貴公子はひねくれる その2
少年と少女が出会い、新たな物語が始まる。
愛情じゃなくても友情が生まれたりする、青春の輝き。
いいよね。感動するよね!
そんな話が好きだけど。
「ホントに怖かったんですよ?」
「はい、申し訳ありませんでしたわ…」
私とグレアム様との出会いって、ストーカーに怯えた少年と誤解を生んだ少女では、どうしたって、爽やかな青春物語は始まりそうに無いのさ…。
どのような事かと言うとね、扉の前で言われた言葉に顔を引きつらせてたら。
「その顔、僕が嘘を付いてると言いたいのでしょう?」
「いえ…その…少しだけ、こちらを察しておられたのでは…?と、そうは思っておりますわね…」
先に言われてしまうと、思っていても嘘だと強く言えなくなるじゃない。
悔しいけど、ちょっと遠まわしでも知ってたよね?と言ってみた。
でも、そんな事分かってるよ、なんて感じで説明されたんだけどね。
グレアム(仮)様…名乗られてないので仮って事で…いわく余りの美少年ぶりに見知らぬ他人から、後を付けられたりする事がよくあるそうな。
よく…。
そんな気軽に言う事かな。
まぁ~たしかに、これは危ないかぁ。
真正面から見たら納得してしまうくらい、レオン殿下とはまた違った美少年様だわ。
レオン殿下が人を照らす快活な太陽とするなら、グレアム(仮)様は月。
感嘆のため息が自然に出てしまうような、美しい月。
芸術作品みたいに、ホントに綺麗。
レオン殿下も綺麗なんだけど、子供なのに儚げな綺麗さなのよ。
色気?みたいな、とにかく瞬き1つ仕草1つが、憂いを帯びてる美しさ。
お父様のエリック様も麗人だけど、小さい頃から接している所為か、身近なおじ様と思えるのよね。最初は余りに美人過ぎて緊張してたけど、今は変な言い方をすると、きちんと人の感情を持っている方だって思えるの。
でも目の前のグレアム様(もう面倒なので確定)は、綺麗なお人形と言うか、人間味が薄い感じがするから、目を離したら居なくなりそう。
とにかくそんな美少年が、取っている対策方法は“釣り”。
うん、何言ってるのか分からないよね?
1)余りに美しいグレアム様に引き寄せられてきた人をまず観察します。
2)その際、一時的に惑わされた人か判断する為、相手の行動を見ます。
例…後ろをずっと付いてくるか。行き先に待ち伏せているかなど。
3)それを何度か繰り返し、常習犯だと確定した場合、衛兵詰所でお話(強制参加)。
…。
少年よ、なにやってるの?
「危ないじゃないですか!」
「その為の身を守る魔道具も持ってますよ。侍従は腕に覚えがあるものを何時も付けています」
侍従さんが、すみませんね~て、感じで軽く挨拶して下さる。
あら、ご丁寧にどうも。
そうなんだ。茶色の髪の、人懐っこい感じの細い方なのに強いのか…。
「今日初めて城に来たので、さすがに緊張してしまって…」
「こちらの廊下で、初めてお見かけしたとは思っていたんですが、城自体へ来られたのが初めてだったのですね」
「はい、城の図書室には前から来たかったのですが、許可をもらえなくて。今回やっとです。それで楽しみに歩いて居たら、後ろから付いて来る足音が…」
チロッと、こちらを見る目が怯えてる?!
「う…そんなつもりでは…」
「えぇ、貴女はそんなつもりはなかったのでしょう。こちらも用心し過ぎてしまったんですね」
「そうですか。なら、あの不自然な…気付かなかったと言うお言葉は…」
「符丁です。あれで見張ってる者に、貴女は大丈夫だと伝えたんです」
「え?」
見張っている人って…侍従兼護衛さん?あ、違うって首振ってる。
廊下にそんな、護衛です。剣使いますって感じの人居ないよ?
侍女さんとか文官の方とか、ちらほら歩いてるだけで。
あれか、隠密ってヤツですか?そんな忍者みたいな人が実際に居るの?
凄いな!グレアム様、貴族って感じがするよ。
許されるなら廊下を見回して探したいけど、隠れてたら見つけられないかな。
「それとも、注意人物として観察対象になりたいですか?」
「いいえ!お心遣いに感謝いたします。こちらこそ失礼しましたわ。せっかくの登城日を台無しにしてしまって、申し訳ありません」
バレバレな嘘つくなよ~!なんて思って、ごめん!
