6.
更新遅くなりました!申し訳ありません!!猛暑が続いておりますね、、、頑張りましょう!
「フレアー。迎えに来たよ。」
「あっ、ルイ様。今行きます!」
授業後にノートをまとめ直していたフレアは、ルイの声を聞いてすかさず机の上を片し始めた。
二人はあの後、正式な手続きを踏んで婚約したのだ。正式な、と言っても神殿に両者の氏名を書き記した紙を提出するだけなのだが。
当初は社交界に激震が走るほど驚かれた、何かと注目されいた二人だが、1ヶ月という時間が経った今では周りも見慣れてきたようだ。遠くから視線を向けられることはあっても、一緒にいるだけで悲鳴を上げられる事は無くなったのだから。
「フレア、まだー?」
「すみません!今、今行きますので……きゃっ!」
慌ててお弁当を持ったフレアに、クラスの女子生徒がぶつかった。
「あら、ごめんなさい。貴女が急いで走るものだからぶつかってしまったわ。」
「お、お弁当が…….。」
「教室で走り回るようなはしたない真似、辞めた方が宜しいのではなくて?」
くすくすと周りから笑い声が聞こえる。この子達は、私がルイ様と婚約した事を知ってから明らかに嫌がらせをしてきた貴族子女A,B,C,D。ボス的存在のA様はどこかで見たような気がするのだけど、忘れてしまったのよね。B,C,Dの皆様は顔すら知らなかったわ。典型的な悪役とその取り巻きという感じだけれど……他のクラスメイトが知らないふりを決め通しているのは、A様が高位貴族だからでしょうね。侯爵家よりもくらいが高いなら……公爵家のご息女なのだわ。
「……失礼しました。誰もいなかった道に突然人が現れたものですから。私は用事がありますので、これで失礼します。」
「ふんっ、口だけは達者ね。」
彼女たちはそれ以上何かいうつもりは無いようで、すんなり通してくれた。私のお弁当が駄目になったので、満足したのだろう。
ええ、貴女たちがこれで満足したのは正解よ。今日の朝から楽しみにしていたヴィラお手製のお弁当を台無しにしたのは、だいぶ辛いもの。私を苦しめるという点では大成功よ!
「……フレア、大丈夫?」
「ええ、問題ありません。ただ今日は食堂を使いませんか?流石に午後の授業があるので何か食べないと……。」
「いや、僕に良い考えがある。どこかの誰かが毎日、腐るほどの料理を持ってきているから、お裾分けしてもらおう。」
「そ、そのどこかの誰かというのは……。」
「良いの良いの、とりあえず行こう。ちょうどフレアのことを紹介したいと思っていた所だし。」
「でも、アポ無しというのは流石に、」
「気にしない気にしない!」
いや、気にしてください。今から会おうとしている方はこの国のやんごとなきお方で、普段ならお目にかかれないような方なんですよ。
「フレア、駄目なの?」
「………………..ああ、そう言えば学園では身分関係なく平等なのでした。行きましょう。」
「やったあ!」
はい、皆さんが言いたい事はわかってます。私もそんな事は分かっているんです。この1ヶ月、何度も同じ事を繰り返していますが、可愛いものは可愛いんです。
全てを諦めた私は、おとなしくルイ様についていくことにした。何だかご機嫌に鼻歌を歌っていて……まるで妖精の鼻歌のような上手さだ。ヴァンス様と会えるからかしら?
