侯爵家の贅沢の一端
お読み頂き有難う御座います。
ミューンのお父様ことドレッダ侯爵です。
高笑いと共に咳払いがありますが噎せているだけですので、気になる方は回避してくださいませ。
「おおミューン、婿殿を連れてきたのだな?
パレードの山車は何風にするのだ?周りのダンサーの衣装はどうする?」
日当たりの良いドレッダ侯爵の居室。待ち構えていた使用人が恭しくドアを開けてくれる。
フリックは丁寧にミューンと共に通されたにも関わらず、侯爵に挨拶する前に倒れたくなった。
「あ、あの入室許可を有り難う御座います。失礼致します。
あの?パレード!?パレードって、何ですか侯爵閣下!?」
「勿論王都で盛大に挙げてから、領地でのパレードだ。ドレッダ領は王都からは三日掛かるからな。
蒸気飛行船を飛ばして、婿殿とミューンが降り立つ所の飾りのジャンルを決めたいのだが、光る飾りを置いて夜にやると言う提案もあってな。夜に光る我がドレッダ領は更に美しかろう!!」
「ちょっと!!待ってお父様!!さっきは王都での婚姻の宣誓を王宮の大広間を貸し切ってって話までだったわよね!?何時の間に領地への話に派生してるのよ!?」
フリックはその前段階の話のあまりのスケールにも、倒れたくなった。小さい頃から劣悪な環境にも負けず丈夫に育ち、体調は万全だった筈なのだが。
「お父様!!そもそも、フリックは未だメメル校を卒業していないわ!其処、結婚の前提でしょ!?」
「そそそそうです。只でさえ若輩の僕がミューン様のこ、婚約者なのに。今お式を挙げたら何と世間に申し訳が」
「嬉しいだろう?」
「「え?」」
父親の目がギラリと光っているのを、ミューンは怪訝そうに見た。
「名実共に婚姻出来る喜びは嬉しいだろう?」
「え?ええー、ううっ、ううーん?」
ミューンは物凄く葛藤している。負けそうだった。
「だ、ダメですミューン様!確かにミューン様を奥方に迎えられるのは嬉しいですが、今ではありません!!焦って貴女の価値を下げるのは嫌です!」
「頑なだな……。益々婿に相応しい……フフフハハハガフッ!」
高笑いに失敗して咳き込む侯爵の前に、何時用意していたのか、即座にカップが置かれた。
相変わらず此処の使用人は用意が良すぎるなとフリックは思った。
「お館様、オーガニック蜂蜜入りのハーブティで御座います」
「うーむ、この部屋はこの時間日差しが強すぎる。喉が乾燥していかんな。影寄りの部屋を」
「畏まりました。暖めに10分程お時間頂きます」
「ふ、フリック、引かないで頂戴」
「はっ……。あ、はい」
やっぱりお金持ち過ぎて付いていけないかも、と少しだけフリックの脳裏に後悔が過っていた。が、グイグイミューンに腕を引っ張られて、はたと我に返る。
「お父様、急ぐのは良いけれど、無駄遣いは良くないわ」
「そ、そうですよね!ミューン様!」
「ハイクオリティにはじっくりと待つことも必要よ」
「何?」
「私の婚礼用予算は余っているんだし、どうせなら領地も潤う方向で盛大に遣いたいわ」
「え?」
嫌な予感がする。とても嫌な予感がフリックを襲った。
「どうせなら領地全体を華やかに飾り付けて、其処に蒸気飛行船が花を撒きながら降り立つのはどうかしら」
「そうか……。それは思い付かんかったな!」
「ちょ、ええ?ミューン様!?」
止まらない。
「大丈夫よ!勿論飾りにはシリアルナンバーを入れて、偽物が湧かないようにするわ。私とフリックの愛の記念としてグッズを開発させる……いいかも!」
良くない。全然良くない、
「グッズか。私の時は我々の正装肖像画を大きく描いた駅馬車を王都と領地に走らせて、絵入りの飾り大皿にしようと思ったんだが、ピュエラに死ぬ程嫌がられてな……。
何でも身内以外に肖像画を晒したくないとカワイイ事を言っていた」
「あら、お母様は慎ましくてシャイだったものね」
何故この場に侯爵夫人が居ないのだろうか。
故人とは聞いていたが、何故発言力が有って、共感出来る方が存在しないんだろう。
無茶だとは思うが、フリックはそう思わずにはいられない。
ひとりで止められない。止められる気がしない。
「……侯爵様、ミューン様」
「フリックは甘いお菓子が好きよね?缶入りのクッキー缶なんてどうかしら?きっと修道院の子供達も喜ぶわ!沢山候補を試食しましょう!」
クッキーを沢山試食。その甘美なる単語にフリックは少しグラッとした。
しかし、修道院で、自分の顔の付いたクッキー缶が……延々使われる。
缶は収納にピッタリなので、延々と使われるだろう。
これから訪れる度。
細々とした玩具や、お菓子が、裁縫道具が……自分の顔付きの缶に延々と仕舞われる光景……。
恥ずかしくて死ぬ未来しか、見えなかった。
それに、物よりもお金をかけるべき所が有るとフリックは考えていた。
「侯爵夫人のご意見に賛成です。グッズは肖像無しにしましょう?」
「「!?」」
「……僕らの、お式の。日付と年号と紋章ととシリアルナンバーで良いんです」
それもかなり恥ずかしいが、フリックは堪えた。
「あの、『物』よりも、お式の準備に関わってくださる使用人さんや、警備の方々に予定より沢山の報酬を差し上げてください」
しん、と室内が静まり返る。
侯爵家の報酬にまで口を出すことでは無かっただろうか。要らないことを言っただろうか。
だが、きっと式に関わる人々の現場は、辛くてしんどいものも沢山有るに違いない。
亡くなったフリックの兄は、兵士として末端だった。毎日過酷な任務を沢山こなして来たと後で知ったのだ。
結婚式とはまた違うだろうが……。
「婿殿……」
「ふ、フリック……」
「フリック様……なんと、何とお優しく慈悲深い!!」
何故か部屋にいる使用人全員が泣いており、フリックはギョッとした。
「分かった。そうだな、豪華グッズよりも、人を宝とせねばな……」
「お館様!!」
……何だかよく分からないが派手なパレードとやらを誤魔化せたようだ。
特に何も出来ないとか甘えてないで、無駄遣いは駄目だ。僕がしっかりしなきゃな……とフリックは決意を固めるのだった。
ドレッダ侯爵家は家族と自分と領民にお金を使うタイプです。




