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黒歴史バトル 〜お前なかなかの中二病患者だな〜  作者: 平ミノル


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第10話 虚空断裂斬・改 リターン


晴子の体に憑依した安倍晴明は、怒りで顔を真っ赤に染めていた。


「……晴明さん! 落ち着いて!」


「これが落ち着いていられるか! 男慣れしていない娘に触れおって」


「娘ってなんですか! あんたの子孫でしょ?」


「ワシの娘の魂が転生して、晴子となって生まれ変わったのじゃ!」


「そんなの初耳だぞ!」


すると晴子の体から、猛烈な霊気が溢れ出した。瞳の色が変わり、声も低く変貌する。晴明の意識に支配された晴子は、静かに両手を広げた。そして、人型の白い紙のようなものを飛ばすと、両手で素早く印を結んだ。


「急急如律令! 式神召喚っ!」


するとその声に応じるように、リングの四隅から、巫女の姿をした白狐少女が十体現れた。その白狐たちは白いふわふわの尻尾をたなびかせ、鋭い爪を輝かせながら、一瞬にしてカイを取り囲んだ。


「うわあ! なんで巫女姿なんだ!」


(こんな可愛ええのに攻撃なんかできねえ!)


カイは心の中で萌えていた。


「 フフフ、それは私の趣味だとだけ言っておこう。なあカイ……10体で足りるかね? 行け! 黒瀬カイを切り裂いてしまえ!」


十体の白狐娘が一斉にカイへ向かって走り出した。


「ク、クリエイト・ゴーレム!」


カイは魔力を振り絞って土人形を召喚した。巨大な10体のゴーレムが、白狐の群れに立ちふさがる。だが次の瞬間、白狐たちはその半数のゴーレムを粉砕した。


「うおお、えらく魔力を持っていかれた!」


カイは膝をつきながら荒い息を吐いた。


(まずい……このままじゃジリ貧だ)


残りのゴーレムが倒される前に、何か対策を考えなければ負けてしまう。カイは唇を噛んだ。


「ベルゼ!」


カイが叫ぶと、ベルゼ課長がコーナーポストまで飛び出してきた。


「どうしましたかカ、カ……」


「カラノスメラだ! 今はそれより……俺のノートを持っているか!」


「え? あなたのノートは厳重に鍵のかかった引き出しにしまわれているのでは?」


「原本じゃねえ……コピーを持ってんだろ?」


ベルゼ課長はもじもじと視線を泳がせた。


「ええ、まあ……コピーなら」


「持ってんのか! まあいい、貸せ!」


カイはベルゼからノートをひったくると、猛スピードで読み始めた。


「何かないのか……突破口は……」


カイはしばらくの間、ノートを熟読した。


ページを読み進めるごとに、ダメージが入る。だが、その負の感情は、わずかながら投げ銭へと繋がった。


「あったぞ」


ページをめくる手が止まった。そのページには広域魔法と書かれていた。


カイは目を細めてページを読む。そこには中学二年の自分が震える字で書き記した技の説明があった。


「読むだけでも憤死に値するが、今はそんなことを言ってる場合じゃない!」


カイは立ち上がり、大きく息を吸った。


「暗黒解放・魔弾十連射ッ!!」


カイの両手から、暗黒の魔力が弾丸となって放たれた。十発の魔弾が白狐たちを次々に吹き飛ばす。すると、白狐娘たちは破れた白い紙切れへとなってリングに落ちた。


「ぐっ……」


晴明が苦しそうに呻いた。


「俺の攻撃が効いたのか!」


カイが嬉しそうに笑うと、桃瀬の声が飛んだ。


「カイ! 気を付けなさい! 晴明にあなたの攻撃が通じたわけじゃないのよ!」


「なんだって?」


「よく見て……。晴子が……晴子が自分の体を取り戻そうとしてるのよ!」


「晴子が?」


カイは晴明……つまり晴子の様子を観察した。すると、晴子の意識が、晴明の支配をわずかに押し返し始めたのか、身動きが取れなくなってきている。


「うおお……邪魔するな晴子……!」


(……カイさんを……傷つけたくない)


晴子の心が、内側から叫んでいた。


晴明はそれを感じ取り、舌打ちをした。


「晴子……お前、何を考えておる」


(私……カイさんのことが……好きなの)


「何!」


晴明の霊気が激しく揺れた。


「あんな黒歴史まみれの男に、お前を嫁にやることはできん!」


すると晴子はグハッと血を吐いた。


(お父様……それ、おまゆうって奴よ……! )


