愛する番と婚約の宣誓を
お読み頂き有り難う御座います。
お父様が乱入来て参りました。
取り敢えず此処でストップですね。
書き溜まりましたら、続きを更新予定で御座います。
「はっはっは!我が娘に婚姻を申し込んだ目の高い男は君だな!フリック・レストヴァ!がふっごっ!」
「危ないお館様!!」
父親は扉を開けきる前に、部屋の中に全身を突っ込もうとしてよろけ、転けそうになっていた。
そして、何時ものように執事に助けられている。
どうしましょう、私は慣れてるけどフリックがちょっと引いてるわ。どう誤魔化したものかしら。此処は、明るく……!?とテンション爆上げな父親の様子に、ミューンは少し我に返って焦った。
「あ、慌てんぼさんね、お父様ったら!」
「はっはっは!私は何でも早めの行動が大好きだからな!うむ、ご苦労!」
「勿体無い言葉で御座います、お館様」
父親はミューンのフォローの意図を分かってないらしい
ウチの執事が運動神経良くて良かったわ……。前は顔から転ばれて鼻を打って3日寝込まれたものね……。とミューンは2年前の出来事を思い出した。
「兎に角……フリックが許可してしまったし、入ってくださいませお父様」
「はっはっは!言葉を交わすのは初めましてだな!」
「おおおお初お目に掛かります!!この、フリック・レストヴァ、侯爵閣下にお目通り叶いまして恐悦至極で御座います!!」
「はっはっは!もっと砕けるといいぞ!寂しいだろう!もっと親戚に話すように頼むぞ!」
「もももも勿体無いお言葉です!!」
フリックの耳は寝て尻尾が毛羽立っている。滅茶苦茶緊張しているようだ。やはり無理矢理会わせないようにすべきだった、とミューンは父親のプレッシャーに負けたことをちょっと後悔した。
「フリック!こっちよフリック!落ち着いて!?座りましょう!」
「いいいいけませんよ!上座は閣下のお席です!」
ミューンはお客様であるフリックを上座に座らせたかったのだが、彼は頑なに下座から退かない。
何て慎ましいのだろうか。ミューンは場違いにも感動した。
「でも席次なんてどうでも良いわね。私の家はいずれフリックの家にもなるんだし、家でどの椅子に座ろうがどうでもいいものね!」
「そうだな賢いぞミューン!」
「あうううう!?な、何か違いますよね?えええ」
謎の納得の元、ミューンはフリックを強引に横の椅子に座らせ、背中を撫でてやる。
すると、少しずつフリックの震えが止まってきたようだ。それを見届けたミューンは、緊張でピンとした彼の尻尾に触りたかったが、余計に混乱させるので諦める。
「あ、あうう。お咳、大丈夫でしょうか侯爵閣下……」
結局ミューンの隣に座ることになったフリックは、突然乱入してきた父親にアワアワしながら心配している。その優しさにミューンは更に感動した。
「何、他人行儀だな!先程のようにお義父様と呼んでもいいぞ!」
「へっ!?しょ、初対面でそれは流石に!失礼ですので!!」
薄緑の目を見開いて、ふるふる震えて首を振るフリックの可愛さにミューンは身悶えた。
しかし、困ってるフリックを放ってはおけないわね!ちょっとお父様は攻めすぎよ!とミューンは少し眉根を寄せる。
父親がはしゃぎ過ぎなので、目が覚めたようだ。
「もうっ、お父様!フリックは礼儀正しいのよ!強引に物事を運ぼうと為さらないで!」
「待ちなさいミューン、私は感動しているのだ」
「え?」
ミューンが父親をよく見ると、何故か彼は少々涙ぐんでいる。父親は、感情の起伏がとても激しいのだが、今回の涙はよく分からない。
「……うーむ、何と言うマトモな少年だ。あのゴードン殿下と比べるべくもない。最早陸生獣人の雄という共通点しかないな」
「はう!?」
急にシリアスに手を握ってくるミューンの父親に、フリックは目を白黒させる。
そしてその光景を微笑ましく眺めつつも、もう!どうしてあんなのと比べるのかしら!それもこれもゴードンが絡んでくるせいね!地獄とか海底に落ちろ!ともミューンは思った。
「嫌だわお父様ったら!失礼よ!フリックに!」
「はっはっは!すまんな将来の婿殿に失礼をした!」
「あううあうう!?じ、時期尚早では!?あの、えと、侯爵閣下!?」
「何だね未来の婿殿」
その父親の言葉に、フリックは更に青褪めた。
「あうううう!?あの、こんな至らない僕をお認め頂けるんですか!?我が子爵家は実入りが御座いませんし、学生の身分で、何も功績を挙げておりません!」
功績!?そんなこと気にしなくていいのに!寧ろ功績を立てたいならあげる!!とミューンはとんでもない事を叫びそうになった。が、その前に父親が高笑いを上げる。
