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こんにちは!遅くなり申し訳ございません……!

関東圏、特に千葉県は豪雨だったそうですが皆様は大丈夫でしたでしょうか?お盆期間で出られていた方も多いかと思います…怪我には気をつけて、今週も頑張りましょう!


「おいおい、俺がいつお前の兄になったんだ?毎度言ってるが、俺はお前の兄貴なんかじゃない。穢れた血筋から生まれたお前と、2つの王族の血が混ざった俺、どっちが高貴かなんて明らかだろ?」

「ーー今は、ヴァーミリア侯爵令嬢の前です。そのような態度はお控えください。」

「……お前、今誰に向かって指図してるんだ?」


底冷えするような空気が流れ、マクシミリアン王子は明らかに怒っていた。一触触発という言葉に相応しく、これ以上触れれば、手を出しかねない。第一王子は魔法の才能に富んでいるとも聞く。これ以上は、ヴァンス様が危ない。


私はヴァンス様の一歩前に出て、カーテシーをする。


「あら、挨拶もせずに大変失礼致しました。私は、ヴァーミリア家長女の、フレア・ヴァーミリアと申します。」

「フレア、」

「お前は空気が読めないのか?この雰囲気で口を出すって事は、それなりの覚悟があるんだよな?」

「いいえ、滅相もありませんわ!私はただ、マクシミリアン王子殿下にご挨拶を願いたかっただけです。臣下が主君に挨拶する事は問題ありますでしょうか?」

「ーー勇敢なことだな。無能のくっつき虫の婚約者には勿体無い。顔も俺好みだし、どうだ。鞍替えして俺の婚約者にならないか?」


マクシミリアン殿下は、ズカズカと詰め寄り、私の腕を掴んだ。好戦的と言うにはあまりに荒々しく、まるで獣のような瞳をしていた。その目を見て、私はさながら兎のようにただ震えるしか出来ない弱者であると理解した。ヴァンス様を守ろうだなんて、無理な話だわ。


「っ、お離しください。」

「ああ、良いな。その怯えたような目と表情……虐め甲斐がある。」

「やめて、痛いっ」


この人の腕力は一体どうなってるの!?剣の腕は立たないと聞いていたのに、どこからそんな力が……。これも「ゲーム」の、彼がなんでも出来るという設定のせいなのかしら!?


「ーーやめて下さい。」


痛がる私の腕をそっと支え、ヴァンス様がマクシミリアン殿下の腕を掴んだ。すると、一瞬で彼の腕が離れる。ーーと言う事は、ヴァンス様の方が力が強いの?


考えを巡らせていると、離れた私の腕に触れるヴァンス様の手が震えている事に気がついた。そうだ、彼はマクシミリアン殿下自体がトラウマで……そんな状態で私を助けてくれたのよ。


もっと私が前世を早く思い出して、もっと力をつけていたら……ヴァンス様のことを助けられたのかしら。彼の悪夢を、少しでも和らげられたのかしら。






♦︎♦︎♦︎


ヴァンス・リヴィエールはリヴィエール王国の第二王子として生を受けた。母親はしがない伯爵令嬢であったが、王からの熱烈な求婚を受けて側室の座に収まることとなった。


正室と王は所謂政略結婚で、強国リヴィエールとの縁を結びたがったランドルーク王国から妻を娶ることで、両国の友好を示す形を取ったのだ。王妃は王子を成せという重圧に耐え抜き、無事に男児を出産。王国の後継が生まれた事で安寧と思われたが、重鎮らがスペアを欲しがった。


アヴェンヌ王妃は所詮弱国の王女。逆らえば母国がどうなるかわからなかったのだろう。そして王の王で、自身の王位を守ることばかりに囚われ、貴族たちの反感を買うわけにはいかなかった。


しかし、子はできなかった。貴族たちは元々アヴェンヌ王妃を弱国王女として見下していたため、我が娘を側室として食い込ませ、実権を握ろうと画策した。そしてそれに成功したのが、ガルシェント伯爵だった。


