026.事務魔術
二話完結の一話目です。
「それまで、ただただ、お給料のために仕事してきてたんですけど、〈ありがとう〉はとても嬉しかった。何だか報われた、認められたような気がしたんです。」
《なるほど・・・》
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私は、地球の異世界転生担当職員、一応、神だ。
ある事情から猫の姿をしている。今日は、ロシアンブルーだ。落ち着いていて、少し知的な印象を与える姿だ。
異世界転生担当職員とは、クライアントのニーズに合う人材を、異世界へ派遣する神級派遣事業者だ。
クライアントから人材へオファーできる異世界転生特典のうち、最低限の特典を人材に渡しつつ、気持ち良く転生してもらうのが私の仕事だ。
ただ私は最近、この仕事の意義を見出せなくなってしまっている。
今回の人材は、会社員男性。40歳。事業会社で総務を担当していたようだ。横断歩道を歩行中に暴走車に跳ねられ事故死。また事故か・・・・・
見た目の印象は、まるで普通を絵にかいたようだ。全体的に特徴がなく、おそらく二度目に会っても名前が思い出せないタイプの人間に見える。
最初は多少うろたえていたが、事情(既に死んでいること)を説明すると、少しして落ち着いた様子・・・普通だ。
こちらが提案する転生特典も素直に受け入れている。このまま行けばあっさり転生させることができそうなのだが、少し心配になり声をかけてしまった。
《何かほかに希望するスキルや、聞いておきたいことありませんか?》
「はは、、、何を聞いていいものやら。昔から大事なときに頭が回らないんですよね。何か言わなきゃって思うと余計に焦って言葉がうまく出てこないんです。それに、自分がこんなス〇バみたいなとこで猫、、神様と話してるなんて現実感なくて。」
《(このまま送ってもいいんだが、、)時間はたっぷりありますから、ゆっくり考えて見てください。》
「(・・・)」
それから1時間程経過したが、彼から特に質問はなかった。時折、声をかけようとする仕草は見えるものの、うまくまとまらないのか、すぐに口を噤んでしまう。状況を変えるため、もう少し質問してみることにした。
《そういえば、ご職業は会社員ということですが、どんなお仕事されてたんですか?》
彼は、緊張から逃れられると思ったからか、あからさまにほっとした様子で話し始めた。
「はは、、大したことは何も。会社の計数資料作ったり、備品の購買関係とか、後は少しだけプログラミングなんてこともしてました。」
《プログラミングとは?どんな?》
「はは、、本当に簡単なものですよ。決まった資料を自動で作成したり、クリックしたら、簡単に出力するプリンタ切り替えられたり。ちょっと便利なツール程度です。」
《へえ、面白そうですね。》
「ええ、今まで時間かかってやってたことが、自動でできるのは結構面白かったです。そのうち、実務よりプログラミングの時間の方が長くなっちゃって、本末転倒なんですけど。
でも褒めてもらえたんですよね。」
《褒めてもらえた?》
「はは、、恥ずかしい話なんですけど。ほんとに私、ぱっとしないんです。営業できるほど対人関係強くないし、研究できるほど学があるわけでもない。
それで気づいたら、淡々と仕事ができる総務に落ち着いたんですけど、そこでも別に仕事が特段早いわけでもなくて。
何かないかなって、プログラミングの入門書買ってみたんです。何か格好良いなって思って。
ちょっと読んで、初めてプログラムのコード書いてみたら本当に動いて、あ、私でもできる!ってとても嬉しかった。
それで調子に乗って、仕事の自動化にチャレンジしてみました。最初は自分の仕事からでした。
そうしたら、私の仕事が早くなったことに、同僚が気づいて、どんなことやってるの?って聞いてくれたんです。
そこから、同僚や後輩の業務の自動化にもチャレンジしたんです。うまくいくこともいかないこともあったけど、みんなできたらいいやくらいの気持ちで頼んでくれたからやり易かった。
それで、うまくいったら「ありがとう!助かった!」って言ってもらえたんです。
本当に嬉しかったなあ。
それまで、ただただ、お給料のために仕事してきてたんですけど、この〈ありがとう〉はとても嬉しかった。
何だか報われた、認められたような気がしたんです。」
《なるほど・・・》
彼からの話を聞いて、少し特典について思いついた私は、彼に提案してみることにした。
―――――――――――――では、こんな特典はどうでしょう?
――――――――――――次話《異世界編》に続く。
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