3 宦官試験(後)
(まずい。見抜かれた!?)
「顔の印象を変えて男に見せようとしているのでしょうけど、化粧で誤魔化せるにも限度というものがあるのですよ。骨格や目元の形、肌の質感まではそう簡単に変えられるものではありません。そもそも、あなたの歩き方、声の高さはもちろん肩幅や首筋にも違和感があります。」
「そして何より決定的なのは、その…体格の割に胸が隠しきれていませんよ…筋肉というには違和感があり過ぎます。」
…なるほど、詰めが甘かったかか。だけどこれ以上締め上げると流石に動けなくなってしまう。
流石に男に化けるのはきつかったか。
さてさて、これからどうなるのやら…詐欺罪で牢行きか、それとも処分されるのだろうか。流石に死ぬのは避けたいな。
ここは正直に謝ってみるか。見た目とは裏腹にもしかしたら寛大かもしれないし。
「…騙して、申し訳ありません。確かに、私は女です。」
「見れば分かります。なぜ、このようなことを?後宮内にいる宦官と逢い引きでもするおつもりですか?それとも誰かの暗殺でもするおつもりで?」
どうやらとんでもない誤解をされているらしい。私は純粋に仕事がしたかっただけなのに…いや、性別詐欺なのは間違い無いけど。
「違います!さっきも言ったように、早く自立したかったので仕事を探していました。いつまでも義母や義父に迷惑をかけたく無いと思い…」
「そんな時にちょうどいい募集をしていたので、つい。」
桃華がここに来た経緯いを説明すると、目の前の麗人は眉間にしわを寄せ全力で引いていた。
「…まさか、そんなことのために乗り込んできたんですか?外でも仕事ならたくさんあるでしょう。」
「確かに、花街なら仕事はたくさんあります。でも、安全ではありませんし安定もしてません。」
そもそも、桃華が自信を持って得意と言えるのは剣を振ることくらいだ。料理も軽いものなら作れるが、私よりも料理ができて器量がいい女は花街にはたくさんいる。
恐らくどこの厨房も私を雇ってはくれないだろう。
そんなこんなで、限られた選択肢の中から選んだ結果がこれだ…
「だからって、規則を破る理由にはならないでしょう。お前、もし鞭打ちにでもなっていたらどうするつもりだったんだ。」
「覚悟はして来たつもりです。…斬首でも鞭打ちでもお好きにしてください。」
覚悟して来たつもりだ。だが、どうやら相手の方が覚悟ができていなかったようだ。潔く頭を差し出すと、麗人は再び眉間にしわを寄せた。
そして…顎に手を当て何やら考え込んんでいる。
「…はぁ、罰はいい。今回だけは見逃してやる。」
…おお、案外どうにかなるものだな。正直に話してよかったと桃華は心から思い顔を大きく上げると、なぜか満面の笑みの綺麗な顔がこちらに向かって接近して来ている。
そして、桃華の前に来たところで止まった。止まったが…何やら人の顔をジロジロと見てくる。
なぜだろうか、何か嫌な予感がする。品定めでもされている気分だ。
もしかして売り飛ばされるのだろうか。段々とそんな気がしてきた。
「ただ、見逃してやる代わりにお前、いや桃花だったな。桃花、あなたにはこの後宮で働いてもらいます。」
…っは?どういうことだろうか。いや、こちらとしてはありがたい話なのだがさっきまでの話の流的におかしくはないか?普通追い出されるパターンじゃないのか?
というか今男装では入れないって話をしたばかりじゃないか。
「勿論、宦官としてではなく侍女として堂々と入ってもらいます。勿論、あなたに拒否権はありません。」
侍女…
私が侍女か。
「あの、私にできることでしょうか?」
「ああ、侍女と言っても普通の侍女じゃないですよ。桃華、あなたには瑶華妃の護衛をしてもらいます。先ほど剣の腕を見せてもらいましたが中々のものでしたよ。」
…努力した事に対して褒められるのは素直に嬉しい。この状況じゃなかったらもっといいのだが…
「あの、自分で言うのもなんですがなぜ私なんですか?正直、私なんかよりも信用できる宦官が後宮にはたくさん居ますよね?」
後宮に性別を偽ってきて入った私なんかを信用してもいいんだろうか。
「あなただから選んだのですよ。誰に肩入れをしているか分からない宦官よりも外から来たあなたのほうがマシと考えたまでです。」
「それに個人的にも…」
なんだろう、いきなり顔色が悪くなったような気がする。
体調でも悪いのだろうか?
「個人的にも、何ですか?」
「ああ、いえ何でもありません。すみません考え事をしていました。」
桃華が聴き直すと悪かった顔色が一瞬で元の顔に戻った。
…さっきからよく表情が変わる人だ。まるで狐みたいだな。
「話を戻しましょう。桃華、あなたには明日から後宮入りをしてもらおうと考えています。ですがその前にお仕えする妃である瑶華妃について簡単に説明しておきましょう。」
「瑶華妃は、そうですね簡単に言えば今一番帝から寵愛を受けている妃です。」
「それゆえに他の妃からはあまりいい目で見られてなく、妖妃とも呼ばれています。」
妖妃か、いかにも悪女らしいあだ名だ。女の嫉妬は怖い。
「そして、その瑶華妃は少し前から嫌がらせを受けておりました。まあ、本人は色んな意味で強いお方なので気にされていませんでしたが…ですが最近、何者かが物理的な手段をとるようになってきました。つい先日も石が投げ込まれたり毒蛇が何匹も瑶華妃の寝室から出てきたという報告を受けて大変だったんですよ。」
寝室から毒蛇って、とんでもないことする奴もいるもんだ。もし噛まれたりしてたら妃一人死んでたぞ。
これは結構やばめの仕事だろうか、下手したら私ごと殺されるなんて事もあり得そうだ。
「…とそんな感じです。」
「どうです、結構面倒な事になっているでしょう?」
そう言うと、目の前の男は意地が悪そうな笑みを顔に貼り付けていた。
うわぁ…
てかこの男、しれっと妃の問題をめんどくさいとか言ったぞ。皇帝にでも聞かれたら打首ものだ。よくこれで今までやって来れたなあ。
桃華は呆れを通り越して感心している。
「…いえ、そんなことありません。」
「そうか、それはよかった。では明日から任せたよ。」
しまった、こいつ私が逃げられないように会話を誘導してやがったな。どっちにしろ逃げられなかっただろうけど。
「…分かりました。」
桃華の返事を聞いた子珏は満足げに部屋を出ていった。
さて、これからどうなるのやら…




