第三十六話
話題は先程の髪型についての話題になった。
「さっきブラジェナと髪型やヘアゴムの飾りについて話してたんだけど、ブラジェナにどんな髪型が似合うと思う?」
自分を見るエーリカの青の瞳。ブラジェナは視線を逸らし、髪にそっと手を添えた。エメラルドグリーンが目に入る。
「私は、ポニーテールでも良いと思うけど。それに、仕事中邪魔だし。」
「それ以外の時はもそうじゃない?」
こちらを見つめるエーリカに、ブラジェナは肩を竦めてか細い声で言った。
「たまには、髪型を変えても良いと思うけどねえ。私みたいにハーフアップとか、お団子にしたりとか。アップスタイルでも良い思うけど。ポニーテールでも編み込んだりも出来るし。」
エーリカはブラジェナの髪にそっと触れながら言った。ブラジェナは思わず笑ってしまう。くすぐったいわ。
「私も、基本下ろしてるけど、たまにシニヨンにしてるしね。」
ジュディットは笑顔で言った。
「それに、スカーフもそうよね。髪飾りが付いたヘアゴムでも良いわ。何が好き?」
「リボンとか?花とか?小さいの。」
「あ、それも良いね。」
ジュディットは両手を合わせ、笑顔で言った。
「後で鏡の前でやって見たら?ヘアゴム貸すから。ちょうどいくつか持ってるし。」
エーリカは妙案を思いついた、という顔で言った。
「あまりやったことないのよね。」
ブラジェナは眉を下げる。
「私が教えるから!」
エーリカは右手で握り拳を作って言った。
「私も見てみたいな!良かったら教えて!」
ジュディットは身を乗り出し、赤い瞳を輝かせて言った。
結局ブラジェナはシニヨンにしたハーフアップに赤いライトストーンの付いた花のヘアゴムを付けた。
「出来たわ!」
「可愛い!」
ジュディットは高い声をあげて言った。そんな彼女の髪には、青の花柄の髪飾りが付いている。
「ありがとう、ジュディットも可愛いわ。エーリカ、ありがとう。」
ブラジェナはエーリカに微笑みかけた。
「どう致しまして。皆に見せたいわね。ヤンネとか、ジーノとか。」
最後はイタズラっぽい笑みを浮かべて言うエーリカに、ブラジェナは眉を下げた。
「もう、やめてよ。」
エーリカは、ふふ、と笑い、ブラジェナの髪に手を添えた。
「ジーノと言えば、少し前にギルドで見かけたよ。」
その言葉にブラジェナは目を見開く。身体が若干強張った。エーリカは頷きつつ話を促す。
「あら、そうなのね。話したの?」
「いや、他の人が対応してたから。目が合ったら、笑いかけてくれたよ。」
微笑を浮かべるジュディット。ブラジェナは胸が軽くなった。良かった、話はしなかったのね。
「話しても良かったけどね、他の人の対応があったからね。」
穏やかな口調で話すジュディットに、ブラジェナは軽く拳を握った。危なかったわ……。私と会うこと、話さなくて。
しばらく互いの髪型をいじった後、エーリカは思い出したように言った。
「歩いてて思ったけど、獣人の女の子達って、スカート履けて良いわよね。私達人間が切れるのは、一部の職業とか、調査の時くらいだもの。羨ましいわ。」
肩を竦めため息を吐くエーリカ。忘れてなかったのね……。ブラジェナは目を細め、内心ため息を吐いた。
そんなエーリカ達に、ジュディットは目を見開き、勢い良く身を乗り出す。
「そんな話をしたの?まさか大声で喋ってないわよね?そうじゃなくても、教会の近くとで。」
「もちろん。小声で喋ったわよ?」
エーリカは目を瞬かせ、首を傾げて言った。
「もちろん、そんなことしてないわ。小声で喋ったわよ?」
途端にジュディットは背もたれに背を預け、深くため息を吐いた。
「良かった、安心したわ。教会とかから注意来るって噂だし。確かに冒険者の子達がロングスカートを見て、羨ましくなることあるけれど。」
