7
投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありません…!筆者は現在テスト期間でして、奮闘しております…!皆様も猛暑の中通勤通学お疲れ様です。
しばらくしてからも、私とルイ様、そしてヴァンス様の交流は続いていた。先日の昼食会のおかげもあってか、私がルイ様とどうこうなるつもりなど微塵もないことを感じ取れたのだろう。少しずつヴァンス様の態度も軟化している。問題があると言えば……….
「身の程を弁えて下さらない?名ばかりの侯爵家風情があろうことか殿下にまでお近づきになろうとするなんて、恥知らずも良いところよ。ほら、貴女たちも何か言ってやりなさい。」
「え?ええと……。」
「私たちはフレア様よりも家格が下ですし……。」
ああ、可哀想に。いくら身分社会を適応しない学園でも、こうやって実際に身分を盾にされたら従うしかないものね。
私は同情の視線を送る。
「ちょっと貴女、その視線は何?私を馬鹿にしているの?」
「いえ、お2人の顔色が可哀想なほど悪いので心配で。」
「..........それは、私のせいだと言いたいのかしら?」
特にそういう意味を含めて言ったわけでは無かったが、ご令嬢の怒りに火をつけるには十分だったらしい。この人、あれだわ。ええと.......そう、「地雷女」だわ。被害妄想が激しい、情緒が不安定な女性の事を指していたような気がするわ。良い意味では使われないけれど、このご令嬢を指すにはぴったりな気がする。
そんな腹黒い事を考えている間に、どうやら話を聞いていないことがバレてしまったようで、こちらに掴みかかろうとしてきた。
「もう我慢できないわ!身の程を分からせてあげる!」
「え、ええっ!?ちょ、あの落ち着いて......」
私、護身術とか知らないし、魔法だって初心者なのよ!あああ、どうすればいいの!
「ひ、火の魔法は何だったかしら?ファイアーボール?違う?」
「ブルーレイク侯爵家の力を見せてあげる!」
「貴女ブルーレイク侯爵家の娘なのね!今の今になって名前公開とは驚きだわ!今まで誰も教えてくれなかったのは何故でしょうね!?」
「私が無名だと言いたいの!?ああ、ここまで馬鹿にされたのは初めてよ......!」
「ブルーレイク侯爵令嬢!私は貴女と争いたくないわ!」
だって、今何か魔法を放たれたら私ひとたまりもないからね!!
「それは私への挑発かしら?貴女なんてすぐ倒せるって?面白いじゃない!やってみなさいよ!」
「無理よ!(私が)弱すぎて負けるに決まってるもの!」
「あはは、舐められたものね!魔法の才で言えば王国の三本指に入る我が侯爵家を弱い呼ばわりするなんてね!決めたわ、貴女には死んでもらう!」
「し、死んでもらう!?」
駄目だわ、私の言葉を真面目に受け取ってくれない。こうなってしまったからには、別の手よ。名付けて、近くにいる人に宥めてもらおう作戦。そのままじゃないかって?え、私のネーミングセンスに文句あるの?ないわよね。
気づけば周りに人だかりができており、何やら興味津々そうにこちらを見ていた。そう、それはまるでスポーツ観戦のような感じ。普通こんなに揉めていたら教師を呼ぶとか、助けに入るとか.......そういうことは考えていないようだ。目の前にある娯楽をエンジョイしたいという気持ちがあふれ出ている。
助けて!!という私の視線に気づかないどころか、気づいても無視されるのは仕方がないという事ね。ええ、そうよ、仕方がないの。だって彼ら、ブルーレイク侯爵令嬢よりも一層獣のような顔をしているもの。娯楽に飢えた獣たちめ。
「くっ......私もここまでね。」
どこかで聞いたこのセリフを使う時がくるとは。別に使ってみたかったとかじゃないわよ?
