22 メスケモ護衛になる10
「間もなく世界は開かれる。ヴァシュルア様が降臨なされる。試練を得た者達に救いを与えるために」
全身に黒い装束を纏った男がヴァシュルアの像の前で手を広げ、信者たちに演説を垂れている
男の横には同じような装束の七人の男女が立っている
誰もが目をぎらつかせ、歓声を上げる
演説をしていた男の名はワズム・リーヴェルト
本来の教団の長であった父を謀殺し、自身が教団の長へとなり替わった
全ては自分が信じる教義を普及させるため
彼は元々大人しく、人を思いやれる人物だった
だがある日を境に変わってしまった
世界が自分に試練を与えるのはそうすることで幸せに導くためだ
ヴァシュルアの教義には確かに試練を与え、それを乗り越えることでより人は成長し、人生の豊かさと幸せを得るというものがある
それを拡大解釈させ、より強い試練を自らに課し、死後に幸せな世界に行けるという教義に変えてしまった
この試練により死傷した者は少なくなく、しかし皆それこそが幸せのためと信じてやまない
「さぁ、ヴァシュルア様の威光をあまねくすべてに示すのです。そのためにもニャード教を排斥しましょう。まずは聖女を天に返すのです。これも試練。たとえ異教徒や邪教の聖女であろうと、死により幸福の元ヴァシュルア様に導かれることでしょう」
ワズムの言葉により教会全体が震えるほどの歓声が上がった
クラウベルさんを狙った男をしっかりと縄で縛ってから頬を叩く
男は目を覚まして驚いた顔をした
「な、なぜだ。俺はヴァシュルア様の元に行っているはずなのに。試練を超えたはずなのになぜ」
混乱しているようだけど関係ない
「話してもらうよ。聖女様にあんなことをした理由と、お前たちの正体を」
「話すわけがないだろう。俺は聖女を殺して幸せを掴むんだ」
「誰かの犠牲で掴める幸せがあってたまるか!」
僕は思わず男の胸倉をつかんで縊り殺そうとしてしまった
「ネネコちゃん!」
リーリーに止められてハッとする
ここからは長期戦だった
男は黙して語らず、脅しにも屈しなかった
そもそも彼らの教義ではこれすら試練と考えられているのだろう
僕ではだめだ。くやしいけど
「変わるわ。この魔法、あまり使いたくないんだけどね」
リーリーが男の頭に手を置く
「ヒュプノス」
男の目から意思が消える
「これって」
「違法じゃないよ一応。こういう場合には許されてるのよ私は」
「私は?」
「そこは気にしないで」
気になることを言ったけど男の言葉を聞かないとね
「質問するわよ。まずあなたはヴァシュルア教団の者で間違いない?」
「ああ、俺は聖女を殺す役目を仰せつかった暗殺部隊の者だ。この役目を終え、祝福を得てヴァシュルア様の元へ旅立つんだ」
暗殺部隊まであるのか
聖女を殺す役目に暗殺部隊ってことは、他の聖女にも暗殺の魔の手が迫ってるんじゃ?
「それじゃあ教団はどこにあるの?」
「何処にでもあり何処にもない。教団は常に移動している」
「じゃああなたはどうやって戻るの?」
「一度教団から出たものはヴァシュルア様の元へ行くのみ」
話は分かった
元凶の教団は暗殺集団を使って聖女を殺害し、それを皮切りに世界中のヴァシュルア教以外の宗教を消すつもりみたいだ
恐ろしい。改宗させるんじゃなくて宗教も、それを信じる者も、あまねく全てに試練と死を
そして自分たちも死を迎える
この世の全ての人々は死に絶え、ヴァシュルア神の元で幸せに暮らす
それは世界の終わりを意味している
教義とはいえヴァシュルア神がそれを許すとは思えない
拡大解釈された間違った教えなんだから
「ともかく他の聖女に伝えないと。クラウベルさんに報告しよう」
まだ全快はしていないけれど、座れるくらいには回復している
一刻も早く伝えないと他の聖女が危ない
クラウベルさんの部屋へ行き、男から聞いた情報を伝えた
「そうですか・・・。他の聖女たちも狙うと・・・。しかし心配には及びません。あの二人は私など足下に及ばないほど強いですから、そもそも攻撃が通りません」
「へ?」
聖女はニャードリーアから加護を受けている
クラウベルさんだと怪力の加護で、発動してから時間が経てばたつほどにその力を増していく
でも発動していない時の肉体は当然普通の少女のもので、当然弓による攻撃でも死に至る
しかし他の二人は違うらしい
エルフの聖女ハリルララハさんは閃光の加護を持っていて、そもそもその姿を捕らえるのも難しい
たとえ攻撃できたとしても、その速さで攻撃があたる前に攻撃したものが倒されているらしい
鬼人の聖女アマノさんは、元々武人。その強さはSランクの冒険者としての資格を有しているほどで、世界でも数えるほどしかいない最強の一角だとか
「私もそうありたいですが、如何せん私は元々の地力がないものでして」
取りあえず他の聖女は心配なさそうだけど、ヴァシュルア教団は何とかしないと、またクラウベルさんが狙われるとも限らないし
「申し訳ありません皆さん。私の怪我が回復し次第次の街に向かいましょう。教会本部にもこのことを報告し、注意を促さないといけませんから。これ以上、誰かが傷つくのは、いやですから」
自分の命が狙われ、死にかけたにもかかわらず他者を思いやっている
本当にこの人は聖女なんだな




