43 メスケモ、教団と戦う16
四階層目
さっきとは打って変わってここは快適だった
空調でも完備されているかのよう
「ハァ涼し。さっきは死ぬかと思ったよ」
汗もひいて動きも戻ったし、もう濡れた猫みたいな匂いもしない
そしてこの階層はまず魔物がいなかった
明らかに居住空間と思われる場所がいくつかと、研究施設のようなものもあった
ただ人が一人もいない
ここがヴァシュルア教団のアジトと見て間違いないんだろうけど、もう逃げられたのかもしれない
「くっそ、誰もいないじゃんか。ネネコ、匂いとかわかんねぇの?」
「匂いは確かにあるよ。結構な数の人の匂い。それもつい最近までいたみたい」
匂いはところどころに残っていて、確実にここに人がいた気配はある
でも何処にも人はいない
ただ匂いは奥に続いていて、この四階層の奥に行くほどに人々の気配が近づいている気がするんだ
その気配はまるで一つでありながら複数
僕もよくわからないけど増えたり減ったりを繰り返しているみたいな
ともかく最奥に行かないと分からない
「お、何か見えて来たぞ」
アンクルスが罠がないかを確認しつつ何かを発見した
それはただの扉
どこにでもありそうな扉だし、それこそ家のような安心感がありそうな扉だ
「開けやす。下がっててください」
扉はすんなりと、驚くほどあっさりと開いた
そしてそこに広がっていたのは人がぐちゃぐちゃに引っ付いて固まったスライムのような塊だった
「なに、これ」
その塊はところどころの人間がグネグネと動いている
まだ、生きているようだ
「なんだこの、見ているだけで・・・。うえぇえ」
あまりのことに何人かが吐き出した
僕もその見た目と臭いに吐き気がしてくる
「あ、ああああ、痛い、助け」
「どうなってるの、私の、体・・・」
声がする。あの塊から
顔が、人の顔が苦しそうにうめいているんだ
もしかしてこの人たちは
「おおお、あなた方はもしや、我らがヴァシュルア教団に敵対するニャード教のかたたちですねぇ!」
いつの間にか男が一人僕らの前に立っていた
こいつからは臭いも気配も何も感じない。そこにいるのにいないかのような気持ちの悪い男
「さぁ、立ち話もなんでしょう、腰かけてください」
男が指をパチンと鳴らすと、なんとどこからともなく椅子と机が出て来た
いやこれは・・・、これは椅子や机なんかじゃない
「お、お前、こんな・・・」
「おや? この家具はお気に召しませんでしたか? 手塩にかけて育て、苦労して作ったのですが」
男はまるで悪びれもせずそう言う
家具はまだ生きているようで、苦しそうにうめいている
この家具たちは、人で出来ていた
「おぞましい、人の所業とは思えない」
リーリーも怒りをあらわにして震えている
「うーんやはり君たちとは分かり合えないのだろうか? 彼らは信者なんだ。信者の命は教主である僕のもの。彼らも本望だよ。ほら、嬉しい嬉しいって鳴いてる」
苦痛の悲鳴や嘆きをまるで歓喜のように感じているのか?
こいつはあまりにも邪悪すぎる
しかも喜んでいるように見えてこいつ、感情の起伏が感じられない
見た目は確かに喜び、受け入れられないことに悲しんでいるように、本当によく演技できている
そう、こいつは全てが演技臭いんだ
「まあともかく君たちはここまで来た。ということは僕を捕まえるってことだ。でもそれは困るなぁ。僕はまだまだヴァシュルア様の言葉を世界に広めなくちゃいけないんだ。邪神ニャードリーアを信仰する君たちや、その他の邪教徒は排除しなくちゃいけない。だから、やれ、ジュアコザ」
グジャグジャと蠢く後ろの塊
それはその形を変えていき、人を組み替えて作った蛇のようになった
「あが、痛いいいい!!!! 助け、助けて」
「痛いよぉ、ママぁ! ママァ!!」
蛇の体を構成している人々が叫び声をあげる
「さぁジュアコザ、そいつらも君の一部にしてやるんだ」
うねってこちらを標的に決めたのか、人の足が模した舌をチロチロと出し入れしている
その動きは正に蛇そのものだけど、動くたびに人々が痛みで悲鳴を上げている
「うーん皆ありがとう。その歓喜、僕を通してヴァシュルア様に届いているよ。さぁあいつらをやってくれ」
こいつはどこまでも人でなしだ
文字通り人間じゃない。体ではなく心が人間じゃないんだ
「リーリー、あの人たちを助ける方法は?」
「ご、ごめんなさいネネコちゃん。私も知らない方法で、体がめちゃくちゃに引っ付いちゃってる。これじゃあもう・・・」
助けようがないってこと、なのか・・・
いや、まだやれることはある
あの時のサクラみたいに分離できれば
でもこの蛇には千人近い人々が絡まり合って繋がっている
僕の力でも救えるか分からない
それでもやるしかない。彼らを救うんだ




