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黒歴史バトル 〜お前なかなかの中二病患者だな〜  作者: 平ミノル


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第9話 晴子トリガー発動


昼休み。


カイは桃瀬から呼び出しを受けて、屋上へ行った。


そこには、桃瀬の他にベルゼもいた。他には誰もいない。


「桃瀬……昼休みに一体何の用だよ」


「は?」


桃瀬は呆れたような顔をしてカイを見つめた。


「あんたね、後で戦う相手が隣に座ってんのに、よく平気でいられるわね」


「あー」


カイは頷いた。


「なあベルゼ……本当にあの子で合ってるのか? ちょっとドジなこと以外は、普通の女の子にしか見えないんだが……」


すると、桃瀬が汚いものでも見るようにカイを見た。


「あんたね、あいつは敵なのよ? まんまと隣の席までゲットして……腹の中じゃどんな策略を練っているかわかったもんじゃないわよ」


するとカイは桃瀬を制止した。


「まあ待て。一度、あの子の話も聞いてみないか? なんか事情がありそうな感じだぜ」


すると、桃瀬は驚いた顔をする。


「あんた、ちょっと転んだフリして抱きつかれたからって、まさか惚れたなんて言うんじゃないでしょうね?」


するとカイは顔を真っ赤にして否定した。


「ば、馬鹿なこと言うんじゃない! 俺はただ、彼女が安倍晴明の子孫で……強烈な霊媒体質だっていうから、生きにくいと思っただけだ」


カイがそう言った時、屋上へ新たな人影が現れた。


「皆様のおっしゃる通りでございます……」


その声に振り返ると、屋上へ晴子が現れたのだ。


晴子はこちらをジッと見つめると、静かに語り始めた。


「確かに私は、安倍家のネットワークを駆使して、この学校へ無理矢理転校してきました」


それを聞いた桃瀬は腕を組んで晴子を見た。カイも晴子のことをジッと見つめる。


「でも、誓って皆様のことを害しようとか、罠にはめようとか、思っておりませんです……はい」


カイは小さく息を吐いた。


「晴子さん……何か事情があるなら話してくれ」


すると晴子は顔あげてカイを見つめた。


「……カイさんにはお話しましたが、私は過敏なほどの霊媒体質らしくて……すぐにその辺の地縛霊などに体を乗っ取られたりするんです……はあ……」


「えっ?じゃあ、あんた……これまで奇行って言われてる行動って……」


桃瀬が問いかけると、晴子は俯きながら頷く。


「全部、地縛霊の仕業なんです」


すると桃瀬は唸った。


「それで……転校までして来て……カイに何を頼もうとしたの?」


すると晴子は申し訳なさそうに上目遣いでみんなを見た。


「あのう……それなんですけどね……本当に申し訳ないのですが……今晩の試合……なんとか負けてもらえないでしょうか!?」


すると、それを聞いた桃瀬が眉を吊り上げて怒鳴った。


「ほら!やっぱり正体を現したわね!」


「わわわ……もちろん無理にとは言ってません!……それに、お礼はたんまりとさせて頂きますぅ!」


カイはそれを聞いて、肩をすくめた。


「そんなにお礼まで用意して……一体何を手に入れるつもりなんだ?」


すると晴子は小さく頷いた。


「はい……実はこの霊媒体質にはひとつ大きな原因が、ありまして……」


「原因?」


晴子は頷く。


「私の背後霊に……どうやら安倍晴明がいるらしいんです」


「えええっ!」


「もしかして……それが霊を呼んでいるってのか?」


「そ、そうなのですよぅ……」


晴子は話を続ける。


「私はこの試合に勝って……ご先祖様をこの身から引き剥がしたいのですよぅ」


すると桃瀬が驚いて声を上げた。


「引き剥がすって? せっかくあの有名な陰陽師を背後霊として持ちながら?」


晴子は頷く。


「私は普通の暮らしがしたいのですよぅ。地縛霊に体を奪われて……奇行を繰り返す毎日なんか……もう耐えられません!」


そういうと、晴子は涙を浮かべながら、一歩、前へ踏み出した。


その時である。わずかな段差に足を取られた晴子は、そのまま前へ倒れ込んだのだ。


「あっ!」


よろけた晴子。それを見たカイは反射的に動いた。


「あ、晴子さん、危ないっ!」


「きゃああっ!」


ポヨン。


気がつけば、晴子はカイの腕に抱かれていた。それを見た桃瀬は大声を上げた。


「ああーーっ!」


桃瀬の大声に驚いた晴子は、慌ててカイから飛び退いた。


「あんたねー! よくもそんな色仕掛けでカイを!」


「わわわ……ち、違うんです! わざとじゃないんです!」


「どうだか!」


二人が言い争っているのを見たカイは間に入って宥めた。


「二人ともケンカはやめるんだ……お互い仲良くしよう……な?」


桃瀬は目を細めてカイを見た。カイは桃瀬を見つめ返す。


「桃瀬……いきなり敵だと決めつけてかからないで、お互いがWIN WINとなるような方法を模索しようじゃないか」


すると桃瀬は数歩下がってカイを睨んだ。


「恋愛すると男は馬鹿になるって言うけど……」


「な、何を言ってる! 俺は下心があって言ってるわけじゃないぞ! おれはたた……」


