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ああ、薔薇の花よ。おまえはなんと美しいのだ。
その滑らかな肌に棘を持ち、見る者を釘付けにする。
「美しい……」
「今度は薔薇の花を口説いていらっしゃるのですか?」
「リリーさん」
我が愛しのエンジェル。
「あなたはこの薔薇の花よりも美しい」
「おなじセリフを他に何人の女性に言ってらっしゃるのですの?」
いい。その棘っぷりがたまらない。
「この花をあなたに」
一輪の華美な薔薇の花の棘を魔法で取り除いてリリーさんへと差し出すと、ほんのり頬が赤くなるのがわかります。
なんて純粋なのでしょう。そこがまたたまらなく愛おしい。
「ありがとうございます」
少しだけ口を尖らせてお礼を言うそのお姿も愛おしい。
「そうだ。リリーさんにはまだ、僕がどうしてこのお城で働くようになったのか話しておりませんでしたよね?」
「ええ。でも、このお城で生まれたのではなくて?」
「まったく違うのです。聞きますか?」
「やめておきます」
「なぜ?」
「長くなりそうですから。それに、シャノン様をこれ以上お待たせするわけにはいきませんもの」
そうでした。彼女は第一王女シャノン様付きの侍女長でした。
しかたなく簡単にあいさつをすませますと、リリーさんの後ろ姿を見送ります。
するとあれですね。僕は薔薇の花を相手に昔語りをしなければならないということになりますが……。
おや? そこにいらっしゃるのは王妃様付きの侍女長ケリーさんでは?
……ケリーさんは僕がここに連れて来られた当初のことをよく知っているお方ですので、あえて話すのもどうかと。
いや、でもそれだと話が前に進みませんね。これではいけません。
とにかく誰か聞き役になってもらわなければなりません。
どなたかいらっしゃらないかな?
「おい、ジェインじゃねぇか」
「これはこれは兄様」
僕は衛兵の兄様と慕われている男に返事をします。
「最近どうも湿気てていけねぇ。なにかおもしろいことしてくれよ? 道化師だろ?」
「およばずながら。俺様、イカサマ、ジェイン様。呼ばれてないのにジャジャジャジャーン!!」
「それはただの口上だよな。他には?」
「わたくしの過去などお話なさってもかまわないでしょうか?」
「はん、おめぇの過去? 聞いて楽しいもんか?」
違うだろ、とでも言いたげな圧力を感じます。
「では、なにか他に兄様の興味がありそうなものを教えてください」
「そうだな」
兄様は少し考えてから、魔法とお答えになりました。
なるほど。魔法なら少しは得意ですよ。
つづく




