心を閉ざした狼王子
お読み頂き有り難う御座います。
フリック目線が少し続きますね。
「……」
「……はふ」
猫背の王子と、壊れた壁の前で、少し温めの樹液入りのレモネードを飲む。
「猫舌なのか」
「あ、はい」
「……そうか」
あっという間に会話がおわってしまった。
フリックもそんなにお喋りな方ではないが、ユーインはもっと寡黙なようだ。
「もう帰れ。仔虎」
「は、はう!?ま、まだ三分も経ってませんよ!?」
「……子供は夕焼け空の内に帰るものだ。……旨かった」
「みゃあっ!?」
確かに、西の方向はもう明々として、裾野が少し暗く染まっている。
ユーインはカップを返されて慌てるフリックの襟首を捕み、ズンズン歩く。
そして、もすっと遺跡の外の草地に下ろされてしまった。
「あ、あの!?殿下!!あの、また来ても良いですか!?」
「……」
肯定の声はない。
だが、否定も無かった。去っていく後ろ姿の赤褐色の尻尾は、少し揺れているようにも見える。
フリックとの会話は気分を悪くしなかった、かもしれない。
「……取り敢えず、お話はして貰えた、から明日も……」
10分も居なかったが、無視されるものだと思っていたのでこれは良い傾向に違いない。
そして、フリックはあの暗い表情も気になった。話を聞いて欲しいが、王子の話を聞かせてくれるのではないだろうか。
「お疲れ様でした、フリック様」
「ぎみゃっ!?」
急な呼び掛けに、フリックは文字通り飛び上がった。
いつの間にか側には馬車が停められている。フリックが落とし掛けたカップと水筒は、馬車の側にいた黒いお仕着せの者が受け取ってくれていたようだ。
「あの、何時の間に」
「先程より控えておりました。では館にお帰りくださいませ」
「えっ、でも、僕汚れて。後、シスターアルベリーヌに」
「館にてお嬢様がお待ちで御座います。返却はわたくしめが」
土埃を気にするフリックに有無を言わさず、侯爵家の紋章入りの馬車に乗り込ませた。
窓を開けて、後ろを見ると夕焼けに沈む遺跡がどんどん遠ざかっていく。
配達の蒸気バイクが来ていたらしい修道院も、あっという間に通り過ぎた。
「……明日は、何か話のネタを用意しなきゃ……」
アルベリーヌに、あのレモネードが切っ掛けで会話が少し出来たお礼を言わなければならなかったのだが、明日になりそうだ。
そしてお菓子か何かも用意した方が良いだろうか。だが、フリックの手持ちでは王子様に捧げるようなものは用意出来ない。
ミューンに相談してみるべきだろうか。
フリックは悩みながら、馬車の背もたれに凭れ掛かった。
「フリック!!」
「みゃっ!?」
一歩玄関に足を踏み入れると、愛しい番の悲壮な声と、柔らかくて暖かい感触がフリックを包んだ。
どうやら、玄関にミューンが待ち構えていたようだ。何時もと少し違う匂いがフリックの鼻を擽る。
「フリック!ああフリック!疲れたでしょう!?
考えてみりゃ、学業で死ぬ程忙しいフリックにこんな苦難を押し付けるなんて!私ったら何考えてたのかしら!!ユーイン殿下は脅しましょうそれがいいわ!」
「お、脅す!?ちょ、ちょっと待ってください、ミューン様!」
「フリックは苦労した分昼寝に当てて良いくらいよ!」
「ひ、昼寝ですか……」
「そうよ!健全なお昼寝よ!私と!!木陰とかで!ああ今日も耳がモフモフね!!」
それはちょっと心惹かれるな、と耳を撫で回されながらフリックは思った。
「ですけど……ユーイン様と少しお話出来ましたし、もう少し頑張ってみたいです」
「そもそも、よくあの遺跡マニアと話をしようと思ってくれたわね」
「遺跡にお詳しいんですよね?」
「メメル校でかなりマニアックに学んでたらしいわ」
「王族がメメル校に……」
王宮に仕える者の為の学舎に王族が入学するとは、とても珍しい。
「まあ、あの方王太子より自由なお立場だったから、若い頃は好きなようにしてたらしいの。て言うか今もよね……」
それならば、メメル校の学業の話をするのはどうだろうか。それならばフリックにも出来る。
「僕、頑張ります」
「無理しなくて良いのよ。いざとなったら裏から何とかした上で領地に引きこもりましょう」
「そ、それはちょっと……」
こうしてフリックは、ユーインの元へ学校の後に通うことになった。
最初は言葉少なだったが、次第にボソボソと話をしてくれるようになる。
「恐竜を知っているか?次、番うならばあれがいい」
「え、えーと……」
「水棲でも陸棲でもいい。出来ればこの壁の大型肉食恐竜が良いのだが」
「……大きそうですね」
古生獣人のフリックだが、恐竜に憧れた事は無かったのでよく分からなかった。
狼も恐竜に憧れてもいいと思うんですよ。




