5.
お待たせしました…!ブックマークが一件増えてまして、嬉しい限りです。ありがとうございます、励みになります。
「フレア。確かに私は婚約者を見つけて来なさいと言ったよ?言ったけれどね.......こんなに早く見つけてくる上に、相手が公爵令息とはいったいどういう事なんだい!?」
「何ですか、文句があるなら言ってみてください。相手としてはこの上なく不足ないはずです。」
「どうしてフレアは私にだけそんなに冷たいんだ......?って、いやいや、それよりもそのお連れ様が問題なんだよ!そこに座って一から説明しなさい!」
「お父様、ルイ様に失礼な態度を取らないでください。.........すみません、ルイ様。父がご迷惑をおかけします。」
「全く気にしていないから心配しないで。というか、僕の方が突然大事な娘さんを貰おうとしているんだから、手塩にかけて大事に育ててくれた侯爵閣下からすれば不安になるのは仕方がないさ。」
ハンカチを噛み締めるお父様はさながら「悪役令嬢」のようだ。キーッ!と言いながら暴れる姿を見ると、これが侯爵なんて......と、頭を抱えたくなる。侯爵以前に私の父でもあるけれど。
♦♦♦
生徒会室での話し合いで、お父様方を丸め込む算段を目論んだ私とルイ様は、今その計画を実行している。計画はこうだ。
先触れを出した通りの時間に侯爵邸に行き、私はお父様のために用意したカフスボタンを、ルイ様はエストルンド特産の赤ワインを持ってきている。ちなみにこの赤ワイン、ヴィンテージもので3,40年ほど熟成されているらしい......私も飲みたい。
うちの父は騙されやすく、人の好意を疑わない。(ヴィラ曰く、親子そっくりとのこと。不服。)それに加えて借りた恩は必ず返すという義理堅さも持ち合わせているのだから、困った人だ。でもそんな人柄だったからこそ、この厳しい貴族社会から少し離れた場所で生きる選択が出来たのだろう。
我がヴァーミリア侯爵家は、価格としては公爵家についで第二位であるが、実際の権威としては伯爵家、いや子爵家と大差ない。元々小さな名ばかりの貴族だった初代ヴァーミリア子爵が武功で名を上げ、伯爵家に陞等したのだ。次に、何代目だったか......もう忘れてしまったけれど、今度は優秀な魔法使いを輩出して、世の中を便利に変えたので侯爵家になったんだった........気がする。正直細かい事は覚えていない。でも歴代のヴァーミリアさん達が非常に優秀で、この地位が出来上がっているのだ。
だから、侯爵家と言っても祖先が凄かっただけで、今の侯爵家が凄いわけではない。お父様もそれが分かっているから政治絡みの事には一切関与してこなかったし、社交の場にも積極的に出ようとしない。それに、お母様は元平民だから......血筋の事でとやかく言う輩はどの時代にもいるもの。自らそういう場所へ行きたくないのは当然だろう。かくいう私も、同じように育ったため、政治云々の事は面倒で出来るだけ関わりたくない。
そう思っていたのに、こうやって公爵令息と婚約しようとしているのだから阿呆だとは思うけれどね。
「と、とにかく......説明してくれないかい?君たちがどう出会って婚約まで至ったのか......。」
「では、私から説明させて頂きます。きっかけは......少々気恥ずかしいですが、私がフレア嬢に一目惚れをしたことでした。」
「な、何と!うちの娘に一目惚れを......?」
お父様、まるで恋する乙女のような表情をするのは止めてください。その表情は私がするべきであって、お父様がするべきではありません。
と、心の中で突っ込みつつ、しめしめとしたたり顔をする。だって、これは私たちの作戦の一つだから。
『ルイ様、もしお父様を説得したいなら、"一目惚れ"が効果的です。』
『一目惚れ?そんな事で侯爵閣下はお許しくださるの?』
『許してくれるかは分かりませんが......父と母の出会いは、父の一目惚れから始まったのです。同じ境遇であれば効果的かと。それに、お父様は......実は、だいぶ少女趣味でして。小説のような恋が好きなのです。あ、本人は隠したがっているのでバラしては駄目ですよ?ヴァーミリア家の者なら誰でも知っていますけれど。』
ついこの前の会話を思い出す私の顔は、明らかに真っ黒だろう。ふふふ、お父様、悪く思わないでくださいね。
「入学式の日、中庭にある噴水の側にいたフレア嬢はさながら妖精のようで......心を奪われるとはこういう事なのかと、身をもって知りました。彼女の周りだけ輝いて見えたのです。」
「ごほっ、ごほっ!」
(ルイ様、少し盛り過ぎではないですか!?打ち合わせでは、中庭で一目惚れをしたとだけ話すと仰っていたではないですか!)
