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第三十九話

「そう言えば、ジーノって色んな人の護衛してるよね。」


 ジュディットはクッキーを頬張りつつ、顔を上げて言った。


「そうね。」


 エーリカは肯定するブラジェナを一瞥して頷いた。


「私達以外の護衛もしてるわよね。」


「ギルドの近くでも見かけるもの。貴族とかの護衛もしてるのかなあ。」


 ジュディットは頰を緩ませ頬杖を付いた。


「式典とかで貴族の人達のドレスって良いよねえ憧れるな。皆綺麗だし。」


 エーリカは青の瞳を輝かせ、身を乗り出す。


「良いわよねー!あの刺繍とか、図案とか。憧れるわ。」


「そうね。」


 ブラジェナは目を細め頷く。髪型は侍女とかがセットしてるのかしら?ブラジェナは華やかな服装と髪型をした自分を想像し、深くため息を吐いた。


「あんなに綺麗な人が多いんだもの。騎士でも見惚れる人がいそうよね。……なんて、あまり言うことじゃないか。」


 エーリカはパッと口元を抑えた。しかし、目は弧を描いている。ジュディットはのんびりとした口調で笑顔で言った。


「ジーノは、人気だろうね。」

 

 数拍置いてから、ブラジェナと目が合ったジュディットは目を瞬せた。


「ブラジェナ、どうしたの?何か怖い顔してるけど。」


「え?……そんな顔してたかしら。」


 ブラジェナは窓を見る。鏡に映った彼女の顔は、僅かに強張っていた。変な顔。彼女は頬のマッサージをし出した。彼女は頰の筋肉と共に、心が解けていく様な気がした。窓に映るジュディットは微笑を浮かべると、同じように窓を覗き込み、マッサージをする。そんな彼女達に、エーリカは吹き出した。


「ふふ、二人ともマッサージ?私もしようかしら。」


 三人は顔を見合わせると、笑みを向け合った。



「そう言えば、ブラジェナがジーノに初めて会ったのって、いつ?研究者になってすぐ?」


 ジュディットは赤い瞳をこちらに向けて言った。ブラジェナの心臓が弾んだ。彼女は顎の下に手を当て、首を捻った。


「確か、私が17歳の時だったと思うわ。」


「確か私が此処に来た時には、もういたわよね。」


 エーリカは、眉を顰めて言った。 


「エーリカは、私より少し後に来たものね。」


「ええ。」


 ブラジェナとエーリカは互いに微笑みかける。


「どんな感じだった?」


「そうは言っても……。ジーノも18歳だったし。今とあまり変わらなかったと思うわ。でも、もっと緊張気味だったかもね。それに、割とモンスターに突っ走っていたかも。」


「あー、確かにそうだったかもしれないわね。」


 エーリカは瞳を閉じ、視線を斜め上に向けて言った。


「確か、モンスターと遭遇したのよね。なんの種類かは覚えていないけど。でも、お互いにあまり良い印象なかったかもしれないわ。」


「へえ。」


「ブラジェナ、援護していたし、皆最初はそうだったんじゃない?」 


「そうかもしれないけど。」


 ブラジェナは眉に皺を寄せ、エーリカを見る。小さく笑う彼女に、もう、と思いつつ、ブラジェナはジーノの言葉を思い出した。


──研究者が戦闘に参加するんですか?



 机の上に置かれた本を見て、不意にエーリカが微笑を浮かべた。


「そう言えば、ブラジェナ、ルフィナの魔法薬理論の本持ってたのね。私も昔から読んでたわ。今は棚の中にあると思うけど。有名よね!」


「本は知ってるけど、見たことないなあ。」


 ジュディットは魔法薬理論に視線を向け、眉を下げた。


 二人の言葉に、ブラジェナは身を乗り出す。


「そうなの。無くしたと思ったけど、お母さんが送ってくれたのよ!見つかって良かったわ!」


 満面の笑みを浮かべてブラジェナに、二人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 

「良かったね。」


「良かったわね!」


 それからエーリカとブラジェナの二人はルフィナの話題で盛り上がった。


「ルフィナ・マズロウァー名誉男爵!女性で若くして平民から魔法薬研究者に、そして名誉男爵になるなんて!凄いわよね!憧れるわ!」


 ブラジェナは心に炎を宿して言った。


「今ある薬の原型はかなり彼女が作ったものだって言うらしいし、私達の理想よねえ。」


 エーリカは頬杖を付き、瞼をとろんと下げて言った。


 ジュディットは時折相槌を打ちつつ、同意した。


「当時も冒険者がいたかは分からないけど、助かってただろうね。」


 暫く語り合った後。ふと我に帰り、二人は罰の悪い顔をした。彼女達は頰を赤く染めると、笑顔でこちらを見ているジュディットに頭を下げた。


「悪いわね、二人で盛り上がっちゃって。」


「ごめんなさい、ジュディット。」


 エーリカに続いてブラジェナもジュディットに謝る。ジュディットは明るい笑顔で右手を横に振った。


「良いよ。面白かったし。私の仕事にも関係あるし。今度古本でも良いから見てみようかな。」


 ブラジェナ達は顔を見合わせると、ジュディットに揃って礼を言った。


「ありがとう。」



 暫くして。ブラジェナ達は見送るジュディットに手を振った。


「ジュディット、今日はありがとう。」


「ジュディット、また今度ね。」


「二人とも、さようなら。」


 ブラジェナとエーリカはにこやかな笑みをこちらに向け、手を振るジュディットに振り返した。


 ブラジェナはある路地でエーリカに顔を合わせた。


「じゃあ、エーリカ、また今度ね。」


「ええ。」


 エーリカは微笑を浮かべると、その場を後にした。


 二人になった帰路にて、ブラジェナは目を細める。全くもう、皆ジーノのことばっかり。彼女は小さくため息を吐いた。これから先が思いやられるわ。彼女が上を見上げると、灰の雲の上に夕日が覗いていた。

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