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皆様はどんな夏をお過ごしでしょうか?私は毎日汗だくでございます….本当に暑いですね。水分補給をこまめにして来週も頑張りましょう!
というわけでカフェに来た私たちなのだが。着いて早々、問題が起きた。
「あれ、ヴァンスじゃん!」
「……ルイと、フレア嬢か。私だと良く見分けがついたな。」
「いやいや、かろうじてフード付きのマントを羽織ってるみたいだけど、オーラ隠しきれてないから。後ろに護衛もいるし、隠せてる訳ないよ。」
「む、そうなのか。私なりに上手く隠せていると思ったのだが……。」
「殿下、差し出がましいようですが私もルイ様に賛成です。変装するなら、もっとこう、髪色を変えてみるとか……。」
「ーー確かに、その手があった。次からそうさせてもらおう。」
後ろの護衛たちも首を縦にブンブン振っているのを見ると、どうやら私たちの指摘は、間違っていなかったらしい。
可愛らしい一面もあるんだなぁと微笑ましく思っていると、私はふとある事に気がついた。
(こ、これは俗にいう「イベント」というものなのでは……!?)
過去に「ゲーム」をプレイしていた時は、カフェでの遭遇という場面はなかった。要するにこれは、私が介入することで発生した新イベント。私以外誰にもみることができない、激レアイベントになる可能性がある!
そんな大事な機会を、みすみす逃してなるものか。
「折角ここでお会いしましたし、宜しければ殿下も私たちとご一緒しませんか?」
「えっ、フレア……?」
「こちらとしても、その申し出はありがたい。男性が一人でこの店に入るのは些か勇気がいる。」
そうよねそうよね、先程から入っていく客は皆女性だもの。きっと店内は女性客でわんさか賑わっているわよ。そこに男性一人で入るというのは難しいに決まっているわ。
「では、そうしましょう!」
「ヴァンス、僕達は一応二人でデートの予定だったんだけどー……。」
「そ、そうだったのか?」
「いえ、殿下。私たちは美味しいスイーツに釣られたただの生徒であってデートをしに来た訳ではありません。ーー殿下もそうでしょう?だから、スイーツに釣られた一般生徒3人として仲良く食べましょう!」
「フレアが僕に冷たい!」
「すまない、ルイ。彼女がここまで言ってくれているんだ……今度、オペラ公演の特別席を用意させよう。」
「僕達は最初から3人だったよね!」
チョロいルイ様、またそれも可愛いわね。オペラが好きだとかいう情報は私の頭に入っていないけれど、やはり実際に生きている彼らは「ゲーム」と少し違っているのかしら?
まあ取り敢えずルイ様が頷いてくれて良かったわ。これで存分にお二人をサポートできるのよ……うふふ。
「じゃあ、先に入るね。ーーすいませーん!」
「はーい、何名様ですか……..ああああ!?」
「3名だけど…だ、大丈夫?」
ルイ様を見た店員さんが腰を抜かしてしまった。ええ、分かるわよ!彼女の気持ちが!ルイ様が可愛すぎるのよね!
黒目黒髪というこの世界では珍しい色。黒ってとても強い色だけど、ルイ様の顔立ちはそれに引けを取らない。むしろ勝っちゃってます。
少し平均よりも小柄なところも良いわよね。肌も私たち女性よりきめ細やかで綺麗だし……でもでも、それなのに男性らしい手や首をしているの!これは「ギャップ」というやつよね?
「し、失礼しました……3名様で宜しかったですか?」
「うん、それで大丈夫。」
「では、お席までご案内しますね。」
どうやらこの店は個室制らしい。普通のカフェってもっとひらけた感じだけれど、女性グループをターゲットにしているのでしょうね。女性というのは秘密の話が大好きな生き物だし、個室は正解だわ。
「こちらがお席になります。ーー注文内容が整いましたら、お声がけください。では失礼いたします。」
素早く出ていった彼女の頑張りを讃えてあげたい。あの美貌を目の当たりにして、よく耐えたものだ。腰を抜かした後、ヴァンス様のお顔を見て、今度は泡を吹いて倒れそうだったし。さりげなく倒れないように腰を支えてあげたら、鼻血を出していた。ーー休憩時に甘いものでも食べすぎたのかしら?
