染まる尻尾と新たな出会い
お読み頂き有り難う御座います。
フリックは学校のようですね。
「こんなインクが使えるか!!火傷したんだぞ!?」
「あうっ!」
パシャリ、ガシャン!と廊下に声と何かが割れた音が響き渡った。
「待ってください!何かの間違いで」
「煩い!通報されないだけ有り難いと思え!!」
「な、なら商品を返してください!!」
「迷惑料だ!!」
どうやら教員の授業準備室の方から大声が聞こえる。出入りの業者と揉めているようだ。
「お前のような者は出ていけ!!二度と来るな!!」
怒鳴り散らすだなんて、一体誰なのだろう。このメメル校でそのような教師が居るなんて、信じられない。
只でさえ大人の大声が苦手なフリックは、涙目になって首を竦めた。
「あっ!」
ばしゃり!
背後で音がする。
先程、聞いたばかりの音が……そして。
「え」
フリックの尻尾から、背中に掛けてべちゃりと濡れた感触が伝わってくる。
「すすすすすみません!!すみません!!」
「え……あう……!?」
振り返ると、顔色を真っ青にした、少し変わった斑に光るピンク色の髪の青年。手には、大きめの袋を持っていて……足元には小さな瓶が落ちている。
平謝りする彼にフリックは瞬きして戸惑い、……目の前をゆらりと過る黒っぽい物に驚愕した。
「ぼ、僕の尻尾……」
何時もの、太めの、うっすらと縞が過る若草色の尻尾が半分以上真っ黒に染まっていた。
そして、グレーの制服も、背中からべったりと黒く……。
「本当にすみません!!あの、クリーニング代出します!!」
「えと、あの……」
「ふ、フリック様!!何たるお姿に!!」
しかも間の悪い事に、お迎えの護衛がやってきていた。しかと現場を見たらしい彼の顔色も青くなっている。
「あの、本当にすみません!!貴族の坊っちゃん!殺さないで!!」
「え!?こ、殺す!?殺しませんよ!!」
「いけませんフリック様!!このような狼藉者に迄お優しくされる必要は御座いません!!ああ、お嬢様の愛するフリック様のかわ……凛々しいお尻尾が!!」
護衛の青年は、フリックの被害に瞳孔が開く程怒り狂っている。
「ほ、本当に申し訳ありません!!命だけは!もう、俺だけなんです!!体の悪い母さんが居るんです!!どうか、お見逃しを!!」
「何をしている!!あ、さっきの業者!!」
「っ!!」
先程怒鳴っていたらしい中年の教師が、目を吊り上げて此方へやってくる。どうやら騒ぎを聞き付けたらしい。
「あ、あの、待ってください先生。これは不注意で……」
「君は特待生レストヴァ君!君はこんな詐欺師の屑を庇っている場合では無いだろう!追い払うから其処を退きなさい!!」
「そ、そんな。先生、何が有ったかは存じ上げませんが、彼は僕とぶつかって……荷物を溢されただけです。僕自身、少し汚れはしましたが、怪我も負っていません」
「むっ……」
フリックは尻尾をゆらりと振って無事をアピールする。
先程火傷した、と怒鳴っていた割には綺麗な両手をしている教師はたじろいだ。
「伝統有るメメル校の瑕疵にならぬよう、当事者同士。堂々とこの方とお話し合いをしたいと思いますので……見守ってくださらないでしょうか」
「……そ、そこまで言うのなら仕方がないな。廊下の清掃手配も怠らないように!」
「はい」
フリックはゆっくりと頭を下げ……上げた頃にはもう教師の姿は無かった。
「何と……何と頼もしく凛々しいお振るまい……!!
フリック様!あの教師は然るべき所へ通報の上報告します!!」
「お、大袈裟ですよ……」
「んなことねーよ!有り難う!カッコ良かったぜアンタ!!俺が未だ女なら惚れてた!」
「え?」
彼の言葉の違和感にフリックは小首を傾げる。青年はニカッと笑い……気まずそうに視線と眉尻を下げた。
「いや、弁償だよな。そもそも、俺があのクソ教師に足元見られたのがマズかった」
「尻尾は洗えば落ちるし……制服は、困るけど……」
古びた制服は、護衛と彼の視線からするとかなりの被害のようだ。少し気持ちが悪いが流石に此処で脱ぐ訳にはいかない。
「替わりを手配させましたフリック様。賠償はこの者へさせましょう」
「そうしてくれるかな……。ちょっと、分割で……。マジ金無くてさ」
「そ、そっか……」
流石に侯爵家にお世話になっているフリックには、もう良いよ、とは言えない。
お世話になっていなければ、これともう一着しか無かったのも事実だから、少しばかり複雑だった。
「俺の名前はロレット。闇の大地商店街でインクを造ってて文房具屋に雇われてる。弁償は必ずするから!」
「そうなんだ。宜しく……で良いのかな?」
少し冷たい手を差し出され、握る。
インクの匂いと……少し塩のような匂いがした。
ピンク髪のインク職人ロレットを助けたようですね。




