お見合いはモミクチャへ
お読み頂き有難う御座います。
キャレルを送り出したジュランが戻ってきました。
「……だ、大丈夫……かしら」
「ふへ……」
「すみませんすみません!!私が目を離したばっかりに!!」
折角だからその辺を見て回るか……と寄り道して使用人にやんわりと戻されたジュランが戻ると、和やかなムードの筈の会場は……何故か修羅場になっていた。
子供達は居ないし、使用人はワタワタしている。
「おい、ちょっとミューンちゃん。どーなったのコレ!?さっき俺が服選んで送り出した所だよね!?何でこんな……グッチャりしてんの!?」
さっき、あんなにちゃんとした格好にしてやったのに、どういうことだ!?と目を剥くジュランの目の前には、グッタリしたキャレルが壁に力なく凭れ掛かっていた。
「いえ……主役が漸く届……いえ到着なさってから、ちょっと……」
「こ、この方は悪くないんです!!」
キャレルの傍で目に涙を溜めているのは、見慣れない少女……いや、女性だった。
カラーリングから何から何までフリックに似ている姉に先程から挨拶しなかったが、今構っている暇はない。
「……まあ何て言うか……ヌメドー子爵令息は、子供達にモミクチャにされてしまったのよ」
「何で!?」
「……い、言いにくい事なんですが、急に……この方が現れた途端、子供達のテンションがおかしくなりまして」
「爆上がりっていうレベルでね……」
キャレルは意外と子供ウケ……未来のレディウケが良かったらしい。
他では怖がられる筆頭だったらしいが、この場にきて何なのだろう、このモテ加減は。訳が分からない。
「……ウナギちゃん、何かが若い子の感性ブッ刺さったんかね」
「ふん!思っても居ない年寄りアピールやめて頂戴」
和ませようとしたジュランの気遣いは、ミューンに鼻で嗤われた。何時もの事なのでスルーする。
それにジュランには気になりすぎる事が有った。
「で、……この服にベッタリ赤黒いのは何。トマトソース?ジャリ……チビレディちゃんに顔でも拭われた?」
「半分はミートボールパスタで、半分はハズレよ」
「あの、この方は鼻血を」
「ハア!?滅茶苦茶危な!触ると死ぬぞ!?」
キャレルの顔を拭おうとしたコレッタが、ジュランの大声でビクリとしてハンカチを落とすが、それどころではない。
ある程度自分の思い通りに操れるらしいが、基本彼の一族の血液を触ると、普通に死んでしまう。
コレッタは、絶対に知らされていないだろう無防備さだった。
「何よ大袈裟ね」
「アホかミューンちゃん!!どーせ兄貴はテキトーな説明しかしてねーんだろーけど、この量なら目分量で30人は死ぬぞ!!」
「え、ええ!?そ、そんな!あ、だから子供達を別室に……。あの、ミューン様や、貴方様に影響は!?血が止まらないこの方は大丈夫なんですか!?」
「ホホホ平気よ、知ってるわよ。慌てないでコレッタ嬢。空気感染はしないんでしょう?て言うか目分量の癖に適当な事言わないでよね。ちゃんと対策済みよ」
よく見ると、コレッタは分厚い手袋を重ね着けしている。慌てている本人は知らなかったようなので、どうせ説明を忘れているのだろう。
相変わらず滅茶苦茶だなとジュランはイラッとした。
「ホホホ!さっき、慌てて着けて貰ったの!ギリギリセーフよ!!」
「え、ええと」
「ミューンちゃんってホントそゆとこが残念だね。説明しとけ。それに放置してっけど、ウナギちゃーん?キャレルくーん?」
「ふへう、うう……ヒッ!?」
大声で呼び掛けると身震いと悲鳴が返ってきた。一応意識は有るようだ。
恐る恐る青緑の瞳が開いて……コレッタに視線を固定したキャレルはカチコチに固まってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?あの、子供達が飛び付いてすみません」
「ホヒィ!?は、はっ、は……」
どうも息が荒いキャレルに、ジュランは半笑いになり……噛み殺した。
「うわあ……ドーテ……いって!!
いや、こほん。女の子とあんま関わらない生活してきただろーから、興奮……ビックリしちゃったのかねー」
「ふへ、ふはっ……あの、僕……」
ウッカリして失言にミューンの肘鉄を喰らいながらも、ジュランはキャレルを観察する。
みるみる内に赤く染まった目の縁を見ると、間違いでもないらしい。
「そっかー。そもそも男心を理解しないミューンの開いた会だしね……。デリカシーゼロ」
「ちょっとどういう意味よ、ジュラン!?アンタみたいなデリカシー破壊馬に罵られる謂れはないわ!!」
怒り狂ったミューンを避けて、構わずジュランはキャレルに話し掛ける。
「で、どの子が番ちゃん?で、抱き付かれたらハートを撃ち抜かれたんだよね?」
「えっ!?」
「え、ええええええ!?」
「いや煩えな耳元で!!声デケーよミューンちゃん!!」
「ヒッ!!」
キャレルは、ミューンの大声に案の定縮こまってしまった。
「えっ、意外と展開が早いわね!?もっと後日にも開催予定だったんだけど!!」
「いえ、でも……結構そんなもの……なんでしょうか……」
「フツー、番以外に興奮しねーでしょ。血塗れに気を遣ってるヌメドーならさ」
「……フヘ……で、ですが……単によじ登られて、鼻に頭突きをされたのでその血なのかも」
……どうやら普通の怪我らしい。ドヤ顔で自信の有った答えを放ったジュランは……ちょっと絶句した。
後ろからミューンの冷たい視線とコレッタの困惑した視線を感じる。
「ジュラン」
「……で、どーゆー子?」
「フハッ!?」
「その子がよじ登って不愉快じゃ無かったんなら、番の可能性ワンチャン有る」
ジュランの無茶苦茶な理屈に困惑しながらも、キャレルは鼻を啜りながら答えた。
鼻血は止まってきたらしい。
「……葡萄みたいな髪色の女の子です……」
「あ、ナネットですか……。オッカネー山の麓の修道院から来た子ですね」
コレッタは心当たりが有るらしく、直ぐ答えた。
「コレッタ嬢、その子はどういうご事情の子なの?」
「ええと、結構前に生家のご親戚筋が偉い方のお怒りを買ったとかで……更に王都で手広くしていたお商売で失敗されたらしくて。ご家族は借金の連帯保証人で困られていたそうです」
中々の辛い境遇だが、最近何処かで聞いた話題とニアミスする。思わずジュランとミューンは顔を見合わせた。
「ナネットのお父様は度重なるご心痛で病を得られて、早くに亡くなられてしまって……出稼ぎに来たお母様がナネットを預けられました」
「獣人なの?」
「ええと、多分」
本能的にキャレルに飛び付いたのなら、番なのかもしれない。
どうやら、本人に会ってみる必要が有りそうだが……。
「その子、幾つ?」
「……7歳、です」
果たして、話は通じるのだろうか。コレッタの眉も下がりきっている。滅茶苦茶不安だった。
何処かで聞いたことの有るカラーリングと境遇のようです。




