エピローグ
「晴子!」
リング中央で倒れている晴子を、カイが抱きかかえた。すると晴子はゆっくりと目を開けた。
「良かった……目の輝きが元の晴子に戻ってる」
すると晴子は、それに気付いたかのように自分の頬へ触れた。
「あ……本当だわ……霊が寄ってこない」
晴子は不思議そうに辺りを見回した。
「晴子…‥お前は自由になったんだ。望み通りにね。安倍晴明との霊的なつながりは断たれた」
それを聞いた晴子は、驚いた顔をしながらカイを見た。
「どうして……あなたが、つながりを断ってくれたの?」
カイは頭を掻きながら、横を向いた。
「まあ……結果としてそうなっただけだがな」
晴子の目に、涙が溢れた。
「ああ……うれしい」
晴子はカイに抱きついた。
カイの顔が一瞬で真っ赤になる。
レフェリーがカイの右腕を高く掲げた。
「勝者……黒瀬カイ!」
その瞬間、観客席からブーイングの嵐が巻き起こった。
リング中央でアツアツの二人に向かって、罵声が浴びせられた。
「物を投げないでください! 物を投げないで! あ! 物じゃないものなら投げていいってもんじゃないぞ! おい! 物を投げるな!」
その騒動は、しばらく収まらなかった。
◆
「なんで俺の借金がまだ残ってるんだよ!」
試合後の控室で、カイはベルゼ課長に詰め寄った。
するとベルゼ課長は困ったように笑った。
「だってお前……最後にラブラブで終わるんだもん。悪魔たちは負の感情で生きているって言っただろう。そんな終わり方して……誰が投げ銭を送るってんだ」
「嫉妬の悪魔とか……俺の行動に賛同するやつはいなかったのか!」
「いたにはいたけど、ごく少数さ。何の足しにもならんよ」
カイはため息をついた。
その時、控室の扉が開いた。
「あの……」
入ってきたのは安倍晴明だった。半透明の姿で、腕を組みながらカイを見下ろしている。カイはその姿をチラリと見ると、フイッと横を向いた。
すると晴明が腰に手を当てて抗議してきた。
「なんてことしてくれたんだ……晴子とのつながりを斬っちゃ困るだろ」
それを聞いたカイは、思わずムキになって言い返した。
「何言ってるんだ。そのせいで晴子がどれだけ苦しんでいたか知ってるのか」
「それもこれも……娘を立派な陰陽師に育てようと思ってのことだったのだが」
「それが、大きなお世話だっていってんだよ。それに、おまえと晴子のつながりを斬ったはずだ。どうしてお前がここにいるんだ」
「いや、お前がワシと晴子の繋がりを斬ったから、しかたなくワシはお前に憑りついているわけだが」
「憑りつくな!」
カイがそう言うと、虚空断裂斬の構えを取ろうとした。
「いや待て、斬るな、斬るな!」
晴明は慌てて両手を振った。
「……お前と晴子の婚約を認めてやるから!」
「それはお前の問題じゃない、晴子ちゃんの問題だろ」
晴明はじっとカイを見つめると、やがて小さく息を吐いた。
「そのとおりだカイ……。だが晴子はお前に救われたのだ。お前のことが好きに決まっておるだろう?」
その時、控室の扉がまた開いて、晴子が現れた。そして、ゆっくりとカイの元へと歩いて来る。
「カイさん……」
晴子はチラリと晴明を見た。
「お父さん……まだ成仏してなかったの?」
「ぐはあ!」
晴明が血を吐いた。それを見た晴子は笑った。
「もう、変なことしないでね。今度憑依したら……本当に成仏してもらうから」
すると晴明は、解った、解ったと言って頷いていた。
「それからカイ君……」
今回は私を救ってくれてありがとう……」
「晴子ちゃん……」
二人は見つめ合った。
「私ね……カイ君のことが……」
「せ、せ、晴子……」
その時、ベルゼ課長が二人の間に割り込んだ。
「ちょっと待った!」
「べ、ベルゼ?」
「カイ! 女にうつつを抜かすのはまだ早いぞ! 借金の件はまだ解決していないんだ! お前に貸している投げ銭だが……日本円に換算して二千万円もあるんだぞ」
それを聞いた俺は、顔を青ざめさせた。
「に……二千万? そんなの払えるわけねえ!」
だがベルゼは首を横に振った。
「駄目だ。そんなんじゃ、晴子との交際は認めないぞ」
「ベルゼ! 貴様にそんな権利があるか! 晴明!こいつを焼き払ってくれ!」
「おう、わかったぞ婿殿!」
「やめろっ、やめろ!」
晴明の狐火がベルゼを追いかけ、ベルゼが控室を逃げ回る。
そんな騒動を、桃瀬はくすくすと笑いながら眺めていた。
「最強の黒歴史カップルの誕生ね。……お似合いだわ」
桃瀬はそういうと、寂しそうに笑った。
◆
それから一週間後。
カイの借金問題は、意外な形で解決した。
桃瀬ひかりが借金を肩代わりしたのである。
その資金源は、桃瀬が再度黒歴史バトルに参加して稼いできた。もちろん、優勝である。
ただ今回は、今度は魔法少女プリキララではなく、修羅場マン姿で参加していた。
その圧倒的な羞恥心と投げ銭により、桃瀬は二代目の優勝者となり、膨大な投げ銭を稼いだと言われている。
そしてその投げ銭が、そのままカイの借金返済に充てられたのだ。
「なんで俺の借金をお前が返すんだよ」
「うるさいわね。ちょっと早いけど結婚祝いよ」
桃瀬はそう言いながらウインクを一つ飛ばすと、ツインテールを揺らしながら去っていった。
なお、カイはその後、彼の背後霊と化した安倍晴明の霊による脅迫……もとい、懇願によって、安倍家から全面的なバックアップを受けることとなり、日々、除霊業務にいそしむこととなった。
もちろん、虚空断裂斬・改を使っての除霊だ。
晴子との関係は……婚約者として、清い交際がスタートした。もちろん、安倍晴明の監視がついている。今はこれでも構わないが、もし、新婚初夜に監視しようものなら、その時は間違いなくあの世へ送ってやろうと思っている。
そして、ベルゼ課長は今日も、カイの名前をど忘れしながら、時折、黒歴史バトルの勧誘に訪れてくる。だが、カイに参加の意志はない。もう、あんな命を削る戦いなんかに参加したくはなかった。
「カ、カ……」
「カラノスメラだ」
「カラノスメラ!」
黒歴史は、終わらない。
■END■




