パステルカラーの憂鬱
お読み頂き有り難う御座います。
ちょっと何時もと違うドレッダ侯爵邸です。
明くる日。シトシトポタポタと小雨が降り、若干湿気っているもののシャーゴン王都は活気に満ちていた。
「ミューンちゃんさー、これってさー。ウナギちゃんのお見合い会場だよね?」
そんな喧騒から離れた静かな貴族街に有る、ドレッダ侯爵邸の大広間、は……重厚でシックな何時もとは違う可愛らしくパステルカラーで飾り付けられ……。
何故か甲高い子供の声と慌てふためく女性の声で満ち溢れていた。
「キャー!」
「ひろびろー!!」
「あっ、こらっ、リマにリカーナ!走っちゃダメーー!!」
「このふくビラビラー」
「じゃらっとー」
「ああああスミマセン!ミューン様、あっ、クレオミ!それダメよ触っちゃ!!壊さないで!!」
特に高価な物は置いていないと言えど……子供のエネルギー、物凄い。
侯爵家が誇る優秀な使用人達も、10人以上の子供相手にアワアワして走り回っている。
シスターアルベリーヌはよくあの子達+男の子達を毎日世話しているな、とミューンは感心しつつ、目を見張っていた。
「獣人のお子ちゃまが9割9分とはねー……。お、アレが剣歯虎ちゃんのおねーちゃんか」
「……何でいんのよ……呼んでないわよジュラン!!」
そして我に返り、いつの間にか潜り込んできたジュランがシレッと居た事にイラッとした。
「まーまー。俺もさ、ちょーっと行き詰まってんの」
「バッサバサの空飛ぶ馬公爵の闇討ちはどうしたのよ」
「何事も手順が大事だろー。
闇討ちでもお空へのカチコミだから、我が国の制空のオネーサマであらせられるアルルローラ軍将のお返事待ち」
「ああ……それは大事ね」
久々に角を出してブチ切れていたのを見たので、軍将をすっ飛ばして乗り込むかと思っていたミューンだった。因みに止める気は全く無い。
「で、主役は?」
「……お衣装を見立てたら、こんなの派手すぎると戦かれて……悲嘆に暮れ中で」
「……派手ェ?原色でも持ってったの?」
「いえ、パステルカラーだけど」
「パ……!?バッ……」
子供相手だから子供が好きそうな色が……とミューンが続けようとすると、ジュランが咳き込んだ。
「ブフッ!?ゲフッ、ガハッ、はあ!?パ、パステルカラーって!!嫌がらせか!?」
「失礼ね!明るく装った方が子供達にウケるかなあって親切心よ!!」
「……爆笑でウケ狙いじゃなくて!?」
「何で爆笑なのよ失礼ね!!ガチで親切心からの提案よ!!」
ミューンが胸を張ると、ジュランは真顔で……蔑みと困惑を混ぜた視線を寄越してきた。
「……ミューンちゃんの野郎の服の見立てセンス最悪。悪いこたぁ言わねーから、剣歯虎ちゃんの格好は大枚叩いてスタイリスト雇え」
「失礼ね!!フリックはどんな格好でも可愛らしいのよ!!」
「良くねーよ!!……まあいーわ、今入院してるヤツの格好心配する必要ねーしどーでもいーな。で、ウナギちゃんは?」
これは埒があかないと判断し、ジュランはキャレルの居場所を聞いた。
ミューンに任せたこのままでは、会場が悪意の無い爆笑の上呼吸困難で倒れてしまい、キャレルを深く傷付けてしまう。褒賞で、お見合い会場の筈なのにそれは酷すぎる。
後、只でさえ中々世間に出てこない魔獣子爵令息とコネを作りたい気がジュランにも有ったのである。
「そんなに駄目かしら、パステルカラー……。フリックにはきっと似合うのに……」
ミューンの紳士服への拘りは、フリックに似合うかどうかのみらしい。
それはそれでいいが、ジュランは他のヤツへそれを流用するなと言いたかった。
後、多分剣歯虎フリックもパステルカラーは着ないタイプだと思う。
「……まーすげー。お姫様趣味のカラーリングだなオイ……」
「フヒィ!?誰ですか!?」
目の前にはヒョロイ成人男がパステルカラーに囲まれてガタブルしている光景が広がっており、見たくなかったなとジュランは思った。
「あ?俺?通りすがりのユニコーンのイケメン」
「……フヘエ……ヒイ……イケメン……!怖い……!!」
冗談のつもりだったのだが、何故か余計に怯えられてしまった。
「いや悪かった。ジュラン・リオネス。裏稼業ネットワークのシャーゴンの首領」
「ウラ!?よ、よよよやよ」
過呼吸を起こしかねないので正体を明かしたら、更に余計にビビられた。
「……いやんなビビるか?お前ん家だって裏稼業ネットワークから偶に依頼受けてくれんじゃん」
「ししししさ、しか、しか……本物……!?」
「……慣れるまで話が結構通じねータイプ?仕方ねーな。
しかし何だこの色以外は流行の服。おかしーだろ売れ残りか?……この色ならマシか」
「はひっ!?」
やたら乱反射しがちなパステルカラーにクラクラしながらも、ジュランは服を掘る。
その中から、未だ控えめに光るクリーム色のシャツに薄い青の隣国風の上着を取ってキャレルに投げて寄越した。
元々水棲の魔獣だ。ジャブザブザブーン風なら似合うだろう、期待を込めて。
「めかしこめよ、ウナギちゃん。『お互い愛し愛さない』と色々無毒化出来ねーんだろ?
お前をお待ちかねのレディ達のお気に召す為、キリキリ仕込め」
「……何故、それを」
一族の事を言い当てられたキャレルは、余程驚いたらしい。青緑の目を大きく見開いて、ポカンと口を開けていた。
「俺は結構色んな事知ってるぜ。兄貴は無理だろうが、仲良くしといてお得だろ?」
「ひ、ヒイイ……」
あまり芳しくないようだが、必死で着替え始める。
果たして、……魔獣子爵令息のおめがねに適うレディは、居るのだろうか。
貴族階級の子供もいるようだが……。
「……若くて、若くてカワイイけどな……」
「は、はへえ?」
ジュランも獣人である。番の年齢は気にしない。だが、例外はどんな物にもある。
其処だけ……其処がアウトでない事を祈るのみだ。
憂鬱なのはジュランでした。
余談ですが、この作品に出てる中の男性陣で、服飾に興味が有るのは王子達とジュランで御座います。