悠長な事を考えているけれど、実際の私の頭の中は"どうすれば良いの!"で一杯だった。怪我なんて絶対にしたくない。体を張って世界を救ったり愛する人を守ったり出来る「ヒロイン」になんてなれっこない。そこまで献身的になれる
「フレアーー!何してるのー!」
「る、ルイ様ぁ!」
救世主、来たり。
「フレア様、味方を呼ぶなんて卑怯ですわよ!こういう時は一対一で真っ当に勝負するのがセオリーですわ!」
「私別に戦いたくありませんので!」
「と、言う事だから君たち、散った散った。ここに集まっていてももう何もないよ。」
「えーもう終わりかよ?ちぇっ。」
「あと少しで本番だったのにな。」
「あーあ、何かしらけたわ。俺の家でポーカーやらないか?」
「賛成!」
「俺も参加したい!」
「おうおう、来いよ。」
群衆の皆様はどうやら興が醒めてしまったご様子。ご令息方はまだまだ娯楽に飢えている様子で、名の知らぬどこかのご令息の家に集まって賭け事をするようだ。ポーカーってこの世界では違法じゃないのね。「二ホン」では賭け事は違法だったから少し新鮮。
「――ふぅ。野次馬はどうにかなったね。」
「流石です、ルイ様。」
「ごめんフレア、途中まで僕も面白そうだと思ってあの野次馬の中にいたんだ。」
「最低です、ルイ様。」
「はは......ごめんね。」
ルイ様は、慣れた手つきで私の頭を撫でた。同じ年齢のはずなのに、少し大人びた手つきだと思うのは勘違いだろうか。あるいは、私と同じように撫でる相手が.......いるに決まってるわね!
「ブルーレイク侯爵令嬢。貴女の行いは度が過ぎています。私が口を出したことで何も起きずに済みましたが、もし仮にあのまま貴女がフレアに傷を負わせていたら、どうなるかは明白なはずです。家格を理由に権威を振りかざすのならば、それに見合う立ち振る舞いを身に着ける事をお勧めします。」
「――ごもっともですわ。いくらフレア様に嫉妬していたとはいえ、やり過ぎました。」
ルイ様の反応を見て、やっと落ち着いたのだろう。あるいは、ルイ様だから落ち着いたのかもしれないが。
「嫉妬?」
はて?という顔をしている貴方。そこにいる女性は貴方を好きで、私に横取りされたと思っているからこんなことをしでかしたんですよ。ヴァンス様の名前を挙げたのは彼女なりのカモフラージュだったのだろうけど、同じ女ならば誰でも分かるわ。ああ、好きなんだろうなと。
だから、今までの行動も目を瞑っていた。ぽっと出で、突然婚約者に収まったような女など腹立たしい事この上ないのは明らかだから。誰よりもこの座を欲しがっていたのは彼女かもしれないから。――でも、だとしても今回は見逃せない。想いを抱えて私に少し八つ当たりするなら、私はそれを甘んじて受け入れるつもりだった。でも、怪我までさせようとして、そればかりではなくルイ様にもこうやって迷惑をかけている。
「ブルーレイク侯爵令嬢.......というのは長いですね。お名前は何ですか?」
「あ、貴女私の名前も知らなかったの.......?まぁ、良いわ。ソレンヌよ。ソレンヌ・ブルーレイク。」
「ソレンヌ様。ルイ様も仰っていましたが、今回の貴女の行動は度が過ぎていました。」
「――そうね。」
ルイ様への態度とは一変、私に対してはまだわだかまりが残っているようだ。少し反抗的な態度を取っている。そうよね、納得できないわよね。因縁の女に何を言われても。だから、私の思うやり方で、今回は丸く収めさせてもらうわ。
「ねぇ、貴女そんな態度で良いの?同じ侯爵家だけど、お互いに敬意を払うのは当たり前じゃない。」
「あ、貴女だって今......。」
「だって、とかでも、とかいらないから。仮に敬語云々は良いとしても、今の貴女の立場、分かってる?別に怪我をしたわけじゃないけど、責められるべきは貴女なのよ?」
「そんなの、分かってるわ。」
「そう。じゃあ、貴女がするべき事は分かるわよね?」
”謝れ”ということを暗に示す。だがやはり、彼女は私に謝罪をすることを躊躇う。大方プライドが高いのだろうが、悪い事をしたら謝る。これは一番大事な事だ。
