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part 23

「葵が借りた本の貸出票の中には必ずと言っていいほどあなたと荒波晴馬の名前があった。舞元あづきさん。そして失礼します」

舞元あづき、彼女の時季外れの長袖をまくってみると、もう治りかけであるが、うっすらと赤く爪痕傷が姿を現す。

「このまま逃げられるなんて都合が良すぎるよね」

彼女が諦観したように自白の言葉を口にすると。

どんと大きい音が鳴る。

振り返ると、石上が机を蹴っ飛ばしていた。

こちら、舞元を見つめる視線は辞めてくれと嘆願するような目だった。その表情はもはや表情豊かであった。

「人の命を奪っておいて、都合が良すぎたんだよ。本当にごめん、拓真さん。ボクは自首する。自首していいんだよね」

彼女は何故、人払いまでして探偵気取りの推理を披露して彼女を追い詰めたのかをよく理解している。

「本当にありがとうございます」

「いいえ、感謝は葵に」

「情状酌量の余地があると思ったんだ。ただ、だからといってこのまま見逃せるわけもない」

「本当にありがとうございます」

今度は彼女は涙を浮かべながら、感謝を述べた。

私達の間で事件が解決した空気が流れたとき。

「あなたは本当にそれでいいの?」

真昼がまためんどくさいことを言ってかき回そうとしているのかと振り返ると、石上がカッターナイフを取り出していた。

彼の行動は表情はそれでいいわけあるかと言っていた。

「そんななまくらじゃ、だれも傷つけられないわよ」

「真昼のいう通りです。おそらくあなたは計画を立案しただけなんでしょう? それなら未成年、情状酌量、自首。数え役満、無実もあり得る」

「辞めてください。そんなこと私も晴馬も望んでない!」

「それはだめだ」

カッターナイフ如きでは石上に負ける気がしない葵はじりじりと石上に近づいていく。

だが、そのナイフを他者に向けるという発想が間違っていた。

次の瞬間、彼は葵に刃を向けるのではなく、自分の喉にナイフを向けた。

「自分を人質に……」

あの目、本気で自分を人質にして、自死を選ぶ覚悟もある目だ。

ふっと真昼は満足そうに笑う。

そうだろうな、あなたはこういう覚悟のがんぎまった奴好きだよな。

こうなっては葵も不用意に近づけない。

「辞めて!」

舞元が叫ぶ。

舞元を見逃さなければ、自殺するということか。

そうか、そんなに……。

「意外ですね。この少女にそうもご執心ですか」

彼の雰囲気が一変して、前のラーメン屋の時のような激情の様相になる。

ミスった!

「……」

彼は一瞬いつものように黙りこくると思ったが、大きく息を吸った。






「そんなわけがあるか! この思いはそんな、そんな安っぽい感情じゃ、決してない!

僕は、僕はこの世でただ一人の晴馬の親友だ! 僕にとって晴馬はこれまでの人生、いやこれからの人生でたったひとりの友人なんだ。きっともう、彼以外に心を開ける人物なんてだれ一人現れない。僕が口無しでも晴馬は僕の言いたいことを全部、全部分かってくれた。僕の感情は全て口には出さないものだ。だから、そのすべてを理解できる彼だからこそ、こちらも彼の全てを信用できた。むしろ、この口無しこそが、彼との友情を確かめられるもので誇らしいなんて、こんな障害をあって良かったとさえ思えたんだぞ!?」


「だから、彼が僕よりも両親よりも誰よりも世界一大切にしていた少女を不幸になんてできるか! どんな顔してあの世で晴馬に顔合わせりゃいいんだ!?」


ぜえ、ぜえと言いよどむこともなく長台詞を彼の心の内を吐露してくれた。

本当はおしゃべりなんだ、彼は……。


舞元あづきが項垂れる彼に近づく。

「私は自首する。きっとあなたはボクがいなかったら復讐なんて考えもしなかったんだよね?それなのに、ボクは自分勝手に自分のことしか見ていなかった。君が何と言おうが、何をしようがボクは自首をする。これはあいつにじゃない。君に対する贖罪」

舞元の覚悟が石上に伝わる。

石上はこの状況がもうどうにもならないことを悟って震える手から、カッターナイフを零す。その瞬間を葵は見逃さず、一応落ちた得物を蹴り飛ばす。

「お願いします。僕がすべて罪を被るから、僕が自首しに行くから彼女は許してあげて下さい。お願いします」

彼は涙を流しながら、私達と舞元に指を綺麗に三つ折り、土下座をして、許しを請う。

私達には告発しないことを、舞元には自分が罪を被る許可を。

やはり、もうどうにもならないことを悟った石上は学校中に轟く慟哭を鳴らした。


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