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観覧車


後期考査を終えた直後に、祐介と美香は、長い長い春休みに入った。




すいているだろう平日を選び、遊園地へと向かう日に 祐介はホテルのロビーにいた。




待ち合わせに現れた美香は、ジーパンにセーターを着てマフラーとコートを脇に抱えながら 笑顔を浮かべている。



「おはよう」


「おはよう」


祐介は眩しい美香のポニーテール姿に これまでで一番明るい彼女を感じていた。



「今日は遊園地だから、大学の体育で使うスニーカー履いてきた(笑)」



「あれ?リュックは?」



「それ、遠足やん!」




立体駐車場を出て 車を走らせる祐介の隣で、美香は金柑の飴を出して 祐介にすすめる。



「おやつ、300円をオーバーしてないよね?」


「え?(笑)」美香は笑った。


そして、ごく普通の若者のデートの始まりに大きな幸福感を感じていた。




当日は晴れたものの、気温はまだ低く 遊園地デートは寒かった。



それでも二人は思いっきり楽しむ。



太陽が傾きかける頃に観覧車の乗り込み、ゆっくりと上昇して空へ近づく様を眺めていた。



美香は、祐介のひざに置かれている彼の手を 両手で握り、



その肩にそっと頭を傾ける。




話さなければいけない事があるのだけれど、今だけはこうしていたい。




こんなにも楽しい日が永遠に続けばいいのに…。




沈む夕日の早さのように、なぜ楽しい時間はすぐに去ってしまうのだろう…。




あなたを好きだという証として、恋人の証として、





今夜、うちは……。




観覧車が地面に近づき始めた頃に、美香は一つの事を心に決めた。




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