011.スライム愛《異世界》
スライム愛の異世界編です。
少し感染症を想起させる表現があります。ご不快に思われたらすみません。
《とある異世界にて》
記憶を持ちながら新たに生まれ直すというのは不思議な気分だ。思うように動かない小さな体に押し込められた、私の魂と精神は、その体に引き摺られて、その形を変えているようだ。忘れることはないが、あの人のこと、残してきた家族のこと、前世の記憶はまるで映画で観た他人の話のように感じられた。
逆に新しいこの世界は、何もかもがとても色鮮やかに華やいで見えた。かつての幼い私も辿ったであろう道を、きっと同じくらいのスピードで歩みながら、私は思春期を迎える年ごろになっていた。
「――――おせっかいな神様ですね。」
自分に与えられた異世界転生特典なるステータス群を確認しながら、ふと呟いてみた。
<運命神の加護>
どうやら、私は、この加護のおかげで、優しい両親、気のおけない友人、裕福な家、平和な国、そして才能に恵まれたようだ。前世の記憶がなければ、万能感を覚えた傲慢な人間に育っていたかもしれない。
この世界は、前世の電力を中心としたインフラはなく、全ての人間が簡単に使用できる魔法技術に代えられていた。3歳になると、教会への子供の正式な戸籍登録と共に、司祭からの紋章の授与が行われる。子供の適性によって異なるこの紋章には、生活魔法一式が込められていて、人々はこの生活魔法を使って、生活していた。
水魔法単体で水を出したり、水と火魔法の組み合わせてでお湯も出せる。風と火魔法で温風、光魔法で夜の灯り、洗浄魔法で殺菌消毒などなど。未だ遠距離の通信は実現されていないが、街中なら念話での通話も可能である。
物質の分解や合成、高火力の魔法は、生活魔法ではまかなえず、専門家に頼むこととなる。なお、物質の分解については、専門家に頼まずとも心強い味方がいる。そう、愛すべきスライムだ。
彼らは日本でいうところの益虫の扱いで、人間から好意的に受け止められていて、汚水や廃棄物の処理、害虫の駆除、ケガや皮膚炎の治療などにも活用されている。
そんなスライム達と私は、幼い頃から友好を深めた。ぷにぷにひんやりした彼らと一緒に寝れば、日本の暑い夏も問題なく過ごせただろうと思う。
おせっかいな神から与えられたスキル群をフル活用して、そんなスライム達の培養と強化を進めていった。
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基本パッケージ
L 記憶保持、異世界言語、鑑定《小》、成長補正《小》
L 【追加】生活魔法
L 【追加(偽装)】教会との敵対不可、直接敵対時のスキルロック
L 【追加】念話《街中限定》
L 【追加(偽装)】盗聴
細胞スライム愛パッケージ(カスタマイズ機能)
L 対スライム好感度《特大》
L 念話《高レベルスライム限定》
L スライム隷属《大》
L 【派生】スライム契約《特大》
契約中の個体名×数:特性/状態/役割
グラトニースライム×1:
消化能力と増殖能力特化体。
現在、契約者所属国を覆う大きさ/
地下にて待機中/
契約者の有事の際、敵対者の絶対排除
ヒュージスライム×10:
グラトニーの下位互換体であり、バックアップ/
街の廃棄物施設で稼働中/
廃棄物の大規模処理、平時における契約者の守護、
エアゾルスライムの生産
エアゾルスライム×不明:
微小体/無限増殖しながら空気中で待機状態/
生物体内への侵入によりパラサイトスライムへ即時進化
パラサイトスライム×不明:
微小体/寄生稼働中/
生物の体内で増殖、体表保護、肉体強化、病原菌捕食、
毒物分解、エネルギー(ATP)生産、生活魔法スキル改変、監視
セントラルスライム×2:
パラサイトスライムの上位互換体/
1体は契約者に寄生、もう1体はグラトニースライムに寄生中/
体表保護、肉体強化、病原菌捕食、毒物分解、
生活魔法スキル改変、
パラサイトスライムより収集された監視情報収集・分析、
契約者負傷時の重症度に応じた超速再生
L スライム強化《大》
L スライム成長促進《大》
L 運命神の加護
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教会が、生活魔法を人質に、権威を振るっていると気づいたのは、いくつのときだったろうか。転生特典により、スキル群が確認できる私は、
<【追加(隠蔽)】教会との敵対不可、直接敵対時のスキルロック>
<【追加(隠蔽)】盗聴>
の存在に気づいてしまった。(※上記ステータス表示上は偽装で正しいです)
転生直後は自分で歩けるようになったら、すぐにスライム達と森にでも籠って暮らそうと思っていた。
だが、あまりに自分を愛してくれる両親に悲しい想いをさせたくなくて、街に残った結果がこれだった。
隠蔽スキルに気付かないふりをしながら、廃棄物施設のスライムを成長させ、念話《高レベルスライム限定》を使えるようになったとき、スライムから解決策を提示された。