♦︎♦︎♦︎
「ヴァンス、入るよ。」
「…….ああ、ルイか。構わない。」
「今日はお客さんもいるんだ。」
ほら、挨拶して、と言わんばかりに前に押し出された私は、しぶしぶ前に出る。流石に挨拶しない訳にはいかない。前回この生徒会室を使わせてもらった時は皆忙しそうで、きちんと挨拶できなかったから。
「フレア・ヴァーミリアと申します。先日はご挨拶もせずにすみません。」
「ヴァンス・リヴィエールだ。特に気にしていない。」
バッサリ切られた。沈黙が気まずいわ…….。そういえば、ヴァンス様は基本的に無口な方だった。ぺちゃくちゃ喋るご令嬢方が苦手なようだし、ここは黙っているのが賢明ね。
「えっ、それだけ?」
ルイ様が口を挟む。
「それだけ……とは?」
「いや、ほら、なんかもっとこう……あるでしょ。」
「特に何も無いが。」
「嘘、無自覚なの…?え、怖い。」
「何を言ってるんだ……?」
あ、ヴァンス様のお顔が怪訝そうになってる。ふふ、あまり表情が出ないお方だけどルイ様の前ではやっぱり出てしまうみたいね。
フレアは顔を綻ばせた。それを見たヴァンスは、すぐにいつもの鉄仮面に戻してしまう。
(ヴァンス様は、やはり女性嫌いなのかしら。)
「ゲーム」でのヴァンス様は、極度の女嫌いだった。王子という立場ゆえに表には出さなかったが、過去に女性関係で嫌な思い出があり、軽くトラウマになってしまっている。
こちらの世界で同じトラウマになっているかどうかは分からないけれど、もし「ゲーム」と同じなら……彼の寝室に毎夜と言っても良いほど現れる女性たちが原因だろう。睡眠薬を盛られ、気づけば寝台に横たわった上に女性が馬乗りになっていたこともあったとか。
彼の鉄仮面は、女性が近づいてこないようにするための一種の防衛策なのだ。
「……失礼しました。お二人のやり取りが微笑ましくて、つい。決して他意があるわけではございません。」
フレアが謝ると、二人は驚いたような表情をした。
「ねえフレア、どうしてヴァンスが嫌そうだって分かったの?ヴァンスって良くも悪くも顔に出ないのに。」
「え?確かに分かりにくいですが、きちんと見ていたら分かりますよ。さっきは眉の辺りに少し皺ができていましたし。」
「…….だってよ、ヴァンス。」
「……凄いな。フレア嬢は観察力がある。」
「いやそういう事じゃ無いと思うよ!?」
「む、そういう話では無かったのか。」
「はぁ…….いいや、とりあえずこの話は終わりにしよう。僕たちはヴァンスに用事があってきたんだ。」
ルイ様は亜空間からいつの間に回収したのか、私の崩れたお弁当箱を取り出した。一体いつの間に……。でもそれよりも気になるのは、彼が収納魔法を取得している点だ。記憶では、ルイ様は収納魔法なんて持っていなかった。むしろそれを使っていたのは、ヴァンス様だったと思うのだけれど。
「……….っていう感じで、フレアのお弁当が無くなっちゃって。ヴァンスのお弁当は余るほどあるって知ってたから、貰いに来た。」
「成程な。だが食堂を利用する事は考えなかったのか?」
「考えたよ。でもさ、フレアが同じような目に遭うだろうから。だから婚約を公表してからはずっと人が少ない場所で昼食を取るようにしてたんだ。」
「あ、そういう事だったのですね……。」
知らなかった。ただルイ様が人混みが苦手だからとしか考えていなかった。私の事を考えての行動だったなんて……言ってくれれば良かったのに。でもルイ様はそういう事を言わない人だということも分かっている。
まったく罪作りな人だわ。私は契約だって分かっているけれど、知らずに婚約していたら少し勘違いしていたところよ。そうなっていたら、主人公が現れた時に素直に応援できなくなってしまうのに。
「ルイ様、ありがとうございます。」
「お礼を言われるような事じゃないよ。婚約者なんだからこれくらい当然さ。」
「…….取り敢えず、昼食にしないか。昼休みも限られている。」
「あ、すみません。」
相変わらず仏頂面なヴァンス様だが、彼の表情を前世で幾多も見てきた私からすると……これは、「不満」ね。
今はまだ友人としてかもしれないけれど、自分を置いて他の女性と親しくしていることに嫉妬したのかしら。だとしたら、安心してくださいとお伝えしたいわね……私にとってみればルイ様とどうこうなろうというつもりなんて少しもないのだから。
そんな事を言える訳もなく、おとなしくルイの隣に座ったフレアは、広げられたテーブルクロスの上に散らばるお弁当たちを見つめる。
よくもまあこんなに彩色豊かなものを作れるな、と思う。それだけでなく、当然全ての料理が美味しいのだろう。王室料理人の作る料理が美味しくないはずがない。
「では、先に毒味を…」
「ぱくっ。….もぐもぐ……。」
「まだ毒味が済んでいないのだが…。」
「………….んんん!?」
唸り声を上げた途端、二人がガタリと音を立てて駆け寄ってきた。血気迫る表情に押され、咀嚼しかけのご飯を喉に詰まらせる。
「うぐぐぐぐ…..」
「フレア!」
「毒か?フレア嬢、吐き出すんだ。」
「み、みず……」
「水が欲しいの?でも今は食べたものを吐き出さないと…気にしなくて良いよ。僕たちに見られるのが嫌なら出て行く。」
「ルイの言う通りだ。」
そんな悠長に話している間に私は窒息しそうだわ。毒なんかじゃなくて、ただの喉詰まりなの!私は今切実に水を求めているの!
