おまけ 筆頭公爵と国王の伴走
公爵と国王の歩み。親世代なので長いです。
衝撃の出会い
16歳の誕生日、光栄にも国王陛下から昼餐会に招待された。平均よりかなり早い大学部の複数科卒業と公爵教育、ひいては国王代行教育の終了を祝ってくださるそうだ。
決して表には出さないが、正直に言えば祝いなど必要ない。無名の人間や一般国民を大役に抜擢するならお披露目も必要だろうが、生まれた時から公爵家の長子であり、すでに小公爵である私には無用の長物だ。それどころか、いらぬ嫉妬や羨望を煽るだけだ。敵対する者も厄介だが、こじらせた信奉者は、自己同一視で私を全肯定して奴隷になろうとしたり、私の思考を推察したつもりで事件を引き起こしたり、妄想の中の私と勝手に結婚していたりとろくなことをしない。許されるなら、嫉妬も信奉もしない無害で優秀か努力家の人間と過ごしたい。私の願いはそれだけだ。
それに王家は小公爵よりも立太子を翌年に控えた王子に気を遣うべきだ。5人目にしてやっと得た待望の王子が私と同世代であることは、互いにとって大いなる不幸だろう。王子は努力家で優秀と聞いているが、あらゆる分野で歴代最年少を軽々と越えていく従兄と比べられてどんな気持ちになるだろうか。私の代で数代に一度しかない国王代行の任が来なければいいのだが。卒業後はすぐに代行への一段階目である外務省就職が決定している。16歳は早すぎると見習い扱いだそうだが、ならば延期してくれてもいいのに。気が滅入る。
「わずか16歳にして最高学府の3つの科を卒業しただけでなく、すでに次期公爵としてのすべての教育課程を終えている。小公爵の栄誉は枚挙にいとまがない。この天才がいずれは最も近い臣下となるのだ。王子も小公爵をおおいに見習うといい」
やめてほしい。弟の息子を褒めるより自分の息子を褒めろ。将来の国王代行候補として、成人前に王子と私を近づけておきたいのだろうが、接触を極力控えてきた私の気遣いを無にする行為だ。情など育てなくとも職責は果たすので、双方のために乾いた関係でいさせてほしい。
決して面には出さないが、王子の反応を思って暗澹とした気持ちで顔を向けると、輝く笑顔がそこにあった。
「君は凄いな。よかったら数学の勉強を見てくれる?」
なんの打算もない。嫉妬もない。羨望は、あるのだろうか。やけにからっとして湿度がまったくない。まるで幼子が菓子の山を見た時のような……。おかしい。王子は2歳年下の14歳だったはず。学業は優秀と聞いた。盛っていたのか。それとも、これこそが王家に時々ある事例なのだろうか。
「喜んで」
笑顔がさらに笑顔になった。後ろに犬が見える。昼餐の間に犬がいるはずがない。自覚がないだけで疲れているのだろうか。
昼餐が終わると、満面の笑顔の王子が傍にやってきた。直行だ。
「食事の時も思ってたけど、君、すごくきれいだね。近寄ったらもっときれいだ。なんだか輝いて見える。公爵家の人はみんなそうなのかな?」
公爵家の人なら昼餐会に夫婦で出席していたが、私の隣にいた公爵夫妻は目に入らなかったのだろうか。たった一人の王子として公爵である父の顔など見慣れているだろうに。ついでに王家と公爵家の顔は大差ない。王子の父と私の父は実の兄弟なのだから。ご尊顔に関しては、王子は確実に国王夫妻の好いとこ取りなので、この王子でなければ皮肉かと思うところだ。
嫌味もない、劣情もない、心からの賞賛の言葉になんと返せばいいものか。どこの誰に何を言われようと、返す言葉に困った経験などないのに。
「どうでしょうか? ……私は父より母に似たのかもしれません」
「そうだよね。公爵夫人にそっくりできれいだ」
母は目に入っていたのですね。よかった。いやよくない。なんだ、母親にそっくりって。そこは父親似というところだろう。しかし悪意はない。まったくない。激しく振られる犬の尻尾が見える。気がする。自覚がないだけで疲れているようだ。帰邸したら寝よう。
ああ、でもきっと、この王子を一生支えていく予感がする。
***************
保護者面談
「何を唸っているのかと思ったら、これはテイラー展開か? 大学でやる内容だぞ」
「実は全然意味がわからないんだ。暗号みたい。でも君は僕の年にはもう、とうに終わらせていたと言われて頑張ってた」
「私は数学が好きだったから大学では趣味でやっていただけさ。だいたい、公爵をやるのに大学の数学が必要なら、今までの公爵もほとんど落第だろう?」
「君は凄いな。歴代公爵を落第扱いなんて」
「この場合、歴代公爵を落第扱いしたのは私ではなく君だな。公爵もそうだが、君がなるのは国王であって数学教師でも研究者でもない。国家の予算書と決算書を読む知識が即位までに身につけばそれでいいんだ。必要なら専門家を呼んで仕事を命じるのが国王の役目だ。狭く深い知識より広く浅い知識が必要なんだよ」
国王自身に深い知識があれば話は早いが、国王の仕事はあらゆる分野におよぶ。すべての事象に深い造詣を持つなど人間には不可能だ。王として、いかに効率よく専門家を運用するかを学ぶべきだ。
あとで家庭教師の変更を奏上しておこう。教え子を他人と比べて無意味な努力を強要するなど教師の風上にもおけない。
「広く浅い知識か。この問題と2時間にらめっこしてたんだけど、姉上たちのお茶会に出るべきだったかな」
「まあ、王子、私たちがいくら心配しても聞きいれてくれなかったのに、小公爵の言うことならすぐに聞くのですね」
噂をすれば影がさす。4人の王女が前触れもなく現れた。よりにもよって懇願されて敬語抜きで話すと決めた王子の私室に。入室の取次も飛ばして入ってきたので絶対に聞かれている。もちろん、お互いに聞いてない、聞かれてないふりだが。
王子には毎日のように乞われて会うが、王女方とは昼餐会以来だ。半数は異母姉だがやはりどこか似ている。なぜか嫁いだはずの王女までいるが、王族がこれほど勢ぞろいするといとこでも気後れするな。畏れ多いので隙を見てお暇しよう。押しかけ茶会に巻き込まれないように。
「ごめんなさい姉さまたち。心配してくれてありがとう。どうしてかわからないけど、小公爵に言われるとなんだかすごく納得できるというか……う~ん、なんだろう?」
「同年代の同性だからこそ通じる言葉もあるということですよ。さあお茶会にしましょう。小公爵も座って」
「はい王妃様」
王妃まで現れた。後ろに王子の生母である第二妃もいる。うちの親まで現れないだろうな?
