勇者1
この世界に勇者はいるのか?
かつては確かにいた
勇者ラルズラールは魔王の侵攻を退け、世界から奴隷制度を撤廃し、世界から称賛された勇者の中の勇者だった
彼のおかげで魔族とも和解ができ、様々な種族が手を取り合う世界ができた
差別は未だあるが、大方世界は平和である
そんな現代に一人の勇者が一応はいた
名をナナミ・ズィーベン
龍人族の勇者
何十年かに一度生まれる勇者だが、彼女は歴代最弱だった
現在この世界には英雄や大英雄、聖女に強い冒険者がたくさんいる
歴代勇者より強いと言われる者までいる
彼女は本当にただの空気だった
神々に認められ勇者という称号を得るこの世界
彼女にはそれだけの実力があるはずだが、聖女よりも圧倒的に弱いため、勇者?いたの?程度にしか認知されていなかった
「うう、どうしてあたいはこんなに弱いんだろう? 神様が認めてくれて、加護だってたくさんもらって、冒険者ランクだって史上最速でBランクまで上り詰めたのに、そこから一向に上がらない。Sランクの魔物には勝てないし、他の冒険者には最弱の勇者ってバカにされるし・・・。毎日鍛錬は積んで、基礎だって完璧にこなせる。応用だって、出来てるはず」
彼女は一人、世界のためにと奮闘し続けている
だが世界には魔物などの被害以外に特に問題となることはない
最近宗教団体がやらかした噂は聞いていてが、彼女の活動する国から遠く離れた土地で起きていたことであり、間に合わない以前にその話が伝わった時にはすでに解決していたことだ
何より彼女にはそこまで行く路銀がない
Bランクまで上り詰めていた当初はたくさんの使命依頼が舞い込んでいて、休む暇もないほどに忙しくしていたが、今では簡単な街の清掃依頼や小物の討伐などで細々と生計を立てるありさまである
強い魔物にだって立ち向かうし、人を守るため命を張ることもできる
勇者としての素養は十分で、たとえ四肢欠損だろうと神々の加護で再生できる
しかし実力は勇者というにはあまりにも弱い
むしろ自分以外の龍人族よりも弱い
最弱の勇者は今日も今日とてため息をつく
ギルドで自分のできる依頼を品定めしていると、突如冒険者らしき男が飛び込んできた
「大変だ! オルの森にオオアギトが出た!」
オオアギトはAランクの魔物で、一体でも小さな町なら蹂躙できるほど大きなムカデの魔物だ
毒性が強く、アンチドートの魔法や毒消しが無ければ戦ってはいけないと言われている
「すぐに討伐隊を編成します! 冒険者の皆さん! お願いします!」
受付嬢が素早く対応してすぐに討伐隊が組まれる
その中にはナナミの姿もあった
フンスと鼻息荒く立っていたのだが
「おいナナミ、お前は来なくていいぞ。奴はAランクだ。お前が叶う相手じゃないだろ」
「そうだそうだ。薬草採取の依頼でも受けてろよ」
「な!? あたいだって戦える、もん」
「いいからお前は参加するな!」
ギルドマスターにもそう言われ、ナナミはしょぼんとして渋々引き下がった
かくして討伐隊は組まれ、偶然いたAランクパーティーの活躍もあり、無事倒された
ナナミはまた深くため息をついた
彼女がギルドから離れた頃、戻って来た冒険者たちによって宴会が開かれる
「にしてもナナミにも困ったもんだ」
「ああ本当に。役に立たないのだから大人しく引き下がっていればいいものの」
「死なれちゃ困りますからね」
「うむ、あの子には、絶対に死なれてはならんからな」
この国では一つ、ナナミにだけ知られていない法律があった
何を犠牲にしてもナナミを守ること
それが龍人族たち一丸の使命だ
勇者とは世界に勇気を与え、その中心となって人々を導く存在
かつてのラルズラールがそうであったように
彼女が生まれた日、神々から龍人たちに一つの啓示があった
ナナミが覚醒するまで守ってほしいと
彼女は決して弱いわけではない
才能もある、人を救いたいという気持ちも、強者に立ち向かう勇気もある
だが勇者としての力をまだ覚醒していないだけだった
通常勇者は彼女よりも若い年齢でその力を覚醒させる
だが、彼女は遅咲きなのか、今までで一番覚醒が遅かった
だからこそ、龍人は彼女を見守ると決めたのだった