実にシュールな現場だった。だが、フリックには突っ込むには力不足だったので、この場にツッコミは居ない。
「うむ?はっはっは!功績ごときで我が娘は靡かぬよ!」
「はい!ミューン様が心の綺麗な方なのは存じてます!お姿もお綺麗ですが、お心の広さと美しさが、其処がとっても好きです」
フリックが力強くそう言い放ったその時、ミューンはその場の時は止まり、風は温かく吹き荒れ、花が咲き乱れた気がした。室内だが、そういう幻覚が見えた気がしたのだった。
「貴方の心は高潔でクリアでキュートでイケメンよ!大好きフリック!!」
「ミューン様、貴女にはとても今の僕では届かないような方ですが大好きです!!」
「ああ、フリック!!フリック!!」
父親の目の前なので、ミューンは2回目の抱き締めたい気持ちを堪えた。
そして、はたと考える。
話が高速で進んでいくのは素晴らしいが、ミューンはもう少しふたりきりで過ごし、色々ロマンチックに決めたかった。
ミューンは高笑いをする父親を、ちょっとだけ部屋に入れるんじゃなかったと後悔する。
「はっはっはっは!はーっははっは!何だね素晴らしいではないか!構わん、婿入りしなさい許す!」
「えっ!?あ、えと!ええっと!?いえ、ええ!?でもウチが」
「者共よ、アレを持て!」
「はっ、お館様!!」
「えっ、お父様どうなさったの!?」
今度は何を持ち出す気だろう。そしてフリックに恐怖とドン引きをもたらしたら……!?と、ミューンは嫌な予感しかしなかった。
そして、執事が恭しく持ってきたのは……。
シルクのクッションに載った分厚くて立派な紙。
「こ、これは?」
ミューンは知っている。
バツイチなので以前に交わしたこともある、これは。
婚約の書類だ。証人欄までバッチリ記入済みの。
「お父様!?」
「あうう!?は、話し合いましょう!!少し、少し突っ走り過ぎです侯爵閣下!?」
「私は理性的で勢いと行動力がある大臣なのでな!!」
父親が理性的だと評価されたことは、少なくともミューンの記憶には無かった。
「初めて訪れた私の愛する殿方に、強引ですわ!あんまりですわよ!もっとこう、ガッツリ甘くてロマンチックをしたかったのに!!」
「あの、侯爵閣下!失礼ながらそんなに急がれましたら、ミューン様のご評判が悪くなります!嫌です!」
強引すぎる父親に、それぞれ抗議の声を上げた。だが、父親は逆にニヤリと笑う。
「何を言うのだミューンに婿殿。番とは永遠の伴侶なのだろう?」
番。
その言葉に、ふたりは顔を見合わせ、仄かに赤くなる。
「双方、面倒臭い周りに囲まれているんだ。掃討せねばならない。ロマンチックは後でやりなさい。先ずは露払いだ!」
「お二方、サインを」
いつの間にか執事にペンを渡され、恭しく捧げ持っている盆に乗せられた婚約宣言書。
ごくり、と息を飲み…ふたりは、ペンを取った。
「……奇襲をせよ、と仰せですのお父様」
「き、奇襲……。あう、でも、親が何と……お姉様が」
しゃり、しゃりと署名が躊躇いながらもふたりぶん書かれていく。
「婿殿、君の憂いは全て解決済みだ」
「う、憂い!?」
「この一週間、お父様は頑張ったのだよ!」
何を頑張ったのだろうか。とても気になるが、ミューンは一番の存在が横に居る。
「ミューン様……」
「フリック……」
「若きふたりよ、これより愛が育つ時だぞ!」
しかし、何かが違う。ミューンはこんなスピーディーに強引にするつもりは無かった。
フリックは、無理矢理過ぎる展開に引いているのではないか?
恐る恐る、ミューンはフリックの表情を伺った。
だが。
「……でも、番になるんですし、何時婚約しても一緒ですよね」
「そ、そうね……」
少し暗めの若草色の睫毛が伏せられたフリックの表情は……明るかった。
「侯爵閣下は合理的で実務的で明るくて凄いですね。流石愛する僕のミューン様のお父様です」
「……そうね!ちょっと強引で御免ね!」
基本、ファザコン気味のミューンは愛する番に父親を誉められ、愛するミューン様と言って貰え、滅茶苦茶機嫌を直した。
「ミューン様、僕の愛しい婚約者になった、番の貴女」
フリックはにこり、と微笑みミューンの手をぎゅ、と握る。
「色々僕にも……困ったこと有りますけど、逃げないでくださいね」
「どんと!!どんと来いよ!愛する私の番、フリック!!」
「はっはっは!」
寧ろ私が表に立って困難をぶっ潰すの!頑張るわ!!とミューンは決意を新たにするのだった。
証人欄が……何故か王妃と第二王子で有ったのを忘れる程に。
見届け人の前でなきゃ貴族の婚約宣誓にならないんでは?とかのルールは法務大臣力(実務的)で省略しました。
お読み頂き有り難う御座いました!