うちの親は現れなかったが、辞去の挨拶をする隙もなかった。さすがは王族、無言の圧力で椅子から立ち上がることもできない。
王女方が次々と王子を心配する言葉をかける。学業に武術に帝王学、どうやら王子は頑張りすぎているようだ。麗しき家族愛は素晴らしいが、部外者のいないところでやってほしい。王家にとって従兄弟は家族枠なのだろうか。王子はなぜかどの質問にも私の話で答えるのをやめてほしい。
……現実逃避はやめよう。どう考えても待ち伏せされていた。二人掛けの椅子に王子と並んで座らせられて三者面談だ。保護者は6倍いるが。どう見ても王子の代の国王代行として値踏みされている。
「小公爵といるとすごく楽しいんだ。いろんなこと知っていて教えてくれるし、優しくてきれいだし、ずっと傍にいてほしい。どうしたら傍にいてくれるかな?」
意味がわからない。王子を傀儡にする気などないのに、勝手に傀儡になっている。君まで奴隷化するのはやめてほしい。保護者たちの視線が目に入らないのか。それとそういう台詞は婚約者に言え。いや、二人きりの時はいくらでも聞くから保護者の前ではやめてくれ。視線が痛い。
***************
正しい性教育
公爵家の性教育は1桁年齢から始まる。それは王家も他の高位貴族も大差ないだろう。公爵家に特異性があるとすれば初手から性病についてやたら詳しく教えられることだろうか。
「鼻がとれるの?! この絵、怖い、怖すぎる」
「鼻が取れる頃には脳も破壊されている。一時の性欲に身を任せて一生を棒に振るなんて馬鹿げているな。公爵家の子女は代々、処女童貞で結婚するぞ。相手にも当然それを求める。性病の配偶者も貞操観念の薄い配偶者も必要ないからな」
「閨教育受けないの?」
「一人一人専用の人形を与えられる。医学的に正しい人形だな。人体模型兼用で内臓も完備だ。人体に詳しくなれると同時に非常に萎える。公爵家では男も女も恋愛に夢など見ない。恋愛がしたいなら、選び抜かれた処女童貞の婚約者とすべきだ。安全だから」
「小公爵も童貞なの?」
「まだ結婚していないからね。私の童貞は第一夫人に捧げるし、第二夫人を娶った後も二人だけに貞操を誓う。恋愛は未来の妻たちとするよ。猿じゃあるまいし」
「猿? 別荘の塩湖で芋を洗っていた猿のこと?」
「その猿だな。猿でも犬でも雉でもいいんだが、野生動物はそういうものだろ。ああ、番を作る動物もいるから不貞なぞ動物以下だな。相性もあるから、どうしても配偶者と恋愛できない場合は信頼できる家族になれればそれでいい」
「もし婚約者と恋愛できず家族にもなれなかったらどうするの?」
「恋愛もできず家族にもなれない関係なら、仕方ないから相手の弱みを握って掣肘していくことになる。心安らぐ生活ではないので最後の策だが、それも婚前教育のうちだ」
「私、不貞はしない」
「それはいいことだ」
恋愛は婚姻相手とすべし。その教えを忠実に守りすぎた王子が巡り巡って婚約解消騒動を引き起こすなど小公爵ですら予想しなかった。因果は巡る。
***************
下克上
金属同士のぶつかる硬質な音が響いた直後、小公爵の手から弾かれた剣が石畳に当たって幾度か跳ねてから止まった。
「……やった!」
王太子が2歳上の従兄である小公爵に初めての勝利をおさめた瞬間だった。その顔には隠し切れない、隠すつもりもない歓喜が溢れている。彼のこれまでの努力を知る騎士たちも、痺れる右手をおさえた小公爵本人も温かな笑顔を湛えている。
「私の負けです。強くなられましたね、殿下。おめでとうございます」
「ありがとう、小公爵。これで君が外国に行っても守れるよ。学園を卒業したら私が君を守るからね」
小公爵と騎士たちの温かな笑顔が急速冷凍されてそのまま固まった。
小公爵は確かに若くして外交の要職についており末は外務大臣となる予定ではあるが、内々には王太子の即位と同時に国王代行となることもほぼ確定してはいるが、だからといって王太子が小公爵を護衛することはありえるだろうか。いやない。
なぜ王太子が小公爵を守るのか。小公爵の護衛として外国にまでついて行くつもりなのか、王太子が? そもそもその台詞は婚約者に言うべきではないのか。なぜ同性で従兄の小公爵に約束するのか。騎士たちの笑顔に困惑が練りこまれていく。
「……少し部屋で話しましょうか、二人きりで」
お説教の気配を察した騎士たちが礼儀正しく二人から目線を外す。愛すべきぽんこつ王太子の名誉を守るため、訓練所のあちこちで不自然に熱い手合わせが始まった。戦力では銃に押されても剣は偉大である。騎士道精神よ、永遠なれ。
「いいね。お腹すいちゃった。君とサンドイッチ食べたいな」
将来のしもべとなる騎士たちの忠誠を背景に、王太子の笑顔は今日も輝いていた。どうしてくれようか、この笑顔。
***************
恋愛脳発症
「結婚はあの子爵令嬢としたいんだ。だからまず侯爵令嬢本人に婚約解消の申し入れと謝罪をしたい。一番先に本人に言うのが筋だと思うんだけど、どうだろうか?」
来た。来てしまった。恵まれた記憶力にのんびりとした気質、王家の事例に当てはまる要素は山盛りだったが、やはり恋愛が最後の診断要素らしい。事例を確実に踏襲してくる。そこは踏み外してほしかった。
それにしても、なぜ、婚約解消を私に相談するのか。侯爵令嬢より誰より一番先に私に言ってないか? まず親である国王夫妻に相談すべき案件だ。父親は一人でも母親は二人もいるだろうに。王家のことは言えないが。
「公にする前に当人に謝罪したいというお気持ちはわかります。ですがこれは王家の婚約です。殿下と侯爵令嬢は当事者ではありますが、王族の婚姻はある意味では公務であり、お二人の私的な話ではすまないのです。侯爵令嬢にお話しする前に、まずは両陛下に内々に話を通す必要がございます」
王家の婚約は私事ではすまないとより明確に伝えるために、王太子の私室で二人きりであっても敬語で答える。頭ごなしに反対すれば思い詰めるだけだろう。王家には事例に対する代々の知見がある。国王夫妻がうまくなだめるに違いない。
「そうか、そうだね。君がいてくれて良かった」
王太子はなぜ両親への決意表明に私を連れて行くのか。そして国王夫妻はなぜ私の付き添いを当然のように受け入れるのか。色々おかしい。
「婚約を解消したいという其方の要望はわかった。なぜ小公爵がここにいるのだ? いくら従兄であり国王代行になる可能性があろうとも、今はまだ小公爵でしかないのだが」
「何をおいてもまず侯爵令嬢に謝ろうと思ったのですが、まずは両陛下に話すべきだと小公爵に諭されたので連れて来ました」
「なるほど。私はてっきり、王太子が小公爵とも結婚したいのかと思ったぞ」
王太子の顔がその発想はなかったと言っている。違う、そうじゃない。
……流石は王家だ、この一大事にすら冗談をとばす余裕がある。国王ならきっと王太子を説き伏せてくれるだろう。だから部外者はお暇させていただきたい。
「我が国において国王代行は単なる国政の代理人ではなく、時の王の庇護者でもある。国王にとって王妃と同程度に重要で替えがたい人生の伴侶なのだ」
婚約の話はどこへ行ったのか。今この時、王太子の隣に立つべきは、小公爵ではなく侯爵令嬢と子爵令嬢ではないのか。立太子式典では将来の国王代行候補として王太子の隣に立ったが、あくまで斜め後ろだったので王妃と比べるのはやめてほしい。
「お前に託されるのはこの国の未来。王妃は国の未来を共に背負うもの。子爵令嬢ではその役目は担えまい。それでも、どうしても子爵令嬢との婚姻を望むのであれば、出産以外の王妃の責務をすべて其方が背負うか、子爵令嬢が侯爵令嬢と同じ教育をこなして王妃となるか、もう一人の伴侶たる国王代行の支持と協力を得るかだ。残念ながら前の二つは難しいだろう」
丸投げか。王太子よりむしろ私の覚悟を問うてないか。暗に、王太子を説得せずにここまで連れて来た責任を取れと言われているのか。家庭内のことは家庭内で解決してくれませんか。私はまだ、ただの小公爵で国王代行候補なんですが。
王家の婚約という重大事は王家と国家の重鎮によって話しあわれる。そう思っていたこともありました。王妃が招集した王太子の婚約に関する重鎮会議になぜか出席しています。そこに父である筆頭公爵がいるのになぜ小公爵まで出席する必要があるのか。最初の議題に挙げてほしい。
なぜか婚約解消がまかり通り、王妃が子爵令嬢を教育することになりました。流石に今の子爵令嬢を王太子の婚約者にできるはずもない。それどころか永遠に候補で終わりそうだ。
件の侯爵令嬢は学園卒業後すぐに私の第一夫人となる予定だ。王家でないなら筆頭公爵家の第一夫人以外では面目が立たない。彼女の名誉を守るために私の爵位継承を早め、結婚式は王子の婚約締結を待たずに行う。子爵令嬢の教育完了はいつになるか不明だし、終了出来ない可能性もあるので仕方ない。その場合、王子の婚約者は誰になるのか、外国の王女を招くのだろうか。王子が納得するとも思えないので第二案はないのかもしれない。背水の陣だ。
公爵家としては本来なら第一夫人として教育された伯爵令嬢を娶る予定だったが、将来の王妃として教育され、王子の事例について知識を持ってしまった侯爵令嬢をよそに嫁がせるわけにはいかない。家格的にも教育の質的にも侯爵令嬢を第一夫人とするのが正しい。まして侯爵令嬢は王子よりひとつ年上だ。王子に学年をあわせていたが早期卒業して嫁ぐことになった。
第一夫人となるはずだった伯爵令嬢の名誉も守るため、今回は特例で同時に結婚する。本来は第一夫人との関係が落ち着いてから5歳は差を開けた候補と結婚し多様性を確保するのだが仕方ない。第二夫人をまだ選定していなくてよかった。まさか恋愛脳の後始末のための慣例ではないだろうな?