まさかそんな意味ある言葉だとは思わなかったんだよ。
しかし冗談じゃないぞ。
頑張って外では猫を被ってるのに、他所のお家の忍者にバレたくない。
同じ公爵家だし、我が家にもそんな人達がいるのかなぁ。
ただ皆大柄な人ばっかりだから、目立って無理そうだけど。
「お詫びついでですが、ご挨拶させて下さいませ。私、クリスタル公爵家が一女、ローゼマリーと申します。お見知りおき下さい」
「始めまして。グレアム・アメジストです。クリスタル家のご令嬢のお名前は、父上から良く聞いてました。よろしく」
お互い挨拶しあったんだけど、くっ…負けた。
軽く頭を下げ胸に手を当てる男性のお辞儀、たったそれだけなのに凄く素敵。
それなりにカーテシー出来るようになったと自負してたけど、グレアム様は華があって可愛いけど素敵紳士なのよ。シリーも私もため息出ちゃったよ。
取りあえずお互い誤解も解けた事だし、図書室に入って「では…失礼しますわ」と、目礼して歩き出した。
最初は驚いたけど無事にご挨拶も出来たし、良い眼の保養したわ。
さすがのグレアム様、小さい時から麗しかったんだな。
まさかストーカー被害を被っているとは、考えもしなかったけど…。
将来エリック様の手伝いするだけあって、負けてない所が凄いよね。
会えて良かったな。
さて、目的の本を探しましょうかね。
今日は、こちらの世界で使われている、医療器具を調べようと思ってきたのさ。
主力はもちろん魔法だけど、包帯とかもあるし、魔法一辺倒で何も無いって事は無いだろうし。どんなものがどのように使われてるか知りたい。
点滴とか、マスクとか、手袋とかはあるのか。
外科手術をしているなら、どんな器具を使っているのか。
魔道具もあるから、想像も出来ない便利な道具もあるかも知れない。
無ければ作りたいって事になるのだろうけど…。
工業製品って、ホントにどうやって作ったら良いんですかね。
材料の確保も大変だし。
同一規格の物を作ろうと思ったら精密な機械が必要で、精密な部品を作るなら正確な機械が必要で…、卵が先か鶏が先かに見えるよ。
そもそもネジって、あるのかな。
ふむ…医療器具とかの本を見つけたら、旋盤とか道具、材料の本を探して見ますか。
司書の方を見つけて、ご挨拶して本の場所を聞く。
こちらには勉強で何回も来てるから、顔見知りになったんだよ。
活字中毒だから司書になるしかなかったとか、自分達で言って笑ってたんだけどね。本には魔法書もあるから、魔術師になれるくらいの魔法制御や耐性を持つ人達なんだけど、研究と言うか本が好きな人達なのよね。どれだけ本読んでるんですか?ってくらい、本を知ってる。だから本を探すには、司書さん達に聞けば良い。
「面白い本を探してますね。何冊か持って来ましょうか?」
「ありがとうございます。でも、正直申しまして、考えている事をどのような形で実現したら良いのか分からないのです」
「おや、何かまた新しい事を思いつかれたのですね」
「どうなのでしょう?もうすでに何か形になってるかも…。手当たり次第ではありませんが、何か参考になる本があるかも知れませんので、自分で探してみたいのです」
元は単なる営業事務員だからなぁ…。
本格的な医術に関しては素人が言うより、本職さんにこんなものは使えませんか?って提供する形になるだろうな。アドバイザーみたいな人が欲しいよね。裏づけを取ってくれる機関とかも欲しい。
教えてもらった場所まで行って、タイトルを見ながらあっち行き、こっち行き、本を引き出しては流して見てたんだけど…。
「…何か御用でしょうか、アメジスト公爵令息様?」
いつの間にかグレアム様が後ろを付いて来てた。
ウロウロしてもやっぱり付いて来るし、なんですかね。
何…じとーって見るのかな?美人の冷たい顔は怖いんだよ?
「…貴女は冷たい人ですね。1人でさっさと行ってしまって。僕はここを利用するのは初めてなのですよ?脅した詫びに手伝おうとか思いませんか?」
「それは…」
いや、手伝おうかとは思ったけどさ。
この膨大な本を納めている図書室で力になれるのは、司書さんだけだと思う訳よ?グレアム様も、すぐに司書さん捉まえて話してたから、大丈夫と思ったんですけどね。
「ホントに怖かったんですよ?」
「はい、申し訳ありませんでしたわ…」
えぇ、またそこから始めるの?
「貴女は申し訳ないと言ってましたよね」
「そうですわね…」
「口先だけですか?」
まるで面倒なヤツだと思ったのがバレたみたいに、怒涛の小言がその後しばらく続いた。
どれだけ精神的な苦痛だったか、誠意がないとか。
シリーも、従者さんまで半目なったんだよ。悪かったってば…。
図書館だから小さな声でなんだけど、怒鳴られるより心に利きました。
調べる前に疲れたよ…。
グレアム様って、こんなキャラだったなぁ?




