11
こんにちは、ブックマークが4件に増えていて嬉しい筆者です。作品を好きと思って下さる方が少しでもいる事がとても励みになっています。ありがとうございます!
「――要するに、突然現れたマクシミリアン殿下がフレア様をぶん殴ったってことですか!?」
お、落ち着いてと言う私の制止は聞かず、暴れ馬のように怒り狂って地団駄を踏むユーリさんは、どうやらマクシミリアン殿下に相当な恨みを抱いていたらしい。あいつは最低です!とあろうことか王子をあいつ呼ばわりし、王子への恨みつらみを話し始めた。
大した怪我もしていない癖に、大病にでもかかったような雰囲気で医務官を呼ぶので困っているそうだ。王宮医師ともなれば大金をはたいて一族の者の病を治して欲しいと依頼が来ることも少なくなく、個人の研究もあるので時間を無駄にできない。実は、治癒魔法もお金を払えば教会へ依頼できるのだが、ありえない額を対価として請求されるらしい。治癒魔法は使い手がほとんどおらず、半分言い値で治療を行うそうなのだ。だから、平民を含めて普通は魔法に頼らない治療法を使うのだそうだ。
私にとっては勉強になる話だったが、途中途中でゴシップ的な話も入ってきてそのあたりの真偽性は定かではない。――でも、彼の人間性を少し知った今は、有り得ない話ではないなというような酷い話もあった。
「ユーリさんも大変だったんですね。」
「はぁ、本当ですよ。この王宮にはフレア様のように一介の下仕えを労って下さる方はいません。僕は感動しました!」
「そ、そう?」
「ええ、そうですとも!」
自信満々に言っているけれど、今私の隣に座っているヴァンス様も、その王宮の一員なのよ?いくら彼が優しいとはいえ、その発言は不味いんじゃないかしら。
「――フレア。傷は痛むか。」
「いいえ、ユーリさんのおかげですっかり大丈夫です。」
「ユーリ、この薬は即効性があるのか?」
「この薬ですか?いや、魔法じゃあるまいしそんなに効き目は早く出ませんよ。勘違いですね。」
お、おお。ユーリさん大分バッサリね......この性格で、貴族を相手にしていたらいつか不敬罪で首を跳ねられそうだわ。嘘をつかない事は、個人的に信用出来て良い事だとは思うけれど......。
「先程、ヴァーミリア侯爵に手紙を届けた。治療費は勿論だが、他に何か欲しいものはあるか?」
「......恐らく、お父様がありとあらゆる物を届けてくれるので、遠慮しておきます。」
「ああ!その話は有名ですよね。ヴァーミリア侯爵は娘の小さな傷一つで絶望し、侯爵家の軍隊と資金を総動員して相手を抹殺、そして娘の心の慰めのための品を調達してこようとするとか。」
「ど、どういう噂ですか!?」
「はは、ヴァーミリア侯爵家には逸話と噂が沢山ありますから!特にフレア様に関するものは特段過激ですね。なんせ、籠の中の妖精とまで呼ばれた美少女ですし。学園に入学されるまでその姿を見たものは片手で数えるほどしかいないと言われていて......どれだけ美しい妖精を囲っているのか、ゴシップ好きたちは明かしたかったようですよ。ですが侯爵のガードが固すぎて、誰一人として不可能だったようですけど!」
「籠の中の......妖精......。そんな大層な名前で呼ばれていたなんて......。」
「そうですか?僕も実際にフレア様を見るまでは誇張だろうと思ってましたけど、実物を見たら妖精と言う言葉でも過少な評価に聞こえるほどに重いましたよ。ヴァンス様と並んで遜色のない相手はほとんど見たことがありませんし。」
「あ、いや、そんな.......。」
ど、どうしましょう。ユーリさんがとても褒めてくれる。彼は嘘をつかないと分かっているから、余計に恥ずかしい......!
