束の間処か永遠に幸せに浸りたいわ
お読み頂き有難う御座います。
ジワジワ再開で御座いますね。
「……すう、みゅー……」
「……守りたいわ、この寝顔……。自力でも他力でも守ってみせるわ……」
猫扱いすると怒られるが、猫みたいな寝言をあげながら、若草色の髪の少年が、ミューンの膝で眠っている。あれやこれやと世話を焼き、毛並みも改善して少し肉が付いてきたとはいえ、未だ細い。
だが、手と脚はアンバランスに大きかった。
「どれぐらい成長するのかしら、フリックったら……」
「ふみゃ、ミューンさま……」
「寝言で私を呼ぶその可愛さプライスレス!!いえ、国宝級!!」
「みゅー、みゃ」
ミューンの雄叫びに合わせて、彼のふさふさした短めの尻尾が、たしたしと揺れた。
「ゴードンの居ないシャーゴンは三割増しで風がよく通って明るいし、王宮は二倍荘厳に見えるわね……。ゴードンの居ない景色がこんなに美しかったなんて……早く本腰入れて追い出せば良かったわ。いえでも追い出したらフリックとの出逢いが……辛いわもしもの世界!!」
「はみゃ!?ううーぐるるるる……」
呻くミューンの声を拾ったのか、丸い虎耳が動き、ぱちり、と薄緑の瞳が大きく開いた。
潤んだネコ科独特の瞳孔がウロウロと彷徨い……不機嫌そうに喉を鳴らす。そして、ミューンに視線が止まり……固まった。
「みゃ!?あ、あ……ミューン様、の!?ぼ、僕、な、な……ええ!?其処の机に居ましたよね!?」
「あんな固くて冷たい机に顔を押し付けるなんてダメよ!多分頭蓋骨にも良くないわ!只でさえあの馬鹿馬鹿しい馬鹿のせいで脳震盪起こしたんだから!!」
昨日迄色々イライラしていたミューンは、フリックといちゃつきたかった。
そして、課題を終えて寝てしまったフリックを使用人に運ばせ、無断で膝枕を実行したのである。
やられた方は驚いただろう。フリックは混乱して目を回しているらしい。
「いえ、ええ?ず、頭蓋骨……?え、ええ?いい匂いでやわやわだと思ったら……。
って、僕、何時の間にミューン様の太腿いやお膝を……借りてたんですか!?まさか無意識に移動しました!?」
「そっと移動させたから揺れなかったわよね?」
「え、ええー?ま、まさか使用人の方々に!?ぼ、僕重いですよね!?此方でごはんとか、おやつとか、一杯頂いてるから!!」
「えーと……」
ミューンは考えた。
これは、正直に言えば……フリックのプライドを傷つけるのではないか、と。
しかし、嘘を吐きたくはない。
命じたフリック付き使用人(護衛はローテーション)はヒョイヒョイとフリックを抱えあげて、暖炉前の敷物に座るミューンの傍らに軽ーく置いた事実を、どう伝えるべきなのだろう。
「足が痺れたでしょう?」
「いえ全くよ!軽い軽い!はっ!!」
婚約者らしく柔らかい言葉を交え誠実にボヤッと誤魔化すつもりだったが、結局そのまま言ってしまった。
だがそんなミューンの様子を強がりだと勘違いしたらしく、フリックは眉をハの字に下げている。
「みゃ……。そんな、お気を遣わないでください。ミューン様はお体が強くないんですから」
「フリックとなら何時間でも耐えてみせるわ!休憩は入れるけど!」
「ほ、程々で、お願いします。お、起きますねすみません」
「ああー!もっと寝てて良いのに……」
若草色の耳と同色の少し跳ねた髪に包まれた頭が、ミューンの膝から去ってしまった。
あまりに残念がるミューンに、フリックは少しジトッとした目を向ける。
「あの、ミューン様は、もしかして僕を子供扱いしてます?
僕、剣歯虎の中でもかなり大きくなる種族が混じってるんですよ?……流石に海軍将スオリジェ閣下のメガロドンサイズ迄では行きませんけど」
「大きいフリックもかわ……とんでもなく果てしなく素敵でしょうね……」
どんな変化を遂げるのかしら。凛々しさが増すのかしら。フリックならワイルド系でも構わないわ。取り敢えず今は大きく口を開けたフリックの犬歯が可愛いな、と失言を誤魔化したミューンはニヤニヤデレデレが止まらない。
そんな彼女の様子が気に入らないらしく、フリックは何時に無く、眉根を寄せている。
寝起きのフリックは気性が荒いらしいので、未だ完全に覚醒していないのだろう。
「信じてませんか?お兄様は大きかったんですから、僕だって大きく育つんですよ!?き、きっと育ったらミューン様を抱っこするのも余裕です!」
「そうなの?」
「そうですよ!」
「今のフリックに何の文句もないけど、それはそれで素晴らしいわ。楽しみ!恥ずかしがらずに堂々と往来でして頂戴ね」
「おうらっ……」
……とうとうフリックは真っ赤になって、顔を覆ってしまった。
「……ミューン様の、ばか……。淑女の慎み……とかは!?め、目が覚めた……」
「私、溢れ出る愛は冷めない内に伝えていくスタンスなの。
言葉を惜しんだら碌でもない展開になるわ。ユーイン様の件で再確認出来たしね!
その点に於いては、聞いてて面白く無い上に暗い大悲劇とやらも役に立ったわね!」
「ふ、不敬ですよミューン様!!はっ、僕、寝惚けてましたよね!?ミューン様に目茶苦茶失礼な事を!!」
「何も失礼なんて無かったわフリック!でも喧嘩も多少しないとね!小出しにバトるのが夫婦円満の秘訣なんですって。お父様が仰っていたわ」
「……侯爵閣下がですか……」
「あ、義父上呼びも棄てがたいけど、お義父様呼びが良いって言っていたわ」
「は、早くないですか!?」
虎耳が困ったようにぺしょりと寝てしまった。その様子に和みながらも、ミューンは有ることを思い出す。
寝ているフリックが可愛らしいので忘れ去ってしまったが、彼に用事が有って訪ねてきた事を。
「そうだわフリック、お父様がもう婚約は結婚秒読みと一緒なんだから、最早来月でも良くないか!?早くしないとな!とか言い出したのよ。一緒に止めに行って頂戴」
「そそそそそれを早く言ってくださいミューン様!!」
邪魔者が居ないのでウキウキなミューンです。