過程はどうあれ私の新婚生活は順調だ。第一夫人となった妻は王太子にも王太子妃の地位にも未練はなく、第二夫人となった妻も格下げに屈託はないようだ。二人の交流も密で、どちらも高度な教育を受けているだけに問題解決能力も高い。今日は3人で細やかな茶会を開いている。王宮は問題ばかりだが、家庭では安らげそうだ。
「正直に言えば婚約が解消されてほっとしましたの。殿下は婚約者として私を気遣ってくださいましたが、心はずっと他の方に寄せていらっしゃいましたから。絶対に勝てない相手とそれでも戦わなければならないのは心を損なうものですわ……」
「難しいお立場でしたわね。私なら心折れておりましたわ」
「私もとうに諦めておりましたのよ。殿下ときたら何の話をしていても小公爵が小公爵がと、いつの間にか閣下の話になっているのです。他の女性の話は礼儀としてなさいませんでしたけれど、小公爵の話ならどなたになさってもいいと思われていたのでしょうね。女性相手ならともかく小公爵と殿下の寵を競っても勝ち目はございませんもの」
第二夫人が頷いている。少し待ってほしい。妻が競っていた相手は子爵令嬢ではないのか。私は王子の婚約者と王子の寵を争ってなどいないが。しかも王子の婚約者は今は私の妻だ。どこの三流小説だ。発禁にするぞ。
「ですから殿下の愛する公爵と結婚できて今の私は勝利の喜びにあふれていますわ」
「わかりますわ」
わかるのか。私にはまったくわからないが。女の園に男は手出しすべきではないな。今後も後宮には関わらないようにしよう。あと王子は小一時間説教な。
私の新婚生活は一応順調だが、子爵令嬢の教育は順調に失敗している。才色兼備の王妃と第二妃に敗北を味わわせるのだから只者ではない。悪い意味で。いっそ自分には無理だと折れてくれればいいのだが、鋼の精神を持っているのか一向に折れない。時間のなさもあり、外交のための各国言語や社交術の裏読みなどの本質は何も習得できていないが、儀礼やしきたりの形だけは何とかものにしているのだから努力家であることは間違いない。とりあえず、常に指示役で囲んで事細かに腹話術でもさせれば表向きを繕えないこともない程度にはなったとぎりぎり言えないこともないだろう。王妃外交と社交は諦めて、公式の場では国王に常に同行させ一切の受け答えを禁止しておけば何とかなるだろうか……。置物でいいだろう、それ。
王太子の実母である第二妃が寝込んだ。うちの子のせいで、とんだことにと譫言を繰り返しているそうだ。王太子が言うので間違いない。お労しい。
第二妃の惨状を見た王妃も王妃教育完遂を諦めて、公爵に未来の国王を支えてくれと直々に仰った。開き直って出産専用の王妃にするらしい。女の園に口出しなどできないが、あの活動力では後宮に閉じ込めるのは不可能だと思う。
わずか1年で後宮をここまで揺るがせるとは、とんだ破壊力だ。これを王宮の女主人にするなど王家は正気なのだろうか。あと次世代に丸投げするな。
国王夫妻は将来の国王代行が決めたならと、公爵は現在の国王夫妻が決めたならと、互いの判断に疑問を感じつつ従っているなど、当事者すら気付いていなかった。
「本当に今更だが、あの子爵令嬢のどこがいいんだ?」
わかりにくいだけで何か取り柄があるんだろう? 特大のお荷物を背負いこむことになる私を納得させてくれ、王太子。君には情があるが、子爵令嬢には欠片も持てないぞ。おそらく未来永劫だ。努力家であることは認めるし、常の私は傲慢な秀才より謙虚な努力家を評価してきたが、今は宗旨替えだ。無能な働き者は無能な怠け者より有害だ。まったく先人の知恵と経験は疎かにできないな。
「彼女といるとほっとするんだ。私と似ているのかな? 同じものを見たときに同じものを感じていて、すごく安心できる」
それはおそらく気のせいだ。幼児を見ると心安らかになるのと同じだ。
「君といる時は全然違うものが見える。私が知らないことを沢山知っていて、いつも優しく教えてくれる。同じものを見ているのにその内側や裏側まで見えてくるんだ。すごく疲れるのに目が離せない。ずっと一緒にいると多分疲れるんだけど離れてると会いたくてたまらないんだ。君がまぶしすぎるのかな?」
子爵令嬢の話はどこに行ったんだ。どうして君の話はいつも私に収束するんだ。婚約者と話しているときまでそうだと知って脱力したぞ。あと眩しいのは君だ。今も無駄に輝いてる。君が眩しいと首をかしげて笑いかけるのは子爵令嬢にやれ。
とはいえ今は大海を制覇した覇権国家も次々と入れ替わる難しい時代だ。いずれ国王としての舵取りを迫られる王太子に安らぎの場は絶対に必要だ。それが第二妃ではいけない理由を問いただしたいが、君の目線は常に一方向にしか向かわない。友人は私で妻は子爵令嬢。それが限界なのだろう。
「まったく……。他のことはどうにかしてやる。後宮のことは自分でどうにかしろ。本来、王族に私生活なんかないんだぞ。結婚も公務なのだから」
子爵令嬢は公爵の話をすると楽しそうに聞いてくれて嬉しいし楽しいなどとその時聞いていたら、公爵は絶対に結婚を阻止していただろう。世の中には知らないほうがいいこともある。お労しや。
***************
新たなる時代
「隣国のいう通り、今までの貿易港では小さすぎるのは事実だ。だが大型港は侵略にも有用だ。共同開発など飲めば、いずれは港湾を乗っ取られる。この交渉には不承諾以外の答えはない。相手が何を言おうとだ。婚姻政策など搦め手を使ってくるかもしれないが、基本は不承諾で困ったら議会に諮ると答えてほしい。決して気圧されるな」
「わかったよ、外務大臣殿」
案の定、隣国の強面大臣があの手この手で懐柔を謀ってきたが、新国王は一切ひかなかった。裏を読まねば美味しいだけの話をぶら下げられても、脅迫まがいの言葉を受けても、国際結婚を提案されても全く動じない。
威風堂々たる演説に、老練な外交相手にも全く気後れしない態度。本当に名君だな。中身を知ったら誰もがひっくり返るだろうが。役者になっても大成しただろう。今も国王として大成しているのに役者もないか。
子犬のようだった従弟の晴れ姿に、辣腕の公爵であっても、いつかの崩壊の兆しはまったく見てとれなかった。
***************
公爵の帰還
「……というわけです。今はまだ比べるべくもないですが、工業技術が発達すれば、工場で生産された大量生産の規格品が庶民向けの贅沢品を食う日が来ないとは言いきれません。高級美術品は問題ないでしょうが、庶民向けの陶磁器製品は安価でそれなりの品質ならそちらが選ばれる可能性は高いです。高級美術品とささやかな贅沢品の輸出を主力とする我が国の陶磁器産業には脅威となりかねません。どちらも品質の強化と新たな広告戦略が必須でしょう。報告は以上です」
「外務省だけでなく、産業省と財務省、労働省も関わるかな。君に任せるよ。諸国行脚おつかれさまでした」
