17 メスケモ護衛になる4
出立の日、朝の鐘が鳴り響く中、僕とリーリーは集合場所に集まっていた
一応他にも依頼を受けている冒険者もいるけど、僕達を合わせても10人だけ
「ご依頼を受けていただいた冒険者の方々ですね? 初めまして、三聖女が一人のクラウベルと申します」
まさかの聖女様自身が挨拶に来た
しかも、滅茶苦茶可愛い!
透き通るような白い肌にショートの水色の髪、目の色も青空のような青
人間族で、すごくやわらかな物腰
お姉さん、理想的なお姉さんだ。リーリーと大違いだ
そしておっきい。何がとは言わないけど、背も高い僕に負けず劣らずおっきいんだ
「あれ、そう言えば三聖女って」
「えーネネコちゃん知らないのー? 1吸いさせてくれれば教えたげるよー」
本を借りても吸うだろうし、教えを乞うても吸うだろうし
仕方ない、ここはおとなしく吸われるか
「教えてリーリー先生」
「いいでしょう!」
リーリーはすぐに分かりやすく説明をしてくれた
まずこの国にはクラウベルさんという聖女が一人いる
彼女はニャード教会では二番目に偉い地位にいる
聖女と言うのはそのくらいすごい人達で、聖女の上には教皇という、ニャード聖教国を治める人がいるだけ
あ、ニャード教会と言うのは、この世界の唯一神である女神ニャードリーアを祀っている教会
女神、女神かぁ、僕みたいな転生って神様に導かれて、みたいな感じじゃないのかなぁ?
女神様、見たことないなぁ
気づいたらこの体で赤ちゃんしてたし
で、聖女は他に二人いる
この国にはいないけど、一人はエルフ族のハリルララハさんで、もう一人は鬼人族という、僕も見たことない種族のアマノ・キビツさん
何故この三人が聖女と呼ばれるのかと言うと、女神の加護を受けているかららしい
その詳細まではさすがのリーリーも知らないっぽい
「と、こんな感じかな? 分かったかなネネコちゃんスーーーーーーーハアアアアアアアアアアッハアアアアンン最高ぉおおおおおおっふううううう!!」
ヤダ気持ち悪い
でもやっぱりリーリーは僕の知らないことを知ってて助かる
変態だけど助かる。アライグマタスカル
クラウベルさんは優しく微笑みながら冒険者一人一人に挨拶していく
「あら、ビーストさんも! なんて美しいのでしょうモフゥウウ」
「え、ちょ、クラウベルさん!?」
「ああ、なんて気持ちいいのでしょうスウウウウウ!!」
これは、この人は、リーリーと同じだ・・・
挨拶も終わり、冒険者がパーティごとに乗り込む
僕とリーリーはなぜかクラウベルさんと同じ馬車に乗ることになった
右にリーリー、左にクラウベルさん
二人して僕のお腹に顔をうずめて吸っている
「ブフゥウウウ、たまんないぃいい」
「スウウウウウ、これよこれ、ネネコさん本当に最高だわぁ」
僕はハァとため息をついて、もうあきらめ半分で眠り始めた
しばらく馬車に揺られ、どうやらどこかに到着したようだ
「ここはアガの村です。特に用事と言うこともないのですが、何か困ったことがないかを聞いてきますね」
王都までの道のりはまだ長い
もしかして、道中の村や街は必ず寄るのかな?
聖女の活動、興味あるしついて行くか
「僕も一緒に行きます。何かあるといけないですし」
「ネネコちゃんが行くなら私もー」
リーリーと一緒に馬車を降り、クラウベルさんの後ろを歩く
「村長さんの所へ行きます。こっちですよー」
クラウベルさんは多分何回かこの村に来たことあるんだろうな
迷うこともなく村長さんの家へ
「ここです。コンコーン、村長さーん、クラウベルです」
扉が開いておじいちゃんが一人出て来る
「おお、クラウベル様、ようこそおいでくださいました・・・。ひぃ! そ、そちらの方々は?」
「王都への護衛の方です。可愛いでしょう?」
「は、はあ、すみません。ビーストの方ですな? 見たことがなかったもので申し訳ない」
「いえいえ~」
僕は村長の家に入れない
体が大きくて扉を通れないんだよね
取りあえず外で待つことにした
リーリーも一緒にね
村長と話している間、僕らは村にいる子供達に囲まれた
「でっけぇ! すっごいでっかい猫だ!」
「いや僕は猫ではないんだよ少年」
「私知ってる。ビーストって種族だよね? かっこいい!」
子供達はでかすぎる僕を怖がることもなく、むしろ嬉しそうに僕の体をよじ登ったりしてる
小さくて可愛いな。でも触っちゃうと傷つけるかもだから、下手になでなでとかできない
僕の爪、ゴブリンくらいなら簡単に真っ二つにできるしね
10分ほどしてクラウベルさんが出て来る
「すみませんお待たせしました。少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
うん、大方の予想はついてる
多分村で困ったことがあったんだ
それで僕らの力を借りたいって話だろうなぁ
「受けるかどうかは別として、お話は聞かせてもらいますよ」
「ありがとうございますー」
村長さんが言う困った問題
それは畑を荒らす猪をどうにかして欲しいってことだった
「いいですよ、そのくらいおやすい」
「待ってネネコちゃん。こういうことは無償で引き受けちゃだめ」
「え? どういうこと? 猪くらいどうってことないよ?」