王はルチア・ガルシェントに入れ込み、子をなした。それが王女であればどれほど幸せだったろうか。現実は残酷で、生まれたのは男児だった。


『ああ、ああ……ごめんなさい。女の子として産んであげられなくて、ごめんなさい。貴方を不幸な子にしてしまってごめんなさい……。どうかこの母を、許してーー。』


初めて息子に向けたものは、哀れみと深い後悔だった。彼女は、愛を与えるよりもこれから訪れるであろう不幸を嘆いたのだ。側妃ルチアは息子ヴァンスを産んでから、心を病んでしまった。


ガルシェント伯爵は、ヴァンスの誕生を喜んだ。王族の一員になるだけでなく、王になり得る息子を産んだ事に歓喜したのだ。


王も愛する妻との間にできた子をこよなく愛し、側妃ルチアはこの上なく幸せな妻であったと、世間は認識していただろう。


しかし、これは正室派が作った虚像であった。


アヴェンヌ王妃は己を見捨てる原因であり、息子の立場を脅かす存在を生んだルチアを心の底から嫌い妬んだ。立場を固めようと、二人目の男児を産むよう励んだが、生まれたのは結局二人の王女だった。


王妃、王妃派の度を過ぎた嫌がらせは、ルチアを蝕んでいってしまった。気立がよく、穏やかで、優しい。そんな彼女を王は愛したのだろうが、その性質は王族に相応しくなかった。彼女は、弱過ぎたのだ。


『陛下。ーー私は、貴方と……結婚するべきではありませんでした。息子を、産むべきではありませんでした。ああ……貴方と、出会わなければよかった。』


たった5歳の息子を残して、彼女は亡くなった。最後の言葉は、王への恨みの言葉。王はこれを聞いて激怒し、ルチアの死体を異国の地に投げ捨てた。母国に亡骸を埋められない事は、不名誉な事なのだ。王国民として認めない、許されない罪を犯した者が受ける刑と同じ罰を、ルチアは与えられたのだ。ガルシェント伯爵家は同時に貴族位を剥奪された。


行き場のない怒りが、幼いヴァンス様へ向けられるのは必然だったのかもしれない。王は殺しさえしなかったものの、ヴァンス様を幽霊のように扱った。いないもの、元々存在していないかのように……。


母を失い、父の愛まで失った齢5歳の少年に、一体何ができただろう?誰が彼を、守ってくれるのだろう?


ヴァンス様を待っていたのは、地獄だった。


関心のない父親と、わけもわからず恨みをぶつけて来る義母とその息子。幼い彼には耐え難い痛みだったはずだ。


しかし、愛情を求める彼には乳母がいた。彼の生きる地獄で、たった一人彼を愛してくれた人。


『ミーナ、僕は……いらない子なの?』

『まぁ殿下、そんな事を誰が仰ったのですか?』

『……お義母様が、僕は誰にも愛されない子だって。』

『ーーそうですか。アヴェンヌ様が…….。』

『どれだけ勉強を頑張っても、お父様もお義母様もお兄様ばかりなんだ。僕が阿呆だから、僕が何もできないから…….。だから、僕はひとりぼっちなんだね。』





♦︎♦︎♦︎


幼い子供にこんな事を言わせることが、恨めしくて堪らなかった。ヴァンス様ではなく、悪いのは両親なのに……。大人の過ちの責任は、子供が取るべきなの?いいえ、絶対に違う。大人の問題は、大人で解決すべきよ。間違っても罪のない子どもに恨みをぶつけたり、自身の子どもを恨みを持つよう育てるべきではなかった。


ミーナは幼い彼に、なんて答えたのだろう。私がミーナだったら、彼をぎゅっと抱きしめて、頬にキスをして……それから愛してるって伝えるわ。貴方は世界で一番愛おしい存在で、愛されるべき人なのだと。


「ーーお前ごときが、俺を遮るな!」


マクシミリアン王子が大きく手を振り上げるのを見た。


ねえ、ヴァンス様。貴方はずっと、大人しく殴られていたの?今みたいに、ぎゅっと握り拳を作って、耐えるように…….。


バシンっ!!