会議が終わり、公爵の国王代行権限で指示を受けた各大臣が足早に去っていく。国王が侍従も下げると小会議室には国王と公爵だけが残った。
「なぜ王宮が猿山になっている?」
「王妃が王子にも私と公爵のような親友を与えたいと張り切ってね」
「王妃には私があの山猿に見えていると? どこから集めてきたんだ? 下町で飴でもまいたのか?」
「みんな貴族だよ。王子と同年齢の令息を可能な限り呼び出したんだ。いろんな選択肢があったほうがいいと私も思ったから止めなかった。私は君に教えられないと、今日食べるものがなくて泥棒になるしかない人生があるなんて知らなかったから」
「王都に子を送り込める有力貴族もしくは王都近くの下級貴族の子どもたちか。上位貴族の令息ばかりで囲むよりは多様性を学べるかもしれないな。猿になるほうが早そうだが」
「猿好きだね。昔、湖畔の別荘で猿山を見たよね。塩湖で芋を洗ってて賢くてびっくりした」
「塩湖の猿なみの知性は育つかもしれないな。その前に王宮にある美術品が破壊しつくされそうだが。王子の宮にいくつかレプリカを用意させるので、子どもたちをしばらく第七庭園に隔離しておくように。王妃にはレプリカのことは内密に。レプリカでも我が国の技術の粋を集めた逸品となるのに、壊してもいいものだと教育されては本末転倒だ。それとレプリカ作成費用は王室設備費から出す。古美術品の現代版作成研究に使えてちょうどいい」
第七庭園は王宮内にある小さな野原である。王宮内にはどこにでも国宝級の美術品があり、数ある庭園も手間暇をかけた贅沢な植物園だが、第七庭園には貴重品は何もない。質実剛健なログハウスと曲がりくねった小道だけがあり、安全かつお手軽に散策気分を味わうための庭だ。子どもにとっては逆に楽しいかもしれない。
戦場の兵士のような悲壮感溢れる顔で国宝を守っていた侍従たちもこれで一息つけるだろう。一人で殿下の後ろを追いかけまわしていた年若い侍従は特に。学園を卒業してすぐ世襲の多い侍従の世界に飛び込んだ度胸の良さを買っているので、ここで潰れられては困る。
係官に子どもたちの扱いを聞いた公爵は、側近候補たちへの給与を現金ではなく王立学園の学費充当とした。王宮の給与といえど、子どものものでは知れている。賃金をもらうより学費のほうが遥かに高い。上位貴族には大差ないだろうが、下級貴族には恩恵となるだろう。
下級貴族の嫡男以外の子息はたいてい平民となる。あまり接する機会もなかったが中には使える人材もいるかもしれない。市井の子飼いなどいくらいても足りない。いい機会だった。
***************
見えざる脅威
「いやあ、まさか壺に登って倒して破壊するとは。怪我人が出なくてよかったよ」
「まったくだ。大きさに比例して分厚く頑丈な壺をよくも割ったものだよ。運が悪ければ踊り場から子どもたちごと落下していた」
「う~ん。子どもって予想外のことをしてくれるね。自分が子どもだった時には壺に登って競争しようなんて思いもよらなかったよ」
「君は末っ子長男だからな。王女殿下方があんな遊びはしなかったろう」
「側近候補もいたけど、ああいうのはなかったな。公爵は?」
「巨大な壺の中身を調査したければ、従僕たちに壺を寝かさせる」
「八歳児の発想じゃないよね」
壺破壊事件を大いに反省した王子と側近候補たちが室内遊びに夢中になったのは僥倖だったが、そこから発展した自作ゲームブックが巡り巡って10年後の舞踏会婚約破棄事件を引き起こすことは誰も予想すらしなかった。因果は巡る。
「それで? 昔話をしたいわけじゃないだろう? 言いたいことを言いたまえ」
「……もしかしてうちの子やばい?」
「程度の問題だ。あの子が十なら君が六。普通と言われる者でも一か二はある。二代続けて発症したのは初めての事例だがそれも確率でしかない。……私の前ではいいが公では揺らいで見せるな。王妃の前でもだ。これ以上、斜め上に行動されては困る」
「王家と掠りもしない子爵家出身の王妃との間で、私より重い王子が生まれたなら血の病ではないと言えるかな?」
「その主張はやめておけ。王妃だけの責任になりかねない諸刃の剣だ。だいたい王家の過去の事例を見れば発症になんの規則性もないことはわかっている」
「そうなんだけどさあ……」
「学校制度が整備され、貴族と一部一般国民の十代の統計が手に入った。殿下のような例は、程度が軽いが庶民にも貴族にも一定数いる。単純にすべての判断力が弱い学業不振の例から、学業は優秀でも状況を察せず融通が利かず騒動を巻き起こす例など様々だが。どちらの学校も入学させているのは本人も親も気づいていない軽度の事例だけだ。重症例は家庭内に隠されて暗数となっているはずだ。一般国民に至っては該当者の判断力の弱さから幼いうちに危険を避けられずに事故や事件で淘汰されている可能性もある。孤児院再整備の過程で判明したが、首都の浮浪児には親に捨てられたそういう子どもが混ざっているようだ」
この調査で遺伝的要素を否定はできないが、その要素は決して王家だけにあるものではない。それがわかっただけでも大規模調査のかいはあった。これからの国家政策においても意外に数の多い彼ら彼女らへの配慮が必要だろう。弱者を狙う詐欺師を肥えさせることはない。
「身体の障害と違って目には見えないから、親には子どもが得体のしれない何かに見えるのかな?」
「単純に庶民では生産性のない子どもを養えないんだろう。愛情の問題ではない。腐るほど金があっても捨てるなら、正しく愛情の問題だが」
「慰めてくれてありがと」
「私は客観的な事実しか口にしない。貴族学院と国民学校だけでこれだ。全国民を調べればどれだけいるかはわからない。わが国だけではないだろう。外交で訪れた範囲では全世界どこの王族貴族も知能に大差はない。表に出てくる有能な人材に大差がないのに、裏に隠される特異例だけが異なるとは考えにくい。多少の地域差はあるにしてもだ。国民がどう受け止めるか予測不能だから、王家と絡めずとも公表はできないが」
「いつか、みんなで笑える日がくるといいね」
「道は遠いがいずれはたどり着くさ」
***************
小休憩
「数学というのは細かい規則が決められた定型文ばかりです。この言い回しがきたら、ここの数字をここに当てはめる。実に単純です。当て嵌める数が増えても、そのパターンをすべて暗記してしまえばいいのです」
「なるほど」
「殿下には陛下譲りの記憶力がございますので、数式の意味を考えずとも丸暗記して当て嵌めてしまえばいいのです。これは誰にでも出来る方法ではありませんよ」
「そうなのか? 皆、簡単に解いているが」
なぜ理解できないのかと嘆く教師に、王子も心折られていた。人の心に敏感な王子には嘲笑よりも失望が何より堪えた。自分はおかしいのかと不安が募り、しかしその気持ちをうまく説明できなかった。