ジュディットは苦笑する。
「それでも長いと動きにくいみたいだね。でも仕方ないよね。」
「ああー……。」
ブラジェナは眉を下げる。調査時のことを思い出した。確かに、結構動きにくいのよね。
「確かにね。それに受付嬢じゃあ、あまり着ることないしね。」
エーリカはジュディットに一度視線を向ける。そして苦笑した。
「こっちも調査の時くらいだし。ワンピースよりちょっと短いけど、動きにくいのよね。」
「憧れるよね。」
「そうね。」
難しいだろう、ということでブラジェナは会話を打ち切った。いつかどうにかなれば良いのに。
話が一段落付いたところで、エーリカがブラジェナを肘で小突いた。青い瞳は急かすように彼女を見つめている。途端に閉口するブラジェナに、ジュディットの赤い瞳が煌めいた。カップを置き、彼女は笑顔で椅子から身を乗り出し、ブラジェナに尋ねる。
「ねえ、ブラジェナ、貴方何かあった?」
「え?」
ブラジェナの座っている椅子が揺れる。彼女は自分の口元が引き攣ったのが分かった。彼女の目が泳ぐ。
「私も聞いたけど、ブラジェナ、何も話してくれないの。残念だわ。」
肩を竦めるエーリカ。そんな彼女に、ジュディットは目を丸くさせた。
「そうなの?エーリカにも?」
「ええ。」
ジュディットは、ええー?と首を横に傾けた。彼女は微笑むと、ブラジェナを見据える。
「じゃあ、私には教えてくれる?ブラジェナ。」
「え、ずるい。私にも教えて。」
エーリカは、口調は不満そうであるが、青い瞳は輝いている。
「そうだね。私達に教えて。」
青と赤の二対に凝視され、ブラジェナの身体が鉱石のように固くなった。二人に交互に視線を向けるが、目が逸らされることはない。彼女は小鳥の鳴くような声を出す。
「実は最近……、ある人と色々ちょっとあって。」
「ジーノ?」
「ジーノよね?」
ジュディットだけなら誤魔化せたかもしれないのに……。ブラジェナは眉を顰め、エリーカを見た。彼女にとっては、エーリカの方が手強かった。ジュディットだけならばはぐらかせたかもしれないが、エーリカが逃してはくれないと彼女は分かっていた。
話して?とジュディットは首を横に傾けた。エーリカが青い瞳でブラジェナを見つめている。ブラジェナは一度目を閉じ、俯いた。頰が熱を持つのを感じる。小さくため息を付く。彼女は顔を上げて話し出した。
「この前、バレンタインの時。ジーノに告白されたの。」
ジュディットとエーリカはキャ、と高い悲鳴を上げた。ブラジェナが顔を上げると、ジュディットは手を合わせ目を輝せながらブラジェナを見ていた。
「ジーノ、とうとう言ったんだ!」
「本当に!」
ブラジェナはその言葉に目を見開いた。彼女は身を乗り出してジュディット達の顔を覗き込む。
「とうとう、ってことは、ジュディット達、知ったの!?」
ジーノが私のことを好きだってこと、知ってたのね!そんなブラジェナの様子に、ジュディット達の表情が変わる。ジュディットは肩を竦め、やれやれ、と言う風に首を振ってため息を吐いた。エーリカは眉を顰めている。
「ジーノ、分かりやすいもの。勿論知ってるわ。肝心なブラジェナは、気付いていないんだもの。」
細められる赤い瞳。
「私もすぐ分かったわ。ジュディットも知ってるのに。」
「も、って何、それ!?」
「あら、ごめんなさい。」
「もう、エーリカ!」
本人を他所に目の前で騒ぐ二人に、ブラジェナは愕然と口を開けた。
ブラジェナは肩を下ろした。彼女は背もたれに寄りかかると、コト、と椅子が軽く揺れた。二人とも知ってた、知らないのは私だけって……。彼女は項垂れる。彼女の頰がより熱くなった。
ブラジェナはジュディット達が再び前のめりになるのを感じた。




