トラブルを誘発しそうな過去の事件
お読み頂き有り難う御座います。本日は2本投稿しております。順番にお気をつけくださいませ。
「死刑囚92-37564番の身分と罪状は?」
少し強くなってきた朝日が差し込む、豪奢ながらも甘いクリーム色が雰囲気を和らげる部屋。
その部屋の主である令嬢、ミューンは、読み終わったレポートを横へ置くと、控えていた部下に詳細を促した。
「身分は元、ズズグロ男爵。戯れに手を付けて棄てた愛人との間に産まれた娘のポーリーを母親の元から強引に拐い、監禁。実験の材料にしたものと思われる。敷地から多数の人骨や獣骨に、魚骨が見つかった、とのことです」
「離縁した正妻との間には、男子一名、ね。彼の『可愛い娘のポピー』とは誰なのやら。『愛する妻のポエ』は何処へ?」
現実には、死刑囚であった元男爵の話す『娘』に関する内容はひとつも正しくない。
愛人の娘であるポーリーは、栗色の髪に茶色と桃色の瞳ではなく、母親と同じ黒髪に灰色の目だったそうだ。
元男爵が語る娘のポピーは誰なのか。
実在していたのか、殺されたのか、消されたのか。証拠も何もなく、分からない。
「分かりません。愛人である母親の名前はイジーですので」
「該当の魔術学院には、娘を形作った合成異世界種を通わせており……ポポピー・ズズグロと名乗らせていた………。そして、かの学院で生徒を誑かし、辺境の村を襲い……その場に偶然居合わせた『魔獣子爵』によって無力化された」
魔獣子爵は、領地を持たずに国から特別な許可を得て方々に派遣されている。
番を探して放浪する性質が、他の獣人よりもとても強いのだそうだ。
そして、彼等は特殊能力を備えている。
本当か嘘か、証明出来ない能力が。
「どうやら、合成異世界種には、同族を嗅ぎ付ける鼻が有ったようです。辺境の村にいた『前世混ざり』の村娘を探しだして襲ったそうですね」
「その村娘が『魔獣子爵』の探していた番だったと言うオチ、ね」
「獣人の存在も知らぬような田舎です。前子爵殿は上手く村娘を丸め込んだようですね」
調査に来た騎士達まで、立場を明かし手を引かせたようだ。恐らく、それ以上も。
「どうしてその合成種は前世混ざりを襲ったのかしら」
「誑かした少年が村娘を気にしていたから、そして……次の素材かパーツにしようと思ったんではないでしょうか?」
残酷な話だ。その村娘もたまったものでは無かっただろう。
「まあ。化け物呼ばわりされても『父親』の意向に従っているのね。どういうシステムなのかしら、刷り込み?」
「そうかもしれません」
造られた合成種が何故、虐げられたであろう父親に従ったのか分からない。話を聞こうにも、当事者は生きては居ないだろう。
「それで、合成された異世界種達の身元は?」
「刑の執行は、10年と21日前。
死刑囚の敷地内で見つかった骨で年齢を確かめましたが、同じような年齢の女性ばかり。
獣人なら兎も角、骨では此方の人と変わりません。異世界種である判断すら難しいかと」
「まあ、全滅に近いのね。逃げられた者は居たのかしら」
もしかしたら、スオリジェ軍将の恋人が逃げ延びたのかもしれない。
首を傾げるミューンに、部下は答えた。
「当時、破落戸を雇って拐わせていたようですから……ザブジャブジャブーンから逃げたサクラダイの獣人です」
「ふん……。どうでもいいけど、何で古暦なのかしら。歴史学者か、オタクかイキりたい奴しか使わないわよね。読みにくいわー。朧水って何月よ」
「えーと、3月でしたっけ」
元々から少し変わった……いや、随分とイカれた人物だったようだ。
「サクラダイ獣人って、アレよね。同族ハーレムを拵える種族だったかしら。10年前も政情不安で帰れなかったから破落戸になったのかしら?今もシャーゴンに居るの?」
「殆どはおりませんが、サクラダイ獣人の少年が闇の大地商店街に。インク業者をしているそうです。種族の違う母親らしき女が居るようですが……」
へー、と流しかけたミューンはハタと気付いてとある事に気付き……青褪めた。
「フリックの通学路が闇の大地商店街!!」
彼女の番は、よく変なタイプに絡まれる。
彼女の番はトラブル体質気味です。