側近たちが寄り添おうと頑張ってくれるのは感じるが、比べられる相手も彼らなのでどうにもならない。父母と公爵だけは絶対的に自分の味方だと思ってはいても、父母には不安を伝える術がない。公爵は王子の気持ちを王子より理解していた。国王に続いて二代の付き合いである。間違いなく世界中の誰よりも王子の理解者だった。
「彼らは数学に適性があるのです。殿下は記憶力に適性があります。人はそれぞれ違った適性を持っています。どちらが上というものではありません。もちろん問題を理解し回答できることに価値はありますが、別の方法で答えを求めることも間違いではありません。それで問題を解けたなら胸をはって答えればいいのです」
「出来たぞ、公爵」
数学への最適解を見つけた王子の目がきらきらと輝く。問題を解ける歓喜で暗記の精度も上がる。試験のたびに範囲内の公式を丸暗記し、公爵に習った当て嵌め方で答えを得る。まったく中身を理解していないのに正答率8割を誇る、ある意味で天才だった。
王子が定型文は便利だと学習して定型伝言を生み出し、巡り巡ったそれがあの小説に繋がることは千里眼と言われる公爵ですら見通せなかった。因果は巡るし、地獄への道は善意で舗装されている。悪意なら対処できたのに。
***************
血の覚醒
「37.4度。微熱ですね」
「寝台に押し込むなんて大げさなんだよね。熱いよ」
「ちょうど外せない公務もございません。陛下は数日、休養すべきでしょう」
「あ、手冷たくて気持ちいい。もっとして」
「王妃陛下はいかがなさいました? それこそ万難を排してでも看病にいらっしゃいそうですが」
「ああ、侍従長に止められた。頭から氷が降ってきたり、解熱剤が用量10倍で出てきたりするから駄目だって」
「侍従長、陛下を面会謝絶にする。しばらく私がついているので全員下がってくれ」
説教の気配を感じた侍従たちが無音で素早く退室する。自身の権限では王妃を止められなかった侍従長は、公爵の決定に心中で安堵していた。
「ねえ、王子が子爵令嬢を城に呼んだんだけど。うちの子やばくない?」
「君が言うか」
「私はきちんと筋を通したよ。婚約解消するまで彼女を城に呼ばなかったし、早いうちに婚約者に詫びて慰謝料も払って次の婚約の世話もした」
「私をまきこんでな。……殿下は娘を姉のように思ってるんだろう。結婚しなくても姉は姉だから変わらないと。甘えているのだよ」
「君のことも、もう一人の父だと思ってるよね。公爵令嬢と結婚しなかったら君は義父にはならないんだけどなあ。もう君が王位を継いだ方が……」
「君より年嵩の人間に王位を継承してどうする。血で血を洗った歴史を繰り返す気か?」
「今の我が国は君一強だし、2歳くらい問題ないって。君、年齢不詳だし」
「1行で矛盾するな」
「小論文添削やめて。……冗談はおいといて、娘さん、大丈夫?」
「再婚約候補者の育成は順調だ。王子との婚約がどうなろうとも娘は問題ない」
「よかった。いや、よくないけど。乳兄妹の子爵家三男か。君が認めるくらい優秀なんだね。あれ? 今、気づいたんだけど、子爵家令息なのって、子爵令嬢だった王妃に対する嫌味? 子爵家出身でも君のお眼鏡にかなう人間はいるっていう」
「正解だ。鋭いじゃないか。いつもその鋭さを発揮しろ」
「やっぱり。私は後からならわかるんだよ。でも政治に『後でわかりました』は通用しないからね。これからも全面的に君の指示に従います。あー、謎が解けてすっきりした。いくら予備でも公爵令嬢の婚約者候補に子爵令息を入れないよね。しかも結婚したら伯爵になるのに」
「正解して喜ぶところじゃないぞ。王子との婚約解消が前提なんだから、持参金で戻るはずの伯爵領が王家に戻らないことになる」
「三代前の王弟殿下の持参金だね。王室の財政として、ちょっと痛いな。でも、さすがは公爵だよね。王子が子爵令嬢に惚れる前から再婚約の候補者を用意して伯爵として教育してる」
「伯爵としてではなく、あくまで伯爵領の代官候補としてだ。高等部には中等部までは領地にいた子女も入学してくるからな。それまで王族の傍にはいなかった目新しい下級貴族や庶民、留学生と出会う最大の機会だ。予想はつくさ。君が王妃と出会ったのも15歳だった」
「そうだったね。あれは衝撃だった。あー、まさかこんなことになるなんてなあ。王家と掠りもしない血筋だったのに」
「そんな理由で選んだのか?」
「彼女のことを愛してるし傍にいるとほっとするんだ。打算だけで選んだわけじゃない。でも高位貴族は大なり小なり血が繋がってるだろ。もしかして代々の恋愛脳たちもそう考えたのかもね」
「肝心の病気の時に傍に寄せられないのに、ほっとできるのか?」
「王妃を愛してるけど病気の時は遠慮したいかな。君がいい。無人島に一人だけ連れていけるなら君を選ぶよ」
「当然だ。私のほうが生存率が上がる」
「そうだけど、そうじゃなくてさ。なんだかもう君が自分の体の一部みたいな気がするんだよね。来世に一人だけ連れていけるなら君を選ぶ。生まれ変わっても君がいい。いっそ君が女の子だったら万難を排して結婚したのにな」
「いとこ婚は近すぎるし愛人騒動はごめんだ」
「あれはごめんて。でもあの王女は本気だったよ。本気で君を狙ってた」
「あの国の強引な引き抜きは有名だ。揺さぶりをかけてくるのは想定内だったろう?」
「最初は想定通りに対応してたけど向こうも段々本気になってきたから、つい。だって、うちの国から君をとったら何も残らないじゃないか」
「つい、公爵は私の最愛なので渡せませんと? おかげで私は国際的に国王の愛人扱いだ。だいたい、政治家一人いなくなったくらいで国の屋台骨が揺らいでたまるか。いつも肝心なときに最悪の選択肢を選ぶな、君は」
「ほんと、ごめんなさい。でも公爵をとられなかったし、みんなによくやったと褒められたんだけど」
「みんなとは後で話しあっておく。君のことは許すからもう寝ろ。……今は王妃のことも王子のことも忘れていい。おやすみ」
「公爵、父上は大丈夫か?」
「陛下は微熱はありますがお元気ですよ。ただ陛下は最近とても仕事がお忙しかったので疲れをとるためお休みしたほうがいいのです。面会を断っているのも休ませるためですから」
「そうなのか。子爵令嬢が王子宮に来ているから一緒にお見舞いをと思ったのだが」
子爵令嬢が自発的に王子宮に来ることはないだろう。そもそも王族の招待がなければ入れない宮だ。誰が招待したかなど考えるまでもないが、王妃が斜め上の気遣いを発揮した可能性も排除は出来ない。要確認である。令嬢が王宮に現れた場合の緊急連絡体制を敷こう。国王の微熱が微熱ですまなくなる。
「陛下の疲れをとるための面会謝絶なので、残念ながら王妃陛下や殿下も、そして子爵令嬢も会えないのですよ。ご心配でしょうがお許しください。伝言があればお預かりしますよ」
「公爵が看病してくれるなら安心だ。父上にお大事にとお伝えしてくれ」
