同級生が裏稼業疑惑
お読み頂き有り難う御座います。誤字のご指摘誠に助かっております。
「取り乱したわ、御免なさい。……その転入生、本当に怪しいわね」
「怪しい、ですか。……確かに、季節外れの転入生ですけど」
広すぎて覚えられないが、綺麗な黄色のカーテンが掛かった応接室らしき部屋のひとつに、ココアとコーヒーの香りが満ちている。
あの後。
ふらつきから立ち直ったミューンが、フリックを引っ張りこんだ部屋である。軽食とお茶の用意がバッチリと整っていた。あくまで裏方に徹する使用人が凄いなとフリックは思った。
「まあ、落ち着いて考えてみれば十中八九コンラッドかジュランの仕業でしょうね……。そんなベタで悪辣な手を打ってくるのは奴らに違いないわ。
ゴードンは直情的なチンピラ気質の馬鹿だからベタなあくどい裏の手には疎いの。せいぜい面と向かって恫喝するぐらいね」
「そ、それも怖かったですね……」
王宮で怒鳴られたフリックは、王子に凄まれた事を思い出し、少し震えた。
「あああ御免なさいね!!あんな安物チンピラ王子は害だものね!!絶対にもう会わせないから!!」
「え、ええと、大丈夫です。その、宰相様と、何方ですか?」
フリックはミューンの勢いに押されつつも、話の続きを促した。
転入生の行いを裏があると断言した彼女には、心当たりが有るらしい。
流石によく新聞にも載る有名人なので、コンラッド・リオネスが宰相だと知っている。しかし、もうひとりの聞いたことの無い名前に、フリックは首を傾げた。その際に、ゆらりと若草色の尻尾が揺れた。
「コンラッドの弟でジュラン・リオネスよ。一言で言えば兄と違うタイプの性格が悪いわね」
ミューンは真剣な顔のまま、フリックの尻尾から目を話さず答えた。最近気が付いたが、ミューンは、かなり彼の耳と尻尾が好きなのだ。高確率で顔と尻尾を交互にガン見されている。
自分にとってはただの体のパーツに過ぎないが、番に気に入られているなら良かったと思うフリックだった。
流石に、今はシリアスな話なので撫で回すのを控えてくれているようだ。その衝動ごと握り混んでいるようで、拳が震えている。
「どういう方なんですか?」
「ダサい名前の組織を束ねているわ」
「だ、ダサ?え?ダサい組織?ですか?みゃっ!?」
宰相の弟という立場に似つかわしくない単語が出てきた。怪訝な顔のフリックに、ミューンはクッキーを口に運んでやる。
「ええ、ダサいわよ。裏稼業ネットワークって言うの」
「うみゃ?はひょう?……おいひい……」
「うふふふ、たんとお食べなさい」
「うう、子供扱いしないでくださいってば!その、聞くからに裏稼業ですけどそのままなんですか?
す、ストレートなお名前ですね」
クッキーで蕩けそうな頬っぺたを両手で引き上げ、フリックは真剣な表情を作った。
そんなフリックを、ミューンはミューンで、頬っぺたムニムニしたいわー尻尾撫で倒したいわー。私の番ってば見た目も世界一最高ね!とニマニマしながら眺めている。
「ミューン様?」
「ああ、えとね。覚えやすいのが一番って理由よ。まあ、読んで字の如く裏稼業を請け負う組織ね」
「そんな組織が……有名なんですか?」
表沙汰にしていいようには聞こえないな、ひっそりしていそうな組織の名前だとフリックは思った。
「遠い他国は知らないけれど、近くの他所の国には有るのよ。
軍や警備騎士が表沙汰に出来ないことを請け負う組織なの。
基本、何処の王家も不干渉なのよ」
「どうしてですか?
そんな組織を野放しにしては下手したら国の威信が揺らぐのでは」
「んー。ケースバイケースで、ギブアンドテイクで、持ちつ持たれつで、結構ズブズブだからかしら」
王族からの依頼も受ける組織、ということだろうか。
名前が確かにイケてないので、本当に有るのか信じがたい雰囲気をカモフラージュにしているのかもしれない。
ミューンが言うので本当に有る組織なのだろう。大人には色々有るんだな、とフリックは気にしないことにした。
「つまり、その組織の方が僕とミューン様を引き裂こうと王族から依頼された?ですか?」
「ええ。ゴードンを痛め付けろって依頼は受けてくれなかったから九分九厘間違いないわ」
王子を痛め付けろ。
そんな恐ろしいことを、サラッと頼んでいいのだろうか。何も無ければ普通に頼めるものなのだろうか。そしてフリックが聞いて良かったのだろうか。
全く悪びれないミューンの微笑みに、フリックはゾワリと背筋が寒くなる。気が付くと地味に背中に汗が伝っていた。尻尾も膨れて毛羽だっていたかもしれない。
ちょっとミューンが怖いかも、と思ったのは初めてだ。だが、何故か全く嫌ではなかった。
「そう、なんですね」
「全く、出遅れたわ……。
そこを何とか誤魔化して、ダブルブッキングしても都合を付けてくれてもいいでしょうに。ジュランの癖に頭が固いんだから」
どうも王族を痛め付ける依頼は、早めなら受け入れてくれるようだ。そして、今回は王族の依頼の方が早いから受け入れないらしい。
職業倫理?はキッチリしているようだが、やっぱり野放しにしてはいけないんじゃないのかとフリックは思った。
それに、自分達の仲を裂く依頼を受けたのは許せない。
「僕、絶対浮気しません。その、裏稼業?の転入生と……自信は有りませんが、戦います!」
怪我をしていても翼竜って大きいみたいだし、強いのだろうか、なるべく口で言い負かせるといいけど……。とチラッとフリックは思ったが、情けない気がしたので口にしないでおいた。
「頼もしいわ!けど無理しなくていいのよ。フリックを危険な目に遭わせたくないもの」
「え、えと……そうなんですか?やっぱり、暗殺者とか居るんですか?」
あの転入生だけなら万が一が有っても振り払える自信はあるが、本職が出てきたら勿論勝てる自信はない。依頼先が王宮なら潤沢に資金提供がされている筈だ。
抗うつもりだが、どうしよう。逃げ足を鍛える為に毎日走るべきか、と悩むフリックにミューンは慌てて否定する。
「大丈夫よ!メメル校は安全でしょう?それに、明日から護衛を足すから!」
「明日から足す、ですか?」
「ハッ、しまった!ご、御免なさいね了解を取らずに護衛を張り付けて!!一応校内には入らないようにしているから!!
あの馬鹿は何をしてくるか分からないものね!大きな怪我をさせる事は無いでしょうけど……」
どうやらフリックの知らない間に、護衛を付けられていたらしい。そんなに頼りないかなあとガッカリしかけたフリックだったが、窓ガラスに映る体は貧弱である。
大人に襲われたらひとたまりもないのは事実だった。
シャーゴンは国王と軍、国民によって今のところ平穏が保たれている今のところ平和な国です。