「ねえ、フレアって女性も虜にしちゃうの?」
「と、虜ですか!?一体何の話です?」
「さっきの店員さん、フレアがあまりにも可愛いから鼻血出しちゃってたじゃん。いやー、僕の婚約者はモテモテだなあ。」
「いえいえいえ、それは勘違いです。あの店員さんはルイ様と殿下を見て卒倒していたではないですか!」
「うっそだー。ねえねえヴァンスはどう思う?」
「ーーとりあえず注文をした方が良いのではないか?」
「「それはそう(ですね)」」
メニューを開くと、季節のタルトやチーズケーキ、モンブラン……全部挙げるとキリがないが、とにかく沢山の選択肢があった。
私が特別好きなのはモンブランだけど、この店のメニューで一番値段が張っている。ルイ様に払って貰うのに、高いものなんて注文できないわ。一番安いのは……ショートケーキかしら?ああ、チョコレートケーキも同じ値段だわ!どちらも美味しそう……。
「僕は季節のタルトにしようかな。それとカモミールティー。」
「私も季節のタルトにしよう。コーヒーはないのか?」
「うーん……あ、あるよ。これ。」
「そこにあったのか。ありがとう、ルイ。」
「どーいたしまして。」
なになに、なによこれ!?私の目の前で起きている事は錯覚!?いえ、現実だわ!これは現実なのよ!
まるで二人だけの世界。そう、まるで長い時を重ねた熟年夫婦のようなその会話を、壁になっている私。ええ、最高の気分だわ!!
叶うならこのままずっとこうしていたい。
「で?フレアはどうする?」
あ、無理でした。
「え、ええとそうですね……ショートケーキとハーブティーにします。」
「分かった。じゃあ、店員さんを呼ぼうか。」
「ーー待て。モンブランは良いのか?」
「モンブラン?なんで?」
「フレア嬢が、食べたそうにしていた。」
「え、どうして……。」
わかったんですか?とは言えなかった。だって、そう言ってしまったら私が気を遣ったことがバレてしまう。きっとルイ様は気にしないで食べてよ!って言って、モンブランを注文してくれるだろう。
でも私は、それに甘えたくない。優しいルイ様が、自分のせいで気を使わせてしまったと、心を悩ませる事は避けたいのだ。
「フレア、本当?それなら言ってくれれば良かったのに……。」
「いえ、私は最初からショートケーキを食べたかったんです!苺は私の大好物ですから。」
「しかし、メニューを開いて一番瞳を輝かせて……」
「すいませーん!店員さん!注文いいですか?」
ごめんなさい、ヴァンス様。王族のお言葉を遮るような不遜な臣下で。ですが今は注文を成功させることが大事なんです。
私は早口で注文をした後、ささっと別の話題に変えた。内容は、今流行りのオペラについて。さっきの態度を見るに、ルイ様はオペラが好きなんだろうと思っての話題だったが、どうも違うらしい。
オペラ公演は子女の間で流行っていて、私が喜ぶと思っての喜びようだったようだ。フレアが喜ぶと思って……と恥じらうルイ様は、意味不明なくらい可愛かった。
ヴァンス様は「ゲーム」通りあまりペラペラと喋るタイプではなく、私とルイ様の話をよく聞いてくれた。たまに自分の意見を添えてくれるから、つまらないかもしれないという心配もなく、楽しく話すことができた。
一番盛り上がったのは、やはりヴァンス×ルイ様のやり取り。ルイ様は小さい頃から登城してヴァンス様の友人役として一緒に過ごしていたらしい。お二人の小さい頃.......ああ、想像するだけで泣けてくる。
写真があれば絶対に見せてください、と言ったらルイ様に笑われた。絶対、という念押しが面白かったらしい。私は本気なのだけど?冗談ではなく、あるなら全財産を賭けても良いから必ず見せて頂きますからね。
「大変お待たせしました!ご注文の品になります!」
「わあ、凄いボリュームだね。」
季節のタルトが2つと、ショートケーキが1つ。普通の注文のはずなのに、何かがおかしい。タルトにはいちご、キウイ、みかん、さくらんぼが溢れんばかりに彩られている。私のショートケーキには大ぶりすぎる苺がほとんど隙間が無いほど埋め尽くされ、食用なのか分からない素敵なお花が装飾としてお皿に乗っている。極めつけに、私達3人のケーキには金色に光る粉が振りかけられており......。
「......この店は、採算がとれているのか?」
「いや、取れてないよこれは。」
「ええ、本当に。」
「会計時に、もう少し払おう。」
「「そうですね(だね)」」
謎の一体感が生まれた私たちは、無言でフォークを手に取り、掬ったケーキを口に入れた。
そこは、天国でした。
「ん~~~!」
「フレア、美味しい?」
「はい、最高です。」
「ふふ、それなら良かった。」
あー、美味しいケーキと「推し」。まさに神がかった組み合わせだわ。――って、あら?
「ルイ、口元。」
「ん?」
あらあらあら!?これ、これは.......!?かの有名なシチュエーションではなくって!?
