014.人畜無害
いつもコメントありがとうございます!
全二話の一話目です。
自殺や精神疾患など少々重たい表現がありますので、苦手な方はこの話と次の話はスルー下さい。
「チートもらっても異世界でうまくやっていける自信ない・・・人間が怖い・・・」
『(・・・)』
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私は、地球の異世界転生担当職員、一応、神だ。
異世界転生担当職員とは、クライアントのニーズに合う人材を、異世界へ派遣する神級派遣事業者だ。
クライアントから人材へオファーできる異世界転生特典のうち、最低限の特典を人材に渡しつつ、気持ち良く転生してもらうのが私の仕事だ。
一般的なケースだと、基本パッケージ(記憶保持、異世界言語、鑑定《小》、成長補正《小》)辺りに、オプション機能を少しつければ、気持ちよく旅立ってくれる。
だが、稀に、チート特典をつけても、異世界に旅立つことを拒む人材もいる。
今回の人材、34歳男性、会社員だ。職業はSEで、プロジェクトリーダ担当、死因は自殺。
ずっとうつむいている為、表情はうかがい知れないが、明らかに血色は悪く、手足も細い。
手首に大きな切り傷が見え、非常に痛々しい。
《(適応障害から会社に行くことができず、思い悩んでお風呂場で手首をばっさりか・・・
人間社会どうなってんだ??生きるために働いてるのに、死んでどうする・・・??)》
少し強めの特典上げて、異世界送るか、やはり輪廻に還すかと考えていたところ、返ってきたのが、冒頭の一言だった。
《死因は把握してますので、心中はお察しします。では、悪い記憶はすぱっと忘れて、輪廻に還りますか?
一旦、輪廻で魂を洗い清めて、新しい命を生きるのもいいですよ。(こちらとしては、人材減るから痛いが、しょうがない)》
一瞬、顔を上げ、安堵するかのような表情を見せた後、またうつむいて呟く。
「また・・・同じこと繰り返さない保証ってありますか?また今の僕みたいな性格になったりしないですか??」
《(うーん。正直答えて良いのだろうか・・・)
可能性は・・ゼロではありません。
人は魂と肉体、それを紐づける精神で構成されます。あなたの言う性格は、この精神が担います。精神は肉体の形、肉体の経験により形作られます。
あなたの新しい生での、体や環境によっては、今と似た性格になる可能性はあります。》
「(・・・)転生先では、体や環境を選べるんですか?今の僕が変われる可能性はありますか?」
《可能性はあります。赤ん坊からやり直すので、先程言ったことの繰り返しになりますが、体や環境に引っ張られて性格が変わることも十分にありえます。》
「(・・・)」
《(まだ十分に納得できていないが、少し異世界転生に揺れてる感じかな・・・)
強い転生特典をつけることで、現地の方より、才能も高く人生を始められます。今世よりは、少し気楽に生きることもできると思いますよ。》
相変わらず俯いて、悩んでいる様子だったが、意を決したように顔を上げ、語り始めた。
「(・・・)別に強い才能は欲しくないです。今世みたいに、誰かと自分を比べたり、人の評価に一喜一憂したくないんです。もう比べたくない。
年収がどうとか、将来性がどうとか、会社内でもみんなそれでギスギスしてましたし、お客さんも、自分の実績に傷がつかないように、こっちに無理言ってきたり。その内、誰もが蹴落とし合っているように感じられました。
結局、会社も社会も、誰も何も信用できなくなって、家から出られなくなりました。
あまりにも様子がおかしくて、タクシー呼んで、何とか病院に行ったら適応障害と診察されました。」
《(・・・)》
「神様ならご存じかもですが、適応障害は外因性で、問題を取り除けば回復するんだそうです。確かに休めば少し楽にはなった。
その後、仕事変わることも考えたんです。こんな状態の僕の話を聞いてくれる人もいて――
でもダメでした。やっぱり誰も信用できなかった。
こんな僕でも大丈夫と言ってくれた採用担当者も、相談に乗ってくれた医師もカウンセラーも、両親も。
外因性の原因をあえて挙げるとしたら「人間」だったんです。
でも一番変えなきゃいけないのは、そう考えてしまう僕の性格と考え方だった。それがわかっていても、どうしても自分を変えられなくて、現状の自分が情けなくて、気が付いたらここにいました。
忘れてまた同じ人生を繰り返すことが怖い。
忘れないで、自分を変えられる自信もない・・・
でもできるなら、次の生は、周りを幸せにして、それを素直に喜べる自分でいたい。他者を羨まず、自分の中に確かな価値観をもてる自分になりたいんです!」
一息に話して、幾分落ち着いた様子の彼を見ながら思った。
《(え?これ転生特典でどうしようもなくないか?)》
その後は、最早チー「プ」な特典を進めることなど忘れて、とにかくチートを提案し続けた。まずは人に好かれるための<魅了>スキル、<寵愛の加護>、人の心の声をきくための<読心>スキル、人の役に立つために、全能力大幅強化の見込める<英雄の称号>、人の役に立つといったら治療だと<回復魔法>スキル、周囲の能力向上のための<バフ>スキル、思いもよらない危険に対応できる<強運>スキル、思いつく限りを伝えたが、彼はいずれも選ばなかった。彼が選んだのは――――
――――――――――――次話《異世界編》に続く。
お読みいただきありがとうございます。
タイトルでネタバレしてますが、スキル名とスキル名<異世界>のセットは崩さずに行こうと思います。
現在、適応障害でお悩みの方、本当におつらいと思います。
そんなことを話題にしてしまいすみません。
少しでも、現在の生きづらさみたいなものをお伝え出来ていたらと思います。