侍従を使いに出せばすむことを、わざわざ自身で確かめに来たのは父親を心配したからだろう。心優しい青年なのだ。子爵令嬢を本宮に帯同していなくてよかった。国王は論外だが、王妃と面識がない場合、会わせればどんな化学反応を起こすか想像もつかない。王子の隣で死んだ魚の目を再現している侍従が死ぬ気で止めたのかもしれない。確認して次の昇給で色をつけておこう。
王妃といい、子爵令嬢といい、ただの悪人なら自身の代行権限で排除できたものを。だが王妃の夫と息子への愛は本物だ。たとえ夫が国王でなくなっても、息子が王子でなくなっても、彼女の愛は変わらないだろう。
この難しい時代を常に他国と渡り合う国王に、政治と離れて休める場所は欠かせない。自惚れではなく公爵自身の存在も国王には必須だろうが、自身の存在は政事と直結している。政治から目を背けて休む時のために、公爵以外の誰かが必要だった。そして国王が選んだ誰かが王妃だったのだから仕方ない。国王代行の地位は責任を取るためにあるのだ。
***************
責任者
「なんかもうほんとうにごめん。それとありがとう。息子のこと、あれだけやらかして今更叱っても遅いし間違っても褒められないし、なんて言ってあげればいいのか全く思い付かなかったんだけど、君の聴取のあとで会ったらご機嫌でさ。犬のことしか考えてないの。あんまり言うから、もう犬が来たのかと聞いたらこれからだって。架空の犬であれほど盛り上がれるなんて我が子ながら可愛いな。ほっとしたよ。毒杯渡さなきゃならないかと覚悟してた」
「そんなことさせるわけないだろう。落ち着いて報告書を読みたまえ」
「あー、私たちの入場前にこんなことになってたんだ……」
「侍従長から何も聞かなかったのか?」
「最初に侍従が『大変です、殿下が会場で婚約破棄宣言をしました!」と駆け込んできて、とにかく君と連絡を取ろうと侍従長を会場に向かわせたのだけど『事実でした。公爵閣下が大臣たちと協議中です』とだけ言われてさ。正直、舞踏会で婚約破棄とかまったく予想もしてなかったし、公の場なのに君からも他の誰からも指示がなかったから、どう収拾すればいいのかわからなくて。でも息子の仕出かしたことだから、どうにかしないとと思って会場に向かったんだ」
あの婚約破棄宣言を受けて誰も彼もが慌てていた。一言ずつ抜け落ちていた。侍従が「殿下が会場で婚約破棄宣言をして公爵閣下に締め上げられています」と言えば、侍従長を置いて国王自身が向かっていただろうし、侍従長が「大臣らをぶった切った公爵閣下が手ぐすね引いて両陛下を待ちわびています」と言えば、王妃を置いて国王だけが向かっていた。実際は侍従長を向かわせたし、王妃を連れていったし、場の異常さを把握した国王が公爵に話しかける前に王妃は第一声を発していた。そして余計に慌てる無限悪循環の完成である。どうしようもない。唯一、その状態すら収拾できたはずの公爵は、国王に有形無形の指示を一切出さなかった。
「舞踏会で君が無茶苦茶怒ってますとわかりやすく示してるのに、王妃も王子も怒らせ続けるし、君と目が合っても一切指示もしてくれないし、これはまずいって正直泣きそうだったよ。王子も君の政治家としての顔だって気付いてなかったら泣いてたと思う」
「外交使節団もいるあの場面で私が君に指示を出したら本気で傀儡だろうが」
「君ならいいのに」
「後宮のことは自分でどうにかしろと言ったろう」
「もう後宮ですむ問題じゃなくなってたよね」
「最初から王家に家庭の問題なんてない、すべては公だ」
「ごめん、私がわがままいったから」
「その通りだ。大いに反省しろ」
両手で国王の頬を掴んで伸ばしてやった。
「いたいいたいいたい」
「泣くな。顔だけが取り柄なんだから大事にしろ」
「君がやったんじゃないか」
「……あの場で国王と王子に泣きだされたら余計に大惨事だったな」
「どちらにしても譲位と継承権剥奪だったね」
「君はいつも肝心なときに最悪の選択肢を選ぶ。よりにもよって私に向かって、王位を望んでいたのか、だからな? 大広間が凍りついたよ」
「ごめん。頭が真っ白だった。王子は恋愛で少しだけおかしくなったんだって思わせなきゃいけなかったよね。いつも後で気が付くんだよ。君がずっと誘導してたのに台無しにするところだった」
「従兄弟同士の血みどろの王位継承争いでも王子から注意はそれただろうけどね」
「ほんとにごめん。余計悪いよね。君がすごく怒ってるとあからさまに態度に出して警告してたのに、王妃と王子にまるで通じてなかったから、これ以上2人に話させたらまずいと思ってさ。最悪の選択肢でした」
「『最愛の人』発言なみにな」
「それは事実だからいい。今回は公爵令嬢にも夫人にも君にも悪いことをしてしまった。ごめんなさい」
「娘はもう婚約してるから心配はいらない。今頃は婚約者が花束でも贈っているだろう」
「流石、対処が早いな」
「殿下と子爵令嬢の婚約もすぐに整える。殿下の王族籍は先ほどの元老院会議で正式に剥奪されたので、娘の婚約と同じく議会の承認は必要ない。殿下と子爵令嬢、二人の意志も確認したし、子爵の許可も取った。今年の成人は今の時点では延期になったので二人とも未成年扱いで、婚約締結は親の仕事だ。つまり、君がここに署名すれば完了だ」
「仕事が早い。それに優しいね。君が子爵令嬢にあの場で一言も話させなかったから罰が軽くてすんだし結婚もさせてあげられる。他の側近たちもそうだ。一言でも話していたら、罪は重くなったろう」
「そこまでわかって、どうして政治的駆け引きができないんだ君は」
「だって後からわかったんだし。その場では君の感情くらいしかわからない」
「そうだったな。愚問だったよ。君はその場にいなかったし、報告書ではそこまでわからないだろうが、殿下の婚約破棄宣言を聞いた時、法務大臣の孫の顔が聞いてないと言っていた。子爵令嬢も他の側近たちも大差なかった。王家の体面を損ねて連座になったら、殿下はともかく他の者は命に関わる可能性があったからね。とりあえず黙らせた」
「そういう優しいところ好きだよ。ところでどうして君が一人で報告に? 雷が落ちると思ってみんな逃げたの?」
「そちらこそ王妃はどうした」
「子爵令嬢に衣装を作ってる」
「そのまま遊ばせておけ。王妃の個人予算からでも王家相当の服はだめだぞ。反感を買う。報告書にある通り、殿下には子爵相応の年金しか出さない。住居は離宮とするし、警備と使用人は王家で手配するが、それ以外は年金の範囲内で暮らしてもらう」
「甘いなあ。そういうところも好き」
「……喉が渇いた。侍従がいないんだが」
「はーいはい。国王手ずからのお茶です、どうぞ」
「飲み慣れてる」
「妻にも淹れない君専用なのに」
「君は王妃の不味い茶が好きなんだろ」
「いつまでたってもまずいからすごい。それにしてもあっという間だったなあ。14歳で出会って18歳で結婚して21歳で子供ができて」
「私と結婚したみたいに言うな」
「父上にそんなことも言われたね。君と結婚できるならしたのに。残念だ」
「私に選ぶ余地はないのか」
