013.ウニャーバックス・コーヒー《異世界》
ウニャーバックス・コーヒー《異世界》編です。
《とある神界にて》
神は現世には、強く干渉できない。
かつて、より効率的な神力の回収を試みて、いくつかの世界を犠牲にした神がいた。かの神は、超位神に至る一歩手前までいったが、そこで他の超位神により、すべての時間・世界からその存在を抹消された。
そして、過干渉を禁止するためのルールが定められた。干渉として許されるのは、せいぜい、加護・神託やごく稀の神隠し程度。
ただルールには往々にして抜け穴が存在する――
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カランコロン。ドアベルの音と共に、何もなかった空間がたちまち色づき始める。
まずは、シックな色合いのダークブラウンの床に、真っ白い壁。壁は、コーヒーやケーキをイメージしたポップなイラストや、曲線を活かしたアート作品で彩られている。
次にカウンター。木の質感を生かした大きな楕円形のカウンターには、レジスター。レジスターの横には軽くつまむのに便利そうなスナック、その前に立てかけられた黒板がある。
黒板には、白いチョークで<本日のおススメ>という文字と、その下にいくつかの飲み物の名前<グアテマラブレンド>
<柚子抹茶ショコラ・・・>などと書かれている。
飲み物のイメージだろうか、名前の横には、色とりどりのチョークでイラストが添えられている。
カウンターの端には、スツールが二脚と虚空の天井からぶら下がった、オレンジのランプ。ランプはチューリップの花を逆さにしたような形状で、温かい光を湛えている。カウンターの奥には、コーヒーを抽出するためのいくつかの機械類やブレンダー、冷蔵庫が見える。
全面ガラス張りの窓もできた。窓からは、都会の大きな交差点の風景だろうか、パンツスーツを着こなした女性や、自転車に跨る男性など、どうやら朝の出勤風景のようだ。
天気は快晴。窓は採光抜群で、店内は優しくも力強い陽の光で照らされている。ガラスの向こう側の人々は、こちらに気づいていないようで、目線を向けることもない。
最後に、大きな木の二枚扉ができた。それが、スーッと両サイドに別れ、誰かが入ってくる。まあ、ここにくることができる人は一人だけだ。
「こんにちわ!また来ちゃいましたーーーーーーー!」
誰かは、入ってくるなり元気な声で《私》にそう声をかけた。
《いにゃっしゃいませ。ようこそお越しくださいましたにゃ。》
「ふふふ、相変わらず猫の姿なんですね!喉なでてもいいですか?」
《当店では、そういうサービスは行っておりません・・・にゃ。》
「えーーー、相変わらずケチですね・・・嘘です!いつもありがとうございます!」
《ご注文は?本日のコーヒーはグアテマラ、スペシャルメニューは柚子抹茶ショコラフラペチーノになりますにゃ。》
「柚子抹茶でお願いします!グランデサイズで!」
《かしこまりましたにゃ。お食事はどうにゃさいますかにゃ?申し訳にゃいのですが、こちらも相変わらずスナックの類しか置いてないにゃ》
「うーん、太らないで好きなだけケーキが食べられるって乙女の夢だと思うんです、やっぱり無理なんですか?」
《お食事は、現世でしっかりお取りいただきたいですからにゃ》
「はーーーーーーーーい。じゃドリンクだけで。」
《かしこまりましたにゃ。お作りしてお出しするので、オレンジのランプの下でお待ちくださいにゃ。》
注文を終えた彼女は、カウンターのスツールに腰掛けて、ぼんやりと窓の外を眺めている。身長は150cmくらいだろうか、浅黒い肌に、銀糸の髪、両耳は少し尖っている。体の膨らみは申し分程度だが、前回来た時よりも、少し成長したようだ。
「あ、今、いやらしい目でみませんでしたか??女の子はそういう視線、ちゃんと気づいてるんですよ。罰として今日のドリンクはサービスしてくださいね。」
《元々お代はいただいてないにゃ・・はい、お待たせしにゃした。柚子抹茶ショコラフラペチーノににゃります。》