スライムが世界を席捲してしまう可能性のあるこの案に、流石の私も家族・友人の危険を感じ躊躇したが、隷属を使っても構わないというヒュージ(現在のグラトニー)の言葉を信じた。
その時、隷属から契約用のスキルが派生し、<お互いに相手を想いやる>というペナルティなしの契約の元、多くのスライム達が協力してくれている。
ヒュージの提案は、スライムが人間の体内に入って、生活魔法スキルを改変するというものだった。
私はそこに手を加え、最早、人間がスライムなしで生きられないような機能まで追加した。当時はまだパラサイトスライムは存在していなかったし、これはスライムに操られたわけではない、100%私のスライム愛ゆえの所業だ。
いつか教会あるいは人間がスライムと敵対したとき、彼らを守るすべが欲しかったのだ。
どうやら愛しい人に刃物を向けるような私の激しい本質だけは、この世界でも変わっていなかったらしい。
今や国の大部分にスライムは行き届き、教会より仕組まれた隠蔽スキルはほとんど〈偽装〉スキルになっている。
教会と住民との表立ったトラブルはないため、今は静観しているが、スライムの監視による情報収集は逐次行っている。
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あれから50年程が過ぎた。優しかった両親は、天寿を全うし、静かに逝った。スライムの機能は日々改良しているが、まだ寿命には勝てなかった。
両親が死んだことを期に、私はグラトニーと共に地中深くに引きこもることにした。セントラルの集める情報量が多くなったことで、脳に負荷がかかり、日中起きていることが負担になってきたからだ。
私が眠ったことで、スライムは拡大路線を止め、王国の中だけに自分たちの存在を留めるようになった。私に余計な危険が及ぶのを避けたかったかからのようだ――私のスライム優しい。
スライムからの情報によると、教会上層部はあるとき、権力欲に囚われ暴走、強硬策に出た。これまでの暗躍に飽き足らず、表舞台での権力を欲したようだ。国王を脅迫し、王権を奪おうと試みたらしい。
ただ、脅迫に屈しなかった国王が、生活魔法が問題なく行使できることを実証したことで、その試みは失敗に終わったそうだ。国により教会の生活魔法付与の術式は見直されたようが、なぜ、教会に敵対しても魔法が行使できるのかは解明できなかったようだ――私のスライムすごい。
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更に500年が過ぎた。
スライムにより著しく寿命の伸びた国民の肉体は、大きく変化していた。筋繊維の密度があがったことで、筋肉の太さが不要になったこと、代謝が上がったことと老廃物をスライムが定期的に除去してくれることで、スリムな体形になった。
感覚器官の強化に対応して、特に耳の構造が変わり、少し長く大きくなった。また体表面をスライムが保護してくれることで、太陽光への対応が必要なくなり、メラニン色素が減少、白髪、赤眼、白色の肌となった。
彼らはアルビノの特徴と類似する自分たちの姿を<アールブ>と名付け、他国民より高位の存在であると定義づけた。
私は相変わらず眠ったままだ。もう地球のころの記憶は薄れてほとんど残っていないが、何故かあの情けなくも優しい神の困ったような表情を、最近よく夢に見る。
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《異世界転生におけるクレーム検討会》
『毎度のことだ。もう前置きはよかろう?』
「(・・・)」
『今回は、スライムとスライムに寄生された人間に新たな種族進化を促したらしいな』
「(・・・いや、微細なスライム増殖させて人間に寄生させるとか想像できないです・・・)」
『教会にも問題があったようだが、信仰の薄れた民が生き続けるというのは、信仰対象としてはどういう気分なんだろうな?
その上、進化した人間は、自分たちを高位存在<アールブ>であると定義して、一部の人間の信仰を集めているようだ。
亜神とまではいかないが、半精霊くらいの存在にはなることが容易に想像できる。』
『いつも言っているが、クライアントの存在が危ぶまれる行動は慎んでくれ。それとも破壊神にでも転職したいのか?』
「(・・・いえ、もう神自体辞めたいくらいです)」
『とりあえず被害は一国に収まっている。今回も厳重注意で済ませるが、あまり続くようなら超位神への報告もありえることを理解しておくように。――以上』
「(・・・いっそ素直に首にして欲しい。超位神になんて報告したら、面倒がって銀河系ごと消滅させられる未来しか見えない・・・)」
スライム愛 ー終わりー
スライムにも細胞培養にもちょっと思い入れがあって、だらだらと書いてしまいました。