カイがそこまで言った時、桃瀬は手のひらを向けて制止した。


「鼻血……出てるよ」


屋上に沈黙が落ちた。



「赤コーナー! 99パウンド! 黒歴史のオンラインショップぅ! あーベーーせーーいーーこーー!!」


「対するは……青コーナー! 黒歴史のマリアナ海峡ぅ! くろせーーかーーーいーーー!!」


俺は大声でセコンドに抗議した。


「海より深く掘り下げてねーよ!」


その様子を見ていた桃瀬が、ベルゼ課長に聞いた。


「ねえ、ベルゼ。結局あの二人……どんな話になったの?」


するとベルゼ課長は唸った。


「……晴子の提案はこうです。自分の中の安倍晴明が目覚めると、おそらくカイを半殺しにしてしまうから、その前にうまいことやって倒されて欲しいってことらしいです」


それを聞いた桃瀬は首を傾げた。


「はあ?どっちせよ勝つのは私だから、怪我する前に降参しろってーの?」


ベルゼは頷く。


「まあ、彼女が言うことにも一理ありましてね……。過去の対戦を見ると、試合開始直後は逃げ回っていた彼女も、安倍晴明が憑依して彼女の体を支配してからはもう、一方的にボコされる感じでしてね」


「カイの命が危ないのね?……で、カイは引き受けたの?」


「ええ……ですが、話はそう簡単にいかないような気がします……ほら」


ベルゼがモニターを指差す。


そこには、晴子の黒歴史が放映されていて、コーナーポストに設置されている晴子の端末には、恐ろしい額の投げ銭が、次々と入っていくのだ。


「この投げ銭の量……!」


驚く桃瀬に、ベルゼは頷く。


「彼女への投げ銭は、羞恥の悪魔だけではありません。悲嘆の悪魔、怒りの悪魔など……様々な負の感情を司る悪魔たちから投げ銭が入っているのです」


それを見た桃瀬は絶句した。


「どうするの?こんな金額の投げ銭なら、昨日のカイとは比べ物にならない魔力が手に入るわ」


「ええ……恥ずかしいだけじゃすまない様々な負の感情を抱える彼女は、このバトルではまさに無敵というべき力を持っているのです」


「……さらにこの上から安倍晴明の力が加算されるんでしょう? こんなの勝てっこないじゃない」


ベルゼは頷く。


「ええ。桃瀬さんのご想像のとおりです。もう手がつけられない……。だから私も、

彼女の提案を受け入れるよう助言したわけです」


桃瀬は無言でリングへ視線を戻した。


その時リングの上では、晴子が小動物のようにテテテ……ッと走っていた。


「ええいっ!」


晴子がパンチを飛ばすと、カイの腹あたりにペシっと音を立てて当たった。


その威力のなさ。


カイは困惑した。


「えいえいっ!」


「うおっ、ああ!」


もし、カイが世紀の大俳優だったとしても、これで負ける演技は無理だろう。


「えいえい!」


晴子は殴り続けるが、カイはもう、これ以上八百長は出来ないと苦し気な顔をした。


「ちょ、ちょっと晴子さん……」


カイは小声で話しかけようと晴子に近付いて、彼女の両肩を掴んで抱き寄せた。


「わわわ……な、な、なんで抱きついてるんですかっ!」


「シッ! ちょっと話を聞いて!」


だが、晴子は顔を真っ赤にして目を回す。


「わわわ……私……男性に対して抵抗力がないので……!」


それを聞いたカイの顔も赤くなった。異性に対して抵抗力がないのは、カイも同じである。


「ゴメン!ちょっとだけ我慢して!……ねえ晴子ちゃん……手加減しないでもっと強く殴ってくれなきゃ……あれじゃ、殴られた演技が出来ないよ」


カイがそう言った瞬間、晴子の空気が変わった。


二人の周囲が一気に寒くなって、晴子のナヨナヨした背筋が一気にビシッと伸びた。


「せ、せいこちゃん?」


すると彼女はギロリと刺すような視線でカイを見た。そして、白い歯をキラリと見せる。


「そうか……力が足りなかったか……」


晴子がフフフと不気味に笑った。


「じゃあ、もっと強く殴ればいいんだな?」


「ああ……そうそう、もっと強くね……んん?」


ふと晴子を見ると、異様な霊気に溢れている。カイの背中に冷や汗が流れた。


「もしかして、晴明さん?」


すると晴子の体から、晴明の持つ猛烈な霊気が溢れ出して来た。


「あーっ! 前言撤回! 優しく! 優しくして!」


カイは両手を振りながらコーナーポストまで飛び下がった。


すると晴子はジリジリとカイの方へと歩み寄って来る。


「優しくか? じゃあこのくらいでどうだ!」


晴子のパンチがカイに飛んだ。


カイは本能的にそれを避けたが、その拳の衝撃でコーナーポストがぐにゃりと曲がった。


「えええ!」


それを見たカイは青ざめた。


「あーっ! 前言撤回! 殴らないで! 殴らないでっ!」


逃げ回るカイを見た桃瀬は大声を上げた。


「カイ! 晴子に抱きついちゃ駄目だったのよ!」


「なんだって!」


「晴子は男性に触れられ、身の危険を感じた時! 安倍晴明が彼女に憑依する!……抱きつきはトリガーだったのよ!」


それを聞いたカイは青ざめた。


そして、恐る恐る晴子へ目を向けると、怪異と化した彼女がじりじりと迫っている。


「俺は、これからこいつにボコされるしかないって言うのか!」





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