「……フレア!」


あまりの衝撃に、私の体は耐えきれないまま床に沈んだ。今までこんな力でヴァンス様を叩いていたのだと思うと、心底軽蔑したくなる。


駆け寄ってくれたヴァンス様は、私よりずっと痛そうな顔をしていた。お澄まし顔で、感情が出にくいキャラはどこへいってしまったのかしら?そう思うと笑えて来る。痛いはずなのに、おかしいわよね。


「何、笑ってるんだ。」

「ヴァンス様が、思ったよりも焦った顔をしていたので…….つい。」

「ーーすまない。私のせいだ。」

「私よりヴァンス様の方が、痛いでしょう?」

「私はどこも怪我していない。」

「いいえ。心の話です。」


そういうと、ヴァンス様はよく分からないという表情でこちらを見つめていた。全く、彼をこんなふうにしたのは一体どこの誰よ!心の痛みもわからないなんて!


「……まあ良いです。それより大事な事があるでしょう。ーーマクシミリアン王子殿下。」


ビクッと体を震わせた王子は、怯えた目でこちらを見た。あんなに強気だったのに、よくもまあこんなに弱気になってしまって……。


状況を考えれば、怯えるのも理解できるけれど。


私はこんなだけれどヴァーミリア侯爵家の娘だし、ヴァーミリア侯爵家の娘が溺愛されている事は巷でも有名なはず。ヴァーミリア侯爵家は第一王子派、第二王子派どちらにも属していないけれど、第二王子派の筆頭とも言えるエストルンド公爵家と婚姻関係にある私を怪我させたという事は、大きな事件になるだろう。


揉み消される可能性もあるし、怪我させたぐらい、と思う人もいるでしょう。でもね、王宮は色々な目があるのよ。メイドなり、文官なり、騎士なり……そういう人たちは、主人たちの噂話を共有する。そうやって広がった話は市井まで及び、浸透する。いくら誤魔化そうとしたって、噂話をする人たちの口は止められない。


「な、なんだよ!俺はお前じゃなくてそこの無能を殴ろうとしたんだ!それを勝手に庇ったのはお前だろう!?つまりお前が悪い!」

「…….そうですか。父にもそう伝えておきます。」

「ーーくそっ、侯爵家の娘風情が……覚えておけよ。お前も無能も潰してやるからな!」

「どうぞご勝手に。」


悪態をつき、通りがかった侍女の洗濯物を蹴り飛ばして去って行く暴れ王子を見ながら、私は心のなかで鼻で笑った。威厳ある第一王子が、あんな醜態を晒して……おほほ、哀れなこと!


誰もいなければ高笑いをしているところよ、と仁王立ちしていると、突然体が宙に浮いた。


「わっ!?」


何事かと思った…….訳ではなく。本当は分かっていたのだけれど、こんなこと自分の身に起きるはずがないと思いたかった。


ーー俗にいう、お姫様抱っこだなんて!


ええ、白状します。私も幼い頃は白馬の王子様が迎えにきて、結婚するのだと信じていた時期もありました。でもこの年にもなればそんなのは儚い夢だったと理解できるわ!


どうしよう、私臭くないかしら。それにそれに、今日はお茶気で沢山ケーキを食べちゃったわ!きっと重いわよね、どうしてあんなに欲張って食べたのよ私!


「……下ろしてください。」

「申し訳ないが、その願いは聞けそうにない。」

「お、重いでしょう?それに歩けますし……。」

「羽のように軽いから大丈夫だ。その膝で歩けるとでも?」


言われてみて抱えられて膝を確認すると、両膝から血が出ていた。きっとさっき倒れ込んだ時に擦りむいたのだろう。というか、擦りむいただけで歩けなくなると思っているって.......王族の女性に関する教育はどうなっているのよ。


「少し擦りむいただけです。これくらいなら子供でも歩けますよ。」

「.........。」


いや、無言!?私は歩けるという意思を伝えたのですが!?