「口元に、付いてる。」
「わ、どこどこ?」
「――ここだ。」
あーーーーーーっ!あああああ、ありがとうございますううううう!私はこのために生きていましたああああ!
ヴァンス様の、慈しむような笑み。ルイ様の、ヴァンス様の行為を当たり前に捉えているような様子。控えめに言っても最高だわ!まさか、今ここで、しかも目の前で見られるだなんて......私はなんて果報者なのかしら!カフェ「イベント」は存在しなかったけれど、実際は存在していました。ええ、ええ。分かっています。私だけずるいって?ほほほ、負け犬の遠吠えですわね。悔しかったら私のように婚約者の座を射止めることですわ、ほほほ。
「......なんか、フレアが笑ったまま死んでる。」
「どうかしたのか。」
「いえ。特に何も。」
「そうか。なら、そのままじっとしていて欲しい。」
「へ?」
ガタ、と立ち上がったヴァンス様は、腕を伸ばして私の頬を撫でた。唇に触れそうで触れない場所から、顎をなぞるように彼の長い指をなぞらせる感覚が、私の胸を高鳴らせた。
瞬間、指に付いたクリームを口で舐めとったのだ。
「あ、あの、でんか、」
「ああ、突然触れてすまない。気になってしまって。」
そう言う事ではありません。そういう事じゃ......ああ、どうしましょう。私は今恐らく、茹でダコのように真っ赤な顔をしているでしょうね。私だって、こんなつもりじゃなかったの。でも、これはヴァンス様が悪いでしょう?こんなの、「少女漫画」ではありがちな展開だし、私なんかの身に起こるべきことではなかったのだから。こういうのは、ルイ様にやって頂くべきだったのに......。
「あーのーさー!僕何回も言ってるよね、フレアは僕の婚約者だって。そういう事は僕がやるべきなんだけど。」
「いや、今回は下心はなく......」
「下心があるかないかは関係ないから!僕の目の前であえて僕の婚約者を口説こうなんて、良い度胸だね!」
「口説いていない。恐らくこれは、母性という類のものだろう。」
「それを言うなら父性でしょ!?真顔で何を言ってるの!?」
ああ、私は壁です。例え当て馬として使われたのだとしても、私は何ら問題ありません。むしろ、彼らの親密度を高められるなら喜んで当て馬になります。菩薩のような顔をして私は2人を見守った。
♦♦♦
結局2人は最後まで盛り上がっていて、私は蚊帳の外でした。少し寂しくはあったけれど、この婚約を決めた理由を守れたようで、嬉しくもあるのよ。2人が幸せでいてくれるなら、私はそれでいいの。
でもね、1つ言わせてほしい。私は2人の邪魔をしないように、なるべく端にいたいの。だから端に行こうとするたびに真ん中に挟もうとするのは止めて下さらない?馬車が危ないから内側に誘導する紳士的な行動ならまだしも、どうしても間に挟もうとする行為はどういう理由なの?私をどうにか当て馬にしたい策略?
「そう言えば、エメがフレア嬢に会いたがっていた。」
「へえ、エメリアが?」
「エメリア様というのは、王女様の事ですか?」
「ああ、私たちと同い年だ。と言っても、私とは腹違いだが。」
「けど、ヴァンスはエメリアと仲が良いよね。」
「いや、一方的に付き纏われているだけだ。」
「またまた、満更でもない癖に。」
へぇ、ヴァンス様ってエメリア様と仲が良かったのね。エメリア様が「ゲーム」に登場するのって、名前だけで。回想シーンでたまに姿が見えることはあったから容姿はわかるけど、それ以外はよくわからないのよ。ーーあれ。そういえば、どうして彼女は出てこなかったのかしら。王族の一員なら間違いなく「ゲーム」で重要な人物であるはずなのに。何か、見落としているような……。
♦︎♦︎♦︎
『お前が!お前が我の娘を殺したのだろう!王位継承の邪魔だったか?はは、残念だったな!お前にはまだ第一王子がいる。娘を殺したとて、お前の手には何も残らない。ああ、人殺しという不名誉な称号は後世まで語り継がれるだろうがな!』
『ーー私は……俺は、そんな事などしない。側室の息子が正室を差し置いて王の冠を手に入れることなど出来ない。それを分かっていて、殺す理由がない。』
第二王子は、瞳を哀しみの色に染めながら言った。しかし、王女エメリアが命を落とした事実は変わらない。どうしようもないやるせなさを抱え、正妃の誹りを受けた王子は、心に癒えない傷を負うのだった。
♦︎♦︎♦︎
