鬼の姫様御出陣1
鬼人の国トウゲン
「アマノちゃん、あまり根を詰めないようにね」
「お母様、それもこれもクロハとハクラを守るためなのです」
Sランク冒険者にして聖女、そして世界でも三人しかいない大英雄の一人であるアマノ・キビツは極度のシスコンだった
たとえ蚊であろうと妹たちを傷つける者を許さない
だが今はその心配性もひとしおとなっている
聖女を狙う何者か
遠い異国でその元凶たる宗教の教祖が捕らえられた
そのことが伝わってはいるが、未だにアマノを暗殺しようと刺客が送り込まれ続けていた
「ヴァシュルア教の教祖は捕まったはずですが、それでもこの状況。それも私だけではなく妹たちにまで魔の手が迫っているのです」
「いえそれはあなたの勘違いで」
「お母様! 私は妹たちを守るためならばどのような手段もいとわないつもりです。たとえこの身が滅びようとも」
「いやな聞けアマツ。お前がそんな手段に出れば国が亡びる。あの程度の刺客ならばクロハでも倒せるだろうに。お前が刺客を倒せば存在ごと消えるではないか。少し落ち着いてだな」
「いいえお父様! 妹たちに何かあってからでは遅いのです!」
「駄目だギン、我が娘は聞く耳を持ってくれん。誰に似たんだか」
「あら、あなたにそっくりですよキンゲツ」
おしどり夫婦であるキンゲツとギンカはアマツの融通の聞かなさにため息をつく
鬼人王の部屋を出るとアマノはその足で妹たちの部屋へと向かった
クロハとハクラは鬼人族には珍しい双子で、黒鬼と白鬼だ
彼女らの父親のキンゲツは金鬼、母親のギンカは銀鬼
そしてアマノは虹色に輝く髪を持つ、鬼人の希少種の中でもさらに希少な虹鬼だった
そのためか、彼女は戦闘能力がビーストやオルグよりも高い鬼人の中でも突出した戦闘能力を持っている
誰が噂したか、山を十まとめて切り裂いただの、海を割っただの、様々な眉唾でよもやまな噂話が独り歩きしていた
そしてその全てが真実であった
おそらく彼女こそ世界最強である
女神ニャードリーアからの信頼も厚く、妹以外のことならば割とまともであるため、様々な世界の危機に立ち上がる善良なる者でもあった
「クロハ、ハクラ、入りますよ」
「あ、お姉ちゃんだ」
「姉様、どうぞ」
はつらつとした挨拶をする白く長い髪をなびかせ、その髪の一部をポニーテールのようにして束ねている少女がハクラ
クールな返事を返し、黒髪をひとまとめに下げている少女がクロハだ
双子はよく似ているが、一つ違うところがある
それは胸の大きさだ
ハクラが絶壁であるのに対し、クロハはすでに実り始めている
いずれアマノと同じくらいには育つだろう
そんな二人に抱き着かれてこの世の幸福を煮詰めて煮だしたような至福の表情を浮かべるアマノ
「あ~可愛い、なんてかわ、あああっもう、この子達、好きぃいい!」
双子ももうそんな姉に慣れっこなのか特に気にする様子もなくそのまま存分に甘えた
「さてクロハ、ハクラ、私はまた旅に出なければなりません」
「お姉ちゃ、姉様、そんな」
「ハクラ、姉様は忙しいの、わがままは駄目よ」
「うん、でもクロハお姉ちゃん・・・。寂しくなっちゃうよ」
「ええ、そうねハクラ、私も寂しいわ」
そんな今にも泣きだしそうな二人を再び抱きしめるアマノ
「大丈夫、あなた達を守るため私は行くのです。全てはあなた達のため。しかし私が行けばあなた達を守る者がいなくなるのも事実。お父様も確かに強いのですが、私くらい強い者に任せたいのです。だから、私と同じく大英雄が一人のオースティン・ワルワースに頼みました」
「え、あの人嫌い」
「鬱陶しいから嫌です姉様」
「だよねえええ!! でももう一人は連絡がつかないですし・・・。それならいっそ、一緒に連れて・・・」
「え!? お姉ちゃ、姉様と一緒に行けるの!? 行く!」
「姉様、ご一緒します」
二人はすぐにその提案に飛びつき、そのせいでまたキンゲツとギンカの胃がキリキリと痛む結果となった
つまり、双子は共に旅に出ることになったのだった
数日後、胃が痛み毎度の子供達の暴走にも慣れた両親に別れを告げて旅立つアマノと双子
そしてその後ろをヨタヨタとついて行くクロハやハクラと同じくらいに見える少女
その少女は鬼人の国にはいないはずの妖怪族の少女だった
スネコスリ族という人を転ばせる程度の能力しか持たない少女だが、彼女はその妖怪族だけの能力である妖術を使いこなす実力者だ
名前はコミネ、王の側近にして双子の親友でもあった
そして四人は足並みを揃え、トウゲンから旅立っていった