もういいわ、と自分で卓上の水入りのコップを鷲掴みし、ゴクゴクと流し込む。だんだんと苦しさが無くなり、空気が体に入って行く感じがした。
「……ふう。お騒がせしました。ただの喉詰まりなので毒物が入っていた訳ではありません。」
「な、なんだ……良かった。首を抑えて苦しみ出すから本当に背筋が凍ったよ。」
「全く、もう少しで実力行使に出るところだった。」
「じ、実力行使とは?」
「口の中に指を突っ込んで吐き出させる。緊急時によく使われる方法だ。」
「ひぇ……それは少し、苦しそうですね…。」
安心した様子の二人とこんな風に雑談をしながら再び食事の席に着く。
流石は女性に人気のある貴公子というべきか、ルイ様もヴァンス様も話術が巧みで、面白い話をたくさん聞かせて貰えた。まぁ、私がお二人のエピソードを懇願したから、基本的に昔話とかそういう類のものだけど……私からすれば最高のつまみね!
お話も素敵だけど、一番最高なことって何だか分かるかしら?うふふ、そうなの、お二人が仲睦まじく話している姿を間近で見られることよ!婚約して良かった、って心から思うわ。
「お二人は本当に仲が宜しいのですね!私にはそういった友人がいないので少し羨ましいです。」
「確かに、フレア友達いないよね。」
「うっ、そんなストレートに言わないでください。」
「何か理由があるのだろう?私もそれほど友人が多い方では無いからな。少し気持ちは分かるかもしれない。」
おお、ヴァンス様が急に饒舌だわ。さっきまで私を警戒しているようだったのに、いつの間にか打ち解けている。彼は女性全般を警戒する、ってことは私まさか非女性だと認識されてしまった!?
いや、ヴァンス様と仲良くなれるなら問題ないけれど。そうよね、これからそれとなくお二人を応援するなら仲良くなるに越した事はないわ。警戒心を解いてもらえたなら、いいか。
「ねえフレア、君が友達に求める条件って何なの?もしかしたらさ、理想が高いからかもしれないよ。」
「ええ、まさにその通りです。私は身分や家格を理由に誰かを蔑んだり、あとは人の悪いゴシップばかり話す方とは仲良くなりたくないのです。ルイ様の仰る通り、理想は高いと思います。」
「そうなんだ。だからほとんどお茶会に参加してなかったんだね。」
「.........どうしてその事を?」
「まあ、色々あってね。具体的には話せないんだけど。」
具体的に話せない、と聞いてフレアはああ、と納得した。きっとルイは、公爵家直属の諜報部隊を使ったのだろうと予測できたからだ。対外的に、私はお茶会に頻繁に出席している事になっている。侯爵家の娘が社交の場に出ないなどと言う醜聞を恐れた両親が、影武者を使っていたのだ。だから、フレア・ヴァーミリア嬢は特定の友人を作ることは無かったが、きちんと社交の場に出ている、という風に世間は認識しているだろう。
どこからか漏れたのか、あるいは諜報部隊の能力が逸脱しているのか......。どちらにしろ、ルイ様を怒らせてはいけないと思ったフレアだった。
「そんな事よりさあ、フレアは知ってる?」
「何をですか?」
「僕たちが、お似合いのカップルだとか噂されてること。」
「はい..........はい?」
「ルイ。そんなくだらない噂を口に出すな。不愉快だ。」
「でも、もしかしたらフレアも信じてるかもしれないじゃん?ね、フレア。」
「え?いや、私は特に.......信じてはいなかったけれど信じたかったとかでは......。」
「ほら。」
「..........フレア嬢。噂は噂でしかない。私たちが愛し合っているように見えるか?」
「はい、見えます。」
「ぶっ、はは!見えるんだ?ははは、フレアは正直だね。」
「正直すぎるだろう......。」
「だって、ヴァンス様は女性を得意とされていないではないですか。だから女性は対象ではなく、男性が、」
「ちょっと待て。私が女性嫌いだといつ言った。」
「公言していなくても、誰だって分かります。」
ほら、と言ってフレアは自身の顔をぐいっと彼の方に近づけた。すると案の定、ヴァンスはムッと顔を顰めて若干体を後ろに仰け反る。
フレアはほら私の言った通りでしょう?と言わんばかりにニカっと笑った。
「ね、これを見れば誰でも……」
「………少し、距離が近い。分かったらから、もう離れた方が良いだろう。」
「っ、わ、すみません!」
心音が急速に速くなる。
気づけば顔と顔が50cmの距離まで近づいてしまっていた。話に集中していて気づかなかったけれど、だいぶ近かった。近くで見ても、肌が綺麗で……って違う!落ち着きなさい、気が動転しているのよ。
バクバクいっている心臓を落ち着かせようとヴァンスを見ると、少し彼の頬に赤みがさしていた。
(み、見るんじゃなかった……!これじゃあ余計に悪化してしまうわ!)
