シャーゴンに残る魚
お読み頂き有り難う御座います。誤字報告とても助かっております。
「と、言う訳で……決して陰湿にイジメられているとか、罠に嵌められてとかじゃないんです、ミューン様」
「ああ、あああああフリックの可愛らしいふたつとない尻尾がああああああ!変な柄にいいいい!!」
事情を必死に説明した筈なのに、ミューンの瞳は涙を流し倒すばかりだった。
「あの、落ち着いてくださいミューン様。僕の尻尾なんて柄が有ろうと無かろうと……元々薄いですけれど縞模様有りますし大して変わりませんよ。それに尻尾はひとつですし……それに、いえ、大丈夫ですよ?」
実家に居た時は、尻尾所か全身をずぶ濡れにして泥だらけで修道院に逃げ込んだ事も多々ある。兄や姉が庇ってくれては居たが、両親の理不尽な怒りで投げられた食器なんかで細かい傷だって沢山負った。
そうフリックは言おうとして……更なる怒りと悲しみを与えるかと思い、口を噤む。
ミューンは涙で潤んだ目でフリックをキュッと睨み付け……唇を震わせた。
「?」
何か不味い事を口走っただろうか。首を傾げるフリックの手を取り、ミューンは口を開いた。
「あのね?そーいう問題じゃ無いのよ?フリック!」
「何がですか?」
「私は貴方が汚されたり危害を加えられるのが辛いの。
貴方が過去に加えられてきた辛いことは大体想像がつくけど、此れからはお姉さまであるコレッタ嬢共々心穏やかに過ごして欲しいのよ」
「ミューン、様」
「確かに尻尾にインクを被ったのは人体に影響は無いかもしれないけどね。その教師……コイツも腹立つから検討しなきゃね。火傷するかもしれなかったんでしょう?」
フリックとしては、心配してくれるのは物凄く嬉しい。だが、物騒な単語が混ぜられているのが、とてもかなり気になる。
「ええと、……検討って何ですか?あの先生は少し短気なので……勘違いかもしれませんよ」
教師にとてつもない危険が迫りそうな気がしたフリックは一応フォローを入れた。しかし、鼻を啜りながらもミューンは頭を振る。
「元々黒い液体に劇薬を混ぜるなんて簡単だもの」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「兎に角、魚獣人には気を付けて頂戴。貴方の交遊関係を制限……したいけど」
「えーと、僕みたいなのと仲良くなれる訳無いと思うんですけど……」
「フリックは少しマイナス思考ね……。あの両親許すまじね」
「あ、あの。余りミューン様も無茶をなさらないでくださいね」
両親の質の悪さは骨身に染みている。
万が一、ドレッダ侯爵家へ金銭を強請タカる為に擦り寄ってきたりしたら……フリックは青褪めた。
しかし、そんなフリックの様子に、ミューンはキョトンとしてから、ニヤリと口角を上げた。
「ふふっ、心配してくれて嬉しいわ。平気よ。こう見えてもちょっぴり危ない目には慣れているの」
「そ、それは……そんなに法務大臣閣下のご令嬢って危険な目に遭うんですか?」
「いえ?そうなる前に対処してきたつもりよ?ゴードンの幼馴染み……いえ、王家に呼び出されていたって立場は……そういう意味では有効利用出来たの。ウザかったけど」
「そ、そうですか」
涙に濡れたままミューンは微笑む。
不遇も多かっただろうが、利用価値も有ったようだ。
「それに……シャーゴンに居る魚獣人は、本意では無い者が多いんだものね。例の事件に関係が無くとも……スオリジェ閣下を逆恨みしている可能性が有るわ」
「え?」
意外な言葉にフリックは戸惑う。
「シャーゴンとザブジャブジャブーンの国家間がギスり出して一触即発になって外交が一旦中断したのは確かに突然だったわ。
だけど、『人質の価値が有る者達』以外……旅行者、商売人なんかは、各々ちゃんと協定を元に帰れたの。期間の長短は有れどね」
「それがどうして逆恨みに……あ、もしかしてスオリジェ軍将が祖国に弓引く事になったからですか?」
今は流石に納得しているのかもしれないが、当時はかなりの葛藤があった筈だ。家族を人質に取られているとは言え、親しい人や親戚、友人達と敵対するのは身を切られるよりも痛かったに違いない。
味方だから良いものの、彼が敵に回れば……途轍もない被害だったであろう。
しかし、フリックの問いにミューンは首を振る。
「いいえ、もっと利己的な理由よ。帰れなかったのを逆恨みしているの。だって祖国へ帰れない理由は、それぞれの密入国だもの」
確かに、正規のルートを通らない密入国者では把握のしようが無い。
「……つまり」
「公式な立場以外で、この国に住んで仕事をしている魚獣人は、訳アリよ。海軍将や、当時祖国を裏切らざるを得なかったザブジャブジャブーン出身者を逆恨みしているわ」
真摯に謝ってくれた青年、ロレット。
今日、ほんの少しだけしか関わらなかったが、母親想いで誠実そうだった。だから口を出した。
彼が、悪人なのだろうか。
フリックには分からなかった。
魚獣人は川を泳いでこれるので、当時密入国者は容易かったみたいですね。




