勇者3
ここに一人の少女がいる
最弱の勇者ナナミと時を同じくして生まれた少女だ
名をエアル・バタフライ
蟲人族という虫の特徴を持った人種で、蟲人国インセクリオンで勇者として生まれた
その見た目は醜悪そのものであり、勇者よりも魔物に似ているとまで言われて育った
両親は愛してくれていたが、かつて襲って来た魔物からエアルを守って死んでしまった
彼女はそれ以来この国の子供達からその醜さを疎ましく思われ、育ち、いじめられ続けた
それでも彼女は人を恨むことをしない
元来から優しい性格なのと、両親から常日頃、勇者としてのふるまい、人を守る心を教えられて育ったからだ
彼女の両親は蟲人の蝶種であり、蟲人の中でも無類の美しさを誇っていたが、なぜかエアルだけが醜く生まれた
勇者としての力はナナミと同じくまだ覚醒しておらず、そもそも運動音痴のため先頭には向いていない
毎日森に出かけて木の実を取ってはそれを食し、ただ生きる
しばしば近所の子供に石を投げられたりするが、大人たちはエアルの両親に助けられていたため、彼女を支援していた
もちろん子供達にいじめないよう厳しく言い聞かせてもいたが、所詮は子供である
その見た目からエアルはいじめられ続けた
「うう、ううう」
いつも目を泣きはらしていたが、それでも彼女はめげない
鍛錬はいつも続けていたが、すぐに転ぶ、剣に見立てた棒切れは手から離れて飛ばしてしまう、体力がないためすぐ吐く
だがその努力は間もなく実ることとなった
「エアルちゃん、今日も鍛錬? まあ、手が豆だらけじゃない。それに足に擦り傷まで。ほら、見せて見なさい」
近所に住み、エアルを可愛がっているおばあさんが神聖魔法でその傷を癒す
「大丈夫かい? 森は危ないから、気を付けるんだよ。それとほらこれ、お菓子を作ったからよかった羅持って行きなさい」
「あ、ありがとう、ござい、ます」
エアルは温かい気持ちになる
その時だった
「大変だ! ロードスパイダーが出た! まっすぐこっちに向かって来るぞ!」
「なんてこと! エアルちゃん、逃げましょう!」
だがエアルは剣替わりの木の棒を握って立ち上がる
「私、行きます」
その太った体で、短い手足で、必死に走り、エアルは蟲人の天敵であるロードスパイダーに立ち向かった
「私だって、勇者だから、皆のために戦う!」
木剣をギュッと握りしめて蜘蛛の攻撃を受け止める
しかし案の定弾き飛ばされた
「ぐあ!」
背中を強打して激痛で動けなくなる
「ひぃ! たすけて!」
蜘蛛がエアルのことをいじめていた少年に襲い掛かろうとする
エアルは動かない体を無理やり動かし、折れた腕でその攻撃を防いだ
「逃げ、て」
「エ、エアル、なんで」
「いいから早く逃げて! もう、もたな」
グシャァ
エアルは蜘蛛に噛みつかれ、右腕を千切り飛ばされた
「エアル!」
それでもエアルは立ち上がる
「勇者は、逃げ、ない。みんなを守るために、立ち向かわなきゃ」
エアルの体が光り始めた
「みんなを、傷つけさせない」
光は強くなり、周囲を包み込むほどに広がる
そして光の中から、絶世とも言うべき美しい少女が現れた
「エアル、ちゃん、なの? その姿はまさか、皇帝種!?」
蟲人族の中ではごくまれに皇帝種と呼ばれる王が生まれる
その種は国の女王となり、蟲人族を導くとされている
長い間女王不在だった蟲人族にまた女王が生まれたのだ
それはまるで幼虫がさなぎを経て羽化するかのように
「勇気をもってみんなを守り導く、それが勇者だよね、お父さん、お母さん!」
木剣に花が咲き乱れ、その形を変える
「フラワーセイヴ」
美しい花を咲かせた剣
その剣で蜘蛛を切り裂いた
ロードスパイダーはAランク相当の魔物だ
それを一撃で屠るエアル
彼女の努力は無駄ではなく、ちゃんとその身についていた
「エ、エアル、なの? 俺、いつもお前をいじめてたのに何で」
「なんで? だって、皆を守るために、私は、生まれたんだから」
エアルの見た目はあまりにも美しい
その姿を見て少年は頬を赤らめる
「その、ありがとうエアル」
「うん!」
にこりと笑ったその笑顔に、少年は完全に、堕ちたのだった