一連の流れを見守っていたルイが、口を挟む。
「……あのさあ、一応僕ってフレアの婚約者なわけ。そこの所、分かってる?」
「ああ、分かっている。すまなかった。」
「待ってください、咎められるなら私です。ヴァンス様に不用意に近づいてしまったのは私で、ヴァンス様に他意は一切ありませんでした!ルイ様も分かっていらっしゃるでしょう?」
焦って弁明するフレアは、まるで浮気を咎められる夫のようだ。浮気をした人は、言葉を重ねれば重ねるほど状況は悪く、相手からの気持ちも薄れていく。
ルイは特にフレアのことを女性として愛している訳ではないが、時間を重ねていく中で大切な友人だと思っている。その友人が、自分ではなく知り合ったばかりの男と親しげにしているのは、少し不満なのだ。
そして、分かっていたことだが、一番彼にとって不快だったのは。
「フレア、君は分かってないよ。自領で穏やかに大切に育てられた君は、獣のような男の本性なんて何一つ分かってない。」
「獣って……相手はヴァンス殿下です。」
「そうだね、ヴァンスは才色兼備な王子様だ。でもそれ以前に一人の男でもある。さっきヴァンスが僕に謝ったのを覚えてる?謝るということはね、それなりの理由があったって事なんだよ。つまりフレアに邪な気持ちを少しでも抱いたってこと。」
「そ、そんな事分からないではないですか。」
「本当のことだよ。ね、ヴァンス。」
「………すまない。貴女の髪が綺麗で、触れてみたいと……一人の男として、良くないことを考えた。二人には申し訳なく思っている。」
私は口をあんぐりと開けてしまう。貴族の女性としてあるまじき行為です、ってマナー講師の方には言われそうだけれど、今はいないから良いのよ。そんな事より、ヴァンス殿下が私の髪に触れてみたかったですって?
ええ、分かっています。彼は本当に私の髪に触れたかっただけで、他意は全くないという事は。……でも、でもね。髪に触れたい、という言葉はとても大事な言葉なの。
一度だけ、我慢強いヴァンス様がルイ様への想いを我慢しきれなかった時。たった一度だけれど、ルイ様がヴァンス様の想いに気づくには十分だったあのシーン。ただ髪に触れて、夜空のような綺麗な髪だと言っただけ。でも、ヴァンス様の瞳には確かな熱が篭っていて……私がとても好きなワンシーンなのに。
(私が経験するなんて、ありえない….解釈違いだわ!)
ルイ様が受け取るはずのものを私が奪ってはいけない。いずれ必ず、いえ、もっと素敵な形でお返しするのよ!
キーンコーンカーンコーン。
授業開始の鐘が鳴った。
「わ、やばい!フレア、僕たち次の授業移動教室だよ!」
「そ、そうでした!大変だわ、ヴァンス殿下、私たちこれで失礼します!」
「フレア急いで!」
服を引っ張るルイ様についていきながら、ヴァンス様への挨拶を欠かさなかったのは褒めて欲しい。
私たちの後ろ姿を見送る王子が何を思っていたのか。誰も知ることはない。
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