「ありません。……王子も私に似て嗅覚がすぐれてる。守ってくれる人を絶対に見分ける。君とかね」
「否定はしない。最後まで残った側近候補たちも義理堅かった」
「だから助けてあげたんだ。本当に、君が一言も話させなかったからこの程度の処分ですんだ。おじーちゃんの孫君とかあの状況で何か一言でも喋ってたらやばかったよね。君が全部大人の問題にすり替えてくれたから」
「実際に大人の責任だろう。君が祝辞を述べなかったからまだ子どもだったしな」
「祝辞を述べさせないために一切私に喋らせなかったよね」
「質問したら答えただろう、最悪の選択肢」
「あれはごめん。とにかく子どもたちから話を逸らさないといけないと思って焦ってた。王妃と王子が口を開くたびに君のご機嫌が悪くなるし」
「私の機嫌ではなく空気を読め」
「それが出来るならやってるよ。君の機嫌が読めればいいじゃないか。怒った振りをしてるなんて私と息子以外の誰も気づいてなかったよ。なんで君、こんなにやさしいのに悪魔呼ばわりなの」
「誰が悪魔だ」
「君が言ったんじゃないか。そう言われてるって。実際、信じて送り出した間諜が君の信奉者になって寝返るとか、相手からすると悪魔の仕業だと思うよ」
「私を悪魔と言ったのは敵ではなく身内だ。法務大臣とかな」
「おじーちゃんね」
「法務大臣は先王の第二夫人の兄であって、君の実の伯父だろう。おじーちゃん扱いはやめてさしあげろ」
「おじーちゃんは孫ができる遥か前からおじーちゃん味があったから」
「……思考中に唇が動いてしまう人間はたまにいるんだ。全文じゃなくてもな」
「読唇術かー。君、数か国語の読唇術が出来るからなあ。舞踏会や会議の合間に、内緒話している人の会話を読んでいたよね。本当に外交官向きだよ。傍にいないのが嫌で極力外遊させなかったけど。おじーちゃんも陰口がばれてると思ってないだろうね。可哀想なおじーちゃん。ところでさ、うちの息子の台詞なんだけど『私以外を好きな時点で浮気だ! 嫌がる私に付きまとっておいて何が愛だ』ってどこかの小説にでも出て来たのかな? あの子の語彙とは思えないんだけど。まさか公爵令嬢の初恋相手に嫉妬した?」
「姉が自分以外の男を好きだったのが衝撃だったのかもしれないな」
「初恋の相手が小公爵だったことは……」
「殿下は知らないだろうが、知っていたところで嫡男とはそこまで交流がないから同じ反応だったかもしれない。むしろ兄妹枠で余計に反応したかもね」
「そういえば、あんまり息子を小公爵とは絡ませなかったね。君のことだから考えがあったのだろうけど」
「正直、うちの子の手には負えないと思っていたからね。うちの嫡男は確かに出来がいいが、飛び級した学業と次期公爵としての教育、筆頭公爵家嫡男としての国王代行教育で手いっぱいだった。大変なんだよ、本当に。そこに子どものような従弟の世話までとても手が回らない。学業と王妃教育と殿下のお相手を兼任していた娘もきつかったろう。16歳ですべての教育を終了して時間のあった私とは条件が違い過ぎる」
「君は卒業してから18歳で成人までの2年間、毎日私に付き合ってくれたよね」
「外務省でも殿下の世話を第一にと言われて、外交文書の翻訳しかしていなかったからね。機密文書ではあったけれど。確かめたわけではないが、あれは先王陛下の命令だったのだろう」
「父上も母上も、君に私を押し付けようと必死だったからなあ」
「自覚があったのか」
「今思うとね。後から気が付くんだよ。自分を棚に上げる訳ではないけれど、私より息子のほうがずっと生きづらい気がする。息子にこそ君みたいな天才が必要だったんだろうな。私がとってしまったけど」
「君と出会ってなければ私は選民思想で能力至上主義の嫌な奴だったろうさ。それこそ公爵家に生まれていなければ今頃は裏社会の首領だったかもしれない」
「君はどこにいても、てっぺんできらきら輝いているよね。遠回りしたけど、収まるべきところに収まったのかもしれないよ、王様」
「抜かせ、国王陛下。殿下の望み通り、側近の令嬢が書いた婚約破棄小説を出版させるから、王妃は抑えておいてくれ」
「わかった。王妃がすごく好きそうな話だしね、前半だけなら。きっとこの作者の子も幸せになれるね」
「娘と同じ年の子どもに不幸になってほしい親はいないさ」
「そうだね。私も息子が愛おしいからわかるよ。湿布をあげたら喜ばれたからって持ち歩いているんだよ、可愛くない? うん、君は賛同してくれると思った。こんなに愛に溢れているのに、どうして人の心を操る悪魔なんて言われるのかな。みんな見る目がないなあ。私は大好きだけど」
「……では報告は以上です。殿下の婚約届はこの後すぐに提出しておきますので殿下方にお伝えください。失礼いたします」
「報告ご苦労だった。あとはよろしく頼む」
扉をくぐる公爵と見送る国王の表情は、今後の国政と王家の行方について厳しい話し合いがあったと伺えるものだった。
***************
後始末は細かい
この3日、よく食べて寝ていたと報告を受けているが、小説作者の隈はどうみても化粧だな。この状況でこの度胸、放逐するのは惜しい。娘の友人でもあるし、このまま没落されては困る。
「起草者殿が……ギロチンに繋がる綱を……」
「侍従殿が……」
思考が声に漏れているぞ、君たち。侍従は寝不足にしても子爵令嬢はどうにも脇が甘いな。家庭環境で貴族教育もおざなりだったろうし学生だから仕方ないが。公爵家で鍛えておけば今頃は仕上がっていたろうに。
それにしても起草者殿ね。異性を自分だけの特別な呼称で呼ぶことの意味をわかっているのかな、この朴念仁は。
起草者殿も、侍従はいくらでもいるのに侍従殿だけが侍従殿か。幼くして父と死に別れた娘は父親の影を追い年上好みになるというが、そこにいる侍従長には目もくれないな。13歳差で王子の父親もどきだった侍従とは違い、本当に三児の父なのだが。
まあ、子爵家の総領娘に侯爵家の三男は悪くない。彼の、継ぐ爵位もないからと18歳にして侍従を選んだ決断力は得難い。王太子の侍従と王太子妃の側近なら、給与も十分だし、彼らなら子爵家を立て直せるだろう。
「うむ、私も同じ結論に至ったよ。気があうな、起草者殿」
今さら驚くのかね。先ほど起草者殿と呼びかけた時は二人とも反応しなかったが。どうにも脇が甘すぎて、王子の庇護を教えられる状態ではないな。仕方がない。いつか、王子が君たちをかばったからこそ放免されたと教え、会えるように手配しよう。
王子の願いもあって出版の手続きは整えているが、作家として成功できるかは君の実力次第だ。がんばりたまえ。
金継ぎのレプリカは殿下の離宮に飾るつもりだ。側近の誰が気が付かずとも、侍従だった君は気が付くと信じているよ。
***************
王国の夜明け
「かつて王太子殿下の第二妃すら拒否され公爵閣下に拾われた私が、今更、王妃になるなんて」