「我が娘ながら、相当美しく育てたと自負していますからね。しかし、ルイ様......娘の外見だけ惚れ込まれたと?」
「ああ、失礼しました。安心してください、私は彼女の内面にも触れて、二度目の恋に落ちたのです。中庭にいた天使に、何とかお目通り願えないか声をかけようと思った時に.......丁度その側で虐められていた女子生徒を、フレア嬢は庇われたのです。何かを熱心に見ている彼女の視界に少しでも映ろうとしてる私は何と浅はかだったかと......そして、自分を盾に見ず知らずの女子生徒を庇う彼女の心の清らかさに気づかされたのです。」
(ルイ様ぁぁぁぁ!だから、さっきから盛りすぎ!盛りすぎですぅぅ!恥ずかしくて死んでしまいそうだわ...!)
「うっ、......なるほど。経緯は理解できました。しかし、一番の問題がまだ残っていますよね?」
「家格と、派閥の問題でしょうか?」
「その通りです。侯爵家と公爵家の婚約ともなれば、力が強くなりすぎます。場合によっては王家に目を付けられる可能性も......それに、エストルンド公爵家といえば筆頭第二王子派です。」
「その点もご安心ください。仮に問題視されるなら、私は結婚時までに家督相続権を放棄し、分家を立てるつもりでいます。フレア嬢やヴァーミリア侯爵家に貴族の刃が届かぬよう、配慮させて頂く所存です。」
「.......決意は、固いようですね。」
「はい。..........フレア嬢をこよなく愛して育ててこられた事は、彼女を見ていれば良く分かります。婚約の間も、結婚してからも、家に閉じ込めるようなことは決していたしません。彼女には常に誠実であり続けます。そして、ご実家にも頻繁に帰省できるようにスケジュールを組みます。ですから、どうか彼女と私の婚約を認めて頂けないでしょうか。」
あっぱれ、ルイ様。何一つ欠けているところのない、完璧な求婚だわ。少し過剰な部分もあったけれど、総じて素晴らしい説得で、お父様が難癖をつけられる部分何て一つもない。これは、お父様も承諾するしかないでしょう。......お母様がいたら、もう少し手強かったかもしれないけれど。
当のお父様は、何も言えずに俯いている。これ以上口を出すことの出来ない悔しさなのか、あるいは......。
「ふっ....ふぐっ........ううっ。」
「侯爵閣下?ど、どうされましたか?」
ああ、やっぱり。お父様は、本当に......。
「お父様。」
.「なんだい。」
「ふふ、公爵子息様の前で失礼ですよ。お母様が見ていたら、拳骨が落ちていたところです。」
「.........フレア。」
「はい。」
「幸せに......なるんだよ。」
「...っ、当たり前です。私は二人の娘ですから。」
何だか、私もお父様に感化されてしまったようだ。泣き虫なお父様が、こんな風に泣いているから.......私も少し移ってしまっただけ。いつもはわんわん泣くのに、今日に限って凄く寂しそうで。この家に永遠に帰ってこない訳でも無いのに、大袈裟だわ。いつもなら、私はここでお父様を笑ってやるの。お父様の泣き虫って、笑って......でも。
「ふ、フレア......泣いているのかい?」
「っぐすっ、泣いてなんか......。」
「お前が泣いているのを見るのは、いつぶりだろう……子供の頃から我慢強くて、あまり泣いている姿を見せなかったからなあ。」
「そうですか……?」
「そうさ。転んで怪我をしても、お気に入りのぬいぐるみが破れてしまっても僕達の前では泣かずに、部屋に戻って1人で泣いているのを知らないと思っていたのかい?」
「し、知っていたんですか…….。」
「当たり前だろう、大事な大事な一人娘なんだからね。私たちはお前を誰よりも愛して、守って、育ててきた。そんな娘が今、大事な人を見つけたんだ。とても嬉しいよ。嬉しいんだ、本当に……。」
「それなら、婚約を認めてくれますか?」
私は、答えを知っている。お父様が今どんな気持ちでここに居て、私達と話しているのか痛いほどわかる。私だって同じ気持ちよ。でも、お父様から本当の気持ちを話して欲しい。心から、認めてもらえるように…。
「……み、とめるさ。うん、認めるよ。娘には幸せになってもらいたい。それに公爵子息様はとてもお前を愛しているようだし、遜色ない。………けれど、やっぱり…寂しいよ。」
「やっと本音を言いましたね。普段はあんなに素直なのに、どうしてこういう時は素直になれないんでしょうね。」
「っ、仕方ないだろう!認めるしか、ないじゃないか…….、公爵子息様、いや、ルイ様!」
「は、はい。」
「この通り、私は娘と貴方の婚約を認めます。それは、貴方がフレアを大事にしてくれるだろうと思うからです。だからもし、もし娘が涙を流すようなことがあれば許しません。この子は……本当に優しく強い子です。我ながら、どうして自分からこんなに良い娘が育ったのか不思議なほどに。それに…….」