「それでもダメ、冒険者と依頼人はお金で契約するのは絶対条件よ。家族くらいならまあいいけど、赤の他人となると無償はだめ。お金は信頼の証でもあるの。それにあなたが無償で受けちゃうと、他の冒険者の迷惑にもなるわ」
「そ、そっか・・・」
「大丈夫ですよリーリーさん。お金は私が出しますから」
クラウベルさんは懐から袋を取り出し、中身を確認していると
「お待ちください聖女様。私共でお支払いします。そのくらいの蓄えはありますので」
「ふふ、ではそうしてもらいましょうか」
ふむふむ、信頼か
確かにクラウベルさんが払ったんじゃ、これからもそうするの?って話になっちゃう
もし次に困ったことがあって、クラウベルさんがいなかったら、冒険者を自分達で雇うか、自分達だけで討伐しなくちゃいけない
誰かに頼りっぱなしは、この世界では生きていけなくなる
現実はちゃんと厳しいのです
村長が払うことが決まり、僕らはその荒らされるという畑を見に行った
見たところ確かに畑の芋が掘り返されて荒らされてる
しかも一個を全部食べて次へって感じじゃなくて、一口かじって捨てて次へって感じ
これをやられると農家は溜まったもんじゃない
「猪ってどのくらいのペースで来るんですか?」
「一日一度、夕方に必ず襲撃してきますね。かなり巨大なので、我々では手の打ちようがないのです」
確かに村の人達で男手はあまりいなさそうだ
ざっと見た感じ子供と女性、そして老人が多い
男手は子供達の親くらいか
「夕方か、まだ日が落ちるには早いけど・・・。クラウベルさん、出立が遅れても大丈夫ですか?」
「はい、こんなこともあろうかと一か月早めに出ていますので」
「よし、夕方まで待って猪を倒そう」
話はまとまった
他の冒険者や教会関係者の人に事情を説明して、一日出立を待ってもらうことになった
冒険者たちも我も我もと猪討伐に名乗りを上げてくれたけど、たかだか猪くらいなら僕一人で事足りる
故郷の集落では10メートルはある猪を素手で狩ってたからね
夕方になり再び畑に来る
すると地鳴りが聞こえて来た
「ネネコちゃん、来たみたいよ」
「うん、あっちだね」
畑に近い森、そこから巨大な黒い影が現れた
小山くらいあるな
でも故郷にいた猪に比べたら小さい小さい
「よし、ぶっ飛ばすね」
肩を回して猪の前に出る
「ブルルルルルル」
鼻息荒い。興奮してる時のリーリーみたいだ
「あのネネコちゃん、なんか失礼なこと考えてる気配がするのだけど」
「うん考えてた」
そう答えて僕は猪の鼻を思いっきり殴って吹っ飛ばした
「あら、予想以上に予想以下だ」
一撃で猪は動かなくなった
これでもう終わりか。歯ごたえなかったな
「ネネコさん! もう一体走って来てます!」
クラウベルさんの声にハッとして森の方を見ると、すでに眼前に迫った猪の牙があった
これは、避けようがないかも
「ちょっと失礼しますよー」
僕の肩にとんと手が添えられて、僕を飛び越えクラウベルさんが猪の前に飛び出した
「セイントナックル!!」
ゴシャァという音がして血しぶきが上がる
「え? え?」
クラウベルさんが目の前に飛び出したと思ったら、猪の頭が無くなっていた
何を言ってるか分からないと思うけど、僕も何が起きたか分からない
「あの、クラウベルさん?」
「ふーすっきり。最近殴ってなかったから溜まってたんですよねー」
振り向く血まみれのクラウベルさん。その拳にはガントレットがつけられていて、それも真っ赤に染まっていた
「ひっ」
「怖がらないで下さいー。これ女神様の加護なんですー」
慌てているクラウベルさん
焦ってる姿は可愛い
畑を荒らしていた猪はもういない
無事村での困りごとは解決した
そして夜
猪肉がふるまわれ、宴が終わったあとの泊ってる客人用施設のベッドの上
そこで僕はクラウベルさんに加護のことを聞いた
「私の加護は怪力。発動してから一分毎にその強さを増すと言うものです」
「一分毎の強化!? それってかなり強いんじゃ?」
「そうですね。ですが一人では非力です。そもそも強化される前ですと普通の人間の男性に簡単に抑え込まれますからね」
ふむふむ、クラウベルさんの怪力の加護は守ってもらうことが前提なのか
「えっと、他の二人の聖女様はどんな加護を持ってるんですか?」
「あの二人はすごいですよ」
あと二人の聖女、その加護をあっさりと教えてくれた
エルフの聖女ハリルララハさんは閃光の加護
光ほどは速くないけど、音速に近い速さで動けるらしい
動体視力も上がって、相手の動きがほとんど止まって見える
鬼人の聖女アマノ・キビツさんは、東方の島国の聖女で、彼女についての加護はクラウベルさんもよくわかってないみたい
不可視の加護ってのだけは知ってるけど、それがどういう加護なのかが分からないってことらしい
「何か見えないものがあるってのは分かるんですけど、気づいたら虹色の光を放っててー・・・、フフフ、さっぱりですー」
ともかく聖女の中で一番強いのがそのアマノさんだって
ちなみにだけど三人とも神聖魔法にも優れてて、百人単位を一気に回復できるほどのスペックを持っているとか
リーリーの神聖魔法もそのくらいできるんだけど、僕そこまで大きなけがしないから、もしかしたら使う機会ないかもね
まあ他の聖女は二人共結構遠い国にいるし、会うこともないだろう
さて、今日はもう寝て明日の旅に備えよう
そして翌日、村人たちに感謝されながら村から出立した




