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第三十四話

 ジュディット達との約束の日の前日。自宅のキッチンにて。ブラジェナは白い布を頭に付け、杖を振り、調理器具を動かしていた。以前作った、クッキーを作っているのである。


 宙にボウルの上で、泡立て器でバターや砂糖が混ぜ合わされる。暫くして、卵を手で割り、卵黄と卵白に分ける。卵黄を入れて更に混ぜた。更に薄力粉を入れ、干し葡萄等を混ぜつつ一つにまとめる。甘い香りがキッチンを包む。丸や四角、星などの鉄製の板に置きしばらく寝かせると、彼女は家の外に出て、少し離れたところにある石窯に専用の鉄板に移し替えて入れた。杖を取り出して振り、魔法で火を付ける。薪の中に火が灯った。


 暫くして、クッキーの色が変わり、彼女は石窯から鉄板から取り出した。


 出来たわ!美味しそうね!ジュディットの教えのおかげよね。明日持っていかないと!


 彼女は鉄板ごと網に乗せ、熱が取れるのを待つ。冷めると元の鉄板に移し替えた。


 家の中に入り、机の前の椅子に座り、鉄板からお皿に移し替える。列を作り食べられるのを行儀良く待っているクッキーに、ブラジェナは満面の笑みを浮かべた。


 ブラジェナは紅茶を淹れる。爽やかな香りが漂う。


 

 明日持って行く分を包みつつ、彼女は星形のクッキーを摘んだ。軽い音を立てて口の中でクッキーが砕け、干し葡萄の甘酸っぱさが広がり、彼女は口角を上げた。美味しいわ!


 ブラジェナはふと首を捻った。最後に作ったのいつだったかしら……。更に一枚摘む。あ、最後に作ったのはあの時ね……。ジーノにバレンタインで渡したのを思い出した。熱烈な告白を思い出し、頰が厚くなり、摘んだクッキーがより甘く感じ、紅茶で流し込む。彼女は小さくため息を吐いた。



◇◇◇

 


 エーリカとジュディットとの約束の日。太陽が高い位置にある時間帯。二月も後半、寒さが辺りを包んでいる。ブラジェナはエーリカと待ち合わせをしていた。広場に到着し、時計を見ると、約束の時間の十分前である。彼女は視線を巡らした。広場は賑わっているものの、青の髪の人物は見当たらない。まだ来てないみたいね。彼女は茶色の鞄を抱え直した。


 ブラジェナが到着してから数分後。


「お待たせ。」


 青い髪をハーフアップにしたエーリカが早足でやって来た。手には紺色の鞄。彼女はブラジェナに笑いかける。


「私もさっき来たところよ。」


「そう?良かったわ。」


 エーリカは目を細め、胸に手を当てた。ブラジェナ達は並んで歩き出す。彼女が隣を見ると、ゴムに付いた金色のストーンが散りばめられた飾りが輝いている。


「そのヘアゴム、良いわね。」


ブラジェナが目を細めると、エーリカは微笑を浮かべて髪に手を添えた。


「そうでしょ?この間買ったの。ブラジェナも、買えば良いのに。いつもスカーフばっかり。」


 エーリカは、ブラジェナに目を細めて呆れ気味に言った。彼女は身を小さくしてから、エーリカのヘアゴムに視線を度々向けつつ言う。


「そうね……。」


「気に入ったものがないなら、私が買って来てあげるわよ?どんな物がいい?色んなのがあるわよ?リボンとか、蝶の装飾りとか、ハートや星とか。編み込んでみたりも良いわよね。」


 エーリカは指で数えつつ言った。


 その横を、獣人の女性が通り過ぎる。彼女は、一度視線を向けると、肩を落とした。そして、辺りに視線を走らせ、声を顰めて言う。


「良いわよね、スカート。私も普段から着てみたいわ。」


 そんなエーリカに合わせ、ブラジェナは、眉を寄せ、小声で言った。


「そうは言っても……。あれは獣人の子達用よね。私達人間が普段着るものじゃないわ。」


 確かに、羨ましいけれど。人間がワンピースを着るのは、昔からの慣習らしい。獣人にワンピースを無理矢理着せた場合、罰せられるようである。


 まあ、そうよね。ブラジェナは頭の中でワンピースを着せられる獣人女性を想像した。尻尾が通せないもの。ワンピースに尻尾穴を開けることは実用的ではないため、スカートが適している。


 ブラジェナはスカートを着た自分を想像し、僅かに胸が躍った。勿論ジュディット達も一緒である。友人達と出かけることを想像し、ある顔が頭を過ったが、頭から掻き消した。



「今日、私、焼き菓子を焼いて持って来たのよ。」


 ブラジェナが鞄から袋を出す。すると、エーリカは眉を吊り上げて言った。


「お菓子作って来たの?私なんてなんて買って来たものよ?教えてくれれば良かったのに。」


 エーリカは眉を下げ、鞄から袋を取り出して見せた。ブラジェナは眉を下げた。ええ……、そうは言っても。彼女は肩を竦めて言う。


「何となく作って来たのよ。大丈夫よ。それに今度、私も買ってくるから……。」


「それもそれで悔しいわ!何か負けた気分よ!」


 渋い顔で息を吐くエーリカに、ブラジェナは心に暗雲が指した。


「ええ……。そう言われても、困るわ。」


 不貞腐れたようなエーリカ。その様子に、ブラジェナは大声で別の話題を振る。


「そう言えば!最近どんなお菓子が流行ってるの?教えてくれる?」


「え?……と言っても色々あるわよ?」


 エーリカは目を白黒させると、歩きながら視線を斜め上に向けながら答え始める。そんな彼女に、ブラジェナは内心ため息を吐きながら相槌を打った。


「色々あるのね。」

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