「お父様、私のアピールはもう良いですから。」
「まだまだ言いたいことが沢山あるんだ!お前の良いところを全部知って帰ってもらいたい。というか娘の良いところをこんなに知っているのは私だけだと思い知らせてやるんだ!」
「……はぁ、呆れました。涙も引っ込むほどの醜態です。ルイ様、すみません。こんな父ですが、悪い人ではないんです。」
「分かってるよ。今日で、君の家族はとても温かいことがよく分かった。愛されているんだね。」
「ええ、本当に。過剰なほどです。」
「ふふ……少し、羨ましいよ。」
寂しそうに笑うルイ様の姿に理由があることを、わかっている。彼の家は私の家とはだいぶ違っているから。表向きの公爵家と、実際の公爵家は違う。
でもそれは、私が深く踏み込むべきではないところだ。ルイ様が話してくれるまでは、心の中に秘めておこう。
「それで……公爵令息様、いや、ルイ様と呼ぶべきか。」
「呼び捨てで構いませんよ。」
「いや、流石にそれは……うーむ、じゃあルイ君と呼ばせて貰おう。ルイ君、もうすぐ我が家は晩餐なんだが……。」
「もう、お父様ったら!ウジウジしていないで、一緒に食事でもどうですか、と素直に言えばいいのに。」
「フレアは分からないんだ。私は今、喜びと寂しさを混ぜた複雑な気持ちなんだよ……だからルイ君と仲良くなりたいけれども仲良くなりたくなくてね。」
「お父様、正直に言い過ぎです……!」
いくらこれから婚約する仲だとはいえ、礼儀というものが必要でしょう、と言おうと思ったその時。
耐えられない、というようにルイ様が破顔した。何が面白かったのか、お腹を抱えて笑っている。
「っはは….!くくっ……。」
「ルイ様…?」
「フレア、お前の婚約者様はもしかするとお前よりも美人かもしれないね。同性ながら、私も少しドキッとしたよ。」
「もう黙っていてください。」
「えっ、酷い。」
「ぶっ……っははは!いや、……すみません。お二人の掛け合いが面白くて。はーっ、一生分笑った気分だよ。」
「ルイ様をこんなに笑顔にするなんて、お父様たまにはやりますね。」
「褒めるところそこなの?」
「……っ、ふぅ。これ以上ここにいたら笑い死ぬかもしれない。」
「では、晩餐は参加されませんか……?」
もう少し、ルイ様の笑顔を見ていたかったんだけど。彼の心からの笑いって、ほとんど見られないのよ。いつも貼り付けたような笑顔で、それはそれで素敵だけれど……やっぱり、作り物感が拭えないというか。
そういう笑顔を作るようになった原因は分かっていても、いや、だからこそ本当の笑顔を引き出してあげたいというのは我儘かしら?ヴァンス様がいるんだから、私の役目ではないという人もいるかもしれないわね。でも、確かに私はお二人のファンであって、応援する立場だとしても、もうルイ様の友人…にはなれている気がするの。友人なら、お互いを幸せにして当然だわ。
そのためにも、晩餐には参加してほしい。あの悪魔のような家にいる時間が少しでも少なくなれば……。
フレアはそんな気持ちを込めて、ルイを見つめる。何かを乞うような視線を向けられたルイは少し動揺して、一歩後ずさった。
その光景を見ていた父親がすかさず間に手を挟む。
「二人とも、私の目が黒いうちは許さないからね。」
「何をですか?」
「え?あー、いや、それは……。くそっ、そういう事から遠ざけ過ぎていたせいでツケが回ってきてしまったじゃないか…どうしたものか。」
狼狽え始めたお父様の元に、ルイ様が近づいていく。何やらヒソヒソ話しているけれど、一体何を話しているのかしら?
「……なんですか?」
「そうなんだよ。……から、こうなって……。」
「では…..しましょう。約束します。」
「本当かい?すまないね、手間をかけてしまって。」
「いいえ、フレア嬢のためですから。」
「くぅ、なんていい奴なんだ!適当に理由をつけて婚約破棄なんて出来そうにないね……。」
楽しそうに話しているお二人、楽しいのはいいですが、肝心の娘兼婚約者が放置されている事に気づいています?私に関する話なのにどうして入れもらえないのでしょうか。
「では、この辺りで私は失礼します。本日はお時間を取っていただきありがとうございました。」
「良いんだよ、暇な時はいつでも二人でおいでね。」
「また伺います。フレア嬢も、また学園でね。」
「え、ええ。」
何だか仲良くなってますね?一体何が……?しかもどうして二人はさよならの抱擁を?いや、私もしたいとかそういう烏滸がましい事は考えていないけれど、明らかに距離感がおかしいわよ。
今日出会った娘の婚約者と娘の親の親密度じゃない。娘を通して繋がったのに、なぜか娘がついで扱いになっているし。べ、別に寂しいとかそういうわけじゃ……。
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