襲撃者に反逆なるか
お読み頂き有り難う御座います。
あやつがやって来そうです。
それからフリックは、ユーインと少しずつ長い話をするようになる。学校の都合により毎日とは行かなかったが、通う内に名前も呼んでくれるようになった。
「……フリックは優秀なのだな」
学校の課題を見てくれると言うので、渡したノートを興味深そうにユーインは眺めていた
「いえ、まだまだです。それに僕は、腕っぷしに自信がないので……」
「肉体労働は大事だが、頭脳労働も大事だ。よく、努力している」
「あ、有り難う御座います。みゃっ!?」
手入れはされているものの、裂傷や胼胝が沢山有る大きな手がフリックの頭を耳ごと撫でてくれた。
少し擽ったかったが、撫でている方がもっと擽ったそうにしていたので、フリックは黙っておいたのだった。
そして、最初の訪問から一週間程経ったある日。
フリックは修道女アルベリーヌに挨拶しようと、彼女の元を訪れる。
今日の彼女の姿は、子供達が作ったのであろう羽根飾りを付けており、実に派手だった。
「よく続きますね、愛し子フリック」
「世間話しかしてませんけど」
「ですが、何もないのが不気味ですね。護衛は……付けられているようですが、慢心しないよう」
「はい、シスターアルベリーヌ」
気を付けているつもりだった。
だが、何時もの事なので気が緩んでいたのかもしれない。
見慣れた赤褐色の尻尾を持つ、大柄な後ろ姿を見つけたので、躊躇無く近寄ってしまったのだ。
「ユーイン様、今日は」
大柄な背丈の狼が振り返った時には、もう……遅かった。
彼は、違ったのだ。
あれ程気を付けろとアルベリーヌに言われたのに。匂いを嗅ぐことすらしなかった。
「兄上は来ねえよ」
「うっ!?」
逃げる暇も、避ける暇も無く、気がついたときには襟首を捕まれて吊るされていた。
第三王子、ゴードン。
何故、彼自身が此処に来たのだろうか。彼の怒りが間近で見て取れたフリックは、息苦しさと共にゾッとした。
「結局さ、お前が現れたせいだろ?何だっけ?ねーちゃんの敵討ちか?
俺からミューンが離れたのも、コンラッドがトチ狂ったのも、ユーイン兄上が王位に色気出してきたのも。みーんなお前が悪いよな?ざけんなっての」
「……ぐっ!」
息が苦しい。フリックの足は地面から離れ、首は締め上げられて吊るされている。
軽口を叩くような口調の割に、その赤褐色の目は、ギラギラと苛立っていた。
「だからさ、腹立つんだよ。お前なんで俺のもん盗るんだ?犯罪じゃね?」
「……のじゃ……うっ」
ミューン様はモノじゃない、と言いかけたフリックを、ゴードンは揺さぶった。
「ああ、お前の意見とかどーでもいいんだよ。
お前どっかに捨ててこようか。そーだな、バッサバサとの係争地とかどーだ?あそこ、ハーピーの怖えババアが居るからな。直ぐくたばれるぜ?」
何とか逃れようと必死でフリックはもがくが、大柄な大人の狼はびくともしない。
怖い。
暴力が恐ろしい。
昔、それこそ親にモノのように捕まれそうになったことや、姉が叩かれそうになったことが思い出され、体の震えが止まらなかった。
何故、見間違ってしまったのだろう。
彼は、ユーインと全然違ったのに。
駄目だ、こんな所で負けてはいけない。
「ミューンだってお前が消えれば諦めるだろ。兄上だって元通りまた壁でも眺めてりゃ良い。コンラッドは……うぜーしすげ替えりゃいーだろ」
ミューンが、奪われてしまうのか。
嫌だ。
彼女は僕の番だ。
あんな優しい女性を悲しませておいて、傷付けたこの人に奪われるなんて、絶対に嫌だ。
誰にも渡すものか。
「それともコイツを人質にしたら、ミューンをゲット出来っかな」
薄れ行く意識の中で、必死にフリックはもがいた。
この締め付けてくる腕を噛めばいい。
変身した牙なら、この狼をやっつけられる。
狼なんて問題にならないくらい、本来の力は僕の方が強い筈なんだ。
だけど、苦しい。息が、出来ない。集中出来ない。
僕は、肝心な時に何も出来ないのか。
ミューン様、嫌だ、諦めたくない。
「さっさとオチろよ、無駄に頑丈だな。此れだから古生獣人は」
「アンタが地獄に落ちなさいよボケッ!!」
フリックは耳を疑った。
昨日嗅いだばかりの新しい匂いを纏う番が、湯気を吹きそうな勢いで、肩を怒らせているのが涙の膜越しに見える。
「おいおい、お誂え向きだなミューン」
「サッサとフリックを離しなさいよ!!今度こそ屠殺してやる!!」
「おっとミューン、口に気を付けろよ。コイツは反逆者だぜ?
何たって、一人きりで居る王子の俺に殺意込みで近寄ってきたんだからな」
殺意を向けてきたのは、其方だろう。
どうやら、フリックは嵌められたようだ。
「だから、おとなしく俺の番に戻れよ、ミューン」
勝ち誇ったゴードンの声が響き、フリックを締め上げていない方の手をミューンには差し出した。
嫌だ、ミューン様。その手を取らないで。ハクハクと、声にならない声をフリックは必死に訴え掛ける。
ミューンはフリックを見つめ、ゴードンを見た。
「ミューン、こっちに」
「は?殺意向けたら反逆者?なら私の方が常にアンタに向けてるけど」
「……は?」
ミューンの返答に、ゴードンは固まった。
「何を呆けてるのよ!?アンタ、まさか気付いてないの!?
私は、ずうっと、アンタが死ぬ程憎くて嫌いなのよ!!アンタと番!?死んでからもゴメンよ!」
「いや、ちょっとミューンちゃん?照れ隠しは」
慌てるゴードンを、ミューンは冷たい目で一瞥する、
「まさか本気にしてないの?何度でも言うわ。
ゴードンの事は最早生理的に受け付けないし、嫌いよ。アンタのモノになる位ならフリックと心中するわ」
「いや、え」
「早くフリックを返して。反逆者扱いなら勝手にすると良いわ。その前に」
ごん、と大きな音が遺跡に響いた。
「兄弟喧嘩なら、反逆もへったくれもないな」
「ごほっ!」
「ああっ、私がフリックを抱っこしたかったのに!!酷いですわユーイン殿下!」
青い目の赤褐色の狼の腕に抱き抱えられたフリックは、彼の姿を認めた途端気を失った。
ゴードンは遊び友達は用意されてましたが、友達が居ないタイプです。