ああ、そうだわ!どうして忘れていたのかしら!エメリア様と言えば、城下で誘拐されて、行方知れずになってしまったのよ。懸命な捜索も上手くいかず、結局国境近くの森に遺棄された亡骸が見つかった……それで、ヴァンス様は家族と距離を置くことになる。
王族内には、正室以外の子供はヴァンス様しかいない。第一王子、王女姉妹は皆アヴェンヌ様の子供で、ヴァンス様は唯一側室……どこかの伯爵令嬢の息子だった。アヴェンヌ様は元隣国の王女で、ヴァンス様のお母様はしがない伯爵家の娘。
アヴェンヌ様は男勝りな性格で、剣を握ることを生き甲斐にするような女性だったから、王様とは戦を共にした戦友のような仲であるとか。第一王子という世継ぎが生まれた後、王様は所謂運命の恋だとか、そういう巡り合わせをしたのだという。身分が低かったので臣下たちからの反対が大きかったが、令嬢が妊娠したことによって状況が変わり、側室として迎え入れられた。
まあ、ここから先の話は分かるわよね?身分の低い側室は周りから疎まれ、正妃を囲む人達からの精神的な追い込みを受けて心を病み、ついに亡くなった。確か、ヴァンス様が10歳の頃だったかしら。本当、物語というのは定石があって、その通りに動いてしまうものだわ。それが現実であるというのだから、ヴァンス様がどれだけ苦しく辛い思いをしたか……考えるだけで私まで苦しいくらい。
その上、異母妹が亡くなった事を自分のせいにされて、霰もない事を散々言われて……良く、悪い方へ行かなかったと思う。誰かを恨むのではなく、自分を恨む選択をしたのよ。「日本」で画面を見ている時、貴方のせいじゃない、悪いのは周りよ、ってどうしても伝えてあげたかった。
ーーもし、エメリア様が死ななかったら。彼の心を少しでも守ることができるかしら…。でも、もし彼女を助けたらこの世界はどうなるの?二人が幸せになれなかったら。
私にその勇気が、あるの?
「フレア嬢。私としては是非エメに会ってもらいたい
。決して強要したい訳ではなく、友人としての頼みだ。」
「友人、ですか?」
「違ったか?ルイの婚約者と、ルイの友人という立場だが私は友人だと思っている。いや、もしフレア嬢が不快だと感じたなら訂正するが……。」
「っ、いいえ!嬉しいです!私も…….殿下の友人になりたいです。」
「そうか。なら、今から私達は友人だな。困ったことがあればいつでも相談してくれ。」
ああ。そうか。
ヴァンス様の言葉を聞いて、私はなんだか決心がついた。
(友達を助けるのに、私は何を躊躇っていたの?)
ルイ様は婚約者、ヴァンス様は友人。それ以上でもそれ以下でもなかったのよ。「ゲーム」の拘束力だとか、そんなの関係なかった。
私は二人が好きで、幸せになって貰いたい。なら、彼らが辛い思いをしないように助けるのが、友達よ!
「私、エメリア様とも友人になりたいです。殿下、エメリア様にお伝え頂けますか?」
「勿論だ。それと……友人なのだから、殿下では余所余所しい。ヴァンスと呼んでくれ。」
「え、いや、あのそれは……。」
「ルイ、私もフレア嬢を名前で呼んでも良いか?」
「僕に許可をとってどうするのさ!別に良いよ、僕は心が広いから!」
「ありがとう。ーーフレア、良き友人になると誓おう。」
「っすぅーーー、ありがとうございます。私もお約束します。」
美男子の名前呼びというのは、破壊力がありますよね。ええ、何を隠そう私は顔で言えばヴァンス様が一番タイプなのです。だからってヴァンス様が一番なのではなくて、あくまで顔だけ見たらですから。ーーごめんなさい、今だけは許してください。私だって不意打ちで驚いたんです。顔は赤くなっているけど、好きとかじゃありませんから!
「ねえ、僕の時より可愛くなるのやめてくれない?」
「フレア嬢……いや、フレアはいつも可愛いだろう。」
「はうっ」
「あのさあ、何回言えばわかるの!?フレアは僕のだってば!堂々と目の前で口説かないでよ!」
「事実を言っただけなのだが……。」
「事実なのは分かってるさ。フレアは可愛くて優しくて綺麗で、かっこいいって事はね!」
「あ、あの」
「ならば何故言ってはいけないんだ。」
「うーん、この馬鹿に教えた家庭教師は誰だ?恋愛について一ミリも理解してないよ!」
「下心がなければ良いのではないのか。」
「……いいわけないだろーーーー!」
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