「.....なさい。」
「何?」
「ごめ........い。」
「はぁ。もっとはっきり言ってくれる?」
「ごめんなさい!」
「あら、声でるじゃない。」
さっきの叫び声の応酬の方が声が出ていたけどね。とは言わないでおく。ソレンヌ様なりに頑張ったのだろう。少し涙目だけれど。
「フレア、凄いね。プライドの高い令嬢から謝罪の言葉を引き出すなんて。」
「ふふん、そうでしょう?心が籠っていなくても、形式と言うのは大事ですから。きちんと謝った、というだけで大分違ってくるはずです。」
「なるほどね、彼女のためか。それにしても、さっきのフレア可愛かったよ。よくいる高位貴族のご令嬢の真似をしたんでしょ?」
「か、可愛いとか、そういうのじゃありませんから。別に、私も普段はあんな感じですし。」
可愛かった、ですって!ああ、なんて素晴らしい言葉なの!その一言で私は向こう3年くらいは頑張れます。悪意の蔓延る貴族社会で生きていくには、心の栄養分と言うのは大事なのです。ルイ様、ありがとうございます。お世辞であったとしても、私はとても嬉しいです。
「で、どうする?彼女の処遇だけど......正式にブルーレイク侯爵家に抗議書を送る?」
「ああっ、エストルンド公爵子息様!それだけは......それだけは、お許しください。私が間違っていました。だから、父には.......父だけには......。」
「それを決めるのは僕じゃない。フレアだよ。」
「ええ?別に罰とかそういう物はいらないと思いますが......。」
「目には目を、歯には歯を、だよ。貴族は協力こそすれど牽制もしあうから。ここでなあなあにしちゃうのは良くないよ。」
「――確かに。」
けれど、一体どうすれば?相手の家に抗議文を送るのが一般的だとされていても、さっきのソレンヌ様の様子を見るに、家にどうこうするというのは避けた方が良さそうだし。他人の家の事情なんて私には関係ない、と言いたいところだけれど、あの子と同じような思いをしているなら、見過ごす事なんて出来ない。
ソレンヌ様にとって一番良い事は何かしら?彼女が今回こんな風になってしまった原因を絶つには......そうね、これが一番良さそうだわ。彼女にとっては何よりも辛いかもしれないけれど.......彼女のためでもあるの。
「ソレンヌ様、ちょっとこっちに。」
「何よ。」
「少し小声で話しますね。ルイ様に聞こえてはいけませんから。」
「エストルンド公爵子息様に内緒で?一体何の.......」
「私、貴女への罰を決めたんですが。」
「――それこそ、子息様に聞いてもらった方がよかったじゃない。」
「いえ、駄目です。だって、彼に関係する話なので。」
「.......嫌な予感がするわ。」
「心して聞いてくださいね。じゃっ、じゃーん。ルイ様に告白しよう計画!」
「そのままじゃない!.......じゃなくて、本当にそれが罰なの?」
「ええ、貴女にとっては彼への想いを清算する機会になるはずです。」
「そ、れは.......ありがたい話ね。だけど、それで貴女にはどんなメリットがあるのよ?」
「え?メリットですか?――そうですね、そういう事は考えていませんでした。ソレンヌ様は、思ったよりも悪い人じゃないと思ったので。」
「はあ?私、貴女に悪い事を沢山したじゃない。それでどうしてそんな風に思うわけ?」
「勘、ですかね。だから別に貴女が本当は悪い人であったとしても、私は後悔しません。」
「――貴女って、本当に変な人。メリットなんて一つもないのに......どうして、私なんかの手助けをするんだか。本当に......本当に、分からないわ。」
「細かい事は良いんです。ルイ様への想いを絶ち切れたら、きっと侯爵の名を背負う者としてこの学び舎に来ることを約束してください。それだけで、私にとっては十分です。」
ずい、っと私は小指を差し出した。これは「二ホン」式の約束の証。この世界には存在しないけれど、これは親しい間柄の人と交わす約束の儀式のようなものだから。とことん意地悪をされたけれど、彼女はきっと悪い人じゃない。恋心と言うのは、時に人を恐ろしい悪魔にも変えてしまうもの。彼女は一時的に、悪魔に乗っ取られてしまっただけ。
