シャーゴンの知られざる側面
お読み頂き有り難う御座います。
ミューンの語りが続きますね。
「いえ、心配して貰って有り難う御座います」
そう伝えたら、番の輝く笑顔が眩しかった。
「嫌だわ当たり前のことよ。
それに、伝説の暗殺者が、深海語学資格を取る為に休職してるってのは聞いたから、ウチの護衛で大丈夫だと思うわ」
「で、伝説の暗殺者!?……う、胡散臭いですね」
そんな伝説をフリックは聞いたことがない。シャーゴンにはそんなものが居るのだろうか。いや、そもそも暗殺者って休職出来るのか、とフリックは呆気に取られた。
裏稼業ネットワークといい、まだまだ自国なのに知らないことが多すぎるようだ。
因みに一介の学生が裏稼業に詳しい訳が無いのだが、フリックはそこを失念している。
「気晴らしに紅茶伝道師の資格と絵画入門とフラワーアレンジメントの資格を取ってしまったみたい……。
語学を疎かにしたせいで、ジュランに怒られていたわね。王宮の中庭で」
何故ミューンは、そんなに伝説の暗殺者の日常に詳しいのだろうか。近隣住民の噂話レベルに細かくてリアルな話である。
「あんな目につくところで怒られていたけど、良いのかしらね。モチベーションとか下がると思うわ。パワハラよね」
裏稼業にパワハラは適応されるのだろうか。
フリックはそういう問題でもない気がしたが、今、暗殺者がやる気に満ちていられても困るので黙っておいた。
「お知り合いなんですか?」
「いえ、幼馴染の部下だから知人以下レベルね。顔は見たことあるけど、直ぐに顔も名前も忘れそうなタイプよ。うーん、何だったかしら」
職業柄目立ってはいけないのだろうが、暗殺者とバレていて捕まったりしないのだろうかと、チラッと疑問が過る。しかしフリックは別の事が気になっていた。
「えと、ミューン様のお好みのタイプなんですか?その、ジュラン様って方も……」
「いえ、その暗殺者もジュランも論外ね。部屋のセンスと性格が悪いわ。フリックの素直な性格が至高よ。少々曲がっても素敵に成長すると思うわ」
「あ、有難う御座います」
何故部屋のセンスが悪いのを知っているのかも気になる。だが、フリックとミューンが知り合ったのは最近だ。
婚約まで主に侯爵のお陰ですっ飛ばしてしまったが、ミューンが戸惑っていたのを見て、関係は緩やかに詰めて築かなければいけないかな?とフリックは思っていた。
「……伝説の暗殺者さんも意外と普通の人なんですね。深海語学は難しいので、気晴らししたくなる気持ちは解ります。上アブクの発音が解り難いですし」
「えっ、フリックったら、深海語学解るの!?」
「みゃっ?ええと、一応准一級を持ってます。浅瀬語学はこの間一級合格しました。河川語学は未だ二級なんですけど」
メメル校では、奨学金が許されている生徒が、資格を取る時には補助金が出て、受験料が掛からない。なのでフリックは取れるだけ資格を取るつもりだった。
今日も勉強に励むその為に図書館で本を借りてくるつもりだったのだが、あの転入生に邪魔されたのだ。
「……どうしましょう、私の番が有能過ぎて領地から引きずり出されそうだわ。可愛さと素直さと実直さその他色々で罪なのに」
「あうう、どうしたんですかミューン様?」
「いえ、欲しい本が有るなら取り寄せるから言って頂戴」
ミューンは、ブツブツ呟きながら伏せていた顔をいきなり上げて、キメ顔で言い放つ。いきなりの贅沢しろ発言にフリックはギョッとした。
「ええ!?い、いけませんよ!只でさえお世話になっているのに!」
「いいえ、フリックに使われるなら本も幸せだと思うわ」
「それならせめて古書を……」
「見つからなければ古書もいいけど、新しいのを買いましょうよ。著者にお金も入るし、使い終わったら修道院に寄付すれば良いわ」
「は、はい」
ミューンに握られた手は、転入生とは違い全く嫌悪感を感じない。それどころかフワフワと暖かくてポワポワした気分になった。
「倹約もとても大事よ。でも、今迄我慢してきたフリックは、少しばかり必要なものは手に入れてもいいでしょう?
……ホントはもっと飾り立てたいけど」
「……有難う御座います。あの、後半は、浪費ですよ?ミューン様……」
フリックには着飾る趣味は……今のところ無かった。自分の服のセンスが無いことも自負している。
「くっ、分かったわ。まあ、おいおいね」
「本当に分かってくれました?」
少しばかり金銭感覚が合わない所もあるが、フリックの番は彼の意見を少しばかりムクレながら頷いた。
「でも、その女の子は厄介ね……。
怪我をしてるってのは可哀想だけど、ジュランの手の者なら、間違いない証拠を叩きつけて追い払わなきゃ。
フリックに言い寄るなんて……お目が高いけど許せないわ。本気になったらどうしてくれよう!よ!!」
ミューンが何だかとても黒いことを言い出した。
「あの、僕はモテないので。逆にミューン様が罠だと気付きやすくて良かったですけど」
「そんな!?それはそれで腹が立つわね……。明日にでも踏み込んでジュランの胸ぐら掴もうかしら」
頬っぺたを膨らませてとんでもないことを言い放ったミューンに、フリックはキュンとした。
「い、いくらお知り合いでも駄目です!!そんなところへ踏み込まないでください!!」
が、乗り込みを撤回させる説得にかなりの時間を必要とするのだった。
暗殺者にはプライバシーは適応されないんでしょうか。噂話って怖いですね。