どうやらヴァンス様は罪悪感を感じているらしい。自分のせいで怪我をさせてしまったからこれくらいはしないと、とか考えているんでしょうね。悪いのは第一王子なのに......。


それと、もし責任を感じているなら市井の良く効く塗り薬でも送ってくださればそれでいいのに。こんな、こんな姫抱えなんてされたら.......このままだと私の心臓が爆発する。


「頬が赤い。熱が出たか?」

「い、いえ。これはマクシミリアン殿下に叩かれたからです。」

「両頬を殴られたのか?」

「――いえ、右頬だけです。」

「ならば熱があるのだろう。急いで医務官の所へ行こう。」

「大した怪我ではありませんから、塗り薬なんかで大丈夫です。」

「駄目だ。傷が残ってしまうかもしれない。」

「私は別に気にしません。」

「私が気にする。――折角、綺麗なのだから。」


ぼんっっ!!


と心臓が爆発四散した訳ではなく。私の顔が首から髪の生え目まで赤くなったのだ。――なんて罪深い人。私の心臓が止まったらどうしてくれるの?綺麗、ですって。ヴァンス様の方が100倍綺麗だわ!この世界で一番美しいのは、貴方とルイ様です!


私の心中は大暴走で、下ろして欲しかった事なんて忘れて、ヴァンス様の言葉ばかりを頭のなかで反芻していた。――仕方ないでしょう!私は前世も含めて、恋愛とは一切縁がなかったのよう!


「か、勘弁してください......。」

「?どういう意味だ。」

「無自覚......ひぃ......。」


顔を両手で覆い、もう耐えられないと言わんばかりの私の様子を体調が悪いと捉えたヴァンス様は、少し早歩きで医務官の所へ連れて行ってくれた。






「ヴァ、ヴァンス殿下ぁっ!?」

「ユーリか?バーロン殿はどこだ?」

「し、師匠はマクシミリアン殿下の所です。先程突然怪我をしたと仰って......。」

「――お前は薬師だったと記憶している。」

「は、はい。一応ですが。」

「ヴァーミリア侯爵令嬢が怪我をした。薬を頼みたい。」

「ヴァーミリア令嬢!?.......な、成程。わたくしユーリ、お2人の関係は墓場まで持っていく事を約束します。」

「――私たちはそういう関係ではない。」

「はい、わかっています。お2人には事情がありますもんね.....私はお2人を応援します!」

「話を聞け。――はぁ、もういい。薬を頼む。」

「わ、分かりました。それでは患部を確認させて頂いても?」


私は驚いていた。ヴァンス様とこんなに親し気に話せる人は、ルイ様以外に見たことが無かったから。興味のない相手にこれ程付き合ってあげなそうだし、二人の間には信頼が見えた。「ゲーム」には、こちらのユーリさんと、師匠のバーロンさんは出てこなかった気がする......王宮医師は主要キャラではなかったからそもそも登場していない?それとも私が忘れているだけ?


部屋のソファにゆっくりと下ろしてもらった私は、ユーリさんの診察を受けた。怪我をしたのは頬と膝だけなのに、何故かユーリさんは殿下に後ろを向かせた。ヴァンス様は頬と膝の診察で、どうして見てはいけないのかという当然の疑問を持っていたようだが、ユーリさんの"女性の体を見るのは失礼です"という言葉に素直に頷き、後ろを向いた。


診察が終わって、少し沁みる塗り薬を塗ってもらった後になって、ヴァンス様はようやく前を向くことを許された。頬と膝の状態、そして使った薬の説明をしてくれた後に、処方する薬と使用法を教えてくれた。その過程で、特にヴァンス様は後ろを向く必要は無かったとユーリさんは漏らしてしまい、拳骨を受けていて面白かった。――ヴァンス様の新しい一面を見れたようで、とても嬉しい。


「それで、この怪我はどうされたのです?転んで出来た怪我では無さそうです。」



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