19 メスケモ護衛になる6
この町では特に問題もなかった
リーリーは新しい本を手に入れてほくほくと僕のお腹に顔をうずめている
僕も読んでる冒険物小説の新刊らしい
また読ませてもらおう
出立の準備を終えて僕らは馬車に乗り込んだ
「はぁ」
クラウベルさんがため息をついた
「どうかしたんですか?」
「あ、ごめんなさいね。教会の仕事はやりがいがあるけど、格式ばった儀式とかはちょっと苦手なの」
そう言えばリーリーが、クラウベルさんは平民から聖女になったって言ってたな
他二人は王族らしいけど、クラウベルさんは女神の加護を受けたから大抜擢
だから貴族のマナーとか、聖女らしい仕草とかを一から習ったんだって
確かに僕も今からそういうの習えって言われると、うーん嫌
次の街に向かうまでの道中、僕は一つ気になっていたことをリーリーさんに聞いた
「ねー、ビーストの国ってどこにあるの?」
「へ? ネネコちゃんビーストなのに知らないの?」
「無知でごめんなさい」
「あ、馬鹿にしてるわけじゃないの。ビーストなら皆知ってると思ってたから」
どういうことだろう? 僕みたいに田舎出身のビーストもいるはずだけど、みんな知ってる?
世界中のビースト全員が?
「ビーストの国はね、かつてあった。今はもうないの」
「え!?」
詳しい話を聞くと、かつてあったビーストの国プライディアは、人間によって滅ぼされた
それがおよそ500年まえくらい
昔はビーストを奴隷とするために人間が街なんかを襲って攫ってたらしい
ビーストは確かに強いけど、人間は数の暴力で国自体を滅ぼしてしまった
王族は皆殺しにされて、再興も不可能
だからいまだにビーストたちは国を持たない
もしかして僕の故郷の集落もその混乱で逃げのびて来たビーストが切り開いた場所だったのかな?
昔の話、父さんも母さんも知らないって言って話してくれなかったし
まあ何か知ってるのは薄々感づいてたけど、多分国が滅んだことを話したくなかったのかな?
今は平和だし、別にいいけど
それで、ビーストの国を滅ぼした人間族はある種の罰を神様に与えられた
元々の人間の寿命は二百年以上と長かったけど、ビーストと同じ八十年ほどになった
で、それから数百年経って、あのクレナイさんの旦那さんが立ち上がって差別をなくしたんだ
うーん、結構悲惨な歴史があったんだ
もっと勉強しないとなぁ
リーリーに色々と教わりながら馬車に揺られて、次なる街、商業都市カラミラに到着した
ここは隣国ヴァラガの国境に近いため、貿易と商業が盛んらしい
そのためかなり大きな都市になっている
外から見ただけでも相当な広さがあるのが分かった
何せ身長3メートル近い僕でも見上げるほどの門の大きさ、多種多様な種族の行き来
一目で商人と分かる人々が行き交ってることで商業都市という名を体現している
ここにはかなり大きな教会があって、三日ほど滞在しないといけないらしい
「では私は教会に行きますね」
今回は僕とリーリーが最初の護衛だ
まあこれだけ大きな街で教会付きの神聖騎士もいるから、そこまで心配することもないけど、万が一ってこともあるしね
常についておく護衛が必要ってわけだ
それに僕とリーリーは女性だから、彼女のすぐそばに置いとけるしね
クラウベルさんの後ろについて、大きな教会の中に入った
一応いつもの冒険者服じゃなくて、こういう場での正装にしてある
僕の場合女性物が売ってなかったから、男性物を着てるけどね
一応ネクタイではなくリボンをつけている
「ようこそ聖女様。こちらです。護衛の方もどうぞご一緒に」
この教会の司祭であろうおじいさんに案内されて部屋に通される
一応僕ら護衛も同じ場所に泊めてもらえるらしい
その方が守りやすいしね
「それでは聖女様、早速なのですが」
「ええ、ネネコさんとリーリーさんは少しここで待っててくださいね」
司祭さんに連れられてクラウベルさんは行ってしまった
「ふぃ~、堅苦しいのは苦手だ~」
「そうね、でもネネコちゃんもこういう場に慣れておいた方がいいと思うよ。いずれ王族とかにお目通りとかもありそうだし」
「ないよ、絶対ない。というかさせない。手ごろな功績を立てて、のんびり暮らしたいもん」
「無理だと思うなぁ」
リーリーの言ったことはともかく、冒険者として成功はしたい
そしたら僕の故郷も名が上がって人が来るかもしれないしね
まああそこ、ほぼ未開みたいなとこだから、行くまでに道なき道を行かねばならぬけどね
一時間ほど部屋でのんびりと本を読みながら過ごしていると、扉が叩かれた
「ネネコ様、リーリー様、クラウベル様がお呼びです」
「え?」
何の用だろう? 護衛以外することないって聞いてたのに
呼びに来たシスターらしきお姉さんの後ろをついてクラウベルさんのいるところへ
扉を開くとクラウベルさんと、司祭さんが席に座って待っていた
「ネネコさん、リーリーさん、困ったことになりました」
「困ったこと?」
司祭さんが言うには、ここ最近教会関係者が襲われる事件が相次いでいるらしい
ここカラミラや、他の街でも同様の被害が報告されているそうだ
「犯人の目星は?」
「一度犯人らしき男が捕らえられたのですが、取り調べの最中に突如体が砂になって崩れ、証言を聞きだす前に・・・。あ、しかしですね、その男は、我々の崇高な目的と言っていたので、他に協力者がいるのは間違いないようです」
「協力者、ですか」
「はい・・・、申し訳ありません。もう少し証言を引き出せていればよかったのですが」
困ったことがあれば解決するのが聖女の務め、らしいけど、その協力者の手掛かりが何もないんじゃやりようがない
「あの、ネネコさん」
「分かってますよ。他の冒険者にも協力してもらって捜査網を引きましょう。リーリーさん、おとり捜査して欲しいんですけど」
「あいあ~い」
リーリーは変装させれば教会関係者に見える
僕はでっかすぎて駄目だろうけどね
今日シスターが一人襲われて大けがを負ったらしく、他の街と同じならまた襲撃があるだろうとのこと
それならおとりを立ててわざと襲わせて襲撃犯を捕まえて情報を聞き出せばいい
リーリーなら自衛もできるし適役だと思う
ひとまず他の護衛冒険者と、それとこの街の冒険者、教会関係者との打ち合わせもあるし、決行は三日後となった
おとりもリーリーだけじゃ足りないしね