国王即位のお披露目に立ったバルコニーで、王妃が笑顔で毒を吐く。第二妃も笑顔で同調しないように。これだけ民が集まっているのだから、読唇術が使える国民だっているだろうに、脇が甘いぞ。読唇術を警戒すべきは自国民より他国の間諜だろうが。
即位をしてから早いもので一月がたった。法改革や教育改革など取り掛かるべき大仕事は山積しているが、一時期のような戦場とは程遠い。そろそろ落ち着いてもいい頃だろうに……。
「国王陛下、こちらが戴冠式の収支報告書にございます。内訳の仔細はこちらに、警備に関しましては騎士団の管轄でしたので、警備費は今回の報告書とは別枠となっており、総額だけを記載してあります。もし不手際がございましたら、すぐに対応いたします。それでは御前、失礼いたします」
なぜ君たちは揃いも揃って、決闘に望む騎士のような顔で報告をしてくるのだ? 先王に報告していた時はもっと普通だっただろう。隣に私がいても。
そんなに働きたいのなら馬車馬のごとく働かせてやろうかと大人げなく思ったが、大人として表に出さなかった国王の矜持は我が国最高峰より高い。
「先王陛下をお呼びして引き継ぎの穴について話を聞くのはどうじゃろうか?」
少し荒んでいた国王は、身を粉にして働く法務大臣に、お気になさっている訛りが出ていますよと指摘したくなる気持ちをなんとか抑えた。
そうだな、国王だから只人になって時間のある親友を呼び出しても許されるだろう。侍従に指示をすると、なぜか全員の空気がほころんだ。親友は空気清浄機だったのか。緩衝材なのは知っていたが。
「お邪魔します、って何だか変な感じだね。これ、お土産だよ」
空気清浄機が花籠を抱えてやってきた。昼間とはいえ男同士の会合でなぜ手土産が花籠なのか、問い詰めたい気持ちがないでもなかったが、好ましい小花の籠なので良しとした。親子揃って花の好みは地味である。本人は非常に派手な顔立ちをしているが、そのために香り高い大輪の花ばかり贈られて食傷気味だった。地位が上がった今は尚更である。
「お城に来たら大歓迎されたよ。あんな形で城を去ったのに皆優しいね。まだ来たばかりなのに、また来てください、もっといてください、帰らないでください、泊まってください、来年までってどんどん進行していくから思わず笑ってしまった」
それは城に住んでいるのとどう違うのか。
そんなに仕事を増やしたいのなら馬屋番のごとく働かせてやると大人げなく思ったが、大人として実行することにした。明日から覚えてろ。
「劇場の招待券もありがとう。妻が喜んでいたよ。妃じゃなくて妻と呼ぶのはなんかいいな」
「それは何よりだ。夫婦で観劇でも良かったのに、こちらに来てもらって悪いな」
「忙しい君にあわせるのは当然さ。譲位して以来外出が減ったから、妻とのんびりできて楽だけどたまには変化も欲しくてね」
「ではまたお茶に招待しようか」
先王妃への劇場招待券と日付をあわせてな。先王嫡子夫妻と揃いで観劇させるのもいいかもしれない。側近たちも順次巣立っていくことだし、犬以外とも交流させないと。
見繕った犬を可愛くて選べないと全部引き取った嫡子夫妻は、翌年からの子犬ラッシュで離宮から全く出てこない。幽閉しているわけでもないのに蟄居状態である。離宮は広いので犬と走り回っていれば健康に問題はないだろうが、あまり犬と同化されても困る。
あの騒動直後に、王妃の采配で毒も薬も一緒くただった王子宮から管理の行き届いた離宮に移動させたので嫡子の精神面は心配していない。ただ夫妻のように犬と同化できない側近たちにはそれなりに厳しい環境だったようだ。拾いものだった男爵家次男の報告で知った。やはり残った側近たちには視野の狭い子が多かったな。それぞれ回り道はしたが、今の進路は彼らにとっても順当だったと言わざるを得ないだろう。
「何か心配事があるの?」
「君の嫡子がトップブリーダー過ぎて子犬が無限増殖しているから、かつての側近や侍従を離宮に呼んで譲渡会でもさせようかと思ってね」
「ああ、あの子たち可愛いよね。息子に意外な才能があったな」
「優しい子だから向いているよ。細君も衣装に構わず子犬と走り回って適職だ」
「妻と私くらい仲がいいよね。君と私には勝てないけど」
「……君は猫でも育ててみればいいんじゃないか?」
「猫は君のほうがいいな。気高いところがよく似てる」
「なんで君の話はいつも私に収束するんだ」
そうかなと首をかしげる姿は30年前と変わらない。せっかく自身で選んだわけでもない重荷を下ろしたのだから、1日でもいいから私より長生きしてほしい。
ああ、でもこの先もずっと、下手すると来世まで、君と付き合う予感がする。
めでたしめでたし。
これで最終話です。おそらくすべての小ネタを拾えたはず。忘れていなければ(驚異の鳥頭)
すべての道は婚約破棄へと繋がる。約束された崩壊に乾杯!(下戸)
今なら可哀想選手権で公爵がぶっちぎりだと思うけどどうだろうか?(サイコパス感)
おまけが本編より長くならなくてよかった!(字数から目をそらしつつ)
予想外に長くなったお話に最後までお付き合いいただいた方々、ありがとうございました!
BGM/A Question of Honour
二人の男がぶつかりあうのは勝ち負けより名誉の問題だそうです。公爵が一人ずつ舞台に引きずり上げてはなぎ倒していく時にぴったりでした。
「魔王」押しの方がいらっしゃったので、流してみたらホラーコメディに。いかん、新しい何かに目覚めそう。公爵がまた酷い目にあってしまう。万倍やり返すけど。
実は平安調謎文化で車は牛車、衣装は十二単だったというオチも考えたのですが、平安調謎文化に学校制度と舞踏会をねじ込む理屈を思いつかなかった。牛車はなかなか家にたどりつかないし、馬屋番を出せなくなるので諦めました。牛屋番は語呂が悪い。ひひん。もう。
++++++++++++
2026/06/19 修正
私は選民思想の嫌な奴だった→私は選民思想で能力至上主義の嫌な奴だった
私より1日でもいいから長生きしてほしい→1日でもいいから私より長生きしてほしい。
2026/06/19 追加/これが書きたくて書いてるのに忘れてた!
めでたしめでたし。
++++++++++++
誤字訂正くださった方、文章にご指摘くださった方、ありがとうございました。
2026/06/20 誤字訂正
笑顔を称えている→笑顔を湛えている
二人の交流も蜜で→二人の交流も密で
どう収集すれば→どう収拾すれば
収集できたはずの→収拾できたはずの
2026/6/20 ご指摘があり文章修正
王家に袖にされて、公爵家以下に嫁ぐなどありえない。筆頭公爵家でもなければ面目が立たないのだ。
↓
王家でないなら筆頭公爵家の第一夫人以外では面目が立たない。
++++++++++++
誤字訂正くださった方、ありがとうございました。
どの字が正しいのか調べて悩んだ挙句に間違えていて悲しい。
2026/06/25 誤字訂正
妻にも入れない→妻にも淹れない
納まるべきところに納まった→収まるべきところに収まった




