囲にばれてしまったことと、目に入れても痛くない第三王女頼みなら、私の叙勲などあっさりと強行してしまう王の親ばかっぷりだった。
結果、平民時代は実力が鼻につくが所詮は平民と無視で済んでいたいじめは、成り上がりものに対して全く容赦がないものに変わってしまった。第三王女ひいては王が怖いのか、直接的な殺傷の類はないものの、ねちねちねちねちとした嫌がらせは続いている。食堂でランチを食べようものなら、何を入れられるかわかったものではなく、こうして楽しい便所飯に興じているわけだ。
私が授かった爵位は騎士爵だが、卒業後の軍での立場は特務大尉。どんなに爵位が高くても、兵長レベルから経験させる王国軍においては異例中の異例の人事だ。
特務とは、男勝りに戦場に出たがる第三王女のお守り、ひいては肉の盾になることだそうだ。王としては、私が王女の目の前で死んで、かつ、ショックを受けた王女が自分の懐に戻ってくれば万々歳なのだろう。
ぜひこれを加害者に向けて声高に語ってやりたいが、そうすると本気で命の保証がなさそうなのでやめている。
話は変わるが、この国は戦争状態にある。相手は近隣にある魔帝国。我が国の大義名分としては、邪神を崇める邪悪な異種族の侵略に対抗する聖戦であるとのことだが、商人のネットワークによると、どっちもどっちだそうだ。
異種族といったが、特に耳が長いとか、顔が動物とかはなく、せいぜい髪の色の違いくらいだ。記憶にあるエルフや獣人、魔族などは、この世界にはいないようだ。戦況は膠着状態だが、敵方には魔騎士と呼ばれる一騎当千の戦士がいるらしく、少しずつ王国側の被害が増している状況らしい。
私としては、魔騎士が実は同郷の人間ではないかとにらんでいて、いっしょに異世界飯を食べてみたいとひそかに思っている―――――――――
18歳になった私は、特務大尉から少佐に昇進した。第三王女の初陣で、突貫してきた魔騎士を相手に、身を挺して王女を守り切ったことを評価されたためだ。
この戦争で第三王女は命のやり取りの恐怖を知ったのか、戦争ごっこをやめ、ついでに軍人である私からも興味を失ったようだ。まさに王と私のWin-Winだ。
20歳になった私は、また戦場にいる。
魔帝国より、魔騎士との一対一の決闘を打診され、誰も起つものがいなかった為、唯一、魔騎士と相対して生き残った私に白羽の矢が立ったらしい。
そして今は、名乗りの場面である。
「我が名はミクス・ソウル!王国陸軍少佐!王を守りし剣である!(気持ちは入ってないけど一応ね)」
「我が名はアックス・ダライヴァー!魔帝国最強の騎士!断罪の剣である!」
「「いざ!尋常に!勝負!!!!!!!!!!!!!!!」」
18歳のときは、王女を守りながらだったから遅れをとったが、単独で撃ち合ってみてわかった。
これは勝てると。
魔力量や魔力の扱いは向こうの方が上だが、膂力や剣技は確実にこちらが上回っている。向こうは緻密な身体強化魔法で何とかこっちについてきているといった感じだ。
それにどこか剣に迷いのようなものも感じた。
何合か打ち合った後、相手に一瞬の隙が見えた。一気に相手の懐に入り、渾身の突きを放つ。私の突きの狙いはわずかにずれたが、わき腹を抜け左肺を貫いた。
だが、魔騎士は全くひるまなかった。
これを待っていたとばかりに、私の剣を左手で掴むと、私が剣を離し飛びのく隙もないほどの高速で、私の心臓を貫いた―――――
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《とある神界にて》
《本当に連れ帰ってきちゃったんですね・・・》
「ええ、何とかやり遂げることができました。」
集合体の転生を見送った後、ウニャーバックスコーヒーにはすぐに次の人材がやってきていた。ちょっとは休ませろと思いつつ、対応にあたってみると、彼は集合体の乗っていたバスの運転手だった。
米への想いの違いか、死ぬタイミングの違いかはわからないが、彼は集合体には巻き込まれなかったようだ。
大事故を起こしたせいか、あまりに狼狽する彼に、しょうがなく事故の被害者は既に転生していることを伝えたのが良くなかった。
根ほり葉ほり質問され、被害者が集合体としての転生であることを知った彼が望んだのは、同じ転生先へ行くことと、自身が死ぬとき、殺した相手を一人、ウニャーバックスコーヒーへ連れてくることができる特典、そして連れてきた魂を元の形に戻すことだった。
そもそも件のクライアントの募集は、集合体で終わっているし、そうでなくても神力足らないクライアントじゃ、あなたの特典は到底賄えないことを説明したのだが、決してあきらめることはなかった。
私の中にも、どこかすっきりしない気持ちもあったのだろう。クライアントと交渉して譲歩を引き出した。
私から彼に提案したのは、以下の三点だ。
一、クライアントの世界で膠着している王国と魔帝国との戦争を動かし、戦線を拡大すること。
(クライアントは戦神で、戦士が死の間際に祈る祈りを神力として受け取っていた。
そんなんだから神力溜まんねんだよと思うが・・・)
二、一での成果が、与える特典の神力を超えない限りは、集合体を殺傷してはならないこと。
三、集合体を元に戻すにも神力が必要である。この神力はあなたの魂を以て賄うこと。
※その場合、あなたの魂は消滅し、輪廻にも帰れないこと。
彼はその全てに了承し、旅立ち、そして還ってきた。
正直、帰還の特典以外、大したものを持っていない彼がやりとげられるようなことだと思えなかったし、何より集合体が転生先で生きてる様子を見れば気持ちもかわるだろうと思っていたのだが・・・
今、集合体は、いくつかの光に分かれて、輪廻の流れへと還っていっている。
その横で小さな光が、明滅しながらゆっくりと消えていく――――――
クソ上司とかかわっている時以上に強く想う。
《こんな仕事、辞めたいな・・・》
ご飯のお供 ー終わりー
以前、会社の新入社員とご飯に行ったときに、しらすおろしを知りませんでした。
私はとても好きなのですが、マイナーなのかな。