確かに私の容姿は目立つとは思う。髪色は桃色だし、瞳は桃色と紫色が混ざった、まさに妖精の持つ宝石眼のようだ。学園の入学式、送りの馬車から降りた時の視線はすごかった。嫌な視線ではないけれど、何というか…….珍しい生き物を見たような?そんな感じ。
美少女というのは、この髪と瞳が影響しているのね、恐らく。この国では妖精=美しくて神秘的なものという考えが染み付いているから、たまたま同じような要素を持ち合わせた私を綺麗だと認識してしまうのは仕方がない事なのかもしれない。
だっておかしいわよ。私から見たら私より綺麗な人がずっとずっと沢山いるもの。ま、まぁ私は社交性がないからそんなに出会った人は少ないけれど…….それでも、綺麗な人は沢山いたわ。
だけど、ユーリさんは私のことを褒めてくれたのよね。謙遜するより、喜んでくれた方がきっと彼も嬉しいはずだわ。
「あ、ありがとう……。」
「っくぅ〜〜〜!ああ、この気持ちをどう表現すれば良いんでしょう!?可愛いを超えた言葉とはいったい何がありますかね!?くそ、僕の語彙が死にすぎている……!」
「落ち着け。」
「落ち着いていられますか!?今目の前にいるのがフレア様と言うことだけでも素晴らしいのに、そのフレア様の照れ顔を生み出したのが僕なんですよ!?」
「ーーユーリ、その……少し気持ち悪い。」
「そうでしょうね!僕だって分かってますよ、でもコントロールできないんです!」
「ユーリさん、落ち着いて……。」
「フレア、治療も済んだようだし頭のおかしい奴とは離れよう。」
「え?あ、はい」
挨拶もせず、帰ってしまって良いのですか?と尋ねる前にヴァンス様によって私は部屋から引き摺り出されたのだった。
その後、私はヴァンス様によって招集された豪華絢爛な馬車に乗り込み、街中を悪目立ちしながら帰ることとになった。
私は普通の馬車でいいって言ったのよ?そしたら金の装飾が施されたピカピカの馬車が来たの。だいぶ控えめにしたのだが、どうだろうか?だなんてあのお顔で言われてみなさい。誰が断れるって言うのよっ!
「ーーはぁ。」
無駄に光る馬車に乗った私は、溜息をつく。
どうしてあんな事をしてしまったのか。よりにもよって、国で一番権力のある相手を敵にしてしまった……大人しくしておけば、何も起こらなかったかもしれないのに。
しかし、思い返すとはらわたが煮え切りそうな思いになる。どうしてヴァンス様が、ずっとあんな目に遭わなきゃいけなかったの?小さい頃からあんな風に暴力や暴言を受けて、よくあんな素直に育ったものだわ。本当に彼の乳母は素晴らしい人だったのね。
それに……あのくそ、ではなくてマクシミリアン王子だけではなく、エメリア王女の事もある。彼女にもだいぶ嫌われてしまっていた。ヴァンス様のことが大好きなようだったから仲良くなれると思うのだけれど。でも彼女からすれば、私は大事な兄に害を為す女だし。
ーーああ、何だか眠くなってきた。
ちょうどいい具合に揺れる馬車の中で、ついつい意識が飛びそうになってしまうのは仕方がないだろう。だって、この高級馬車、普通の馬車と違って揺れないのよ。普通はどっかんがっしゃんと揺れに揺れて、怪我をしないようにするだけで精一杯なんだから。
♦︎♦︎♦︎
「ヴィラー?」
「はい、お嬢様。」
「うわっ、驚いた。」
「お帰りなさいませ。ーークソ王子に絡まれたそうですね。」
「え、どうして知っているの?」
「侍女同士の繋がりがあるのです。情報交換を行ってそれぞれが主人のために使っています。」
「じゃあ私のことも勝手にペラペ喋っているのね……?」
「いえ、私はあくまで他の侍女の話を聞くだけです。お嬢様の話を聞かせてあげる訳がないではありませんか。」
え、私そんなに聞かせられないような恥ずかしいことをしていたかしら?確かに領地に引きこもって友達の一人もできず、遂に領地をでて学園に通ったかと思えばまだ一人も友達ができていないけど……あら、思ったより悲惨だわ。これは仕えている使用人からすると恥ずかしいかもしれないわね。
「ごめんね。」
「……….何故謝られているのか理解できませんが、長年お嬢様の侍女を務めている私には分かります。お嬢様が多大なる勘違いをしている事が。」
「勘違い?今のどこに勘違いする要素があったのよ。」
「そして、こう言う時は訂正しないほうがお嬢様のためになることも知っています。」
「……ヴィラは優秀な侍女なのねえ。」
「ああっ、お嬢様。何も理解できないのに理解できたふりをしていらっしゃる……!可哀想で、可愛いです。」
「一度殴らせて頂戴。」
「え、良いのですか?」
嬉々として頬を差し出してくるヴィラに余計に腹が立った私は、もう良いわ、と言って自室へ戻った。ヴィラは優秀で最高の侍女だけれど、たまにどこかおかしいのよね。
「ーーはぁ。明日どんな顔でヴァンス様に会えば良いかしら。エメリア様に忠告された手前、今まで通りと言うわけにはいかないし……やっぱり少し距離を置くべきなのかもしれないわ。」
明日が憂鬱に感じる。エメリア様の心配は尤もだけれど、私が気になったのはルイ様だった。仮にも婚約者の立場で、私の不名誉な噂は彼にどんな影響を与えるか……ヴァンス様にもルイ様にも悪い事をしてしまった。
「日本人」の感覚で生きてはいけない。私が生きるのは、この世界であり、過去の常識に縛られて生きてはこちらに馴染めない。距離感を大事にしないと。
憂鬱な気分を抱えて、私は寝台に寝転んだ。
気に入って頂けたらいいね・ブックマークをお願いします。




