20 メスケモ護衛になる8
まず聞きたかったのは、この世界の宗教についてだ
主な宗教は女神ニャードリーアを祀ったニャード教
非常に大きな教団で、女神の記した経典通りに人を差別せず、弱者に手を差し伸べる
あとは皆幸せに暮らすって経典もある
まあこの世界ではだいたい皆この宗教を信仰している
しかしここ数十年、一つの宗教が台頭してきた
それがヴァシュルア教だ
男神ヴァシュルアを祀り、厄災や災害と言った試練を突破することで人は幸せになるという教義を掲げている
病気や怪我も試練で、治さず自らの力で立ち上がることをよしとしている
そうなってくると弱者に手を差し伸べるニャードリーアの教義はヴァシュルアの教義と反している
ただ、昔はニャード教とのちょっとした諍いはあったものの、ここまで過激なことはしなかった
こうなったのはここ十年ほどで、ヴァシュルア教の指導者が変わってかららしい
三代目となるその指導者は、ヴァシュルア教こそがこの世界を導く宗教であり、ヴァシュルアは唯一神で、それ以外の神は全て邪神であると言い始めた
この世界、神様は十柱いて、ニャードリーアもヴァシュルアもそのうちの一柱
つまりこの二つの宗教以外にもそれぞれの神を祀った宗教はある
ただニャードリーアは度々世界に降臨しては人助けをしていたためここまで膨れ上がったのだろう
って言うのがリーリーの見解だった
「まあ宗教ってのは本来人の心を救うためのものだから、ヴァシュルア教に入信してる人も救われたんだろうね。治癒魔法なんかじゃ治らない人やその家族、あっちの教義は試練を乗り越えたその先にこそ開かれる楽園と幸せ。今世で辛い目にあった人ほど、のめり込むのかもね」
リーリーは遠い目をして何か思いにふける感じ
もしかして、そのヴァシュルア教と何かあったのかな?
ともかくそのヴァシュルア教は三代目の指導者になってから他の宗教を排斥するようになった
時には脅して改宗させ、従わなければ今回のような襲撃
すでに他の街でも殺害されたニャード教の信徒もいるらしい
宗教問題は前世でもかなり複雑だった
難しい問題だ。どうにかなればいいけど・・・
それともう一つ気になることが
ニャードリーアは何度か降臨しているって話
故郷では神様の話なんて全然聞かなかったから、もし本当に降臨しているなら一度会ってみたいかも
話を終えて考える
今回の襲撃がそのヴァシュルアの教徒によるものだとは確定していない
砂になった襲撃者の残った服にもヴァシュルアに関する手掛かりはなかった
ただ、たった一つだけ手掛かりは残っている
それはクラウベルさんから取り出された矢じりだ
矢じりの中には矢の部分に製造番号や製造工房のマークが入っていたりする
削られてはいたけど、マークが少し残っていて、そこから工房が分かった
なんとこの街の商業区にあるメータル工房というところで作られたものだった
恐らく足がつかないようこの街で買ったものではないかってリーリーは言った
「リーリー、その工房に行ってみようよ」
「ええそうね、もしかしたら何か分かるかも」
二人連れだって商業区の方へ出かけた
商業区東のメータル工房
この街でも名の知れた工房で、高品質な武器を安価で買えると評判がいい
扉を叩くと直ぐに開き、小さな女の子が現れた
「いらっしゃいませー。メータル工房へようこそー。えっと、お姉さんおっきいね。大剣にする? それとも直剣? 使うよね? それとも他の」
「い、いえ、僕達はちょっと聞きたいことがあってきました」
この子、なんで僕を見ただけで使ってる武器を見破ったんだろう? 大剣も直剣も袋に収納してるのに
でも今はそんなことどうでもいいか
「聞きたい事? いいよ、入ってー」
中に通され、テーブルに通された
「座ってー。それでこのメータルに何の用-?」
「え、メータル工房のメータルって名前だったんだ。ってこんな小さな子供が工房主!?」
「失礼だねー。私これでも大人なんだけどー。あ、もしかしてお姉さんドワーフ見たことないの?」
「い、いえ、男性のドワーフなら街で見たことあるんですけど」
この街にも何人かドワーフがいた
でも女性ドワーフって見たことないんだよね
「そっかー、まあ私みたいに工房主してる女は珍しいからねー。ドワーフも女はあんま外でないし。で、聞きたい事ってー?」
「えっと、この矢じりを見て欲しいんです」
「お、うちで作ったやつだね、でもおかしいな、なんで製造番号削ってるのー?」
「これは、聖女様を殺害しようとした下手人が放った矢なんです」
「下手人? ちょっと待ってねー。えっと、この形は三日前にベックの店に卸したやつだー」
「え、形でわかるんですか?」
「うんー。私の目って特別製でねー。見たモノの形状を全て記憶できるんだー。だから寸分たがわずまったく同じ武器も作れるんだけど、こういうこともあったりするからね。なるべく形は二つとないようにしてるんだー」
さらっととんでもないこと言うなこの人
でもこれでもう一つ行く場所ができた
「ありがとうございますメータルさん。それで、ベックさんの店ってどこにあるんですか?」
「三軒隣の店ー。あ、そうだ、これ持って行ってー」
ついでとばかりに剣や盾や防具を渡す
「情報の代わりってやつですね。分かりました!」
結構な量だけど、それを担ぐとメータルさんが不思議そうな顔でこっちを見る
「なんでその袋使わないー? 便利なのに―」
「ああ、信用のため?ですかね このまま逃げちゃったら駄目でしょう? この袋、僕にしか扱えないから証拠が残らないし」
「ハハハ、正直なお姉さんだー。いいねー、君みたいな子は好きだよー。何かあったら尋ねておいでー。格安で請け負うからー」
「あ、ありがとうございます」
武具を担いだまま僕はベックさんの店へ向かった




