13 メスケモランクを上げる5
休憩はもう十分か
奥の扉を開けて先に進む
あの霊が徘徊していないかおっかなびっくり進んでるけど、気配はない
いやあの霊気配がなかったからビースト特製の気配を察知する力はあんま役にたたないんだけど
今度は長い廊下だけが続いて、特に何も出ない
もう二度と出てきてほしくはない、正直
それにしてもこの廊下長いな
でもそれももう少しで終わりそうだ
奥には襖が見えて来た
「よ、よし開けるぞ」
ソロリと襖を開けると、そこには昔ながらの日本の花嫁装束を着た女性が座っていた
その女性は三つ指をついて頭をこちらに下げている
そしてゆっくりと面を上げていき、僕に顔を見せた
それはあの血まみれの女の霊の顔
しかし今は血が全くついていなかった
「旦那様、お帰りいただけたのですね? お待ちしておりました。長い長い時を、ずっと」
相手が何を言っているのか分からない
でも、女性はまるで恋焦がれているかのような目で僕を見つめている
「ああ、旦那様、ようやく、ようやくわらわたちは添い遂げられるのです。この時をどれほどお待ちした子とか。さぁ、契りを、わらわと婚礼の契りを」
「な、何を言ってるんですか? 貴方は一体」
「お忘れですか旦那様? わらわです。妖狐が長の娘、クレナイでございます」
「妖狐? クレナイ?」
「ああ、旦那様は記憶が混濁しておられるのですね? わらわの愛で、思い出させて見せましょう」
クレナイはそう言うと煙のように消え、僕の前に突如として現れ、僕の唇を奪った
「むぐぅ!」
すぐに押して離れさせた
「何するんですか!」
うっとりとした艶っぽい目で僕を見つめている
「僕はあなたなんて知らない。いきなり何なんですか?」
そう言うとクレナイは急に目をとがらせ、まるで般若のような顔に変わる
「ひっ」
「忘れた、のですか? わらわを、あれほど愛し合ったわらわを」
「だ、だから僕はあなたのこと知らないんですって」
「なぜ、なぜ、あなくちおしや、もはや語らう言葉なし、お前を殺し、わらわも後を追おうぞ」
「ちょ、やめ」
懐から短刀を取り出すクレナイ
しかたない、ここは戦うしかない
大剣を構えて彼女の方を向く
あれ? 気のせいか彼女の体がぶれてる?
「変化解除」
クレナイの姿が変わる
「これは、狐のビースト?」
「妖狐族長、キュウビが娘、クレナイ、参ります」
声が静かになった
でもそこから静かな殺気がこちらにビンビンと向けられている
この人、強い
「炎尾」
クレナイの持つ短刀が燃え盛り、斬りかかってくる
動きがさっき見た幽霊の動きそのものだけど、そこから繰り出される剣術は動きが全く読めない
僕の動体視力でようやく対抗できる
「雷尾」
え? 剣が二本に増えた?
途端にさらに攻撃の回数が増していく
二刀流か。大剣じゃ捌き切れない
僕は大剣を仕舞い、別の剣に変えた
これは集落で幼馴染の父である鍛冶職人が作ってくれた剣だ
軽くて人間でも扱いやすい代物
これなら僕も素早く立ち回れる
「く、この!」
確かに彼女の剣術は速くて鋭い
でもこっちでの剣技なら僕の方が速い
お互いの剣術と剣技がぶつかり合う
「おのれぇ」
さらに怒りが増したのか、クレナイの表情が恨みに満ちた禍々しいものに変わる
「水尾、土尾」
「え!?」
さらに腕が二本増えて攻撃が激しさを増す
「うわ、うわわわわ」
とてもじゃないけどさばききれない
装備が切り裂かれ、毛皮を切り裂かれ、僕は血まみれになって行く
「ああ、ああ、美しい、血濡れの旦那様も美し・・・女?」
僕の鎧がはだけて胸が露わになり、それを凝視するクレナイ
「そ、そうだよ。僕は女だよ」
いやまずなんだけど、僕結構胸おっきい方だからね。なのになんで初見で気づかないのかな
「女、旦那様が、女になって、戻って来た?」
「だから僕はその旦那様じゃないって」
「じゃが、気配が、魂の色が、旦那様と、同じ・・・。いやすまぬ。お主があまりにも百年前に我が元から消えた旦那様に似ておった故」
「旦那様もビーストなの?」
「人間じゃ」
「全然違うじゃん!!!」
「言ったじゃろう。魂の色が同じじゃと。わらわは人を魂で見る」
クレナイはどうやら落ち着きを取り戻したらしい
一体どういうことなのか、僕はなぜここにいざなわれたのかなどを聞くことにした
「百年ほど前、わらわには異界から来た旦那様がおった。虐げられておった妖怪族を庇護し、わらわと共に今の妖怪族の地位を確立した素晴らしい方じゃった。それまでの妖怪族は、魔物と同じ扱いであった故。あの頃は妖怪族だけではなく、ビースト、魔族も同じ扱いじゃった。それを変えたのがわらわの旦那様じゃ」
どうやら僕以外にもこの世界に来た異世界人がいたらしい
まあその旦那様とやらは転移してきたのかな? 僕は転生だけど、この世界にくる方法はいくつかあるのかも
ともかくその時代、ビーストや他のいわれのない非難や差別を受けていた種族が、その旦那様に助けられて、人権と地位を得て行ったらしい
そしてようやく平和になり、彼女はその旦那様と幸せに暮らそう、そういった時に急に旦那様は消えた
そこからこの二人の屋敷があった場所に閉じこもり、やがて彼女の妖気という力によって屋敷上にダンジョンが形成されたらしい
「迷惑をかけたな美しい白猫よ。お主のおかげで正気に戻れたわ。我が名はクレナイ。妖怪族統領にして、妖狐族が長の娘じゃ。こう見えてえらいのじゃぞ」
確かに正気に戻ってから高貴な気品が漂ってきている
「あ、そう言えばあの怖い姿は何ですか! おかげでおしっこちびったじゃないですか!」
「ああ、旦那様は怖いものが苦手だった故、驚かせようとしたんじゃ。まさかさらに怖がりのお主じゃとは思っとらんかったから、許せ」
そうやって素直に恭しく謝られるとこっちはもう何も言えなくなる
「それで、これからどうするんです?」
「さすがに旦那様消失から百年以上もたっておる。人間はそこまで生きれまい。一度国に戻るとしよう」
「妖怪族ってどのくらい生きるんですか?」
「ピンキリじゃが、わらわのように妖力が強い者なら軽く千年は生きるな」
「千!?」
「何を驚いておる。お主もそのくらい生きるじゃろう?」
「そんなわけないでしょ、僕ビーストなんだから、人間族と同じくらいですよ」
「ケラケラケラ、面白い冗談じゃ。まあお主に助けられたからな。何かあれば妖怪族の国を訪ねて来るがいい。何でも協力してやろう」
クレナイはそう言うと、僕に勾玉のようなものを渡した
「それでわらわと連絡が取れる。いつでも連絡してよいぞ」
そして彼女は消えた
それと同時に宝箱が一つ僕の目の前に現れる
開けてみると、動きやすい着物のような装備が入っていた
桜の刺繍がされていて可愛い
その装備をもらい、出口への転移用魔方陣のようなものが出て来たので、その上に乗って脱出した
外に出れたし、報告しに行くかな? おっとその前にお風呂に入って汚れを落とそう
このままだと臭うしね