「お、おまゆう?」


カイはリングの端でそのやり取りを呆然と聞いていた。


「おい! 俺のいない所で、なんか話が進んでるぞ!」


ベルゼ課長がカイの耳元で囁いた。


「いかん、逃げろカイ!」


次の瞬間、晴明の体が光り輝いた。


「晴子……しばらくの間、黙っておれ……ワシがあやつの息の根を止めるまで!」


すると晴明に憑依された晴子は、手早く印を結んだ。


「急急如律令! 葛の葉・狐火ッ!」


巨大な狐火がリングを包み込む。


「霊符百裂ッ!」


符が雨のように降り注ぎ、カイは転がりながらそれを避ける。


「ひいい!」


リングサイドでその様子を見ていた桃瀬は、大声を上げた。


「カイ! 逃げてばかりじゃどうしようもないわよ!」


カイは息を切らしながら桃瀬を見た。


「じゃあ、一体どうすればいいんだ!」


「虚空断裂斬・改を放ちなさいよ!」


「それで何をどうするんだ!」


「はぁ? あなた馬鹿なの? その技はどんな物理的に不可能なものでも切断できるんでしょ?」


桃瀬は真剣な目でカイを見た。


「晴子と晴明の……霊的なつながりを断つのよ!」


カイは息を呑んだ。


(そうか……その手があったか)


だが、問題があった。


虚空断裂斬・改を放つには、十分な羞恥心……つまり、投げ銭が必要だ。今の残高では到底足りない。


カイは、最後の黒歴史を公開するしかなかった。


「ベルゼ! 俺の黒歴史はまだ残っているか!」


するとベルゼは嬉しそうに声を上げた。


「へい、とっておきのが残ってますよ」


「投げ銭が足りねえ……ありったけの黒歴史を公開してくれ!」


「りょ……」


すると、正面のメインモニターに昨日の様子が映し出された。




桃瀬:「まあ、カイ君だから言っちゃうけど、私の彼氏なの」


カイ:「えっ?」


桃瀬:「えっ?」


ナレーション:「まだ淡い、生まれたての恋心だったが、カイは貴重なエリクサーを捧げてまで恋を掴み取ろうとした。だが、その頑張りは空振りに終わった。このことで深い傷を負ったカイだったが、彼はこう自分に言いきかせた(大丈夫。好きバレはしていない)」


それを聞いたカイは血を吐いて倒れた。


そしてシーンは晴子の転校してきた時に変わった。晴子はパタパタと歩いてくる。


ナレーション:「この時カイは、晴子のことを可愛いと思っていた。そして(この子が次の対戦相手か……目もクリッとしていて可愛いじゃないか……)と考えていた。その時晴子がつまずいて転ぶと、カイはここぞとばかりに晴子に抱き着いたのだ」


すると今度は桃瀬が鼻をフンと鳴らした。


「最低!」


カイはそれを聞いて「違う!」と叫んだ。



映し出された映像を見て、カイはショックを受けていた。


それは、桃瀬にひっそりと恋をして、ひっそりとフラれ、すぐに晴子へ恋心を抱いた……あの情けない黒歴史だった。しかも本人の前で放映である。カイの恥ずかしさはMAXにまで跳ね上がった。


ふと振り返ると、桃瀬が顔を真っ赤にしている。


「うおお……誰か俺を殺してくれ!」


カイは黒歴史ノートをビリビリに破り捨てた。


大画面モニターには、引き続きカイの恋愛黒歴史が時系列で流れ始めた。わかりにくい恋愛だったり、ストーカー一歩手前の恋愛だったり……彼の暗黒の恋愛史が、一かけらのボカシもなく公開されたのだ。


会場の悪魔たちがどよめく。


その瞬間、大量の投げ銭が入った。


同情の悪魔。悲しみの悪魔。そして……憤死の悪魔など、こぞって銭を投げ込んだのだ。


桃瀬がリングのコーナーポストにあるパネルに目をやると、なんと投げ銭の数値が爆上がりしているのだ。


「今よ、早くあの技を!」


桃瀬の声が飛ぶ。


カイは耳の裏まで真っ赤にさせながら、大きく股を開いて半身になった。


「よくも俺のプライドを崩壊させてくれたな!」


カイは両腕を左右に開いた。そして、激しく腕を交差させる!


「俺の左手に宿りし黒炎の……虚空に眠る断絶の刃よ……我が意志に従い、その理を――」


そして激しく左手を前へ伸ばした。


「――改変せよ! 虚空断裂斬・改ッ!!」


凄まじい閃光が、晴子へと向かった。


だがその刃は晴子の体ではなく……晴子と晴明をつなぐ、目に見えない霊的な糸を、正確に切り断つ。


「あっ!」


晴明の霊気が、晴子の体から弾き飛ばされた。


「おおおーっ!」


観客席の悪魔たちが沸いた。


「黒瀬カイ! 娘はお前にはやらんぞーっ!」


晴明の叫び声が会場に響き渡った。


そしてリングに、安倍晴子が静かに倒れた。



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