石楠花の花にぶつかられる
お読み頂き有り難う御座います。
所変わってリオネス公爵家ですね。
リオネス公爵家は、貴族街にある。
因みにミューンのドレッダ侯爵家とは三軒隣でご近所だ。
小さい頃はネラとよく泉の有る庭で花輪……は作れなかったので、花を摘んだりお人形遊びやお茶会ごっこをしたものだ。
勿論同席させると腹立たしいので、兄であるコンラッドとジュランは追い払っての事だ。
馬車泊から降りた庭は……変わっていないようだった。
ご近所だが来る用事が全く無い。
「まさか今になって、リオネス家に来るなんてね……」
「ミューンおねえさま!!」
「ぶふっ!?」
「ふぐおっ!?」
懐かしさに嘆息する間も無く、白くドでかい花の塊が目の前を過り、ぶつかってきた。
その勢いでミューンは吹っ飛びそうになったが、コンラッドの腕を掴んで勢いを殺し、事なきを得る。
だが、掴まれた方のコンラッドは無事ではないようだ。滅茶苦茶呻いている。
「何!?」
何処かの窓のド派手なカーテンでも飛んできたのかと思ったが、違うようだ。
よく見たら大輪の花びらを重ねたような白いドレスを着て凝った石楠花の花飾りを被る、儚げな美人だった。
暫く会っていないが、もしかして。
「ネラ!?」
「はい、ネレイア・リオネスです。ミューンおねえさま」
「いったたた……!肘脱臼したかもしれない……!!」
「ミューンおねえさま!ネラとあそびにきてくださったの?いきましょう?ねえ!ネラのおへやに、いきましょう?」
「いやちょっと……ちょっと、ネラ!」
呻く兄を無視してミューンを引っ張るネラは、相変わらず美しかった。
陽光のような煌めくストレートの長い髪。星が散る紺碧の瞳。
そして、額と蟀谷を隠すほど大ぶりの花飾りの下には、かなり立派な角が……突き破るほど大きくて立派な有る筈なのだが、無い。見えない。
まさか、削ったのだろうか。
見た目は限りなく甘く美しい見た目の美女なのだが、角のせいで忌避されているのだ。しかし、あんな大きな角を削るとなると……大変な苦痛を伴うと聞いたことがある。彼女を溺愛する兄達が許すとは思えなかった。
「ね、ネラ」
「なんですか、おおにいさま」
角の事を聞こうか迷うミューンを余所に、兄であるコンラッドが声を掛ける。そんな兄にネラは、居たのか、とばかりな塩対応だった。コンラッドはあからさまに凹んでいるので若干溜飲が下がる。
「……ネラ、ミューンは仕事で我が家に来ているんだよ?少し聞き分けてくれないか?」
「いや!」
「ほら、瞳がオレンジのお姫様の人形を届けさせるから」
「…………まえも、ごまかしたわ。ミューンおねえさまといたいのに」
何かしら。ミューンは違和感を覚えた。
婚家に入ったネラは、ミューンの誘いを何度も断っていた。なのに、この……嫁ぐ前のような親しさを無邪気に向けてくるのは、何故なのだろう。
「ね、ネラ……。会えたのは嬉しいんだけど今日はちょーっと、都合が悪いの」
「そうなの?ぐあいが、おわるいの?」
「そ、そうね……」
邪気無く覗き込んでくる顔に罪悪感を覚えながら、ミューンは頷いた。
「じゃあ、しかたないわ。
ミューンおねえさま。ネラは、はなれにくらしているの。
いつでもきてね。すぐにきてね」
パパッと軽やかに白い石楠花が庭の向こうへと飛んでいくように、ネラは駆けていってしまった。
「コンラッド……ネラの角は」
「いやそれよりもだよ!!滅茶苦茶肘が痛いんだが!?骨のズレって回復魔術効かないんだよ!?力技で差し込むしか……いぎゃあっ!!」
あまりにコンラッドが煩いので、ミューンは護衛に脱臼した腕を嵌め込むよう指文字で指示した。
その甲斐有って無事治り、しかも痛みで暫く悶絶させ黙らせることが出来たようだ。恨みがましい視線に若干溜飲を下げたミューンは、嘆息して話を逸らす。
「……変わってないのね、ネラは」
「いや、結構変わったよ……と言うか謝りたまえよ!ミューンは私に謝らないと死ぬのかね!?」
「そもそも……あのネラが悪事とか出来るのかしら」
「ミューンが言ったんだがね!?私の可愛い妹がデクスター殿下と組んで悪巧みしてるって私を丸め込んだんだろう!!
確かにネラは、無邪気で愛らしく清らかな所が一周回って悪そうに見えなくもないが!!何て酷い事を!!」
コンラッドは未亡人(未発表だが)として実家に帰ってきた妹に何の夢を見ているのだろうか。そのシスコンぶりと掌返しに苛ついたミューンだったが、流石に言わないでおいた。
この立派な邸宅には、彼の両親も住んでいるのだ。滅茶苦茶広いしバッタリ会いそうにないが、誰に聞かれるや分からない。コンラッドとジュランは気に食わないが、苦労してひっそりと暮らす彼らに流石に悲しい顔をさせたくはない。
「コンラッドの妄想を聞いてる暇がないから、早くヌメドー子爵令息の所へ案内して頂戴。面会終了迄に駆けつけてフリックの顔をもう一度見てから帰るんだから」
「……殆ど帰ってるような距離で滅茶苦茶言うね」
ブツクサ呟くコンラッドに案内されたのは、客室……にしては、少し入り組んだ廊下を入った所だった。
しかも鍵を何個も使うタイプで、あからさまに逃す気がない……豪華な牢屋っぽい。
恩人に対し、中々あんまりだわ……とミューンは眉根を寄せた。
「ああ、いらしたね」
「ふひっ!?」
中にはオドオドとビクつくキャレルが居た。彼は常にビビっているようだ。だが、構わずにミューンは自分のペースで微笑みかける。
「今日は、ヌメドー子爵令息様」
「ふへっ!?こ、今日は……。あの、さっきの断末魔は……」
「ホホホ、お気になさらず」
ジト目で右腕を振ってアピールしているコンラッドを無視して、ミューンは更に微笑みかけた。
滅茶苦茶ビビられたが気にしない。
「ねえ、ヌメドー子爵令息様。親しみを込めてキャレル様とお呼びしても?」
「ししし親しみ!?あの、えっと…………」
滅茶苦茶イヤイヤと頭を振るキャレルに構わず、ミューンは畳み掛ける。
「まあ嬉しいわ。キャレル様」
「ハハハ酷いね、パワハラじゃないかミューン。では私も便乗しようかな、キャレル君」
キャレルの顔色はよく分からないが震えは酷くなる一方だった。が、震えながらも留まっているのは……報酬が余程欲しいのだろう。
……気に入る子が良いんだけど……と脳内に浮かんだ子供達の姿にミューンは内心焦った。
因みに他の修道院に声を掛けて、希望者を募って50人程……。
九分九厘、15歳までの……子供だった。例外なのはコレッタだけである。
一応貴族の方に募集も掛けたが……総じてお金目当てとマニアックな性癖のオンパレードだった。流石に憚られる。
「明日、候補のお嬢様がたを集めたパーティーを開こうと思うの」
「ふひぃ!?」
……どうかロリコンの汚名を嫌がるタイプじゃ有りませんように。
自分の事を棚に上げてミューンは願うのだった。
コンラッドとジュランのシスコンブラザーズが可愛がる妹のネラ。ちょこちょこ出てましたが、漸く出て参りました。どうも20代の割に幼いようです。




