第5話 仮面の下の涙
次の日、カイは学校で桃瀬を見た。
ツインテールの髪を揺らしながら、真面目に授業の準備をしている。
彼女は昨日とはうって変わって、クールで真面目な委員長キャラの仮面を被っていた。
「あいつ……プリキララ以上の、黒歴史を抱えているっていうのか……」
桃瀬の方をジッと見つめていると、彼女はそれに気付いてこちらを見た。
だが桃瀬は知らないふりをして、そのまま無言で立ち去っていく。
そんな桃瀬の距離を置いた態度に、カイは唇を尖らせた。
「おはよう……って声くらいかけてもいいだろ」
カイはなんだかモヤモヤしながら自分の席についた。
だがカイは、そんな桃瀬の態度も、無理もないことだと思っていた。
なにせカイと桃瀬は、今日の夕方、闘うことになるのだから。
「それにしても桃瀬のやつ……魔法なんか覚えてどうするつもりなんだ?」
そのことは、カイは不思議でならなかった。
だがよく考えてみると、自分自身も意味なく魔法を手に入れられるからといって参加しているのを思い出した。
「だけど……あいつの場合は、何か理由があるような気がするんだよな……」
カイは桃瀬の背中を見つめた。
昨日、カイは桃瀬の裏の顔を知ってしまった。
「あの仮面の下には、プリキララの闇が隠されているのか」
カイはそんなことを考えながら桃瀬を見つめる。
だが、彼女はいつもの……委員長らしい真面目な桃瀬だった。彼女は甲斐甲斐しく、クラスメイトの世話を焼いている。それはとても好印象で、頼り甲斐があると感じられた。
カイはフフッと笑った。
「隠している姿が本当なんじゃない。こうやって表に出している姿こそ、本当のあいつなんだ」
カイはそう思った。なぜなら、本当に親切でない奴は、口ではいいこと言っても、絶対に行動に表すことなどないのだから。
それから午前の授業を受けて……昼休みになった。
桃瀬と同じ教室にいることが、なんとなく息苦しくなったカイは屋上へと上がった。
良く晴れた日で、太陽の光が暖かい。
カイはフェンスにもたれながら遠くを見た。
今日の夕方……カイは桃瀬と闘うことになる。
「あいつ、一体どんな手を使って闘うつもりなんだ?」
いくら考えても、カイには見当もつかなかった。
「だが、それは桃瀬も同じだろう。俺がどんな秘策を引っ提げて戦いに臨むのか、まるで見当もつかないはずだ」
そう考えた時、桃瀬がカイに接触しないことは正解のように思えてきた。相手の情報を手に入れられるメリットは、自分の情報を与えるリスクにもつながるからである。
「え、もしもし……私だけど……電話くれた?」
聞き覚えのある声を聞いて、俺は思わず身を隠した。
そして、息をひそめて様子を伺う。
「……うん……うん……わかった。無理しないでね……きっと良くなるから」
カイは聞き耳を立てた。どうやら電話の相手は病気のようだ。
「うん……そうだけど……うん……でも、治るかもしれないじゃん!……うん……それでも希望を捨てちゃだめ」
カイはそっと顔を出して覗き込んだ。頷く度に、ツインテールが揺れている。
そう、その声の主は桃瀬だったのだ。
桃瀬の声は、だんだんと大きくなっていく。どうやら電話の相手は、聞き分けのない相手のようだった。
「お医者様がそう言ったからって! 本当にそうなるとは限らないじゃん!」
桃瀬の目に、涙が溜まった。
「お医者様がそう言ったって……治ったって話は山ほどあるんだよ! そんないつ死んでもいいなんて言わないでよ!」
桃瀬はそう言うと、携帯電話を握りしめたまま、その場で泣きじゃくった。
カイは腕時計をチラリと見た。
「もうそろそろ昼休みは終わりなんだが……」
だが、この状況で、ノコノコでていくわけにもいかない。カイはしばらく桃瀬を見守るしかなかった。
しばらくすると、桃瀬はチラリと腕時計を見た。昼休みが終わることを悟ったのだろう。彼女は涙を拭いてから、携帯電話をポケットにしまった。
そして、上を向いて雲を見つめると、ギュッと唇を結んだ。
「今日の試合は負けられない。私はきっとカイに勝って……エリクサーを手に入れる!」
桃瀬は雲に向かってそう誓うと、屋上の扉を開いて出ていった。
扉が閉まったのを確認すると、俺は大きなため息をついた。
そしてゆっくりと立ち上がって、雲を眺めた。
「チッ……余計なことを聞いちまったぜ」
カイの胸の中に、動揺がさざ波のように広がっていった。
カイはそのモヤモヤとした気持ちを抱えながら、ゆっくりと屋上の扉へと向かった。
そしてドアノブを回した時、カイは異変を感じた。
「ん?」
ガチャガチャ。
「んんー?」
カイは大きなため息をついた。
「桃瀬のやつ……鍵かけていきやがった」
カイはその日の午後の授業を、すべて無断欠席した。




