鬼の姫様御出陣2
トウゲンは島国であるために海外に行くためには船で渡航しなければならない
ここから一番近い国は隣国アキュシュルというトウゲンと同じほどの国土しか持たない小さな国
獣人族である犬獣人が住まう土地で、トウゲンとは友好関係にある
船での距離は最短距離を通って一時間ほどという近場にあるのもその要因である
「さて、クロハもハクラも外は初めてですね。外の世界では気を付けねばならないことがたくさんあります。何か分かりますか?」
「はい! 知らない人について行かないこと!」
「人を馬車で撥ねたから示談金としてお金が必要、って言う詐欺師に気を付ける」
「ハクラは正解ですね。クロハは、気を付けなければならないという点では正解です」
二人の頭を撫でると、二人共目を細めて幸せそうな顔をする
「む、そろそろ出ますね。ハクラ、クロハ、見ていてくださいね」
船から海面に立つアマノ
彼女は刀を抜き放つと海面上をにらみつけた
「クロ姉様、アマノ姉様は何をしているの?」
「たぶん魔物、この辺りには結構多いって本で読んだ」
アマノが睨む海面が突如盛り上がり、あまりにも巨大すぎる龍のような魔物が顔を出して、今にも食らいつこうと大口を開けた
「姫様がた、あれはこの辺りの海を徘徊する妖魔、アヤカシであります。危険ですのでお下がりください」
「ひぃ、怖いよクロ姉様。アマノ姉様が食べられちゃうよ」
「大丈夫、アマノ姉様なら問題ない」
クロハの信頼通り、アマノは一撃でアヤカシの頭を消した
斬り飛ばしたなどという生易しいものではなく、頭自体が元々なかったかのように消えたのだ
アヤカシはSランクを超える特定危険魔物にも数えられているほどの妖魔
それを一撃で消すほどの実力を持ったアマノはまさしく大英雄の称号にふさわしい力を持っていた
「ふぅ、怪我はありませんか? 三人とも」
「アマノ姉様、怖かったよぉ」
「大丈夫、ハクラは私が守ってる」
「いえ、姫たちは私が守るであります」
アヤカシを怖がっているが、双子の実力は冒険者のSランク相当
まだ幼いながらにこれほどの力を持っているため、双子はすでにギルドからのスカウトが来ているほどだった
成人すればいきなりアマノと同じSランクという待遇でだ
「もうすぐ着きますよ。準備をしてください」
着岸し、四人は船を降りるとその足でアキュシュルへと歩き出した
アキュシュルまではこの海岸から距離は近く、少し歩けば到着する
海岸では漁がおこなわれているためすでに犬獣人の姿や、同じくトウゲンから渡った鬼人の姿がちらほらと見える
漁を終えて獲物を運ぶ獣人たちに交じるように四人はアキュシュルへと入国した
ちなみに鬼人は特に検査されることもなく入国可能だ
だがこの四人はそうもいかなかった
何せトウゲンの重鎮にして名のある大英雄にして聖女のアマノがいる
彼女を人目みた獣人たちに一気に囲まれてしまった
アマノは周辺国ではアイドルのように扱われており、ファンクラブまでもがある
それはクロハ、ハクラも例外ではないようで
双子のファンもそれなりに彼女たちを囲んでいた
「あう、姫様達が囲まれてしまったであります。お守りしなければ」
すぐにコミネが間に入って、まるで本当にアイドルを守るエージェントのようだ
アマノが私用のため旅に出ていると知ったファンたちはすぐに理解し、後ろ髪を引かれる思いながらも去って行った
「取りあえずここで一晩を過ごして、明日発ちます。目指すはアルスランド。そこのヴァシュルア教の支部に用がありますので」
ヴァシュルア教は本山が常に移動していたが、もともとはアルスランド支部が本部だった
そのため未だアルスランドには情報が残っているかもしれないと考えてのことだ
四人は宿を取って、その日は明日からの旅のためにゆっくりと休むことになった