いつか、彼女と友人のように言葉を交わせたらいいな。そんな気持ちを持って、指きりをした。
「じゃあ、私はここで見ていますから。」
「――ええ。..........ありがとう。」
「長かったね、フレア。話し合いは終わったの?」
「はい、上手くまとまりました。なので、ルイ様にはそこでソレンヌ様のお話を聞いていただきたくて。」
「うん?良く分からないけど、ここに居ればいいんだよね。」
「そうです。――ソレンヌ嬢、気合ですよ、気合。」
「っ、もう。こっちは緊張しているのよ!うるさいわね。」
「え。何?僕殴られるの?ていうか2人とも、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「ふぅ。―――ずっと、ずっとルイ様の事をお慕いしていました!」
「..........え、ええっ!?と、突然何!?」
ルイ様、今乙女の一世一代の告白が行われていますから。大人しくしていてください。混乱するのは分かりますが、抑えて。
「きっかけは、城下町で野党に絡まれている私を颯爽と助けてくださった事です。護衛が倒され、行き場のない私を庇って助けてくださったあの時から、子息様は私にとっての騎士でした。.......貴方にはもう、心を砕く方がいらっしゃることは分かっています。だから最後に、この思いの丈だけでも伝えさせて頂きたかったのです。.......あの時、助けてくださってありがとうございました。どうか、幸せになってください。」
「――ありがとう。僕はそんなに出来た人間じゃないけど、君を助けられたなら良かった。だから僕のことは忘れて、いつか出会うもっと良い君の騎士のために努力してほしい。想いを伝えてくれて、嬉しかったよ。」
「っ、では、私は失礼します。」
ソレンヌ様はそのまま走り去っていった。振られた相手の前で涙を見せまいとする最後のプライドを、彼女は守りたかったのだろう。
これで、彼女は後腐れなく前を向いていけるかしら。
彼女からしたら私の行動はお節介だったかもしれない。むしろ私への恨みを深める結果になったかもしれない。ーー何が正解だったのだろう。
「驚いたけど、理解できたよ。僕のせいでこんな事になっちゃってごめんね。」
「いえ、ルイ様のせいでは全くありませんから。むしろ、私がもう少し上手く立ち回れていたら……。」
「いや、僕がもっとフレアに悪意が向かないよう意識できていたら……。」
「いえ……」
「いや……」
「「……ふふっ。」」
互いが互いを庇い合うこの状況が面白くて、二人で笑ってしまった。
「僕たち何やってるんだろうね?」
「ええ、本当に。貴重な放課後なのに。」
「じゃあさ、無駄にしないためにも今から近くにある美味しいカフェにでも行かない?」
「カフェ!是非行きたいです。」
「もちろん、僕がお支払いさせて頂きますよ。今回のお詫びも兼ねて、ね。」
「…….そう言われると、何も言えませんね。じゃあ次は私がお支払いします。」
「フレアさあ、貴族社会ではパートナーなら男性が金銭面を支える事で面子を保つんだよ?女性に支払わせたら、僕誰にも顔合わせできないよ。」
「私が払いたいんです。ルイ様への想いを伝えるにはそれくらいしないと!」
考えてみれば、この世界に世を受けてから一度も「推し」に「課金」してなかったから!私のお金が「推し」の血肉になるなんて、そんなイベント逃せる訳ないじゃない!
「…….フレアさあ、そういう事は他の男に言わないでよ?」
「はい?」
「フレアの父上との約束、守れるかなぁ……。」
「よく分かりませんが、お父様の事なんて考えずに美味しいカフェにいきましょう!私お腹が空いてきました!」
「まぁ、虫がつかないくらいに甘やかせばすむ話か。ーーそうだね、フレアの腹の虫が鳴る前に早く行こうか。」
「もう、ルイ様ったら。」
面白いと思ってくださいましたら、是非いいね・ブックマークをお願いします。