彼女の柚子抹茶ショコラフラペチーノと、《私》のコーヒーをカウンターに置いた後、もう一脚のスツールに腰掛けた。
「いただきます!ああ、やっぱりコレですよコレ。生クリームの甘味に抹茶の渋み、柚子の爽やかさがなんとも言えないハーモニーです。」
《最近はむこうでどうですかにゃ?》
「良くも悪くも変わりなしです。相変わらず、よく言えば長閑、悪く言えば退屈です。」
《それは何よりですにゃ。》
「全然何よりじゃないですよーーーーー!長老なんて枯れた古木と見分けがつかないくらい、ほんと全然動かないでぼーっとしてますし・・・エルフと違って、ダークエルフってもっと活動的なイメージあったんですけど、全然ですね。私ももう50歳なのに、外見も中身も全然変わんないですし。
あ、でも50歳で、出稼ぎ解禁になったんで、来月からは、しばらく森を出て旅しようと思ってるんです!」
《もうそんな歳だったかにゃ。。5年に1回の開店にゃのに、よくもまあ欠かさず10回も通ってくれたもんにゃ。あにゃたが森から外の世界にでるんにゃら、そろそろこの店も閉店かにゃ?》
「いえいえいえいえいえいえ!また来ますよーーー!約束でしょ!私が死ぬまで、5年毎、素敵なカフェを堪能させてくれるって!私はカフェを堪能できて、神様は特典削減できて、査定が上がる。Win-Winの関係じゃないですかー!」
同一人物と思えない程、元気なこの女性は、あの時の大学生だ。あの不安と期待のこもった眼差しに耐えられず、《私》はとても馬鹿な選択をした。
神は現世の人には、強く干渉できない。ただし、加護や神託、ごく稀になら神隠しも可能。
ならば、《私》の加護を与えて、彼女と《私》のパスを構築、神会にカフェを作って、彼女を神隠しで招けばいいと考えたのだ。神託で、来店の意思を確認することも忘れない。ようは、限定された干渉も組み合わせれば、抜け道になるというわけだ。
向こうでの生活が長くなればいずれ来なくなるだろうと、楽観的に考えていたのが間違いだった。
どうせなら猫カフェがいいと言われ、部下の猫又でも連れてくるかと思ったが、こんな裏技やってることを知っている《柱》は少ない方がいいと、自分で猫までやる羽目になってしまった。
「今日の景色は、交差点ですかー。私もあのまま大学卒業してたら、こんな感じで出勤とかしてたのかなあ?」
そんな物憂げな彼女の一言で、《私》の意識は回想から引き戻された。
《(・・・)》
「やだなー、ちょっと言ってみただけですよ。満員電車に乗らないでいいし、魔法も使えるし、別に今の生活に文句ないですよー」
そう言いながらも、流れる交差点の街並みを、彼女はぼんやりと眺め続けていた。
《次回は、グランドキャニオンとか、ナイアガラの滝とか、何か雄大な景色にでもしようかにゃ》
「うーーーん、それはこっちの方がすごい景色ありそうだから、やっぱり日本の日常の景色がいいです。それじゃ、素敵な景色と美味しい飲み物、ごちそうさまでした!次回は、私の冒険譚をたくさん聞かせてあげますね!」
そう言ってスツールを立ち上がると、彼女は足早に扉に向かった。最後にくるっとこちらを振り返って、言った。
「いつもありがとうございます!猫めっちゃ似合ってます!今度は触らせてくださいね!」
カランコロン
そのまま扉の向こうに消えていく彼女をぼんやり見ながら、《私》は胸がじんわり温かくなるのを感じていた。
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カランコロン
《ん?何か忘れ物でもしたの・・・・・・・・・・かにゃ》
『ほう?おっと、確かに忘れていたな。どこぞの中間神の減俸の申請しなければ―――な』
カランコロン
《う、ウニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!》
ウニャーバックス・コーヒー ー終わりー




